連載「Books that feel Japanese-日本らしさを感じる本-」 Archives - TOKION https://tokion.jp/series/books-that-feel-japanese/ Tue, 09 Jan 2024 07:25:12 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 連載「Books that feel Japanese-日本らしさを感じる本-」 Archives - TOKION https://tokion.jp/series/books-that-feel-japanese/ 32 32 連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.14 宮地健太郎が選ぶ、日本文化に立ち返るための2冊 https://tokion.jp/2024/01/03/books-that-feel-japanese-vol14/ Wed, 03 Jan 2024 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=215277 『古書ほうろう』の宮地健太郎が、日本的な生活様式やユニークな漢字のルビ使いなど、見落としがちな日本文化の特色を語る。

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宮地健太郎が選ぶ、日本文化に立ち返るための2冊

宮地健太郎
1998年、仲間達と千駄木に「古書ほうろう」をオープン。2010年より夫婦での経営となり、2019年池之端に移転し現在に至る。店には古本だけでなく、レコードやCD、鉄道の硬券の他、妻の焙煎する珈琲豆も並んでいる。

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、台東区池之端にある古書店「古書ほうろう」の宮地健太郎にインタヴュー。古くからの本好きから愛され続ける「古書ほうろう」による、なんともユニークな選書を楽しんでほしい。

『町 高梨豊 写真集』
『花開く江戸の園芸』

今も路地裏に見える、日本的な光景

−−まずは、選んでいただいた2冊『町 高梨豊 写真集』と『花開く江戸の園芸』について、教えてください。

宮地健太郎(以下、宮地):実は今回お声がけいただくまで、日本らしさについてことさら考えたことはなかったんですが、思案するうち浮かんできたのが「植木鉢」でした。毎日自転車で通勤している根津や千駄木の裏道の、道端のそこここに置かれている植木鉢。それぞれのお宅が、好き勝手に鉢を並べている光景こそが「日本的」なのかもって。そこで思い出したのが、1977年に出た高梨豊さんのこの写真集です。ご覧の通り、当時すでに消えつつあった東京の建物や暮らしぶりが主題なんですけど、路地裏や土間の植木鉢もたびたび出てきて。「ガーデニング」なんて言葉を使うと消え失せてしまう、より切実で、日々の生活と分かちがたく結びついた、緑を求める心のようなものを強く感じます。

−−店の前に飾られた朝顔も、そんなイメージなのでしょうか?

宮地:外の朝顔は、一緒にこの店を営んでいる妻が、この夏初めて植えたものです。最初は1鉢だけだったのですが、ある日出勤したら、もう1鉢、どなたかが足してくださっていて(笑)。店の両側に並ぶことになりました。交代で水やりするようになったことで「今日はつぼみが少し開いているから明日はきっと咲くな」とか、「元気がないな」「心配だな」とか、確実に毎日の張りになっていて、それが今回、路地裏の植木鉢を思い浮かべるきっかけになったのかもしれません。みなさんこういう気持ちなんだろうなって。

−−次に、『花開く江戸の園芸』についてはいかがでしょうか?

宮地:高梨さんの写真集を眺めていた時「植木鉢だったら、もう1冊、とっておきのが!」と思い出しました。2013年に江戸東京博物館で開催された展示の図録で、「江戸の人々はいかにして植物を愛でるようになったのか」が、浮世絵を中心とした豊富な図版とともに紹介されています。ヨーロッパでは上流階級の嗜みであった園芸が、近世の日本では庶民を巻き込み広がっていくんですけど、その出発点には、ソメイヨシノで名高い染井の、ある植木職人が記した1冊の入門書があり、そこから植木鉢が爆発的に普及していったというくだりで「おおお!」となりました。登場する植木鉢を今回数えてみたら、なんと892鉢もあって。間違いなく、世界一植木鉢が載っている画集だと思います(笑)。あと、以前店があった千駄木のことも、染井と並ぶ植木屋の本拠として触れられていて。漱石の『三四郎』に団子坂の菊人形が出てきますよね、あの辺りがまさにそうです。

『和訳 聊斎志異』

日本語を工夫して、中国語を紐解く

−−次は、『和訳 聊斎志異』について、教えてください。

宮地:日本らしさって何だろう? と考えて、もう1つ浮かんだのが漢字だったんです。もちろん漢字の起源は中国なんですけど、台湾以外では記号のようなものに成り果ててるじゃないですか。なのでもはや「漢字=日本的」でいいんじゃないかって。で、そんな象形文字としての漢字の魅力をたっぷり味わえる1冊ということで、大好きなこの本を選びました。

『聊斎志異(りょうさいしい)』という書物は清の時代の怪異小説です。科挙に落ち続け、故郷の山東省で世を拗ねながら生きた蒲松齢が、道端で旅行く人に声をかけてはおもしろい話を収集し、それらを元に約500編から成る作品を書き上げました。その多くは、美女に化けた幽霊や狐狸が下界の男達と繰り広げる艶めかしくも不思議な物語で。日本にも早くから伝わり、数多くの翻訳や翻案があるのですが、中でもこの柴田天馬さんの訳は唯一無二のものとして、世に出て100年以上経った今もとても人気があります。

−−人気の理由は、どのようなことなのでしょうか?

宮地:一言で言うと、ルビ使いです。柴田さんは翻訳にあたって「原文の漢字を可能な限り残す」という方針で臨むのですが、その上でなおかつ日本語として成立させるためにルビを振りまくっていて。それがとてもユニークなんです。例えば、今開いたこのページ、菊の精の話なんですけど、こんな感じです。

「因(そこで)、与(いっしょ)に芸菊之法(きくのつくりかた)を論(はな)しあった」

読み進めていくと、以口腹(たべもの)、目所未睹(みたことのないもの)、家中触類(いえじゅうのもの)、千載下人(のちのよのひと)など、普通に日本語に置き換えるとこぼれ落ちてしまうニュアンスが各々の漢字に宿っていて、いちいち興奮しちゃうんですよね。

あと、こういう意味を補うルビとは別の、ぱっと見よくわからないルビもあって。このページだと、中表親(いとこ)がそうなんですけど、蒲松齢という人の根っこには「俺はこんなに頭がいいのになぜ試験に受からない」という恨みつらみがあって、「俺にはこんなに学問があるぞ」とばかりに古い書物からの引用が散りばめられているんですよ。もちろんその多くは自分にはピンとは来ないのですが、その気になって掘ればずっと深いところまでいけるというわくわく感があって。読んでも読んでも発見があります。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.13 草野象が選ぶ、「日本らしさ」を感じる2冊 https://tokion.jp/2023/12/04/books-that-feel-japanese-vol13/ Mon, 04 Dec 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=215261 「オン・サンデーズ」の店主・草野象が、民藝や現代アートの世界から感じる日本らしさを語る。

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.13 草野象が選ぶ、「日本らしさ」を感じる2冊

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、青山・外苑西通り(通称キラー通り)沿いの「ワタリウム美術館」に併設されたミュージアムショップ、「オン・サンデーズ」の店主・草野象にインタヴュー。

洋書やステーショナリー、アートにギフト等、実にさまざまな商品を扱う同店。1980年にオープンして以来、アート愛好家のみならず、たくさんの本好きからも愛されてきたという。草野が「民藝」や「芸術」の側面から見た日本らしさについて、選んだ2冊とは。

『日本絵日記』

日本文化への尊敬の念と、批判的なまなざし

−−まずは、選んでいただいた『日本絵日記』について、教えてください。

草野象(以下、草野):こちらの本は、1887年に香港で生まれ、直後に日本にて育った経験もある英国人陶芸家・画家・デザイナーのバーナード・リーチ氏によるものです。彼は、3歳まで日本で育ち、その後22歳の時に再度来日、また、その後にも5年ほどの期間を日本で過ごしたこともある人物。日本の伝統文化に対して強い関心を持っていたことから、5年間というとても長い期間を日本で過ごしていたのだそうです。こちらの本は、その間にできた友人であったり、彼が経験した出来事であったりがまとめられた「絵日記」ですね。20代の頃、特に感受性の強い時期を日本で過ごしていたことから、やはり日本について、肌で理解している部分も多かったのでしょう。世界的な戦争が始まったことから、彼は、母国であるイギリスへ一度帰ってしまうのですが、終戦後には再度日本にて仕事をするようになったようで。全国各地の陶芸の工房を巡ったり、講演会を開催したり、はたまた、この本のように、執筆活動を行ったり。そういうふうにして、日本にて暮らしていたそうです。

−−この本に思う「日本らしさ」は、どんな部分なのでしょうか?

