映画連載 Archives - TOKION https://tokion.jp/series/series-of-movie/ Tue, 12 Jul 2022 05:08:15 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.4 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 映画連載 Archives - TOKION https://tokion.jp/series/series-of-movie/ 32 32 #映画連載 八木莉可子 「このままでいいのか」、俳優の仕事に悩んだ時に見たくなる映画 https://tokion.jp/2022/07/14/movie-column-rikako-yagi/ Thu, 14 Jul 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=133098 Netflixオリジナルシリーズ『First Love 初恋』への出演が話題の八木莉可子が「俳優をする上で影響を受けた映画」を紹介する。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

今回、登場するのはファースト写真集『Pitter-Patter(ピターパター)』(青幻舎)を出版したばかりの俳優・八木莉可子。同著は256ページの大ボリュームで、撮影はプライベートでも親交のある写真家の石田真澄が担当。17歳から20歳になり、今に至るまでの約3年半にわたって撮影したかけがえのない記録となっている。八木は2016年『ポカリスエット』のCMで注目を集め、今年公開予定のNetflixオリジナルシリーズ『First Love 初恋』への出演が話題になるなど、ますます活躍が期待される若手俳優だ。そんな彼女が俳優をする上で影響を受けた映画を2本紹介する。

理想の人間像はトム・ホランドが演じるピーター・パーカー

『スパイダーマン・ホームカミング』を見た時に、トム・ホランドさんが演じるピーター・パーカー/スパイダーマンが、自分の中にある理想の人間像にぴったりハマりました。それをきっかけにシリーズの全作品を見返しました。作品としては『アメイジング・スパイダーマン』が一番好きですが、スパイダーマンという人物像は、どの俳優さんが演じても全部好きです。スパイダーマンは悪役をバーン!とやっつけるヒーローと違って、悪役の悪い部分は正すけれど、ボコボコに打ちのめさずに、救ったりもするんです。みんなの小さな困りごとも解決してあげて、ユーモアも持っていて。あんなスーパーヒーローにはなれないにしても、誰かの役に立てる人間に私もなりたい。ユートピア的な思想っぽくて、これを言うのはすごく恥ずかしいんですけど、人を幸せにできる人、ちょっとでも人をプラスにできる人間でありたいという理想があります。俳優というお仕事を通して、見てくださる方に少しでも幸せになってもらいたいと思っているので、スパイダーマンには大きな影響を受けています。

人を幸せにする為にも自分も楽しんで仕事をしたいと思っています。でも、自分は理想とする人間像に向かって真剣にお仕事をしているけれど、周りと比べると生ぬるいのかな……と悩んでしまうこともありました。高校の頃は学業優先で、平日は学校、土日でお仕事をさせてもらっていたんです。将来の自分にとって、高校生活で得られる経験が絶対に必要になると思ったので。今でもその選択が間違っていたとは思わないけれど、仕事のために上京して芸能活動がしやすい高校に編入した子や、通信制で頑張っている子の話を聞くと、自分がいいとこ取りをしているように思えてしまって……。高校を卒業してからは、大学の授業との両立もしやすくなり、お仕事の幅も広がって、いろんな人と接する機会が増えました。いろんな人の話を聞くにつれて、この世界でやっていくには、もっと野心や負けず嫌いな気持ちが必要なのかなと悩み始めてしまいました。私のお仕事に対してのモチベーションは、自分が楽しんで、誰かを喜ばせて楽しませること。モチベーションは人によりけりだとわかってはいるんですけど、自分もまだまだ経験不足なので、それだけだと成長できないのかな、でもなんか違うんじゃないかなと今でも悩み中です。

『スパイダーマン:ホームカミング』
デジタル配信中
ブルーレイ&DVDセット ¥5,217/4K ULTRA HD&ブルーレイセット ¥7,480
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

『スパイダーマン:ホームカミング』
デジタル配信中
ブルーレイ&DVDセット ¥5,217/4K ULTRA HD&ブルーレイセット ¥7,480
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

揺れ動いている時期に撮影した写真集『Pitter-Patter』

17歳から20歳はそういうことでわりとずっと悩んでいる時期でした。悩んでいること自体が嫌で、「なんでこんなことで悩んでいるんだろう」とまた悩んでずーっと気持ちがグチャグチャで。そんな私を写真家の石田真澄さんが日常的に撮ってくれた写真が、20歳になったタイミングで写真集『Pitter-Patter』にまとまりました。アートディレクターの方がいわゆる「盛れてない」、なんならちょっとブサイクな写真をたくさん選んでいて、私はいいんですけど本当に大丈夫かなって思ってました(笑)。でも自分としては、素の自分ばかりのこの写真集を通して自分を客観的に見ることができた気がします。まだ答えが見つかったわけではないけれど、悩んでいることも成長の一歩になるかなと、悩んでいる自分を肯定できるようにはなりました。タイトルは石田さんの案です。私が走っているときの足音のイメージの他に、雨音の意味もあるらしくて。私は晴れが好きなので最初はちょっと嫌だなあと思ったんですけど、自分が悩んでいる時期を切り取ってもらった写真集なので、「(人生も)ずっと晴れているわけじゃないから、タイトルが雨に由来していてもいいんじゃないかな」と石田さんに言ってもらえて、すごく腑に落ちました。

自信がない時に観たくなる『ハウルの動く城』

高校時代は撮影現場にちょこちょこ通うくらいだったんですけど、『HOMESTAY』(AmazonPrimeで配信中)で初めて長期間の現場を体験して、いわゆる“壁”にぶつかりました。この作品をきっかけにいろいろ考えるようになったと思います。その後、すぐに『First Love 初恋』(Netflixで2022年全世界配信予定)の現場に入って、それもめっちゃ悩みました。作品自体も難しい部分がありましたし、春夏秋冬のシーンを撮るので撮影期間が長かった分、仕事に向き合うことも多くて。満島ひかりさんと同じ人物を演じさせてもらうというプレッシャーもありましたし、現場でどうふるまっていいのか、どう演じたらいいのかわからないことだらけでグチャグチャでした。私は何かうまくいかないことがあると、自分にベクトルが向いて、自分を責めてしまいがちで。それがいい方に向けばいいんですけど、引きずってしまうとしんどくて、仕事にも悪い影響が出てしまう。そういう時に『ハウルの動く城』を観ると、自分を愛していいんだよ、自分を認めてもいいんだよ、と言われている気がして、力をもらえます。ジブリ作品では『風の谷のナウシカ』が一番好きだったんですけど、何かのタイミングで『ハウルの動く城』を見返したら、すごく深いお話だったことに気が付きました。これは、自分を受容してあげることや自己愛について描いている作品なんだなって。ソフィがおばあちゃんになる時は、自分に自信がなくなるった時なんですよね。小さい頃に観た時は、そこに気付いていませんでした。でも、改めて見返したたら、ハウルに褒められても「私なんて」と卑下しておばあちゃんに戻るソフィが刺さりました。「自分と同じだなー」って。だから、壁にぶつかった時や、自分を認められなくなってしまった時に、自分の自己肯定感を保つために『ハウル〜』を観ます。自分がソフィだなと思ったら、自分の中にハウルを宿らせて、自分を褒めてもらうようにしています。家にいる時はDVDで観ます。長期ロケにはシネマコミックを持っていって読んだり、サントラを聴いたりして、『ハウル〜』の世界観に入り込んで自信を取り戻します。

お芝居が好きな俳優さんは、エディ・レッドメインさん。役に近づく作業をする上で、頑張っている自分に浸っちゃいけないと思うんです。エディさんは、ベクトルが自分ではなく役に向いていて、お芝居から役に対するリスペクトが滲み出ているので好きです。特に好きな作品は『博士と彼女のセオリー』です。満島ひかりさんは尊敬させていただいています。『First Love 初恋』で同じ人物を演じるにあたり、役への向き合い方など、いろいろ教えていただきました。松たか子さんもすごく好きです。『大豆田とわ子と三人の元夫』がめちゃめちゃ好きでハマりました。満島さんと共演されている「カルテット」も大好きです。松さんの演じる役を別の方が演じたら、全然違うことになりそうな気がしていて。それは、松さんの人間性が役に出ているからですし、松さんにキラキラしたものがあるから役がキラキラするんだろうなって思います。

お芝居は、ただただ楽しいです。学生時代は学級委員や生徒会長に立候補するタイプで、演説などで注目を集めるのが純粋に好きでした。人と繋がって何かをすることも楽しいですし、自分にとって喜びです。自分がつらくても、一緒にいる人との一体感があれば乗り越えられるんです。私は多分、愛情深いタイプなんだと思います。すぐに人を好きになっちゃうし。だから、初めての現場で知らない人が多いと、愛情のやり場がなくてちょっとつらく感じてしまうんですけど、少しずつ自分の愛を伝えて、居心地がよくなる環境づくりをするようにしています。それが良いお芝居に繋がって、観る人に楽しんでもらえる作品になればいいなと思うので。これからもお芝居をメインに頑張っていきたいです。でも、お芝居だけに限定せずに、いろんなことに挑戦しながら、自分も楽しみながら、誰かを楽しませることのできる人間になりたいです。

