連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.7 「Pagina」桑野素弘が選ぶ、日本の「デザインの魅力」を感じる2冊

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、1950~1960年代を中心としたイタリア・モダン・デザイン関連とその周辺のスイスなどヨーロッパ諸国やアメリカ、日本などのグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築、写真集等にまつわる本を扱う古書店「Pagina」桑野素弘にインタビュー。来客がどのような分野に興味を持っているのかを聞きつつ、店主・桑野氏自らが1冊1冊の本を取り出して紹介していくという、いわば「デザイン書のカウンセリングショップ」としてのあり方を続けている同店。「戦前・戦後」の切り口で、デザイン視点を通じた日本の魅力を伝える2冊を紹介してもらった。

Japanische Gebrauchsgegenstaende
〈日本の日用工芸品展図録〉

「戦前」の日本を代表する、有識者たちによる1冊

−−『Japanische Gebrauchsgegenstaende 〈日本の日用工芸品展図録〉』について教えてください。

桑野素弘(以下、桑野):こちらは、1938年にドイツで出版された本です。1920年代から世界的に広まった「モダンデザイン運動」の頃の1冊ですね。この本は、写真家の土門拳であったり、グラフィックデザイナーの亀倉雄策であったり、アートディレクターの名取洋之助であったり、当時最も先鋭的なクリエイターが手掛けています。アートディレクターを務めた名取洋之助は、裕福な家庭に生まれドイツの美術学校に留学し報道写真を学んで帰国します。帰国してすぐに『日本工房』という編集・デザイン・出版を生業とする会社を設立します。

この本はその『日本工房』が制作した1冊です。ドイツで開催された日本の工芸品を紹介する展覧会の図録です。展示品はすべて名取洋之助が選んだそうですが、金の象嵌や螺鈿細工といった外国の方が想像する日本的な工芸品ではなく、純粋に造形(カタチ)として美しい日用品を選んでいます。

−−この本の、どんな部分に共感や魅力を覚えたのでしょうか?

桑野:ひとえに、「純粋な成り立ち」ですね。そこが大きな魅力だと感じています。この展覧会は日本の対外文化宣伝を請け負っていた政府の外郭団体「KBS(国際文化振興会)」がスポンサーです。「KBS」の依頼で日本工房の名取がディレクションし図録も制作しました。その意図を汲み取ってまだ20代だった土門と亀倉の想いが結びついた作品というところがポイントです。

Японский дизайн. Традиции и современность
「日本のデザイン 伝統と現代」展の図録

「戦後」の日本を代表する、クリエイター達による1冊

−−「Японский дизайн. Традиции и современность 『日本のデザイン 伝統と現代』展の図録」について教えてください。

桑野:こちらの本は、先にご紹介した「Japanische Gebrauchsgegenstaende 〈日本の日用工芸品展図録〉」が戦前の1冊であったのに対して、戦後の1冊です。1984年にソ連で刊行された本。モスクワで開催された、日本の文化紹介イベントの図録なのですが、「西武グループ」が作ったものなんです。ちなみに、この展覧会はものすごい数の人が入ったのだそうです。30万人ほどの方々が来客されたようで。

−−こちらは、戦前の1冊と比べてどのような部分が大きな魅力なのでしょうか?

桑野:この本も同じく「当時の日本のデザインをフィーチャーしている」という点が魅力の1つですね。ハイテクノロジーとトラディショナルなものを対比させることで日本の美を表現しています。「ソニー(SONY)」のような当時の最先端の企業があって、それと同時に、京都が誇るような、いわば “日本的なもの” もあって。右ページと左ページで対比するようにして豊かに表現しているんです。伝統と今の日本というか。ビジュアル本として、とても楽しいものに仕上がっています。

−−どんな人が手掛けているのですか?

桑野:アートディレクターは、田中一光さんという方です。1970年代以降において、ずっと西武グループのアートディレクションをされた方ですね。企業を背負って、このように大きな案件のディレクションやプロモーションをする、というのが田中さんのすごいところだと考えています。戦後に活躍されたデザイナーの中でも代表的な方ですね。亀倉雄策さんと並ぶような人です。

桑野素弘
「ダネーゼ」製品の国内インポーターであるクワノトレーディングの代表として輸入卸業を営むかたわら、予約制デザイン専門古書店「Pagina」の店主も兼ねる。
http://kuwano-trading.com/pagina/

Photography Masashi Ura
Text Nozomu Miura
Edit Dai Watarai(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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