草野:日本文化への尊敬の念と、批判的なまなざしの、どちらも持っている点で、非常におもしろい本だと感じますし、彼が思う「日本らしさ」に触れられるという点でもとても興味深い1冊になっています。観光客的な一過性だけを持った視点でなく、自らの中にある「日本的な要素」と「イギリス的な要素」の両方を使って日本を捉えようとする姿が、非常にユニークだなぁ、と。柳宗悦や白樺派といったような、芸術や文藝の世界を通じて生まれたフレンドシップの様についても描かれており、奥行きのある1冊として楽しんでいただけると思います。

例えば、イギリス発祥の陶芸手法である「スリップウェア」を現代に生かそうとし、バーナード・リーチが柳宗悦と手を組んでいたこと。また、そこに陶芸家の濱田庄司が参画し、スリップウェアの手法を復活させるに至ったこと。リーチが日本とイギリスとを往来していなければ、そこにこのような交友関係が生まれていなければ、きっとそのような結果にはならなかったと思うんですよね。そんな、史実的な内容も含んだ1冊です。ちなみにプチ情報ですが、この本『日本絵日記』を執筆していた際、リーチはものすごく忙しかったのだそう。それでも書き切ることができた理由は、リーチの真面目な性格にあったのだとか。朝起きた際には、まず、その日に終わらせたいことをすべてメモに書き出して、それらを終えた際には漏れなくチェックしていく、といったような。タイトなスケジュールながらも、空き時間を使って完成させたのだそうです。なんともすごい話だなぁ、と感じますよね。

『本歌取り 東下り(松濤美術館展覧会図録)』

実に日本的なサンプリング

−−『本歌取り 東下り(松濤美術館展覧会図録)』について、教えてください。

草野:こちらは、2023年9月16日(土)から2023年11月12日(日)まで松濤美術館にて開催されている、現代美術作家・杉本博司さんの展覧会『本歌取り 東下り』の図録です。ニューヨークにて骨董商として活動され、1980年代後期に現代美術家としてデビューした彼は、『海景』という題の作品(世界各地の海の水平線をセンターに捉えた構図で撮り続けた、モノクロームプラチナプリントの写真作品)で世界的な評価を得た作家。そんな彼は、初期にはわりと西洋的な印象の作品を作っていたのですが、名前が知られるようになり、活動拠点を日本に移してからは、古典美術を題材にした作品を作るようになりました。ここ数年は『本歌取り』というテーマのもと、伝統的な作品を据えつつ、自らのクリエイティブとして成立させるような作品が多いんです。

−−この本から、どんな「日本らしさ」を感じるのでしょうか?

草野:そもそも『本歌取り』という手法は、和歌の世界におけるもの。『古歌を素材にして新しく作歌すること』を意味するのですが、彼がその手法を現代美術に取り入れたことが、そもそもすごくユニークであると考えています。とても日本らしいなぁ、と。時にそれは「サンプリング」とも呼ばれるものですね。松濤美術館にて開催されている展覧会において、それはすごく多彩な方法で表現されています。特に「洒落」のような軽妙さが感じられる作品が、とっても印象的で。国宝級のオリジナル作品の隣に、杉本氏が新たに作った作品を並べているのですが、それがなんとも、比重の部分にユニークネスが見られるものなんです。本歌を下げるような「洒落」でなく、そこにしっかりとしたリスペクトが感じられるんですよね。そんな姿に、ものすごく感動してしまって。

さらに言えば、この図録は、彼がご自身で作られているんです。そのタフな感覚も素晴らしいですし、何よりやはり、収録されている作品のパワーに圧倒されるような、そんな体験をくれる1冊です。こちらを読んでから展覧会に行くもよし、展覧会に行ってからこちらの本を読むもよし、どちらにしても、すこぶる楽しんでいただけるはずです。

1つ話すと、江戸時代の鎖国を経て、日本オリジナルな文化が醸成されていったという考えがありますが、ただ、それまでの日本(戦国時代等)はむしろ海外の文化を積極的に取り入れていましたよね。それが、鎖国の時代を経て、熟成されていった。杉本さんが今回展示している『海景』についても、同じことが言えるんです。ご自身が以前作ったオリジナルの作品が、大きな嵐によって、水浸しになってしまったことがあって。オリジナルの作品と、水浸しになった(ように作ったもの)を、並列で展示していたりするんです。そんな作品を見た際、例えば、嵐とその後の期間を経て、作品自体が「熟成・発酵」してしまった、と捉えることもできる。そんなおもしろさが感じられるんです。ぜひ、この本も展覧会も楽しんでいただけたらと感じています。

Photography Kentaro Oshio
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.12 「twililight」店主・熊谷充紘が選ぶ「日本らしさ」を感じる2冊 https://tokion.jp/2023/08/31/books-that-feel-japanese-vol12/ Thu, 31 Aug 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=203791 「twililight」の店主・熊谷充紘が、日本語ならではの言葉遊びなどから感じる日本らしさを語る。

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熊谷充紘

熊谷充紘
10年ほどフリーランスとして編集や企画を行い、トークイベントやライブなどを企画。その後、友人から声がかかったことをきっかけに三軒茶屋で書店「twililight(トワイライライト)」を開店。店舗では本の販売の他、カフェ、ギャラリー、イベントを展開している。

国内外さまざまにあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、世田谷区三軒茶屋にある書店「twililight」の店主・熊谷充紘氏にインタビュー。2022年3月にオープンして以来、多くの “本好き” から愛されている書店だ。

「店名である『twililight(トワイライライト)』 もそうですが、余計なものがある暮らしって、豊かだと思うんです。正しい言葉としては『トワイライト』になるのだろうけれど、そこにあえて余計な『ライ』を付けたんですよね。暮らしの中で余計な時間を過ごしてほしい、時にはサボりに来てほしい、そんな気持ちでお店の営業を続けています」と、語る熊谷。彼が選ぶ「日本らしさを感じる本」を紹介する。

『献灯使』

現代日本のメタファーを感じる1冊

−−まずは、『献灯使』について、教えてください。

熊谷充紘(以下、熊谷):こちらは、小説家・詩人の多和田葉子さんが手がけた、近未来小説です。物語の背景は、いわば、“鎖国状態” の日本。大災厄に見舞われ、「ジョギング」や「インターネット」といったような、外来語がすべて禁止されてしまった状態の日本ですね。そんな「外来語禁止」に加えて、現在の日本ではインフラとして認識されているようなもの、自動車やインターネットなどがすべてなくなってしまっている状態。この本の主人公は老人なのですが、100歳を過ぎても十分に健康で、死ぬことができなくなってしまっているんです。ただ、一方、若い人々や子ども達は、体が弱ってしまい、自分で学校にも行けないようになってしまっている。なんとなく、メタファーを感じるんですよ。これって現代の日本だよな、って。

−−それは、どういうことでしょうか?

熊谷:この本の中に出てくる大災厄は、きっと、2011年3月の東日本大震災だと思うんです。「100歳を超えても死ぬことができない」というのは、まさしく長寿化が顕著な現代。子ども達に元気がなくなっていく、その命の数がどんどん減っていってしまうというのは、少子化問題を表しているように思えるんです。現代の日本が直面している “ディストピア的” な状況が、メタファーをもって表現されているんですよね。「これは現代の日本だ」と感じるような表現がたくさん使われているんです。

−−数々のメタファー、シチュエーション設定以外に、「日本らしさ」を感じるところはありますか?

熊谷:少しだけ話を「設定」に戻しますね。大災厄以前は普通に使われていた外来語が禁止された中で、例えば「ジョギング」が「駆け落ち」と呼ばれるようになったりするんです。その理由はただのファニーな冗談で、「駆ければ(血圧が)落ちるから」といったようなもので。

また、日本からインターネットがなくなった日を祝日にするシーンがあるのですが、その名前として「御婦裸淫の日」というものを採用していたり。とてつもなく辛辣で、シリアスなシーンの中に、こういった「ファニーな日本語」が出てくるんですよ。いわば、“脱力的な日本語” が。底知れない閉塞感をスッキリ打破するような力が、日本語には、きっとあるんだな、と。そう思わせてくれるんです。そもそも日本には「ひらがな、カタカナ、漢字」という3つの表現方法があるんだよな、って。当たり前だけれど、そんなことを改めて思わせてくれるような本ですね。

−−著者の多和田葉子さんについても、教えていただけますか?