写真集『Pitter-Patter』(初回限定特装版)

■写真集『Pitter-Patter』(初回限定特装版)
著者:八木莉可子
写真:石田真澄 
アートディレクション:前田晃伸 
判型:A5変形/上製本
ページ数:256ページ
部数:3000部限定
価格:¥4,400
※本書は限定3000部の特別仕様
※特製しおり付
https://www.special.seigensha.com/pitter-patter
Instagram:@pitapata_rikako_official

Photography Mikako Kozai
Text Takako Sunaga

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#映画連載 モーリー・ロバートソン Vol.4 時代の大転換を妄想できる3作品 ―『英国王のスピーチ』編― https://tokion.jp/2021/04/18/morley-robertsons-movie-column-4/ Sun, 18 Apr 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=28315 タレントのモーリー・ロバートソンが、ポストコロナの大転換した世界を妄想するための3作品を紹介。ラストは『英国王のスピーチ』。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

タレントのモーリー・ロバートソンによる時代の大転換を感じさせる映画の第3弾。メディアを中心にコメンテーター、DJ、ミュージシャンの他、国際ジャーナリストとしても活躍し、政治・経済からサブカルチャーまで、いくつもの引き出しを持つ彼がコロナ禍の今だからこそ、見るべき映画を紹介する。

“がんばる人が報われる”。今だからこそ心に響く物語

『ジョーカー』では、その先の未来がどんな姿をしているかもわからない状況の中で、抱えている不安や恐怖を解放する姿に私達が置かれている現状、まさに今、時代の大転換を感じさせるというお話を。『マッドマックス』では恐怖心も何もかもを捨てて未来へ向かうことができる人こそが、この混沌とした時代において強い人間であるというお話をしました。

そして今回ピックアップしたのは、『英国王のスピーチ』です。この作品は、先出の2作品よりも、ものすごくリアリティを感じさせる作品。エドワード8世が離婚歴のある民間出身のアメリカ人ウォリス・シンプソンと駆け落ちしてしまい、幸か不幸かイギリス国王になることになってしまったジョージ6世の物語です。本来ならば隠しておきたい吃音症に悩む様子を赤裸々に描いていて、本当にギリギリのリアリティを保っている秀作です。

英国のロイヤルファミリーをリアルに描いた作品で有名になったのは、ヘレン・ミレンがエリザベス2世を演じた『クィーン』(2006年公開)だったのではないかと考えているのですが、美しく清楚で尊い女王が、実は一般人と同様のマインドを持っていることを描きましたよね。女王を1人の人間として描くなんて本来はタブーであろうことなのに、ヘレン・ミレンの演技が素晴らしく、映画からエリザベス女王への愛が溢れていたこともあり、この表現がギリギリ許されたんじゃないかと想像しています。愛こそが防御壁になっていたというか。

『英国王のスピーチ』がおもしろいのは誰もが知るエリザベス女王が主人公の『クィーン』を経て、実はあまり語られなかったジョージ6世を主人公に描いたことで、さらにこの王様を尊敬するイギリス人が増えたであろう点です。血筋も身分もある王様が吃音症であり、さらにとても子どもっぽい側面があったり、執事がいなかったら何もできないところが赤裸々に描かれるなんて、普通だったら許されないですよね。でも、非現実的に尊い人としてだけ描いてしまえば嘘に嘘を重ねていくだけで、映画で観る意味が全くない作品になってしまう。日常で語ることができないものを観ることこそ映画の醍醐味なわけだから、恐れずジョージ6世のありのままを描いた。興味深いのは、今のように世の中が不安定になって、何か解放されたいと思っている時にこの作品を改めて観ると、見てはいけないはずのものが美しく見えること。結局は環境が違うだけで、「王様だって自分と同じ人間だった」って感情移入ができるから、王様ががんばったように自分が無理だと思うことも逃げずにやれば、もしかしたら成就できるのではないか。結局、がんばる人が報われるということが、この映画の側面にあったと感じられるんです。

『英国王のスピーチ』

ブルーレイ ¥2,200

発売元・販売元:ギャガ

© 2010 See-Saw Films. All rights reserved.

こんな時代だからこそ生まれるヒーローもいる

『マッドマックス』は、どんなにがんばっても犠牲になる人が存在する残酷さも描いていて、そこに妙な爽快感を覚えるけど、『英国王のスピーチ』の場合は真逆の勧善懲悪の物語になっている。実際、イギリスではこのような王室をはじめ、身分制度はいらないんじゃないかというディベートもなされているのですが、一方で王室があるおかげで生きる気力をもらっている人も大勢いるわけです。前回の『マッドマックス』の回でも同じことをお話ししましたが、誰か強い人に守ってほしいと思う現代人がすがることができる究極は血筋。目に見えないパワーが心の聖域になるからです。だからこそ、王様に共感し、自分を重ね合わせ、生きる力に変えることができるんです。まさにこのコロナ禍におけるリーダー像にふさわしいですよね。

実は、こんな時代だからこそリーダーになれた人物が現代にもいます。ドナルド・トランプです。毎回、世間を賑わす彼の言動を考えてわかったのは、権力を持つ人が、国民1人1人の願望と重なるような、言ってはいけないことや、はしたない行動をしていると、熱烈に愛情をいだいてしまう。被害者意識が強い状態や不安・圧迫されるような状態が続くと、行儀の悪いリーダーを欲しがるのが民衆でもある。善人が言うことには「お前が言っているようなことを真似したって、俺達に何もいいことなんて起きないじゃないか!」と反発されるだけですしね。そう考えると、トランプもジョーカーもイモータン・ジョーも、そして権力のある王様と繋がるように思えませんか? もちろんプリズムの違う角度から見て、ですがね。

守りに入るな! 挑戦してこそ明るい未来は見えてくる

よく考えてみると時代の流れがものすごくよくわかるようになるし、未来に向けて行動したくもなってくる。でも、実際のところディスカッションする場所や場面ってそうそうないですよね、それがすごく現代っぽくもある。今って賢者の出番がない時代なんです。本当はこんな不安な時代であればヨーダ(『スター・ウォーズ』)や山の上にいる仙人のところへ行って教えを乞いたいし、乞うべきですよね(笑)。でも今の社会=特に生活保守的な人々を見ていると、賢者の前でみんながギャーギャー騒いでいる。賢者が素晴らしいことを言ったとしても、その人の人格否定までしてみたり。そういう現象を見ていると「ああ、賢者の声なんて聞きたくないんだな」って思うし、結局みんな今持っているものを失うのが怖くて、その恐怖に大声を上げているだけなんだという惨めささえ感じます。

でも、よく考えてみてください。幸せになりたいということは、いわゆる快楽を求めているわけですよね。本来、快楽というのは死と向き合ったり、破綻や恐怖などリスクと向き合って冒険してこそ得られるんです。生活保守的な考え方に縛られて、ただ大声を上げて生きていると、大きな罠に引っかかると思いますよ。例えば、「絶対儲かる投資話があるよ」と、どこかで聞いたことがあるような詐欺を信じてしまったりとか(笑)。

僕がこの3作品を通して伝えたいのは、とにかく今の世界を生き抜くために固定観念を全て捨ててしまえということ。不安定な時代だし、僕にだって先に何があるかなんてわからないけれど、生活保守的考えや思考停止したまま生きていては時代に取り残されてしまう。

『ジョーカー』や『マッドマックス』で、未来がどうなろうが自分の正義と幸せのために自分自身の殻を破り、突き進んでいく物語を『英国王のスピーチ』で、ひたすらがんばれば報われるという希望の物語を観て感じたように、守りに入るのではなく、とにかく自分がワクワクするものに向かっていく生き方に勝算あり! ということ。不安な時代はまだ続くと思います。だからこそいらないものは捨てて、頭を使って、チャレンジしながら明るい未来を作っていきたいですよね。

Edit Kei Watabe
Photography Teppei Hoshida

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#映画連載 モーリー・ロバートソン Vol.3 時代の大転換を妄想できる3作品 ―『マッドマックス』編― https://tokion.jp/2021/03/17/morley-robertsons-movie-column-3/ Wed, 17 Mar 2021 06:00:20 +0000 https://tokion.jp/?p=23957 タレントのモーリー・ロバートソンが、ポストコロナの大転換した世界を妄想するための3作品を紹介。2作目は『マッドマックス』。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

タレントのモーリー・ロバートソンによる時代の大転換を感じさせる映画の第2弾。メディアを中心にコメンテーター、DJ、ミュージシャンの他、国際ジャーナリストとしても活躍し、政治・経済からサブカルチャーまで、いくつもの引き出しを持つ彼がコロナ禍の今だからこそ、見るべき映画を紹介。

時代の大転換を感じさせる映画の2作品目は、『マッドマックス』です。こちらの作品も『ジョーカー』同様シリーズ化され1970年代の終わりから1980年代までに3作品が発表されましたが、どれも「メガトン級の核戦争が起きたら人が100万人単位で死んでしまう。そんな世の中に生きる人達は一体どうしたら良いんだ!」という問題をジョークのように描いていたんですよね。僕は、今そんな映画さながらの状況がもう目の前に迫っていると感じます。「よっしゃ、もうそろそろ!」と、あってはいけない期待感さえ抱いています。

