デンマークと日本にルーツを持つ注目のシンガー・ソングライター、ミイナ・オカベが語る「小袋成彬とのコラボ」から「エイミー・ワインハウスからの影響」

ミイナ・オカベ(Mina Okabe)
デンマーク人の父親と日本人の母親を持ち、コペンハーゲンを拠点に活動するシンガー・ソングライター。2021年8月にデビュー・アルバム『Better Days』をリリース。アルバムの収録曲である「Every Second」が世界中でトレンドになった。2023年9月に『Better Days』の国内盤をリリース。2023年10月にフジテレビ系月9ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』の主題歌となった「Flashback feat. Daichi Yamamoto」をリリース。
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デンマークと日本にルーツを持ち、「Every Second」(2021年)のバイラルヒットをきっかけに世界中のリスナーから注目を浴びたシンガー・ソングライター、ミイナ・オカベ。映画監督のジェームズ・ガン(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ)も彼女のファンを公言する1人。昨年9月には「Local Green Festival’23」に出演し日本初となるライヴ・パフォーマンスを行ったことも記憶に新しい。

そんな彼女は、フジテレビ系月9ドラマ『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』の主題歌としても話題を集めた新曲「Flashback feat. Daichi Yamamoto」で初めての本格的な日本語でのヴォーカルを披露。小袋成彬をプロデューサーに迎えたサウンドはジャズやクラブ・ミュージックのフィーリングをまとい、「ドリーミーポップ」と彼女自ら呼ぶオーガニックで開放的なそれまでの楽曲とは異なるチルでアンニュイなムードを演出。そして、Daichi Yamamotoのフロウを伴い歌われる日本語のリリックがみずみずしい印象を残す――「Flashback」は「ミイナ・オカベ」というアーティストの新たな表情が引き出された1曲となった。

現在の活動拠点であるデンマークのコペンハーゲンをはじめ、ロンドンやニューヨーク、マニラなどさまざまな土地で幼い頃から暮らし、いろいろなアートやカルチャーに触れてきたという彼女。そうした環境の中で、ミイナ・オカベの音楽はどのようにして形作られてきたのだろうか。「Flashback」を入り口に、彼女のバックグラウンド、そしてこれからについて話を聞いた。

小袋成彬とのコラボレーション

——新曲の「Flashback feat. Daichi Yamamoto」はT Vドラマの主題歌ということで、これまでとは違った層にミイナさんの音楽を聴いてもらうきっかけになった曲だと思います。

ミイナ・オカベ(以下、ミイナ):私にとってフィードバックを実感できる方法の1つは、ライヴをすることなんです。昨年(2023年)の夏に「Local Green Festival’23」に出演して、その時はまだ「Flashback」がリリースされる前だったのですが、私の音楽を聴いてくれる人達の顔を見て、一緒に歌ってくれるファンと触れ合えたことはとてもエキサイティングな経験でした。それまで日本のリスナーに直接会ったことがなかったので。だから、もし来年ライヴをする機会があれば、「Flashback」で私の音楽に出会ってくれた、もっと多くの人達に会えるんじゃないかって楽しみにしています。

——本格的に日本語で歌うのは今回が初めてとのことですが、いかがでしたか。

ミイナ:少し緊張しました。日本語で、しかもTVドラマの主題歌を歌うということは、私にとってまったくなじみのないことだったので。月9のドラマ・シリーズで歌うというのは、日本ではとても大きなことなんだなって。スタジオで歌っている時は、フジテレビのスタッフやチームのみんな、この曲やドラマに関わるすべての人達に満足してもらえることを願っていました。「私の発音は大丈夫、問題ない」って思ってもらえるように(笑)。そう、だから緊張したし、同時にとても楽しみでもありました。私はずっと日本語で歌ってみたいと思っていたし、日本人の母とデンマーク人の父の子どもであることは、私の音楽において大きな部分を占めているから。なので、今回はとてもいい機会だったと思います。それに、みんなに(「Flashback」を)気に入ってもらえたようで嬉しいです。

——日本語で歌うというのもそうですが、今回の制作はこれまでとスタッフや環境も全く異なるチャレンジングなものだったと思います。

ミイナ:スタジオでは、この曲を手がけたプロデューサーの(小袋)成彬さんがZoomを通じて側にいてくれたことが本当に心強くて。レコーディングを始める前に彼に、「何かあったら言ってください」「発音が間違っていたら言ってください」ってお願いしたんです。日本語で歌うことに慣れていない私に対して彼は、辛抱強く、優しくサポートしてくれて、とてもいい経験になりました。準備する時間があまりなく、本当にあっという間の作業だったので、スタジオでは直感に従って、ただ流れに身を任せる感じでした。あまり考えすぎず、でもそれが結果的に良かったのかなって思います。