熊谷:彼女は、東京の大学を卒業してすぐに、西ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社しました。「母語の外側に出て、そこで感じるものから創作をしたい」という思いをもって、ドイツに移住されたんです。40年以上もの期間、ドイツに住み続け、その間は日本語とドイツ語の両方を使って創作を続けてきた方。母国・日本のことを、外(ドイツ)から見つめることができるからこそ、こういった本を書くことができるのだろうなぁと感じています。日本の問題点を、そして、日本のおもしろさを。

そんな彼女が、5月に、このお店でトークイベントを開催してくれたんですよ。とっても嬉しかったのを覚えていますし、1つの夢が叶ったような気がしました。実は、僕、自分が本のお店を開くだなんて全然考えていなかったんです。ただ、そんな中でも「やるからには多和田さんに来ていただきたい」と思っていたんですよね。なんだか、今も夢の中にいるような感覚です。嬉しかったです、本当に。

『花と夜盗』

日本らしい、遊び心を感じる1冊

−−次は、『花と夜盗』について、教えてください。

熊谷:こちらは、俳人・小津夜景さんが手がけた句集です。『フラワーズ・カンフー』という作品に続く第2集ですね。彼女は漢詩の日本語訳をしつつ、エッセイなども書かれる方で。エッセイ作品もものすごくおもしろく、僕自身、すごく影響を受けている部分があります。

−−この本の、どこに「日本らしさ」を感じますか?

熊谷:「日本らしさ」や「日本人らしさ」について考える時、いつも頭に浮かぶのは「協調性」であったり「勤勉」であったりすると思うんです。よく世の中でいわれていることだと思いますし、それはきっと間違いではないと思うのですが、事実として、そうでない部分も多くあると思うんですよね。例えば短歌に関して言えば、いわゆる “かけ言葉” のようなものって、“ダジャレ” のようでもあると考えることができると思うんですよ。少しだけ話はズレてしまいますが、日本がテレビゲームの業界で最先端だといわれるように、実は「遊び心」というものが、日本人には通底しているのではないか、と。

この句集も、そうなんです。そもそも漢詩を翻訳して短歌や俳句で表現していたり、「7・7」の音だけで作られた俳句があったり、漢字だけで俳句を作ったり。都々逸という、「7・7・7・5」の音で作られたものがあったり。ここで思うのが、“定型” があるからこそ、遊べるのではないか、ということ。伝統的な「5・7・5」という音の組み合わせに限らずですが、すべてのルールめいた制限の中で、自由に遊ぶということ。いわば「定型と遊ぶ」といったような姿勢が、この本と小津さんから、感じられるんです。それこそが「日本らしさ」なのかなぁ、って。

−−どんな人なら、楽しめると思いますか?

熊谷:自分の中に、言葉にはなかなかしづらいけれど、確かに伝えたい何かがあるような人。きっと、そういう方には楽しんでいただけるんだろうなぁと感じます。「意味から自由になれる」というか。そんな感覚を覚える本ですね。「twililight」のカフェコーナーでのんびりお茶でも飲みながら、十分にサボりながら、ゆっくりと眺めていただけたらいいなぁ、なんて。言葉とダンスをするように、しっぽり愉快に楽しんでいただきたい1冊です。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.10 中村秀一が選ぶ「ダジャレと無自覚性から見る日本らしさ」を感じる2冊 https://tokion.jp/2023/06/14/books-that-feel-japanese-vol10/ Wed, 14 Jun 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=186885 「SNOW SHOVELLING」の店主・中村秀一が、自身の趣味・嗜好・思想でもある「現代アート」と「文化的無自覚性」をテーマに、2冊の本を紹介。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる本を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、2012年9月より東京都駒沢にて営業を続ける本屋「SNOW SHOVELLING」の店主・中村秀一が登場する。村上春樹による小説『ダンス・ダンス・ダンス』に出てくる一節、“文化的雪かき” をもとに名付けたというユニークな店名にふさわしい、味わい深いユニークネスの香りが漂う店だ。

そんな彼が、自身の趣味・嗜好・思想でもある「現代アート」と「文化的無自覚性」をテーマに、2冊の本を紹介してくれた。

中村秀一
東京・駒沢にあるブックストア兼ギャラリー・スノウショベリングの店主。世界中を旅し、グラフィックデザイナーとしての仕事を経たあと、2012年にブックストアを駒沢に開業。

『作品図鑑 69』

日本ならではの現代美術

−−まずは、『作品図鑑 69』について、教えてください。

中村秀一(以下、中村):こちらは、現代美術家・岡本光博さんが2016年に開催した展覧会のいわば “図録” です。一見、少年漫画の付録のようなカバーなんですが、開いてみると彼が手掛けた作品の図録になっていて。作品集、アーカイブですね。

−−この本から感じる「日本らしさ」とは、どんなものだと感じますか?

中村:例えば、日本を代表する現代美術作家として頭に浮かんでくるような人って、杉本博司氏のような方だと思っていて。割と “世界文脈” というか。世界中の誰が見ても、きっと美しいと思えるような。ただ、この作家・岡本さんは、全然違うんですよ。“日本でしか通じない現代美術” を作っているんですよね。

−−それは、どういったものですか?

中村:ダジャレなんです。1つ例を挙げると、「UFO」なんかが有名ですね。きっとスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで見たことのあるカップ焼きそば、それをものすごく大きいサイズで作ってデザインが反転されているものが、地面に突き刺さっている作品。『未確認墜落物体 その後』という題目で開催された展覧会で発表された作品なのですが、その名前がそもそもダジャレなんですよね。あのUFOが、墜落物体(Unidentified Falling Object)としてなぞらえられている。小学生レベルのダジャレを、全力で表現するんです。

−−「ダジャレ」に「日本らしさ」を感じるということですか

中村:彼の作品を見ていると、ただただファニーなダジャレを垂れ流すだけではなく、どこかシニカルかつラディカルな表現をしているなぁ、と感じてしまうんですよね。ただの「同音異義語」としてダジャレを捉えて表現するのではなく。後に、ふと、深刻なことを考えさせられてしまうような。世界的に有名な、とあるラグジュアリーブランドのモノグラム柄バッグを解体して、バッタの形につなぎ合わせた作品『バッタもん』なども有名ですね。コピー品を使っていることによって、ブランド側からはすごく怒られたのだそうです。ただ、じっくり考えると「コピー品(いわゆる “バッタもん”)への警笛」として捉えることができる。そういったように、ただのダジャレでは終わらないような作風に、どこか日本的なニュアンスを感じるんですよね。とてもかっこいいと感じますし、日本的だなぁとも思っています。

『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか?』

日本的な違和感を読み解く

−−次は、『サラリーマンはなぜサーフボードを抱えるのか?』について、教えてください。

中村:こちらの本は、グラフィックデザイナー・真崎嶺氏によって書かれた1冊です。彼は日系アメリカ人で、もともとニューヨークにてグラフィックデザインの仕事に携わっていた方なのですが、とあるタイミングで自らの母国である日本にて仕事をしたいと思い、帰国されたんです。その時に、ものすごい違和感をおぼえたそうで。

−−それはどういった違和感だったのでしょうか?

中村:こと日本において、大多数の人のアイデンティティーは日本にあるにもかかわらず、例えばテレビ番組で重宝されているのはミックスのタレントだったり。また、ハイファッションのブランドが東洋人のモデルを起用するよりも、はるかに多くの西洋人のモデルを起用していたり。もちろんそれは “人種差別” の文脈ではなく、マーケットを意識した動きなのですが、なんだかすごく違和感を覚えたそうです。良くも悪くも、“日本的” というか。

ーー“良くも悪くも” とおっしゃいましたが、それはどういうことでしょうか?

中村:人種差別的な意図を持ってそういった行動をしていれば、当然それは悪だと思うんです。でも、この本では特にこの国の人達がやっている「無意識的な事柄」について語られていて。小さくて、かつ多様性の少ない島国で暮らしている僕らが気付いてない「無自覚性」を批判していて。一方で「浅く広く」さまざまな文化を取り入れられる、といった日本人の独特のおもしろさも浮き彫りになったりして。例え話ですが、「フレンチ・イタリアン」のレストランなんて、まさにそう。「どっちなんだ……?」と思ってしまうじゃないですか(笑)。フレンチとイタリアンがそれぞれ持っている良さを、無自覚ながらも良いものとして扱う。それが成立する、できちゃう日本っておもしろいですよね。

ーー中村さんご自身が、そういった “無自覚性” を思わされるようなことはありますか?