それは新型コロナウイルスが世界中に蔓延したこともそうですけれど、少子化問題とか難民や移民問題とか世界情勢に鑑みてもそう思える。もしかすると、世界の国の均衡が崩れて、ウワーッとまるでローマ末期のゲルマン民族大移動のようなことが起ってしまうのではないか。そういう状況の一歩手前にいるような気がしてならないんです。一方で4作品目の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』では『ジョーカー』で感じたのと同様に、これからの未来に希望を感じさせられもしました。同じ名前のついた作品でありながら、過去のテーマを継承しつつ世の中の課題をあぶりだした秀作なのです。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ダウンロード販売・デジタルレンタル中

ブルーレイ ¥2,619(税込)/DVD ¥1,572(税込)

発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

Ⓒ2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

登場人物全員が自分の正義だけを信じる世界に感嘆

1作品目の『マッドマックス』(1979)は核に恐れている時代。3作目の『マッドマックス サンダードーム』(1985)では核戦争が起きてみんな死んだらどうなるのか? という恐怖を感じさせる作品でした。まだ当時はバブル期で、豊かさの中で生活保守が進んでいる時代。トランスジェンダーに対してもまだ偏狭な考え方で、「個性的な格好をしていても、少しであれば晩餐館に入れてあげるよ。だから頑張りなさいよ」という時代でもあったんです。それが、27年を経て公開された4作目にあたる『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)では多様性の時代になり、サイエンスフィクションが多少描かれているものの、ある種のリアリズムを追求した、ほぼ女性が主役の物語に変わっていました。サンダードームの頃の“普通と普通じゃない人”が時代を経て入れ替わっていて、ミレニアル世代がすんなり受け入れられる世界として描かれています。

それはかつてマイノリティだったものが現代ではメインストリームになっている証拠で、美しさの価値も多様化していることを指しているんですよね。そして、それぞれに正義がある描き方をしているから、今作の悪役として登場したイモータン・ジョーにさえ感情移入できる。人権もなく、ただ、子どもを産ませるためだけの存在として女性を扱っているのに、自分の子どもは命に代えても守りたいという気持ちってすごいなって思えるんですよね。生きることに一生懸命だけど、映画が始まった瞬間に善悪がなくなるという描き方も秀逸ですよね。サバイバルと愛の物語なんだと思うと、こんな混沌とした世界観の中でも生きる意味を見出せたような気持ちになるんです。

恐怖を超えたところに彼らの正義と喜びがある

中でもひらめきがあったのは、シルバーのスプレーを口元に塗って「私は輝いている!」と死に向かうシーン。これって普通だったら全く考えつかないような演出ですけど、宗教がなくなった時に、それに代わる神秘的な儀式のようなものを相当研究して生み出したのではないかと思っています。かつて、外部と接触のなかった人々が暮らす島に飛行機が貨物を落としてしまうと、落ちたものが例えコーラの瓶だとしても聖なるオブジェとしてまつりあげられるという事例ってたくさんあったんです。外界と接触してしまったらなくなってしまうけれど、すべてが完結した島の中に不純物が1つ入り込むだけで、それが宗教心になってしまう。たまたまあったシルバーのスプレーを吹きつけると顔が輝いて不死身を意味するとか。

そういう解釈をすると、例えば今ホームセンターで売っているような商品が断片化して文明がなくなると魔法のオブジェにさえ映ってしまうということでもある。つまり日常の退屈は、実は退屈でもなんでもなく、一歩先には考えられない可能性を秘めているという伏線でもあるんじゃないですかね。

悲観的ではあるんだけど、そこに生きる喜びのようなものを感じてすごく元気になれる。イモータン・ジョーのところへ行くぞ! なんて一見恐怖に支配されているようなシーンも、実は口元にスプレーを塗ることがトリガーになってすべてが手放しになり、この上ない喜びを感じていると思うんです。

本当の強さとは何かを教えてくれるような気がする

そもそも物語は、すべてが破綻している状態で始まっています。観客には冒険の先に清々しさを感じられる人と、怖いから早く終わってほしいと思う人に二分されるのではないですかね。清々しさを感じられる人の方が今の時代は圧倒的に強い。自分を守ってくれるものは少なくなるけど、戦う人は報われるという動物的な力がみなぎっている証拠ですからね。案ずるより産むがやすしということわざがありますけれど、“案ずるより壊すがやすし”で、すべてを手放して向こう側に行けたらそれはそれで良いんじゃない? というメッセージを暗示しているのは、前回紹介した『ジョーカー』と同じ。

災害やコロナで貧富の差が生まれた時に、誰か強い人に守ってほしいと現代人がこれからすがれるものってなんだろうと考えると、究極は血筋なんじゃないかなって思います。ずっとそこにいてくれるという揺るがない安心や目に見えないパワーは心の聖域にもなり得ますから。でもやっぱり、映画同様崩れかけている今の世界をサバイブするためには、すべてを手放せる人の方が強いですよね。登場人物のように自分だけの正義を胸に、いろいろ壊して突き進んでみてこそ、全く新しい未来を見ることができるんだとこの映画は教えてくれているような気がします。

Edit Kei Watabe
Photography Teppei Hoshida

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The post #映画連載 モーリー・ロバートソン Vol.3 時代の大転換を妄想できる3作品 ―『マッドマックス』編― appeared first on TOKION - カッティングエッジなカルチャー&ファッション情報.

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#映画連載 モーリー・ロバートソン Vol.2 時代の大転換を妄想できる3作品 ―ジョーカー編― https://tokion.jp/2021/02/22/morley-robertsons-movie-column-2/ Mon, 22 Feb 2021 06:00:16 +0000 https://tokion.jp/?p=21049 タレントのモーリー・ロバートソンが、ポストコロナの大転換した世界を妄想するための3作品を紹介。まずはジョーカー。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

タレントのモーリー・ロバートソンが2回目の登場。メディアを中心にコメンテーター、DJ、ミュージシャンのほか、国際ジャーナリストとしても活躍し、政治・経済からサブカルチャーまで、いくつもの引き出しを持つ彼がコロナ禍の今だからこそ、見るべき映画を紹介。

「もうすぐそこまで来ている?! 時代の大転換を妄想する」

新型コロナウイルスの出現によって大きく生活が変わった今、時代は大きなサイクルを迎えていると感じます。占星術の概念に基づいた時代、とでも言いましょうか。立証をしなくても良い大きなサイクルが目の前に迫っているなと。

今って、生活保守的な考え方が破綻している時代ですよね。特に特権階級が「何も変わらなくていいんだ!」なんてふんぞり返っていたのが、そのはしごを外されちゃって慌てふためいている。そんな彼らが自警団になって世間をパトロールして、ルールを破ったりする悪い人間を火にくべようっていう世界になってしまった。Twitterで殴りあったりとかね。すでに社会は破綻しているのに、現状に順応できない人たちがすごく多い。そんな旧態依然の秩序の価値観がもう限界にきていて意味を持たなくなった今、幸せになるため、生活保守、政府のマニュアルに描かれていない、とてつもないパワーの活断層が限界に達したように一気にリリースされ、危険だけどおもしろい時代=時代の若返りがすぐそこまで来ていると妄想してしまうんです。

SNSで他人の評価を気にしても幸せになれない、気の利いたコメントをしても自分の評価にはならないってことにも気付き始めている人も多いじゃないですか。そうすると、個人の開放や今までになかった自分の殻を破るチャンスが来ていることにも気付くんですね。そんな状況に、血湧き肉躍り、野獣のような喜びを感じる人も今後は増えてくると思う。自分の殻を破った時に訪れるのは、時代や文化の大転換。近い将来、必ず壮大なスケールでそれを感じ取ることができると思うんですよね。こんな今の僕の妄想にぴったりと合うのが『ジョーカー』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『英国王のスピーチ』の3本。まずは『ジョーカー』からお話ししたいと思います。

※一部ネタバレを含みます

『ジョーカー』
ダウンロード販売中、デジタルレンタル中
ブルーレイ ¥2,619

発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
TM

© DC. Joker  © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.