——小袋さんとの制作から学んだことは何かありましたか。

ミイナ:今回の経験全体を通じて、とても多くのことを学んだと思います。それは成彬さんとの作業に限ったことではなく、「Flashback」を制作するプロセス全部が、これまで音楽を作る時に試したどのプロセスとも違っていたので。これまでは自分が楽曲を完全にコントロールして、歌詞もメロディもすべて自分で書くし、プロデューサーの隣に座って、何が好きで何が嫌いかを伝えながら制作してきました。だから今回は、少し力を抜いて、成彬さんを信頼して、身を委ねてっていう、これまでとは違うけどとてもクールな経験になったと思います。なので、成彬さんが特にというわけではなく、すべてのプロセスから多くのことを学んだと思うし、新しいアプローチでスタッフと仕事をすることはとても刺激になりました。

——そうしてできあがった「Flashback」を聴いてみて、どんな印象を受けましたか。これまでのミイナさんの楽曲とは異なるテイストになったと思うのですが。

ミイナ:構成がとてもユニークで、とても面白いなって思いました。ふだん私が書く曲って、ヴァース・コーラス・ヴァースがあって、いわゆるポップスのフォルムをしたものが多いんです。でもこの曲には、まるで旅をしているような感覚があって。ピアノから始まって、とてもシンプルなんだけど、少しずつ楽器が重なっていって、Daichi(Yamamoto)のパートが続いて、そこからイントロにちょっと戻って……というふうに。その流れというものがとても新鮮でユニークだったので、初めてこの曲を聴いた時は驚いたし、とても興味深かったです。

エイミー・ワインハウスからの影響

——ミイナさんは両親の影響で小さい頃からいろいろな音楽に触れてこられたと聞きました。その中で、今のミイナ・オカベというアーティストを形作った音楽となると、どんなものを挙げることができますか。

ミイナ:生まれてから聴いた全ての音楽が私を形作ってきたと思います。なので、私の音楽や曲作りに直接影響を与えた曲やアーティストを見つけるのは難しいと思う。私はいろんな国で育ったので、いろんなタイプの音楽を聴くことができました。だから、何か特定のものからの影響があるってわけじゃなくて。

——じゃあ例えば、「この人の音楽に出会わなかったらミュージシャンになりたいと思わなかったかも?」というようなアーティストって誰かいましたか。

ミイナ:唯一と言えるようなアーティストはいないかな。でも、エイミー・ワインハウスは間違いなくその1人だと思う。彼女が私にインスピレーションを与えてくれた瞬間をはっきりと覚えているんです。高校生の時にあるプロジェクトがあって、そこでエイミー・ワインハウスについて調べて、彼女の音楽を分析して論文を書くみたいなことがあって。あるトーク・ショーで、彼女がギター1本で歌うパフォーマンスを観たのを覚えています。通常、そのトーク・ショーで披露されるパフォーマンスって、バンドやダンサーを従えた大掛かりで派手なものだったのだけど、でも彼女のパフォーマンスを観て、「私もこんなことをやってみたい!」って思ったんです。

彼女の歌やパフォーマンスには誠実さが感じられて、その姿にとてもインスパイアされました。自信に満ち溢れていて、とてもユニークな歌声だけど、堂々と歌っている姿が本当にかっこよくて。それまでの私は、例えば『X Factor』で観たビヨンセのパフォーマンスのように、歌ったり踊ったり、一度にいくつものことをこなすような大掛かりなものが“パフォーマンス”だと思っていたので。だからエイミーを観た時のインパクトはとても大きかったし、あれが自分の求めるパフォーマンスなんだって思ったんです。

——ミイナさんもシンガー・ソングライターですが、エイミー・ワインハウスはリリックにも共感したり刺激を受けるところがあったのではないでしょうか。

ミイナ:もちろん。私が曲を書く時はいつもパーソナルな経験や感情を歌にしています。なので、ありのままの姿をさらけ出して見せてくれる彼女の歌詞にはとてもインスパイアされました。

——ちなみに、ミイナさんの音楽の「サウンド」についてはいかがですか。ミイナさんが“ドリーミーポップ”と呼ぶ、オーガニックで開放的なサウンドはどういったものや影響が下地になっているのでしょうか。

ミイナ:たくさんありますね。具体的な名前を挙げるなら、小さい頃に父がオアシスやザ・キュアーのレコードを家でかけていたのを覚えているし、リリー・アレンも大好きだったし、10歳か11歳の時はアヴリル・ラヴィーンの大ファンだった(笑)。それで大きくなってからは、さっきも言った通りエイミー・ワインハウス。だからポップ・ミュージックも聴くけど、高校に入った頃ぐらいからはソウル・シンガーも聴くようになって。