中村:僕は、昔から旅が好きでした。ニューヨークが特に好きなんですよね。現地の風土やムード、文化から影響を受けた部分はとても多いと自覚しているのですが、例えばこの店に来てくれたお客さんが「なんか海外みたい!」と言ってくれたりするシーン等。真崎さんの本を読んでからは、簡単に喜んではいられなくなりましたね。良いお店を作りたい、素敵なお店にしたい、という気持ちは強いですが、それが何かのコピー(盗用)になっていたならばそれは改めないといけない。かといって、今さらこのお店に突然、畳を敷くわけにはいかないし、ニューヨークの街に影響を受けた自分を否定することもできない。なので今後はそこに対してなるべくアンテナを立てて、良き方向、正しい改善に努めています。

この本を読むことによって、見過ごせない現実を突きつけられましたが、それでも読んでよかったと。読んでいなかったらマズいことになってたなと、むしろ感謝しかない。素晴らしい本です。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.9 デビエフ・ティボーが選ぶ、「マンガを通じた日本とフランスのつながり」を感じる2冊 https://tokion.jp/2023/04/04/books-that-feel-japanese-vol9/ Tue, 04 Apr 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=177368 「メゾン・プティ・ルナール(MAISON PETIT RENARD)」の店主、デビエフ・ティボーが、マンガを通じた日本とフランスのつながりを語る。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊をインディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。

今回は、フランスのマンガ家といわれる “バンドデシネ作家” によるアートブックをはじめ、ヨーロッパで活躍しているイラストレーターや画家達のイラスト集、画集を販売している板橋の本屋「メゾン・プティ・ルナール」の店主、デビエフ・ティボーさんにインタビュー。

フランス語のインターナショナル・スクールが店のそばにある(実は偶然だったのだとか)という、なんともすてきな小話も交えながら、彼が思う「マンガを通じた日本とフランスのつながり」を感じさせる2冊のバンドデシネ(フランス発のマンガ)を紹介してくれた。

デビエフ・ティボー
MAISON LIBRE合同会社代表。1997年からマンガ翻訳業開始。ダルゴ出版(Editions Dargaud)と契約し、翻訳、通訳、編集コンサルタント等に従事。2000年、日本文部省国費留学生として慶應義塾大学で修学。2010年に、フランスの日本マンガブームとともに翻訳業を拡大。これまでに100以上のタイトル、900冊以上の翻訳を手がけた。2019年、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(浅野いにお著)の翻訳者として第2回小西財団漫画翻訳賞を受賞。2021年にメゾンリブレ(MAISON LIBRE)合同会社設立。同年8月、事務所兼書店「メゾン・プティ・ルナール」をオープン。日本で入手困難なアートブックや画集の販売を始める。

『Shangri-La(シャングリ-ラ)』

バンドデシネの背景に感じる、日本の “マンガ文化”

――『Shangri-La』について教えてください。

デビエフ・ティボー(以下、ティボー):こちらは、フランス人作家のマチュー・バブレ氏が描いたSFのバンドデシネです。そもそも「バンドデシネ」とは、フランス語圏で出版されたマンガのこと。日本の “マンガ文化” の影響がなければ、「シャングリラ」のようなバンドデシネが生まれることはなかっただろうと考えられているんです。後に紹介しますが、日本が生んだSFマンガの大作『聖闘士星矢』や『AKIRA』など、1980〜1990年代に日本で流行したマンガがバンドデシネに影響した部分はとても大いにあると思っています。

——この『Shangri-La(シャングリ-ラ)』という作品では、どのあたりに日本の “マンガ文化” の影響があるんですか?

ティボー:コマ割りを見ていただければわかると思うのですが、この作品はきっと、日本の『攻殻機動隊』や『AKIRA』などからの影響を受けているはず。ダイナミックなコマ割りが未来都市の雰囲気を存分に伝えてくれています。

そもそも、トラディショナルな伝記としてフランスで愛されてきた「バンドデシネ」には、48〜54ページといった “ページ制限” があったんです。ただ、こちらの作品もそうですし、近ごろのバンドデシネは、もっともっとページ数の多いものばかり。この『シャングリ-ラ』もそうです。222ページにわたって、物語が描かれています。日本の “マンガ文化” がそうであったように、フランスの「バンドデシネ」も、時代にあわせて進化しているんですよ。

初めて日本語からフランス語に翻訳されたマンガ作品の1つは、大友克洋さんの『AKIRA』でした。あの作品がフランスで流行ったのが1980〜1990年代で、当時幼かった作者の方々が、その影響を受けて作品を作っていった。初めに流行った頃からおよそ30~40年ほど経った今、マチュー・バブレ氏のように、1人の “作家” としてデビューしているのだろうなぁと思います。

——日本の “マンガ文化” が、フランスで派生していくということですか?

ティボー:そうですね。ちなみにこちらの作品を手がけたマチュー・バブレ氏は、他にも『Carbone & silicium(カルボンとシリシュウム)』というタイトルのSF作品(バンドデシネ)も描いています。通常版はカラー印刷なのですが、同じ内容で刊行されたコレクター版には、白黒&ゴールド (Version Or Noir)のカラーリングが取り入れられているんです。SFの世界観を表現するために、あえて白黒やゴールドといった色が使われたりもするんですよ。それも、どこか日本の “マンガ文化” 的ですよね。

また、“表現方法の豊かさ” という意味で言えば、近年のバンドデシネには“サイズの制限”がないんです。作者が表現したいと思う方法で、それが色であっても本の形であっても、ある程度の自由さが担保されている。それはきっと、バンドデシネ特有の魅力かもしれませんね。

『Saint Seiya- time odyssey t.1(聖闘士星矢)』

フランスの子ども達を虜にした日本のアニメ

――『Saint Seiya- time odyssey t.1(聖闘士星矢)』について教えてください。

ティボー:左に置いた1冊は、『聖闘士星矢』のフランス版を発売するにあたって、僕が翻訳を手掛けた本です。とても思い出深い1冊ですね。また、こちら(写真右)の『Saint Seiya- time odyssey t.1(聖闘士星矢)』は、フランス語ですべてのストーリーが描かれた、オリジナルの作品なんです。

このバンドデシネ作品を手がけた作家のジェローム・アルキエ氏は、特に経歴がとってもおもしろい方なんですよ。1975年生まれの方なのですが、彼が10歳くらいの頃、からフランスでは、『聖闘士星矢』のアニメ版が放映されていました。そのアニメを観た彼は、たちまち大ファンに。その方が手がけた『聖闘士星矢』のオリジナルシリーズ『time odyssey t.1』です。

彼は、バンドデシネ作家としてデビューする前には、10年間ほどエンジニアの仕事をしていたのだとか。フランスの会社で働きながら自分のバンドデシネ作品を描き続け、デビューしたのだそう。さまざまな作品を世に出した末、自分が大好きな『聖闘士星矢』の “共同制作”に関わることができたんです。

−−共同制作とは具体的にどのようなことなのでしょうか?

ティボー:『聖闘士星矢』の生みの親である、車田正美先生とともにストーリーを作ったんですよ。大まかな部分はジェローム・アルキエ氏が作り、車田先生が監修する、といった形で。ただ、共同制作ならではの気遣いもあったようですけどね。たとえば、キャラクターを似せすぎてもいけない、など。きっと、作者は1人の熱狂的ファンであるから、描くキャラが似すぎてしまうこともあったんでしょうね(笑)。

−−なぜバンドデシネの作品はこれほど重厚に作られているのですか?

ティボー:フランス人は特に、“文化” に対してお金を支払うことを厭わないんです。それは本だけでなく、映画も、音楽も、絵画もそう。あらゆる “文化” に対する抵抗がない国であり、人である、と思っています。それで言えば、僕自身、フランスの実家にはたくさんのバンドデシネが置いてあって。兄弟が買ったものであったり、親が買ってくれたものであったり。家族の “財産” として、本を扱う。そういう側面から、より重厚に、より丁寧に作る、というのがあるのかもしれませんね。

少し話は遠ざかるかもしれないけれど、もともとこのお店では、いわゆる “画集” を多く仕入れていたんです。フランス出身の方々だけでなく、日本の方々にも楽しんでいただけるものとして。そこには言葉が仲介しませんから。ただ、実はフランス発のバンドデシネ作品たちも、人気を集めてこられたんですよ。このお店で。日本人の方々も楽しんでくれたんです。それは、彼ら日本人にとってバンドデシネ作品が “絵を見て楽しめるもの” として受け入れてもらえた証明だったんです。

−−今後、お店をどのような場所にしていきたいですか?