「自身の殻を破るきっかけなんて探すものじゃない」

ジョーカーが描かれた映画やテレビシリーズはたくさんあります。ジャック・ニコルソンが演じたのは1989年上映の『バットマン』で、当時僕は映画館で観たんですけれど、すごい明るいジョーカーだった。漫画を映画化したこともあり、漫画らしく無邪気に演じていたのに対してホアキン・フェニックスが演じたジョーカーはさすがNetflix時代! というような時代をえぐる描写を何重にも重ねているのが印象的です。狂気、統合失調症とも思われる精神疾患を抱えるジョーカーの役は、ホアキン自身その不安定さを研究してアドリブも多く入れていたようですがすごく圧倒されました。それまで内に籠もっていたジョーカーが着々と外に出る準備をしながら問題行動を起こしていく姿は、どうしても今の時代と重なって見えてしまうんです。そして状況がどうであれ、僕にとってはジョーカー本人を見続ける映画でした。

ばかにされたり、殴られたり、銃を売りつけられたり、お母さんがジョーカーの父親だと信じる相手に書き続けている手紙など、彼が人殺しをしてしまう=大爆発に至るまでの伏線はあらゆるシーンに描かれているけれど、銃は小道具でしかないし、手紙に書かれている内容だって嘘か本当かなんてわからない。それでも彼が大爆発したのはきっかけをずっと待っていたからに過ぎないんですよね。アルベール・カミュの『異邦人』で殺人犯が「太陽がまぶしかったので人を殺しました」と供述したのと同じで、彼にとって殻を破るきっかけは別になんだって良かったということをすごく感じました。デリケートな秩序をかろうじて守っている人が、他者に正論を言われると自分のバランスを保てず「その正論を許せない!」と喚き散らして、変化を許すことができないところが、今の日本が抱える不寛容さだと思うのですが、ジョーカーを見ていると、そもそも最初から不安定なものはずっと不安定なままで崩れるのをそっと待っているだけなんだなと。かろうじてつっかえ棒をして保っているほど、自分が臆病だということをわかりながらも最後には気が狂ったように不安な気持ちがあふれてしまい、1回殺してしまうとドミノ倒しのように次々と連鎖してしまう。そして不安は全部なかったことにしてやろうとロバート・デ・ニーロ演じるマレー・フランクリンを殺しちゃう。めちゃくちゃなんだけれど、妙に腑に落ちるというか。もうこの後はパーティで、思考性のない群衆が警察を殺したりしてしまったり……。これはシンボル的に見ると権力を殺してしまうということなんだろうけれど、皆、結局各々が持っている不安や想いを吐き出す=時代の大転換のシーンだと読み取ることができる。群衆シーンはよっぽどリアルのデモなんかの方が大規模だから下手に映画で描いてしまうと具体性がなかったり物足りなくなりがちなところを、あえてジョーカーが神であるかのように描いているのもすごく秀逸。群衆にとっては、ジョーカーがトリガーだったというわけですよね。ただ、結局その先にある新秩序は誰にもわからないというのもおもしろい。まさに今現在私たちが置かれている状況と同じですからね。

「ロバート・デ・ニーロの存在は時代の移ろいを見事に表現」

ロバート・デ・ニーロの存在もすごくおもしろい見方ができるんです。彼は、『タクシードライバー』で狂気の権化のような役柄を演じましたよね。そんな彼がこの映画では熟年の往年スターを演じ、消耗品の出演者を上手に動かしている安定した存在として描かれている。少々強引ではあるけれど、かつて狂気の権化だった彼が現在では生活保守志向になり、射殺されるという勝手な物語をオーバーレイして観ることができるので、そういう意味ではおもしろかった。狂気というのは普通の中にあるんだということがわかるというか。日常的な普通さや保守的で中産階級的なカタログに載っている幸せが歪んでいくと、行き着くところはここなんだというのが上手に語られているような気がします。

ただ、ロバート・デ・ニーロこそが狂気の権化として『ジョーカー』に出ていると考える人も多かったみたい。ある種の、自己ブランド化して巨匠となったデ・ニーロがそこにいて、彼を敬愛する若手=ホアキンがやってきて射殺する。これって実はデ・ニーロの本望なんじゃないかと考えているようなるんだけれど、なるほどなと。“戦場で死ぬことこそ美しい“じゃないけれど、怒涛の情熱ある生き方であり、死に様であると解釈できた。病院や特老院で死ぬのではなく、戦場で死ぬことに時代の渇きのようなものも感じられますしね。 ジョーカーはとにかくはちゃめちゃやるわけですが、僕は全然悲惨な気持ちにはならず、むしろ希望の物語として捉えましたしなんなら彼のようにはちゃめちゃしたい! なんて思いましたね(笑)。その先の世界がどうなるか、すごく興味がありますしね。

Edit Kei Watabe
Photography Teppei Hoshida

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#映画連載 萩原みのり 泣き顔もかっこ悪さも。人間らしさをさらけ出して「戦う」役者を映した2本 https://tokion.jp/2020/12/01/series-of-movie-minori-hagiwara/ Tue, 01 Dec 2020 06:00:18 +0000 https://tokion.jp/?p=12563 髪の1本1本、毛先まで役になりきっている出演者達――“ゾーン”状態が全編にわたって続く『宮本から君へ』と『百円の恋』。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

俳優・萩原みのりは2013年のデビュー以降、着実にキャリアを重ねてきたが、今年は『佐々木、イン、マイマイン』『アンダードッグ(前後編)』(ともに11月27日公開)など7本の映画に出演、さらには銀杏BOYZによる「DO YOU LIKE ME」のMVに起用されるなど、その名を目にすることが一気に多くなった。そんな萩原に「映画館で観て衝撃を受けた作品」「新しい作品の撮影前に観る作品」の2本を語ってもらった。両作品からは、出演者の無様な姿もさらけ出す覚悟が共通してにじみ出ている。

今まで観た映画の中で、一番衝撃を受けた作品は『宮本から君へ』です。映画館で観たのですが、観終わった後自分の中で受け止めきれないほどの衝撃がありました。勝手に涙があふれて止まらなくなって、しばらく天井を眺めていた記憶があります。もう映画を観ていることを忘れてしまうほど、役者が役者に見えない作品で。映画に喰われるというか、のみ込まれる感覚になって、その経験が忘れられないんです。

『宮本から君へ』
Blu-ray&DVD好評発売中
販売・発売元:株式会社KADOKAWA
(c) 2019『宮本から君へ』製作委員会

役者全員が身体全体、髪の毛の先までその役になっている。役者って、本来そうでなくちゃいけないってことはわかるんですけれど、この作品はその究極。泣いている姿が、もはや芝居ではないというか。蒼井優さん演じる中野靖子が井浦新さん演じる風間裕二と部屋で揉み合いになった後に、靖子が泣くシーンは特に心に残っていて。「よーいスタート!」で始まる世界だとは到底信じられないんですよね。そのシーン以外でも靖子の表情はすべて心に焼き付いているんですが、もうすごいだとかそういう言葉では表現しきれない。ただただ圧倒。一生忘れないし、一生あの演技を目指してしまうし、意識してしまう。そんなことを言っている時点で役者として全然良くないんですけれど、現場に立つと、毎回あの靖子の顔が頭をよぎってしまうんです。

ただ実際、ここまでの感情になる役とはなかなか出会えないのも事実で。それでも、あそこまでの思い入れを持って作品に挑むことが理想です。映像作品では同じシーンを何回も違う画角から撮影することがあるのですが、私は一から芝居を繰り返すうちに感情に慣れてしまうことがあります。本番の時間に感情を出し切ることが私のお仕事なのに、それができないってめちゃくちゃ悔しくて、現場でどんよりしちゃったりすることも。家に帰ってからもそのシーンの失敗が忘れられなくて、なんならその時だけではなく、一生後悔することになるんです。そういうことがなくなるように、『宮本から君へ』の役者達のような芝居を毎回できたら良いなって心から思っています。

新しい作品の撮影が始まる際によく観るのが『百円の恋』です。この作品は自分を強くしてくれる作品で、役に入る前とか、不安になった時に繰り返し観ています。私、弱い人間であることが長年のコンプレックスで。“萩原みのり”という名前で役者を始めてからなぜか強いイメージを人に持たれるのですが、全然そうじゃなくて。人見知りもひどいし、皆が自分を悪く思っているのではないかと思いつめてしまうほどのシャボン玉より弱いメンタルだって自負があるぐらいで(笑)。だからこそずっと強い女性に憧れていて、自分も強くなりたい、強くありたい、という気持ちがすごくあるんです。だから、主人公の一子がどんどん強くなっていく姿を観ていると自分も強くなれたような気になれる。すごくかっこ悪いセリフを叫び散らしているシーンもすごく良くって。多分、どこかで自分と一子とを重ねて観ているんだと思います。かっこいい女性を描いているわけでは決してなくて、一子は日常の中でボクシングと出会って、そこから生まれる決意とか行動が一瞬カッコよく見えるだけで。エンディングは、さっきまで試合して死ぬほどかっこよかった一子と同じ女性とは思えない。一回逃げられた男に飯でも行くかと誘われて、一度ちゅうちょするけど結局ついていってしまう。最高にダサいんですよね。

『百円の恋』DVD好評発売中
発売:東映ビデオ

でもその後ろで流れる歌(クリープハイプ/『百八円の恋』)の「こんなあたしのことは忘れてね/これから始まる毎日は/映画になんかならなくても/普通の毎日で良いから」という歌詞が聞こえた瞬間、ああ、一子もまた普通の日常に戻っていくんだなってぐっときてしまう。普通の人生に戻っていく後ろ姿に救われるんです。「ああ、これで良いんだ」って思える。常に輝く人にはなれないけど、一瞬だけでも、輝ける瞬間を残せたら。この映画を見るとしばらくこの曲しか聴けないし、仕事に行く前にふとこの曲を聴くと、あの映画の世界に浸れるし、本当に何度も救われています。