それと、フィリピンで暮らしていた時はインターナショナル・スクールで合唱団に参加していて、そこではいろんな音楽をいろんな言語で歌いました。タガログ語の歌や中国語の歌、スペイン語の歌を歌ったし、妹は南アフリカ語の歌をクラスで歌っていました。そうすることでいろんな種類の音楽を知ることができたし、だから私の場合、インスピレーションを与えてくれた特定のものを見つけるのが難しいんだと思います。それに、いろんなものから何らかの形で影響を受けているのはいいことだと思うし。

日本をルーツに持つこと

——そうしたさまざまな音楽や文化に触れる機会に溢れていた環境の中で、ミイナさんが親しんできた日本のカルチャーやアートとなるとどんなものがありますか。

ミイナ:私にとって、例えば日本の音楽は“ノスタルジック”な気持ちにさせてくれるものなんです。母が宇多田ヒカルやレミオロメンの曲を家でかけていて。「Automatic」や「First Love」、「Flavor Of Life」、それに「粉雪」……だからそうした曲を聴くとスゴクナツカシイ(笑)。

——今回「Flashback」で日本語での歌唱に挑戦したということで、日本の音楽との向き合い方にも変化が生まれたところもあったりするのではないでしょうか。

ミイナ:そうですね。最近、自分が聴いて育ってきた音楽以外の日本の音楽も聴くようになって。例えば、母にすすめられて聴いたaikoの「カブトムシ」は大好きだし、あとVaundyや優里とか、日本の新しいアーティストの曲もよく聴いています。それとDaichiと出会って、彼の音楽を聴いた時、初めて“日本語の歌詞を聴いた”ような気がしたんです。

「Flashback」は私にとって初めてのフィーチャリング・ソングで、誰かと一緒に歌ったのも初めてでした。なので、自分の歌とDaichiの声が重なり合ったのを聴いた瞬間、これまでに感じたことのない感覚があって。それ自体が私にとって特別な経験で、サウンドもとてもクールで興味深かった。だから、たとえ私が作っているものと全くタイプの違った曲やアーティストだったとしても、そこからインスピレーションを得ることはできると思うんです。

——ここ数年、日本に限らずアジアにルーツをもつ若い世代のミュージシャンがグローバルに活躍していますが、それを見て刺激を受けるようなところはありますか。

ミイナ:そうですね。覚えているのは、私が初めて音楽をリリースするにあたってレーベルと話した時に、彼らに言ったことがあって。それは、デンマークのアーティストとして“だけ”見られたくはない。日本人のリスナー“だけ”に聴かれたり、イギリス人のリスナー“だけ”に聴かれるようにはなりたくはない。そうした何かの枠に押し込められるようなことはされたくない、って。私は“ここ”にいて、誠実な音楽を作るデンマーク人のアーティストとして認められたい。

私が若い頃は、共感できる人達や自分自身を重ね合わせることができる人達がいて、彼らを見て自分に自信を持つことができました。でも一方で、 欧米の音楽の世界には、自分がリスペクトしたり共感したりできるようなアジア系のアーティストがあまりいないのも事実で。だからできることなら、誰かのために(自分が)そうなりたいと思っています。自分のルーツがどこなのか悩んだり迷ったりしている人達にも、私の音楽を聴いて共感してもらいたい。それで自信を持ってもらえたり、音楽をやりたいと思ってくれたら嬉しい。

——例えば、同じようにアジアにルーツを持つミュージシャンに聞くと、そのことに誇りを感じたり、同じ立場の人々をエンパワーメントしたいと話してくれる人もいれば、逆に、カテゴライズされたり「代弁者」として意見を求められることに窮屈さを感じると訴える人もいて。ミイナさん自身は、そのあたりについて何か思うことはありますか。

ミイナ:そうですね……両方ともわかる気がします。でも、とても複雑な問題ですよね。例えば私の場合、言葉に関していうと、デンマークで暮らしていて、だけど基本的には英語で曲を書いていて。それは自分自身を表現するのに一番簡単な方法だからで、周りの多くの人はデンマーク語で曲を書いているのに、ね。そう、だからさっきの話と同じで、さまざまな影響が私を形作っているんだと思います。なので、「ミイナ・オカベ」という1人のアーティストとして見てもらえたら嬉しいです。ありのままの自分を見てもらえたらって。その上で、私はアジアのアーティストであり、デンマークのアーティストであることを誇りに思っています。

Photography Mayumi Hosokura

author:

天井潤之介

ライター。雑誌やウェブで音楽にまつわる文章を書いています。 Twitter:@junnosukeamai

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