ティボー:今、店として見据えていることがあって。実は、隣の物件をリフォームして、ギャラリーを新設しようと思っているんです。たとえばそこでは、バンドデシネ作家の方同士の座談会であったり、サイン会であったり、バンドデシネ作品の原画を展示する機会といったような催しを行おうと思っています。“バンドデシネへの新たな入り口” として、“文化の発信地” として、僕達『MAISON PETIT RENARD』が機能していけたら、うれしいです。

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.8 古書 往来座が選ぶ東京に深く根付く日本の文化を感じる2冊 https://tokion.jp/2022/11/14/books-that-feel-japanese-vol8/ Mon, 14 Nov 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=153413 「古書 往来座」の瀬戸雄史とのむみちが、1980年代の東京を捉えた写真と名画からディープな日本文化を語る。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、文芸、映画、美術等、多くの本を扱う『古書往来座』の代表瀬戸雄史と店員のむみちにインタヴュー。東京を舞台に常に移り変わる現実と現象の中に生きる若者達を捉えた写真集と、根強いファンを持つ名画座という日本特有の文化をコンテンツにしたフリーペーパーと手帳。写真と映画、2つの軸からディープな日本文化を感じる本を紹介してもらった。

「名画座かんぺ」
「名画座手帳」

書店員・のむみちが形にする名画座の魅力

−−『名画座かんぺ』『名画座手帳』について教えてください。

のむみち(以下、のむ):2012年から「名画座かんぺ」を作り始め、その派生版が「名画座手帳」。「名画座かんぺ」は、主要名画座5館の1ヵ月の上映スケジュールがメインコンテンツ。裏面には、トークショーなどのイベント情報や新刊本、ソフト化を紹介する“推し”らせコーナー、CS衛星劇場の“幻の蔵出し映画館”で放送されるレア作をいち早くレビューするコーナーなど、旧作邦画にちなんだコンテンツを網羅しています。名画座ファンにとって、こういうのがあったら便利なんじゃないかということで「名画座かんぺ」が生まれたように、旧作邦画の情報が満載の名画座ファンのための手帳があったらおもしろいんじゃないかという発想で生まれたのが「名画座手帳」。ウィークリーの部分には、旧作邦画に関わる俳優、監督の誕生日や命日が記されているほか、その日公開された作品も掲載。巻末には歴代の監督がどの時代に活躍されていたかがわかるチャート、都内の名画座の座席表付きの劇場情報、「男はつらいよ」などシリーズもののチェックリスト、常連作家の映画化作品一覧などが載っています。今の時代にこれ? ってくらいアナログなツール。手帳としての機能はもちろん、本として楽しめるくらい資料も充実している1冊です。

−−名画座の魅力とは?

のむ:もともと名画座には全く興味がなかったのですが、古本好きと古い映画好きは重なる部分があって、古い映画好きのお客様が勧めてくれたのがきっかけでした。作品にハマるというよりは、それがきっかけで名画座に行ってみようと思って、お店からも程近い新文芸坐を訪れたことが始まりです。名画座というと、古くて暗いとか、年齢層が高いとか、そういうイメージがありましたが、新文芸坐は2000年にオープンしていて、すごくきれいで。スクリーンも大きいし、なんて素晴らしい空間なんだろうと惹かれて通い始めました。一時期は仕事のシフトに合わせて、遅番のときは映画館に行ってから出勤。早番の時は仕事が終わってから映画館に。休日は、都内の名画座をはしごしていました。各館とも特集ごとにチラシを作っているのですが、名画座ファンはそのチラシを集めて、今月はどの映画を見に行くかというスケジュールを立てるのが楽しいんです。

−−来年度版の『名画座手帳』はよりアップデートされるとか?

のむ:来年版は現在絶賛編集中なのですが、全国の映画館リストをさらに拡大させます。これまでは、名画座と二番館という縛りをしてきたので、取り上げられない映画館も多かったのですが、コロナ禍で映画館にも影響があり、クラウドファウンディングなどでミニシアターを救おうというムーブメントがありました。それもあって縛りを緩めて、地方でも大手シネコンじゃない、独立資本で頑張っている映画館も入れることに。かなり今年の版よりも充実した内容になる予定です。

100%旧作で特集が組まれ、毎回チラシまで作られ、さらにそれらの上映スケジュールで月刊のフリーペーパーが成り立ち、旧作邦画のコンテンツで手帳まで作ることができてしまう。それくらい名画座文化が充実しているのは日本だけなのでは。 折りたたみ式のフリーペーパーの表紙は、1号目から代表の瀬戸雄史さんが版画で仕上げています。

倉田精二
「FLASH UP」

ストリートとアウトロー達への愛を写した写真集

−−倉田精二『FLASH UP』との出会いについて教えてください。

瀬戸雄史(以下、瀬戸):1983年に放送された山田太一さん脚本の「早春スケッチブック」というドラマです。母と息子、父と娘、それぞれが血が繋がっている、連れ子がある者同士が結婚して築かれた家庭、そこに母の元恋人で、息子の実の父親が現れる。破天荒なその男の登場により平和な家庭に亀裂が入り始めるというストーリーです。「ありきたりなことを言うな! おまえら骨の髄までありきたりだ!」というセリフは名言として印象に残っています。山崎努さんが演じる、破天荒な実の父親は写真家という設定で、息子が隠し持ってこっそり眺めていた写真集がこの「FLASH UP」。劇中にこの写真集を登場させることで父親の人柄や作風を表しています。このドラマがきっかけで、倉田精二さんの「FLASH UP」という写真集を知りました。

−−この本のどんな部分に日本らしさを感じますか?

瀬戸:山田太一脚本の日本的なホームドラマの劇中で使われていたというバックストーリーはもちろんのこと、高度成長の裏に隠されていた若者達がリアルに写されているところに一番日本らしさを感じます。被写体となっている若者達の熱量とか気迫、暴走族、ヤクザ、夜の女達、喧嘩、バイク等、東京の暗部ともいえる裏社会のリアルを捉えた、劇的で暴力的でもある臨場感あふれる写真の数々。古い車、足立ナンバー、カメラ目線の人、視線を逸らす人、サンダルの人がいたり、ブーツの人がいたり、あれこれ想像しながら写真を1枚1枚じっくり細部まで読み込めば読み込むほどおもしろい。以前、倉田精二さんに会ったことがあるという写真家さんから聞いた話ですが、倉田さん自身はとても優しい人である一方で、被写体の彼等と同じように迫力があり怖さも感じる人だったそう。彼等の仲間に近い存在となって、常にストリートにいたそうです。だからこそこの距離で撮れた。この本に収められた190点の作品のうち約120点が池袋を舞台に撮影されたものというところもまた見ていておもしろい一面です。

大部分が池袋で撮られているので、駅近くにある通称びっくりガードと呼ばれている場所でのバイク事故の様子やサンシャインシティ等、馴染みのある景色も多い。雪の日のサンシャインシティの写真は同じ画角で撮影しに行きました。建て替わっているところがほとんどですが、未だに残っているビルもあり、見つけた時は嬉しかったです。

Photography Masashi Ura
Text Mai Okuhara
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.7 「Pagina」桑野素弘が選ぶ、日本の「デザインの魅力」を感じる2冊 https://tokion.jp/2022/09/03/books-that-feel-japanese-vol7/ Sat, 03 Sep 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=140045 「Pagina」の桑野素弘が「戦前・戦後」の切り口で、日本の優れたデザイン書を解説する。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、1950~1960年代を中心としたイタリア・モダン・デザイン関連とその周辺のスイスなどヨーロッパ諸国やアメリカ、日本などのグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築、写真集等にまつわる本を扱う古書店「Pagina」桑野素弘にインタビュー。来客がどのような分野に興味を持っているのかを聞きつつ、店主・桑野氏自らが1冊1冊の本を取り出して紹介していくという、いわば「デザイン書のカウンセリングショップ」としてのあり方を続けている同店。「戦前・戦後」の切り口で、デザイン視点を通じた日本の魅力を伝える2冊を紹介してもらった。

Japanische Gebrauchsgegenstaende
〈日本の日用工芸品展図録〉

「戦前」の日本を代表する、有識者たちによる1冊

−−『Japanische Gebrauchsgegenstaende 〈日本の日用工芸品展図録〉』について教えてください。

桑野素弘(以下、桑野):こちらは、1938年にドイツで出版された本です。1920年代から世界的に広まった「モダンデザイン運動」の頃の1冊ですね。この本は、写真家の土門拳であったり、グラフィックデザイナーの亀倉雄策であったり、アートディレクターの名取洋之助であったり、当時最も先鋭的なクリエイターが手掛けています。アートディレクターを務めた名取洋之助は、裕福な家庭に生まれドイツの美術学校に留学し報道写真を学んで帰国します。帰国してすぐに『日本工房』という編集・デザイン・出版を生業とする会社を設立します。

この本はその『日本工房』が制作した1冊です。ドイツで開催された日本の工芸品を紹介する展覧会の図録です。展示品はすべて名取洋之助が選んだそうですが、金の象嵌や螺鈿細工といった外国の方が想像する日本的な工芸品ではなく、純粋に造形(カタチ)として美しい日用品を選んでいます。

−−この本の、どんな部分に共感や魅力を覚えたのでしょうか?

桑野:ひとえに、「純粋な成り立ち」ですね。そこが大きな魅力だと感じています。この展覧会は日本の対外文化宣伝を請け負っていた政府の外郭団体「KBS(国際文化振興会)」がスポンサーです。「KBS」の依頼で日本工房の名取がディレクションし図録も制作しました。その意図を汲み取ってまだ20代だった土門と亀倉の想いが結びついた作品というところがポイントです。

Японский дизайн. Традиции и современность
「日本のデザイン 伝統と現代」展の図録

「戦後」の日本を代表する、クリエイター達による1冊

−−「Японский дизайн. Традиции и современность 『日本のデザイン 伝統と現代』展の図録」について教えてください。

桑野:こちらの本は、先にご紹介した「Japanische Gebrauchsgegenstaende 〈日本の日用工芸品展図録〉」が戦前の1冊であったのに対して、戦後の1冊です。1984年にソ連で刊行された本。モスクワで開催された、日本の文化紹介イベントの図録なのですが、「西武グループ」が作ったものなんです。ちなみに、この展覧会はものすごい数の人が入ったのだそうです。30万人ほどの方々が来客されたようで。

−−こちらは、戦前の1冊と比べてどのような部分が大きな魅力なのでしょうか?