私自身、役者という仕事がすごく好きです。自分から「これをしたい!」と思えるものに出会えたのは初めて。すごくコンプレックスにまみれた自分が、役をもらって現場に立つと少し自信が持てる気がして。演じる際には、カメラの前でどれだけかっこつけずにいられるかが大切だと思っています。もちろん、きれいに映してもらったカットを見るとめちゃくちゃ嬉しい気持ちになります。でも、かっこ悪くて泥臭い姿を切り取ってもらえた時のほうが喜びが大きいんです。一度、出演したドラマを観た母親に「あんたの泣き顔、ブスでおもしろい」って言われたことがあって、自分で見返したら「こんな顔が世に出たの!?」って思うほどブスだったんです(笑)。でも、実際そのドラマでは、その芝居が一番褒められたんです。その経験があって、人の心がざわつく瞬間だったり、すべての表情や感情が崩れてしまって、かっこよくいられなくなる瞬間だったりが切り取られているほうが、観ている方の心に届くのかもしれないなと思うようになりました。

今までは、芝居が好きだけれど自分の思うような演技ができなくて、緊張や苦しさ、悔しさが伴うことのほうが多かったのですが、今年はすごく楽しくやれている気がします。監督やスタッフとたくさん話すことができるようになって、作品に“参加”しているのではなく、“一緒に作っている”感覚になれたことが大きいと思います。『佐々木、イン、マイマイン』の現場もそうでしたが、組の一員にきちんとなれている感じがすると、とても嬉しいです。

今年の夏に撮影していたドラマの現場では芝居中にセリフということを意識せず、勝手に自分の言葉のように口からあふれてくる、スポーツ選手でいうところの“ゾーン”に入ったような感覚を体験できました。この感覚って時々あるんですけど、どれだけ思い入れを持ってその役を演じていてもなかなか経験できない感覚で。完全に身体に役も感情も溶け込んで、目の前にいる役者と空気感、呼吸すらキャッチボールし合えて、しかもお互いに「今やばくなかった!?」とその思いを共有できてて、大興奮で。こういうことがずっとできるようになれたら本当に理想だなと思うし、そのためにもっと頑張らなきゃなと思います。

そういったことが全編にわたって起きているんじゃないかと、観ていて思ったのが『宮本から君へ』と『百円の恋』の共通点。この両作品は、人間らしさが鮮度の高すぎる芝居で観ることができるし、泣いてるのか笑ってるのかわからない、観る日の観客側の感情によって、全く別の感情に見えてしまうような生々しさが感じられる。人間って本当はそうだと思うんです。記号のように、その時の感情が相手に伝わることなんてない。それがカメラやスクリーンを超えて、心にグサグサと突き刺って焼きつく。映像作品は言語化できなくていいと思うし、だから映像にしてるんだと思うし、枠にはまらない、そんな素敵な役者に私もいつかなりたいと、思わせてくれる大切な作品です。

Photography Ryu Maeda
Edit Kei Watabe

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#映画連載 古川琴音 混沌の今。やっぱり人間っていいなと思わせてくれた『君の名前で僕を呼んで』 https://tokion.jp/2020/10/31/series-of-movie-kotone-furukawa/ Sat, 31 Oct 2020 06:00:18 +0000 https://tokion.jp/?p=9340 世界中で起こる痛ましい出来事を見るたびに人に対して疑問を感じることもあったと話す古川琴音。そんな彼女を救った1本の映画とは。

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。

コロナ禍の自粛中に、世界中で起こったさまざまな動きがニュースで報じられるたび心を痛めたと話す俳優・古川琴音。そんなニュースを目にするたびに、人間の浅ましさや卑しさを感じとても落ち込んだ。そんな古川を救ったのが、映画『君の名前で僕を呼んで』だった。美しい映像と、美しい初恋…。そしてこんな素晴らしい作品を作ることができる人間がいることに、喜びを見出すことができた。

フリル付カットソー¥13,800、オーバーオール¥30,800/共にHOLIDAY(ホリデイ)03-6805-1273

2018年の公開時に映画館で観たのですが、コロナ自粛中に観返して改めて感動したので今回ピックアップしました。このコロナ禍、ただでさえ落ち込んでいたのに政治、環境問題、人権問題など、世界中で起こったいろいろな出来事をニュースで目にして、さらに気持ちが沈んでしまって。極端な言い方をすると、“人間ってなんて欲深い生き物なんだろう”って感じてしまって。私は役者で、人間を表現することが仕事なのに、人間が嫌いになりそう…。こんな仕事を続けられるの? 続けていくべきなの? いや、もっとやるべきことが他にあるんじゃないか? とまで考えるようになっていました。

そんな時に「あ、あの映画って本当にきれいだったな」と思い出して、イタリアの街並みを観て癒されたい、旅する感覚を再び楽しみたいという気持ちだけで再び『君の名前で僕を呼んで』を自宅で観たんです。そして期待を裏切らず、美しい街並みや色彩に思い切り癒されることができたんですが、実はもう1つ得るものがありました。それは「やっぱり人間っていいな」ってこと(笑)。1度目に観た時には気付かなかった、主人公エリオの1つの初恋を観客も実感できるような鮮明な描かれ方が見えてきて。1人の人間が生活をする中で、理由もなく相手に惹かれて恋に落ちる姿を見て、初恋っていいなって純粋に思えたんです。「人間て嫌な生き物だな」と思って役者の仕事に就いていることにさえ疑問を感じてすらいたのに、人間の一瞬のきらめきや感情をこうして美しい作品に昇華できる仕事を見せつけられると、人間ってやっぱり素晴らしいなと感じることができて、また役者として生きることに熱意が湧いてきたんです。

『君の名前で僕を呼んで』
Blu-ray&DVD好評発売中
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
セル販売元:ハピネット
価格:¥3,900
© Frenesy , La Cinefacture

エリオが初恋に落ちる姿は、全身で愛情表現をする子猫のように見えてとても可愛らしくって。ひと夏を過ごす避暑地のエリオの自宅にオリバーが居候にやってきて2人が出会って恋をする。たったそれだけの物語なのですが、夏の気だるい暑さもオリバーが来る前と来た後とではエリオにとって全く違うものになって。大げさに描いているわけではないのに、一気に日差しが魅惑的に変化するのを感じられたり、2人が触れ合っている体温や皮膚の感じも画面を通して想像できたりする。そこまで画面の中に観客を取り込める作品ってただただすごいなと感動しました。

ティモシー・シャラメの演技に魅せられる

エリオ演じるティモシー・シャラメもとても素晴らしかった。私自身、役を演じる時に “なぞろうとしないこと”を意識していて。相手の反応に対してリアクションで返すぐらい自然に振る舞うことが一番大切で、自分で気持ちや次に取る行動を準備しないようにしているんですが、撮られている環境ってカメラもあるし人と人との距離も近いから、そうしたいと思ってもなかなかできない時もあります。でもこの劇中でティモシー・シャラメはその場で、自意識を取り払って、その場で感じるだけの演技をしているように見えて、本当にすごいな…って思いました。相手が発した言葉や仕草に対して、エリオ自身が思ったことを表現する速度がものすごく早いからすごく自然で、まるで演技をしていないかのよう。

演技ってある程度、相手の反応や自分が発する言葉や行動がプロット通りの、いわゆる予測がついた中で行われるものになりがち。でも自分が脚本を読んで、準備してきたことをなぞるだけの演技だと、自分の想像の範囲内の演技しかできないし、その範囲内をやろうとして無駄な力みが出てしまう。そうなると、“演技しているな”ってわかってしまうから、ティモシー・シャラメがそうするように素直なリアクションを演技として積み重ねたいんだけれど、怖さもあります。理想的なのは、脚本を読んだり、できる限りの役についての準備をして、いざ演技をするとなったら一度全部それを取り払って、自分が思ってもみなかった方向に状況がそれたとしても、それたことを受け入れてまた新しい流れを作ることができる演技。それは私が理想とするものなのですが、ティモシー・シャラメは全部自然にそれができている。それって本当にすごいなと感動させられました。

また、美しい初恋のきらめきに感動した自分にもすごく喜びを感じました。この映画を通して全身を使って、無我夢中で人を愛することが人間にはできるんだってことを知ったし、こんな素晴らしいものを映像として作ることができる人間は尊いとすら感じました。それに気付ける自分で良かったし、やっぱり結果、人間っていいなって(笑)。生きていると言葉にできない感情や行動や事柄ってたくさんあるものですが、それを無理やり言語化するわけではなく、映像の中ですべての要素を使って丁寧に描かれている気がしてとても心に残りました。

振り返ってみると、私は異国情緒あふれる世界観の中で、物語だけではなくムードを楽しむ映画が好きなようです。この世界に入るきっかけになったのも『海辺の生と死』という映画で。この作品がとてもきれいだなと思って調べてみたら、製作会社と主演の満島ひかりさんの所属事務所が同じユマニテで。こんな作品に出たいと思って、事務所のオーディションに応募した過去があって今があります。中・高・大学と演劇部に入っていて演劇漬けの毎日。正直、映画は役者になるまであまり観ていなかったのですが、役者になってからいろいろと観るようになって。それからは映画からさまざまな人の感情や体験など自分が知らなかったことを吸収して、それが自分の演技の糧になっています。これからも映画はたくさん観ると思いますが、『君の名前で僕を呼んで』は私の人生の大切な作品です。

Photography Kosuke Matsuki
Hair&Makeup Ayane Kutsumi
Edit Kei Watabe

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#映画連載 岡本大陸「ダイリク」デザイナー コレクションを代弁するアメリカン・ニューシネマの3本から学ぶ服飾術 https://tokion.jp/2020/09/13/series-of-movie-dairiku-okamoto/ Sun, 13 Sep 2020 06:00:25 +0000 https://tokion.jp/?p=4992 1960〜70年代に起こった反戦、反体制的な若者の心情を綴ったアメリカン・ニューシネマが若手ファッションデザイナーに与えた影響とは?

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。“消費”するだけでなく、“吸収”し糧となるような作品を紹介していく。

今回登場するのは「ダイリク」のデザイナー、岡本大陸。バンタンデザイン研究所在学中に自身のブランドをスタートさせ、2016年のアジア ファッション コレクション(AFC)ではグランプリを受賞し、2017年2月のニューヨーク・ファッション・ウィークでランウェイデビューを果たした。東京を代表する若手デザイナーの1人で、毎シーズン自身の“ルーツやストーリーを感じさせる”テーマのもとコレクションを発表している。中でも映画は「ダイリク」を語る上では欠かせない着想源の1つ。今回は特にお気に入りのジャンルというアメリカン・ニューシネマから3作品を紹介する。1960年代後半から1970年代のアメリカの時代精神を代弁する作品群と当時の若者たちが放った鮮烈なメッセージは、半世紀を経て今の若手ファッションデザイナーにどんな影響を与えたのか?

映画にのめり込んだきっかけとアメリカン・ニューシネマとの出合い

小学生の頃、毎週末に父とレンタルビデオショップで5作1000円みたいなサービスを利用して映画のビデオを借りていたんですけれども、そのうち1作は、僕の好きなアニメとか人気のキャラクターもので、残りの4作は父が好きなスティーブ・マックイーンやブルース・リーの主演作だったり戦争映画でした。地元は奈良ですが、大阪の富田林市にある祖母の家で鑑賞していたんです。他に観るものがなくなると自然と父が選んだ作品にも触れるようになっていきました。

そういった経験もあって、高校3年から専門学校生になりたての頃は映画からインスピレーションを得ようと、新旧限らず興味のある作品はリサーチとして片っ端から観ていたし、その中で理不尽だったり、思い切り余白を残したり、観終わってから考えさせられるようなエンディングに惹かれて、特に古い映画にのめり込んだわけです。

『カッコーの巣の上で』

『カッコーの巣の上で』
Blu-ray ¥2,381/DVD ¥1,429 
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

© 1975 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

言葉にならない感動を受けたエンディングの脱走シーン

高校3年の時に観た『カッコーの巣の上で』は、複雑な感情が入り交じったような例えようのない感動を受けました。特に掃除係の大男、チーフ(ウィル・サンプソン)がジャック・ニコルソン演じるマクマーフィーを窒息死させた後、「持ち上げた者には奇跡が起きる」という彼の言葉を信じて、水飲み台を持ち上げて窓を破り、精神病院を脱走するエンディングのシーンは言葉にならなかったですね。当時はハッピーエンド以外のエンディングが強烈に刷り込まれましたが、あとになって観直すと、物語に当時の社会問題に対するアンチテーゼだったり強烈な皮肉が込められていることも知りました。

好きな場面は、マクマーフィーが罰として電気ショック療法を受けさせられる順番を待つ間、耳が聞こえなくて、言葉も話せないはずの掃除係のチーフにガムを渡した時に「ありがとう」と返されるシーン。ネイティブ・アメリカンの血を引いているチーフが、マクマーフィーと同じように自我を殺して生きていることがわかるんです。病棟という狭いコミュニティーを牛耳っているのがラチェッド婦長(ルイーズ・フレッチャー)で薬とか規則で患者を縛っていて、この構図も他人に言えない秘密を互いに解放したというか、共有してわかりあうような気持ちも、今の時代にそのまま置き換えられるし、重なる部分が多い。当時から今まで共通している問題も各シーンに込められています。60年前の問題を未だに引きずっている世界とはなんなのかとさえ思うほどです。

実在したロボトミー手術も精神疾患の治療が目的ではありましたが、結局は廃人にされて心を停止させられる、ある種誰かに操作されるためのような印象も受けました。病棟という1つのコミュニティーが社会の縮図でもあって、今観直すと、当時の社会情勢を反映しているので、コロナ禍で聞くあらゆるネガティブなこととも重なりました。

『イージー・ライダー』

『イージー★ライダー』発売中 
Blu-ray ¥2,381/DVD ¥1,410 
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 

© 1969, renewed 1997 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. 

ファッション好きのメンズは誰もが通る道

ファッションを学ぶためにバイカースタイルというキーワードから映画を探していた時に出合った作品です。完全にファッションを経由して観た映画ですけど、今はそれも踏まえつつ、もう少し広義で映画に込められた意味などを考えるようになりました。仮にコレクションを作る場合、創作の理由を深く考察するきっかけになりやすい作品だともいえます。

『イージー・ライダー』は特にメンズファッションに捉えられやすい。ストーリーというよりロードムービー特有のワイルドさ、男臭さなど、ワイアット(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)のスタイルに影響を受けた人も多いでしょう。映画自体はツーリングを見ている感覚で、冒頭の麻薬取引の描写にあまり意味がないですし、モーテルで露骨に宿泊を断られて焚き火を囲んで野宿するシーンも絵的にかっこいいという印象です。その次のシーンでパンクしたタイヤを修理するために、カウボーイ風の農家の小屋でバイクをいじっているんですが、隣では馬の蹄の手入れをしているんですね。昔と今(当時)を象徴するアメリカを対比している表現は気に入っています。ジャック・ニコルソン演じる弁護士のジョージ・ハンセンと出会ってからストーリーが動き出すのですが、衝撃のエンディングまでは出演者のスタイルに目がいっていました。

ただ、理不尽としか言いようのないエンディング、中指を立てただけで銃撃されるシーンは未だになぜ? という感情しか生まれてきません。ただ、観直しても理解できない場面も多いですから、僕にとっては難しい分類の作品なんです。歳を取るにつれて理解が深まっていく感覚もあるので、定期的に観続けようと思います。ちなみにステッペンウルフの「Bone to Be Wild」は車のCMの印象しかなかったです。これが元ネタなのかと答え合わせをしているような感覚でした。

『卒業』

『卒業』
Blu-ray ¥2,000
発売・販売元:株式会社 KADOKAWA

ダスティン・ホフマンのアイビールックの美学

アイビールックをテーマにしたコレクションを作るために、ダスティン・ホフマンのスタイルのリサーチとして出合った作品で、最初観た時は正直眠くなりました(笑)。ただ、主人公と同じ年頃でもあったので、親からの過剰な期待に反発する衝動や将来への漠然とした悩みなど、思春期特有の葛藤や不安は理解できて、好きな世界観ではあったので、何度か観返すうちにどっぷりハマっていきました。

まず、3作品中、『卒業』は一番理解しやすいストーリーではないでしょうか。今では、結婚式に花嫁を奪い去るというシーンは映画やドラマ、コメディに限らず何度も繰り返し表現されています。でも、普通に考えて百戦錬磨の人妻の誘惑に負けて、アバンチュールを繰り返すも、ふと彼女の娘とデートしたことから恋に落ちる。嫉妬した母親に恋路を邪魔されて別れた挙げ句、他の男との結婚式当日に娘を奪い去るというストーリーは斬新で、非現実的です。

中でも印象的なのはやっぱりエンディング。花嫁を略奪しバスに乗り込んでから2人がキョロキョロしだし、次第に表情が曇っていくシーン。愛する人と結ばれたにもかかわらず、先々を案じた時にこぼれた暗い表情のまま物語は終わります。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、2人の関係性が歪むくらい、その先をイメージさせる余韻がありますよね。完結型ではなく、投げかけ型の作品が好きなんですが、『卒業』も笑顔のままエンディングを迎えていたら印象に残らなかったと思います。テレビドラマなどでは何年後という描写も多いですが、個人的にはそうではなくプツッと切れているくらいの終わり方にそそられます。

ちなみに、作中のダスティン・ホフマンのナチュラルなテーラードジャケットとボタンダウンシャツにネクタイを合わせた、「これぞアイビールック!」というスタイリングとラストシーンのアノラックとポロシャツは、休日のお父さんを想像できる親近感が秀逸です。あと、ポスターにもなっているミセス・ロビンソン(アン・バンクロフト)の足の向こうにベンジャミン(ダスティン・ホフマン)が立っている写真も好きですね。もし、その写真がプリントされているカットソーがあればすぐにでもほしい。