桑野:この本も同じく「当時の日本のデザインをフィーチャーしている」という点が魅力の1つですね。ハイテクノロジーとトラディショナルなものを対比させることで日本の美を表現しています。「ソニー(SONY)」のような当時の最先端の企業があって、それと同時に、京都が誇るような、いわば “日本的なもの” もあって。右ページと左ページで対比するようにして豊かに表現しているんです。伝統と今の日本というか。ビジュアル本として、とても楽しいものに仕上がっています。

−−どんな人が手掛けているのですか?

桑野:アートディレクターは、田中一光さんという方です。1970年代以降において、ずっと西武グループのアートディレクションをされた方ですね。企業を背負って、このように大きな案件のディレクションやプロモーションをする、というのが田中さんのすごいところだと考えています。戦後に活躍されたデザイナーの中でも代表的な方ですね。亀倉雄策さんと並ぶような人です。

桑野素弘
「ダネーゼ」製品の国内インポーターであるクワノトレーディングの代表として輸入卸業を営むかたわら、予約制デザイン専門古書店「Pagina」の店主も兼ねる。
http://kuwano-trading.com/pagina/

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.6 片山淳之介が選ぶフランスを舞台に日本を感じる2冊 https://tokion.jp/2022/05/22/books-that-feel-japanese-vol6/ Sun, 22 May 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=115244 「BOOK SHOP無用之用」片山淳之介が、フランスが舞台となったエッセイと小説から日本を俯瞰する。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、一見無用に思えるものにこそ、本質的な価値があることを表す老子の言葉「無用之用」から名付けられたユニークな書店の店主、片山淳之介にインタビュー。書店による選書だけでなく、繋がりや興味のある誰かによって選書された本が並ぶ。その中から選んでもらったのは、新しい着想のヒントになるようなエッセイ、人間くささをクールにエレガントに描く小説。片山が以前住んでいたフランスが舞台となっている2冊を紹介してもらった。

フランソワーズ・サガン 
『打ちのめされた心は』

−−フランソワーズ・サガン『打ちのめされた心は』について教えてください。

片山淳之介(以下、片山):処女作である『悲しみよこんにちは』で18歳の時、鮮烈なデビューを果たしたサガン。『悲しみよこんにちは』は、のちに22ヵ国で翻訳され、世界的なベストセラーとなった。そのサガンが亡くなった後、未完の遺稿を息子が編集し出版されたのがこの『打ちのめされた心は』です。華やかなフランス郊外の大富豪一家の人間関係を描いた作品。恵まれた環境、華やかな世界の中でのメランコリックさが叙情的に書かれています。もともと裕福な家庭に生まれたサガン自身が、実際に感じていたことや出会った人等を、登場人物の描写やウィットに富んだ文体から感じとることができる作品です。

−−その描写には、とある日本人女優との出会いが関係しているそうですね。

片山:当時、女優として大活躍していた加賀まりこさん。彼女との出会いがサガンに大きな影響を与えたという話を聞いたことがあります。小悪魔的なイメージが強かった加賀さんに対する、世間の誹謗中傷に嫌気がさし、稼いだお金をすべて持って単身パリへ。その時2人は出会ったそうです。日本人女性に、おしとやかな印象があったサガン。一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりしている時の、加賀さんの天真爛漫な無邪気な姿を見て、悲しいことをきれいに書くのではなくて、悲しいことは本当に悲しく書く。脚色しない。そういう影響を加賀さんから受けたのではないかと。

−−この本のどんな部分で加賀さんらしさや日本らしさを感じますか?

片山:加賀さんとのエピソードを聞いた上でこの本を読むと、登場人物のキャラクターにそれを感じます。日本人女性らしい聡明さと、美しさだけでなく少女のようにおてんばでもある。そこについ、加賀さんの姿を重ねてしまいます。フランスの本や映画って、どこか人間の俗な欲望や意図を感じる人間くささがあると感じています。そこが好きなポイントであり魅力。華やかな印象もありますけど、ちゃんとエレガント。フランス人には潜在的な美意識がある。作法とはまた違う、学のような。今は薄れてきているかもしれないけど、当時の日本にも、日本人にもそれはあった。そこに通じる部分を感じます。この本は、加賀さんが出演している映画を見てから読むと良いかもしれません。飲み屋でタバコを取り合っていたくらい親交が深かったと言われている2人の関係性を垣間見ることができるかもしれません。

カバーに描かれた車は、彼女が初めて買ったジャガー。物語に登場するクラシックカーはこのジャガーを想定していたのだろうか。この言葉は、退屈な社交の場に行かなければならない複雑な心情、何も期待しない無の感情を表した言葉。言い回しにエレガントさを感じるのはやはりサガンの育ちの良さからなのか、とあれこれ想像してしまいます。

伊丹十三
『ヨーロッパ退屈日記』

−−伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』について教えてください

片山:1960年代、当時俳優だった伊丹十三さんが仕事のために滞在していたフランスでの実体験が書かれているエッセイ集。俳優、映画監督、デザイナーというあらゆる顔を持っていた伊丹さんは、多才なだけでなく、とてもおしゃれな方だった。おしゃれというのは、見た目のことだけではなくダンディズムのこと。それは誰かの受け売りではなくて、自分のセンスで見つけた良いと思うものに自分を合わせていくこと。伊丹さんはそういう高い美意識を持った方だったのでしょう。この本を語ることは、イコール伊丹十三という人の魅力を語ること。彼の視点で書かれた、世界における日本の特異性。例えば隣の家の犬のエサまで気にするような性質=周りからどう見られているかをヨーロッパにいながらにしても感じている。そういう鋭い観察力が、伊丹さんらしい美学に満ちた言い回しで綴られていておもしろさもある。人間的なダサいことも無粋なところも嫌味なく、そして限りなく黒に近いグレーなユーモアを持って書かれていて、そういうところにも魅力を感じます。フランスにいても伊丹さんは、ちゃんと日本人だった。数年海外で生活して帰ってくると容姿が染まっている人もいますが、伊丹さんはフランスの香りだけまとって帰ってきた。この本を読んでそんな印象を受けました。

−−この本との出会いはいつ頃でしたか?

片山:初めて読んだのは、小学校6年生の頃でした。実家の近くに映画館があって、そこで上映されていた伊丹さんの映画の看板がすごく格好良くて観にいったんです。最初に見たのは『マルサの女』。子どもながらになんとなく感じていた大人の怖さとかズルさとか、静かな中の不安とかそういう醸し出される空気感がちゃんと描写されていた映像に衝撃を受けたのを覚えています。そこから伊丹さんを知って、この本を読みました。大人になった今でも月に1回くらい読み返します。それくらい思い入れの深い本。バイブルみたいな感覚に近いかもしれません。

−−鮮烈な印象を残したこの本から、どんな影響を受けましたか?

片山:自分の好みをはっきりと持つこと。日本人とは、人間とはこうあるべきだというのを、自分で考える力を身につけるための本だと思います。それだけでなく、幼い頃ここにあるものをこう置けばもっときれいなのに、ダメと言われる。なぜそれがダメなんだろうと思うことがありましたが、そうじゃなくても良い。きれいじゃなくても、整頓されていなくても良い。そうやって物事を俯瞰視できるように広い視点を持たせてくれたのも、この本かもしれません。海外の人が見た日本人の性質や勤勉さ、礼儀正しさ等ではなく、普段から身の回りにある日本らしさ、日本人すら気付かないようならしさが、伊丹さんを通して海外の視点で綴られている。ずいぶん昔の作品ですが、今の時代にも十分通じる内容ばかりなので、国語の教科書に入れてほしいくらいです。

カバーの装画、中面に登場するイラストも伊丹さん自身が描かれたもの。スパゲティの“粋な”食べ方を紹介しているベージは、この本の中で一番好きなページ。アルデンテという言葉を最初に紹介した本と言われているとか。

片山 淳之介
1980年徳島県生まれ。2010年よりフランスでプロダクトデザイン業務に携わる。2020年6月よりBOOK SHOP無用之用 共同店主に就任。「すぐには役に立たないが、もしかしたらいつか役に立つかもしれない」という本をそろえている。ジャンルレスでおもしろい知識が出会い、新しいことが生まれるきっかけになる場を目指し、店作りに日々取り組む。http://issueplusdesign.jp/muyonoyo/