アメリカン・ニューシネマの思想を軽やかにファッションに落とし込む

これまでのコレクションのテーマは映画に沿うものが多かったですが、洋服そのものから強烈にメッセージするのではなく、軽やかに表現してきたつもりです。前シーズン、『タクシードライバー』をテーマに据えた理由は単純にトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)のスタイルを見てほしいという思いから。反戦、反体制といった重いテーマで何かを投げかけるのではなく、僕が作ったファッションやスタイルが映画を観るきっかけになってほしいだけなんです。すでにその作品を観た人にとっても観直すきっかけになるといい。インスタグラムのDMで映画を観たというコメントをもらうとうれしくなります。僕が映画によって考え方が変わったように、ファッションがその映画に触れるきっかけになることが理想です。

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#映画連載 佐久間宣行 世界って残酷。でもだからこそかけがえのないものに出会えることを教えてくれる映画作品4本 後編 https://tokion.jp/2020/08/27/series-of-movie-nobuyuki-sakuma-2/ Thu, 27 Aug 2020 03:31:40 +0000 https://tokion.jp/?p=3815 テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行が、自身の思い出とともにオススメ映画を紹介する。

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テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行には、「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」を4本挙げてもらった。新旧名作は、多感で不安定な時期の人にとっては、きっと人生の指針の1つとなる。もちろんその時期を過ぎた人にとっても、過去を懐かしみ、新たな考えを持つ良いきっかけとなるはずだ。

前編では『そうして私たちはプールに金魚を、』『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』を紹介いただいたが、今回はどんな作品が登場するのか。

『ガタカ』発売中  英題:GATTACA
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (Sony Pictures Entertainment Japan)
©1997 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

3本目に挙げるのは、『ガタカ』です。遺伝子至上主義の近未来を描いたもので、自然出産によって生まれた“不適格者”の青年ヴィンセント(イーサン・ホーク)が、遺伝子操作されたエリート“適格者”しかなれない宇宙飛行士を目指す話なんですけれど、これを僕はディストピアものではなく、希望の物語として紹介したい。運命が決定づけられている世界の話だけれど、ヴィンセントは手持ちのカードで精一杯抵抗する。知恵と勇気で自分の人生を切り開いていく物語です。

僕はこの作品をギリギリ大学生の頃、20代で観ることができた。その時の僕は、就職活動するのかしないのか、と揺れ動いている時期で。自分にできることや、できないことをはっきり認知して、「自分って全然天才じゃないな〜」なんて切ない気持ちを持っていた頃にこれを観て、とても勇気づけられたんです。

「もともとルックスが良い人はいるし、足がめちゃくちゃ速い人もいる。そういう子達が周りにいる中で、自分は天才ではないからってやりたいことを諦めるのか? でもそうじゃないだろう」って。自分のやりたいことがあった時にどうしたら良いのか。その回答を、この映画に見出したんです。今の10代が観ても、救われる部分が大いにあるはずです。僕は今の10代って、情報量が多すぎて、人間を信用して生きていない部分が大きいと思っていて。僕が10代の頃って、クラスの40人ぐらいと12年間付き合う人生で、しかもインターネットもないからその40人との世界が人生のすべてだったわけです。自分に似た人間が世界にいるだなんてことも思っていないから、自分がオタクだったことをひた隠しにして、自分は変わった人間なんだって思わざるを得ない人生だった。でも、今の子達はSNSのおかげで、自分に似た人が世界中にいることを早い段階から知っている。その一方で、自分が天才ではないこと、自分のルックスが全世界において何番目ぐらいなのかとか、自分がつぶやいても“いいね”がこれくらいしかつかない…とか、自分の世界からの評価みたいなものも圧倒的に早い段階から知っている。だから手持ちのカードを知ってしまっている中で生きていかなくてはいけないつらさがあるんですね。まさに『ガタカ』と一緒で。

でもこの映画の素晴らしいところは、たとえ産み落とされたのがどんな場所だとしても、人間は夢や希望を抱くもので、それって当然だよなって気付かせてくれるところ。この映画には、若かりし頃のジュード・ロウも出演しているんですが、もし僕が天才だったら、彼が演じる“適格者”のジェロームに共感したかもしれない。でも、僕は恵まれた側の人間じゃなかったからヴィンセントの気持ちで観ていて。きっと、今の10代も同じ視点で観ることができるんじゃないかなと思います。

発売日:2020年7月3日(金)
2015年/韓国/品番:OED-10666/価格:3,800円(税抜)
発売元:マンシーズエンターテインメント/販売元:中央映画貿易

そして4本目は『わたしたち』。韓国の映画です。これは、韓国の小学生同士の日常を描いた作品なんですが、とにかくすごい。何がすごいって、自分の小学生時代のことを鮮明に思い出させる映画なんです。小学生の女の子達が主人公で、仲間外れやらいじめやら、クラス内で起こる日常を大人の目線を徹底的に外して、子どもの目線のみで描いている。子どもの世界から大人を描くとこうなるっていうことをきちんと見せているし、子どもは子ども同士のコミュニティの中だけで閉塞感がありながら必死に生きていることを見せつけてくる。

子ども達のすさまじい演技と表情を見ていると、「わ、小学生の時ってこうだったわ」とか一気に思い出すんです(笑)。こちらは大人の目線で小学生の頃を回顧するから、微笑ましい思い出もたくさん脳裏に浮かぶんだけれど、一方で「もうやっべ。本当に大変だったなこの頃」っていうことも思い出してしまう。小学生の時なんてクラスと家がすべてだったから、1人でも嫌いな奴がクラスにいたら、「あー最悪だ、もう世界終わった」と思って生きていたなって。一言で言うなれば、コミュニティで生きることの大変さって、ここから始まるから、もう人間って大変だなっていう映画ですこれは(笑)。

その中で、『ガタカ』や『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』と似ているのは、世界が優しくないっていう残酷な部分をちゃんと描いているから、そこで不意に訪れる友情とかがとんでもない輝きを見せるところ。キラキラ映画の中の友情って、やっぱりキラキラ映画の中の話だから心に響いてこないけど、この作品は、世界は残酷だという大前提のもと主人公の仲の機微を捉えていて、そこに本当に感動してしまう。

なんか大人になって、急に世界に絶望する人がいるじゃないですか。会社に入って「なんなんですか、あの人!」と言い出す人とか。そういう人って、世界がめちゃくちゃ優しくて、自分が皆に理解されると勘違いしている。そういう人に僕は「え? 小学生の頃から大変じゃなかった? 忘れたの?」って言いたくなる。「自分を100%理解してほしい」とかそういうことを簡単に言う人には、この4本を観ろって伝えたい。特に『ガタカ』をね。

僕は映画をほぼ毎日1本観ていて、これは25年ほど続いている習慣なんですが、映画を観続ける理由は映画より贅沢な娯楽って他にはないと思うからなんです。何年もかけて何百もの人が関わって作り上げたものを約2時間で体験できるのは、とても贅沢ですよね。

あと間違いなく、10代から20代前半ぐらいまでに摂取したカルチャーで自分の人生の柔軟さが変わると思っていて。価値観が決まるとまでは言わないですけど、その時期にいろいろなものを入れられたかどうかで、自分の中に受け入れられる幅が変わる。しなやかさが変わってくるというか。やっぱりその間に偏ったものしか触れていないとか、自分が正しいと思うものとしか出会っていない人は、自分と違う価値観と向き合った時にそれを認められなかったり、自分が平気なものでも世界にはそれがつらくて耐えられない人がいることに気付けなったりすると思うんです。30代でも考えを変えることができる人もいますが、そういう人はやっぱり脳がゆるゆるの時期にいろいろなものを摂取していたりするんですよね……。だから時間がある10代のうちに、いろいろな映画や創作物でさまざまな価値観と触れ合っておくことをおすすめします。そうするとあとの人生がもっと生きやすくなるのではないでしょうか。いろいろな意味でね。

Edit Kei Watabe

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#映画連載 佐久間宣行 世界って残酷。でもだからこそかけがえのないものに出会えることを教えてくれる映画作品4本 前編 https://tokion.jp/2020/08/08/series-of-movie-nobuyuki-sakuma/ Sat, 08 Aug 2020 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=2989 テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行が選ぶ、多感な「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」とは?