Photography Masashi Ura
Text Mai Okuhara
Edit Risa Kosada(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.5 「Flying Books」山路和広が選ぶ両極な日本の姿が見られる2冊 https://tokion.jp/2022/04/02/books-that-feel-japanese-vol5/ Sat, 02 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=101378 「Flying Books」山路和広が選ぶ、写真家のまなざしに見る東京の都市生活。そして古き良き日本の生活。過去と現在を写真集から読み解く。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、渋谷駅から徒歩2分。国内外の個性的な古書を扱う「Flying Books」山路和広にインタビュー。世界的にも有名な「Flying Books」のコレクションには、雑誌から詩集まで、アートブックというより、もはやアートのような本が並ぶ。その中から写真家独自の目線で今の東京の街を切り取った写真集、そして「日本昔ばなし」の世界にタイムスリップするような写真集。現在と過去の日本が見られる2冊を紹介してもらった。

ジョン・ゴセージ
『THE CODE』

−−ジョン・ゴセージ『THE CODE』について教えてください。

山路和広(以下、山路):この本の版元で、長年の友人でもある「ハーパーズ ブックス」のハーパー・レヴィーンとジョン・ゴセージが写真集の撮影のために来日し、撮影の手伝いをすることになりました。撮影のテーマを尋ねると、1981年に500部だけ発売された牛腸重雄さんの『見慣れた街の中で』という写真集のオマージュのようなものを作りたいと。その写真集は、日本のカラー写真の歴史を変えた作品集。タイトルの通り、何気ない街の風景を撮っているのですが、この頃アートフォトは白黒があたりまえだった時代。カラーフォトは雑誌やグラビアではあるけれど、アートとしては認められてなく、これが初めてアートの域に達することができた作品集なんじゃないかと思います。ジョン・ゴセージは、何気なく街の人達を撮ったこの写真集が好きで、オマージュ的なものを作りたいと話してくれました。2週間ほどの東京滞在で、銀座、新宿、神保町、代々木公園など、さまざまな場所を一緒に回り、撮影をしました。

−−撮影時の印象的なエピソードはありますか?

山路:ジョン・ゴセージは、写真集のコレクターでもあり、特に日本の写真家の作品が好きでたくさん集めています。石内都さんの『絶唱、横須賀ストーリー』という写真集も好きな一冊で、舞台となった横須賀や横浜にも撮影に行きました。僕が運転をしていると、初めて訪れたはずなのに、急に「ここを曲がって!」と彼がナビをし始めたんです。するとドヤ街のようなところにたどり着いた。初めて通ったはずなのに、嗅覚というか感覚がすごいなと思いましたね。日雇い労働者が生活するドヤ街の切り取り方、目線も独特ですごくおもしろい。私達も日常的に見ている光景なのに、ジョン・ゴセージの目を通してみると、新しい景色に見えてくるところがこの写真集の見所だと思います。

−−ジョン・ゴセージのまなざしの先にある日本らしさ、日本人のわれわれが見てもそう感じる部分はどんなところだと思いますか?

山路:彼はいわゆる和な日本を狙っているのではなくて、東京を写している。東京の人々という感じです。何気ないサラリーマンだったり、スクランブル交差点を渡る女性だったり、子どもがいたり大人達がいたり。東京の都市生活みたいな光景をすごく感じられる写真集だなと思います。彼の作品集全般に言えることですが、何回見ても新しい魅力や発見があります。写真集によっては、すごく良いけれど一度見たら何年も開かないものもある。きれいなだけの写真集は案外そうで、初めて開いた瞬間「おーっ!」と感じても、何度も見返したりはしない。派手なアクション映画と似ているのかもしれません。この写真集のおもしろさは、すべてジョンのまなざしだということ。カメラを通しているけど、ジョンが見たもの記録するためにカメラを使っただけで、公園にいて空を見上げた時の何気ない雲や、ロッカーのサビを自分のまなざしで見ている。そのまなざしは、派手なアクション映画とは違い、心温まるヒューマンドラマのようなもの。だから、何度見てもおもしろく新しい発見ができるのだと思います。

写真もそうですけど、デザインに至るまで無駄が一切ない。JAPAN、ジョン・ゴセージの“J”と日の丸を示すような“赤丸”が一つというシンプルな表紙のデザインは、ジョン自身が考えたもの。印刷時は中国まで立ち合いに行っていました。それくらいこだわって一冊を作る人。写真集のコレクターでもあるので、何千冊と見て培われてきた彼のセンスと過去の作品へのリスペクトが込められた愛情ある1冊だなと思います。

橋本照嵩
『GOZE(瞽女)完全版』

――橋本照嵩『GOZE(瞽女)完全版』について教えてください。

山路:現在82歳の写真家・橋本照嵩さんが、1970年代初頭に盲目の女性達が村から村へ放浪しながら芸を披露する瞽女と呼ばれる人達に、2年間同行し撮影した写真集。当時の娯楽といえば、都会ではテレビがある家もあったかもしれませんが、地方はラジオが主流だったようです。彼女たちの芸は、東北地方の農家ではエンターテイメントとして定着していたそう。新潟県を中心に農家を訪ね、三味線を弾きながら唄い、弾き語りで物語を聞かせる。その対価として金銭や農作物をもらっていたそう。彼女達と自然豊かな土地の人々との関わり、そして暮らしがコントラストの強いモノクロ写真で描写され、写真1枚1枚のインパクトが力強い。同時に今は失われつつある情景や田舎の風景や昭和の生活様式、家族の結びつき――そういう風景の中の瞽女の姿が捉えられた写真集です。

−−この本のどんな部分を海外に紹介したいと思いますか?

山路:力強い橋本さんの写真の魅力はもちろん、今は見ることができない古き良き日本の風景と生活様式が見られるので、そういう部分を見てもらえたらと思います。今はポップカルチャー、アニメ、ゲーム、音楽みたいなところばかりが外から注目されがちですが、日本の民俗文化も見て知ってほしいですね。やっぱりインパクトが強いし、これは何?と聞いてくる外国のお客様も多く、瞽女を説明する時に、目の見えない日本の女性のジプシー、旅をしながら芸能を披露し、生活をしている人達と説明するんです。世界的にも盲目の、しかも女性だけで連れ立って、芸能を伝承していくって聞いたことがないので、そういった点でも日本独自の文化を記録した写真集だなと思います。

――橋本さんとのエピソードはありますか?

山路:橋本さんは新しいものへの追求、好奇心が82歳になった今でも旺盛。最近デジタルでも写真を撮っていて「50年写真を撮ってきてやっとデジタルにたどり着いたよ!」って話していました。Flying Booksの近くにある焼き鳥屋さんがお気に入りで、よく一緒に飲みながら写真の話をします。橋本さんは石巻出身で、地面と密接につながって育ってきたからと言って地面の模様をデジタルで撮影しています。その写真もどこかグラフィカルで、地面のようには見えない、不思議なコントラストとインパクトがあるもの。そのデジタルな一面と、瞽女の対極を見てほしいなと思い、お店で写真展も開催しました。

瞽女の3人が雪が降る村の森の中を歩いている写真が印象的。視力のある一人が先頭を歩き、前の人の肩に手を置いて連なって歩いている。彼女達の表情が見える写真は、その感情が鮮やかに見える。その写真は印象的で鮮烈に記憶に焼き付く光景。「日本昔ばなし」で見る世界で、どこか御伽話を聞いているような気分になる。この写真集はゆっくりとした静かな時間に、まるでタイムスリップするように情景に入り込みたい1冊です。

山路 和広
1975年東京都生まれ。古書サンエーの三代目。2003年に東京・渋谷にカフェやイベントスペースを兼ねた古書店「Flying Books」をオープン。古書のコーディネート、イベント制作を軸に新刊書店、レコード店、インテリア・ショップ、アパレル、出版社等と既存の枠に捉われないコラボレートを続けている。http://www.flying-books.com/
Instagram:@flyingbookstokyo

Photography Masashi Ura
Edit Risa Kosada(Mo-Green)

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連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.4 「KOMIYAMA YUKA BOOKS」髙橋優香が選ぶ、本で知った未知の世界をディグリたくなる2冊 https://tokion.jp/2022/02/12/books-that-feel-japanese-vol4/ Sat, 12 Feb 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=88460 「KOMIYAMA YUKA BOOKS」髙橋優香が選ぶ、気付かなかった日本の姿を見る写真集。そして未知の世界を見せてくれるマニアックな本。

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国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、ラフォーレ原宿にあり世界中の人気ブランドや気鋭のレーベルを取り扱うセレクトショップGR8内にオープンした「KOMIYAMA YUKA BOOKS」の髙橋優香にインタビュー。アートピースのようにヴィンテージの本が所狭しとと並ぶ店内から、気付かなかった日本の姿とカルチャーを知れる本、そして収集家としての一面も持つアーティストの一癖あるアーカイヴブックを紹介してもらった。

荒木経惟
『往生写集』

−−荒木経惟『往生写集』について教えてください。

髙橋優香(以下、髙橋):2014年に開催された「荒木経惟 往生写集」に合わせて刊行された写真集。初期の作品「さっちん」から50年にわたって写真家の荒木経惟さんが見てきた日常、そして愛する人と猫の生と死が収められている1冊です。奥様の陽子さんとの日常、暮らした家、バルコニー、飼い猫のチロ、空。スナップがあったり、家の前の十字路を毎日撮っている写真を見ると、一つとして同じ日常はなくて、いろんな人の物語が1つの道にあるのを感じたり。写真は、客観的にそれを教えてくれるからおもしろい。この写真集は、多くの日本人が昔から大切にしている、日々を大切に過ごす心、それが辛辣につづられている1冊だなと見ていて感じます。

−−この本のどんな部分を海外に紹介したいと思いますか?

髙橋:日本の文化や日常にあるものを海外の人達に言葉で説明するよりも、荒木さんが写す日常の風景を見てもらうことは、日本のカルチャーが一番伝わりやすい方法だと思うんです。海外に拠点を移すフォトグラファーも多いですが、荒木さんは拠点を変えることなく長い間日本をしっかりと捉えているから、日本人の私でも見たことのない日本が荒木さんの写真の中にはたくさんある。どの作品を見ても日本らしさを感じますし、日本のカルチャーをずっと作って発信している、きっと荒木さんには日本を写して伝えたい思いがあって、それがきちんと海外の人達に響いているからすごいなと思います。神保町の小宮山書店でも「荒木の写真集はどこにある?」と聞かれることも多いですしね。日本では、荒木さんといえばエロティックとういうイメージや中には女性蔑視と感じて いる人もいるかもしれない。海外の人と話をすると、それで終わることは絶対にないんです。言葉が伝わらない分、写真から感じることがすごく多いんでしょうね。私は、女性に対しての愛情や尊敬がなければ、あの写真は撮れないと思う。いろんな意見があっていいですし、世界中の人と感じたことをディスカッションすることもアートの意味合いとして、大事なこと。それこそが紹介したい理由で、日本は愛の深い国民性ということも写真を通して知ってもらえたら嬉しいなと思います。

−−本や作者にまつわるエピソードはありますか?

髙橋:海外の人が名前を挙げる日本人カメラマンといえば、荒木経惟さん、森山大道さん、掘り下げている人だと深瀬昌久さんの名前が挙がります。中でも認知度が高いのが、荒木経惟さん。私自身も写真集にのめり込むきかっけになったのが荒木さんでした。ニューヨークのブックフェアで、荒木さんの本と出会ったのですが、日本ってこんなにおもしろいカルチャーがあったんだと知りましたし、自分の国のことなのに知らないことが多く恥ずかしさと驚きもありました。本に興味を持つことによって、国にも興味が出てきてカルチャーや時代背景など知らないことを知るきっかけにもなります。私にとっては日本ということに対して見方を変えてくれた、人生までも変えてくれた人。いつかお会いしてそのことを直接伝えたいです。

「陽子は少女らしい一面から、娼婦みたいな悪いところまであって、いろんな女性の角度を持っていて、すごくいい女だった」と話していたインタビュー記事を読んだことがあって。奥様の陽子さんが荒木さんを写真家にしたとも言っていました。それくらい荒木さんにとって陽子さんの存在は大きく、愛の深さを感じながらよくこの写真集を見返しています。

アントワン・オルフィー
『Buzzard Control – A Book about QSL card culture』

−−アントワン・オルフィー『Buzzard Control』について教えてください。

髙橋:パリ在住のアーティスト、アントワン・オルフィー。彼はもともとグラフィティ出身で、今はコミックアブストラクションというスタイルで活動しているアーティスト。この本は、コレクターでもある彼が収集したQSLカードという、アマチュア無線家が、交信したことを証明する為に交信相手に発行するものをまとめたアーカイヴブックです。巻頭の“Do you receive me?” “I receive you!”っていうQSLカードの意味合いを説明したやりとりの言葉もなんだかおもしろい。現代でいうSNSのようなものだった、QSLカードの当時の役割をあれこれ想像して眺めたり、楽しみ方はいろいろ。中にはアントワン自身がデザインしたカードも紛れているんです。

−−この本のどんな部分を日本に紹介したいと思いますか?

髙橋:1918年ニューヨークのバッファローが始まりと言われているQSLカード。日本でももちろん使われていて、カードには、動物、乗り物、おもちゃ、似顔絵、どこかの景色など、1つとして同じものがない豊かで多様な表現があって見ていておもしろいです。それゆえ、影響を受けたアーティストも多く、P.A.M.のミーシャ・ホレンバックやエド・デイヴィスも、QSLカードにインスパイアされているとか。この本では、エド・デイヴィスとの対談も掲載されています。

彼自身、横尾忠則さんや春川ナミオさん等の日本のアーティストが好きだったり、アニメーションスタイルのアートワークを製作したりするなど、とにかく日本のカルチャーが大好き。そんな彼の良いところは、大好きな日本のカルチャーを自分の中で消化してオリジナリティーを持って、自分のカルチャーとして表現しているところ。作品の中には日章旗風のモチーフがあったりするけれど、日本ぽくはない。好きなものは好き、でも自分はこう! みたいな表現もおもしろい。アーティストとしても、コレクターとしても、こんなにもおもしろい人がいるんだなと思いました。この本を紹介することでアントワン・オルフィーというアーティストを知ってほしい。という思いがあって選びました。彼は、この本の他にも、膨大なめんこのコレクションを1冊にまとめた『めんこ少年(Menko Boys Book)』という本も出しているんです。本にすることで、自分のコレクションをみんなとシェアするということは、コレクターの醍醐味でもありますよね。

−−作者にまつわるエピソードはありますか?

髙橋:「KOMIYAMA YUKA BOOKS」では、親交のあるアーティストの本をおくようにしていて、アーティスト同士でつながっていくこともありますし、東京が世界のハブになってくれたらという思いもあります。アントワンとの出会いは小宮山書店で、以前「アリ―ズ」の展示をした時でした。フォトグラファーのジョシュア・ゴードンと一緒に来ていたのが、この本を出しているロンドンのTOP SAFE BOOKSの人、たまたま来日していたアントワンがその人と知り合いだったことがきっかけでした。以前パリに行った時、アントワンの家に遊びに行ったこともあるのですが、暴走族の本とか、手塚治虫さんの漫画など、持っているものがかなりマニアックだったのを覚えています。

1つひとつ絵柄の異なるQSLカードはただ眺めているだけでも飽きないですし、描かれているイラストがポップでかわいいものばかり。この絵には何か意味が込められているのかなとか、大阪って書いてある! とか、見るたびに新たな発見もあって、気付いたらQSLカードの魅力に取り憑かれている。多くのアーティストがインスピレーション源にしているというのも納得です。

若者が日本のカルチャーを見直すきっかけ作りと本を読む、買う文化を根付かさせたい

私自身ファッションの仕事をしていたので、そこで培った知識を生かしファッションの歴史を感じられる雑誌や、国内外の写真家の写真集、ファッションにまつわる音楽系の本やクイアアートなどを、独自の視点でセレクトしています。世界に向け日本の文化を発信する神保町の「小宮山書店」と同様に、ここでも日本人作家に力を入れていて、まだまだたくさんいる日本人作家やアーティストの作品を日本人に見て知ってもらいたいという思いがあります。「GR8」というセレクトショップ内、しかも原宿という好立地なので、感度の高い若者がもう一度日本のカルチャーを見直すきっかけが作れたら、そしてファッションの仕事をしている人が、資料になりそうなものを気軽に探しに来れる場所にもなってほしい。そんなことも意識しています。世界のアートブックフェアを回っていて思うのが、日本人の本離れ。海外のアーティストやデザイナーは日本に来ると必ずと言っていいほど、本屋を巡ります。それに比べて、日本人はその印象が薄い。本を読む、買うという文化をもう一度根付かせられるようにしたいと思いますし、さまざまなカルチャーを知っているかどうかは、世界で勝負する上でも必要なはず。本から知識や情報を得ることの楽しさや、あらゆる目線でみることができる本のおもしろさを、ここから発信できたらと思っています。

“POETRY READING”
会期:1月27日〜2月13日
会場:GR8(KOMIYAMA YUKA BOOKS)
住所:東京都渋谷区神宮前1-11-6 ラフォーレ原宿 2.5F
時間:11:00– 20:00
入場料:無料

Photography Masashi Ura
Text Mai Okuhara
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

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