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。“消費”するだけでなく、“吸収”し、糧となるような作品を掲載していく。

今回登場するのは、若い頃から映画や演劇などに親しむテレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行。多忙を極めながらも、観たい作品をカレンダー上で管理してほぼ毎日のように映画を観るという佐久間に、「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」をテーマに4本選んでもらった。傷つきやすく、多感な時期に観ていたら、心の支えになっていたかもしれないし、違う人生を歩むきっかけになったかもしれない作品を、前後編に分けて2本ずつ紹介する。

『そうして私たちはプールに金魚を、』は、2010年代前半の埼玉県狭山市に生きる女子中学生の姿を描いた、実話を元にした作品なんですけれど、地方の閉塞感のようなものって、どの場所、どの時代でも変わらずあるものなんだなと思って選んだ作品です。僕自身は10代当時、閉塞感を持って生きていることなんて気付いてはいなかったんですけどね。でも今、大人になって振り返ってみると、作品に共感できることが多くて心に残ったんです。

僕が10代を過ごしたのは1980年代後半から1990年代前半。場所は福島県いわき市。インターネットもない時代だし、文化格差がものすごくある場所でした。というのも、僕が住んでいた海沿いのエリアでは、ニッポン放送とかいわゆるキー局のラジオを聴ことができたんですね。そのおかげで東京というか、最先端のカルチャーに触れることができた。例えば、「士郎正宗さんって人が『攻殻機動隊』『アップルシード』っていうすごい漫画を描いているらしい」だとか、演劇では「第三舞台とか、三谷幸喜っていうすごい人が出てきたらしい」だとか。そういう情報が深夜ラジオを通して耳に入ってきたんです。でも、そんなことを知っているのって、クラスの2〜3割ぐらい。電気グルーヴがインストでアルバム出すなんて言ってもほとんどの人は知らなくて、「は? 電気グルーヴ? インスト? 何それ?」って感じ(笑)。

そんな中で、どうやったら最先端のアニメやら舞台やらを観ることができるんだろう……って、ずっと憧れているような10代を僕は過ごしていました。

でね、当時のいわき市は基本的にヤンキー文化だったから、ちょっとでも変わったことをすると目をつけられてしまうんですよ。特に僕のような180cmも身長があって、ヤンキーともそこそこうまくやってる人間の鞄から『アニメージュ』が出てきたら「え、佐久間ってひょっとしてオタク?」って、いじめられちゃったりするわけです。もちろん、それぞれのジャンルで気の合う仲間はいましたけれど、総合的にカルチャーに興味のある友達は1人もいませんでした。アニメージュなんてエロ本の如く、「絶対に見つかってはならない」と思って持ち歩いていたし、めちゃめちゃメインカルチャーを好きなふりをしたりとか(笑)。

当時はそんな生き方に息苦しさや寂しさは全く感じず、むしろそれが普通のことだと思っていたんですけど、大学入学に合わせて上京した時、初めて自分が寂しさを抱えていたことに気付いたんです。今でも友人なんですけれど、東京で初めて仲良くなった人が相当なオタクだったんです。実家の金物屋の2階にある彼の部屋はSFや演劇関係の本であふれていて、床が抜けそうになってるほどで。そんな同じ趣味を持つやつと初めて出会って「あ、俺寂しかったんだな10代」って。

でもね、今、当時の自分に言いたいのは「絶対その趣味やめんなよ」ってこと。『そうして私たちはプールに金魚を、』の彼女達もそうですけれど、自分が興味のあることや本心を誰かに話しても興味を持ってもらえないことって、誰にでもあるわけです。それこそ言ったらいじめられちゃうかもしれない……とかね。僕自身も「なんだ、誰も観てないし、誰もおもしろいって思ってないじゃん」と、いっときは自分の趣味をやめたこともあったけれど、それでもずっと好きだって気持ちを見捨てずに触れ続けてきたカルチャーで得たもの=価値観が、今ではものすごい宝物になっている。その事実は、10代の自分に伝えてあげたいですよね。

『そうして私たちはプールに金魚を、』は、10代の頃の僕が観ても共感できる作品だと思ったりもするんですけれど、『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから(以下、ハーフ・オブ・イット)』は価値観が最先端すぎて、10代の僕が果たして正しく理解できたかは疑問です。でも「世界で自分のことを理解してくれる人なんていないんだ」っていうわりと絶望的なところから始まる物語には自分と重なるところがありますし、10代の時にこの作品を観たのなら価値観がずいぶん変わるだろうなと思って選びました。

『ハーフ・オブ・イット』はラブストーリー・青春映画ってここまできたんだなっていう衝撃的な作品でした。ベースになっているのが『シラノ・ド・ベルジュラック』だったり、監督の実話でもあるんですけれど、物語が本当にみずみずしくって繊細で単純じゃなくって……。セリフの1つひとつもとても美しく、青春映画でここまでさまざまな価値観を描くことができるんだってすごく感動しました。

この作品は、自分を100%理解してくれる人なんていないし、いたらそれは奇跡なんだよということをちゃんと伝えてくれる。それって、「この世界って残酷なんですよ」って伝えていることと一緒だと思うんです。みんなが優しくて、あなたのことを両手を広げて待ってますなんていうことを描く映画って嘘じゃないですか。世界ではそんなことあり得ない。現実の残酷さをちゃんと描きながら、だからこそかけがえのないものがあるんだよということを伝えてくれているんですよね。残酷な世界の中で生きるからこそ、不意に訪れる友情がとんでもない輝きを見せる。心を打たれた理由は、ここにあると思います。今回チョイスした4本の中では『ハーフ・オブ・イット』が一番好き。

ちなみに、この2作品とも女性が主人公なんですが、特に意識して選んだわけではありません。でも女性は生きづらさだったり、どうやって生きていこうかっていうことに気付くのが早いですよね。10代の早い段階で自意識の葛藤がある。だから心震わされる10代をテーマにした映画は女性が主人公であることが多いんじゃないですかね。男ってこの時期は何も考えてなかったりするじゃないですか(笑)。

Edit Kei Watabe

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#映画連載 モーリー・ロバートソン 今の世界を映す『ウエストワールド』を見て覚醒せよ https://tokion.jp/2020/07/31/series-of-movie/ Fri, 31 Jul 2020 04:00:36 +0000 https://tokion.jp/?p=1354 コロナ禍で感じる喜怒哀楽はすべてこの作品に詰まっていると話すモーリー・ロバートソンが、この作品を通して伝えたいこととは?

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映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。

記念すべき第1回目は、タレントのモーリー・ロバートソンが登場。メディアを中心にコメンテーター、DJ、ミュージシャンのほか、国際ジャーナリストとしても活躍する。政治・経済からサブカルチャーまで、いくつもの引き出しを持つ彼がコロナ禍の今だからこそ、見るべき映画を紹介!

重すぎないSF作品が時を経て重厚な物語へと進化 この世界そのものを描く、恐ろしい作品

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言による自粛期間中、最も感情を揺さぶられた作品が『ウエストワールド』です。1973年に公開された映画版ではなく、HBO(米・ケーブルテレビ放送局)がリメイクしてドラマ化した作品に今ハマりにハマって。その理由は、世界情勢や芸能界など、国内外で起こっていることが、すべてこの作品にリンクしていたから。シーズン3まで公開されているのですが、もうすごすぎて自粛期間中に3回も観てしまいましたよ(笑)。

1973年の映画版は、リアルタイムで両親と劇場で観ました。当時僕はちょうど10歳。砂漠に建設された「デロス」と呼ばれる巨大遊園地が舞台の話で、まるで人間のような姿のアンドロイド=「ホスト」が、高額の入園料を払ってデロスを訪れる富裕層の人間=「ゲスト」を迎えるんですね。デロスではゲスト達が、アンドロイドであるホストを現実世界で抑制された禁断の欲望を満たすとばかりに殺害したり、レイプしたりとやりたい放題。ホストは傷つけられるたびに修理され記憶を消されてテーマパークに戻り、何事もなかったかのように再びシステム通りに生活を送ります。しかし、ある時、突然アンドロイド達が制御不能になり暴走し始める……というように、ストーリーは単純明快。子どもにもわかりやすい一方で、当時はインターネットなんて存在しない時代。だから今観てみると、アンドロイドも非常にお粗末な弱点がある、ロボットの域を出ない仕様だったり、また、エコロジーや格差、人種の問題に触れていないように見えるものですから、重すぎないSF作品に仕上がっているんです。

でも、HBOがリメイクした同作は、そんな単純さや軽さは全くなし。あちこちに社会に対するメッセージが込められていて、非常に緻密で複雑で、心揺さぶられ考えさせられる作品に進化しました。3回も観ているから、至るところにちりばめられたメッセージをすべてキャッチできましたね。しかも、この作品を観終わった時は、くしくもアメリカのミネアポリスでジョージ・フロイドさんが殺害され大規模なデモが起きた時でした。他にも人種問題、トランプ政権、価値観が相容れない者同士の対立……もう、その出来事のすべてがこの作品とシンクロしちゃったので、とても不思議な縁を感じてしまい、ますますハマってしまって。みなさんにもぜひ観てもらいたいと思って今回ピックアップしました。

“自由意思で生きている”なんて全部うそ この世界に公平なルールは存在しない

HBOリメイク版で描かれる世界は、今のグローバル社会そのもの。これは、ものすごい発見でした。何が同じか。それは、どちらも一部のあらかじめ選ばれた人の幸せのために、果てしなく“つけ”を末端に押し付け、末端にいくほどそれが極端になっていく不公平な世の中であること。

例えば、アメリカと中国に置き換えると非常にうなずける部分が多い。まずアメリカ。トランプ政権下では新型コロナウイルスによって黒人が白人の倍死んでいる事実があります。また黒人が白人警官に意味もなく殺されている。次に中国はどうでしょう。香港に中国が介入してきて香港人の人権が中国人と同じ平均値にまで下げられ、さらに警察がオールマイティで何をやっても良い国になりつつある。これだけ見ても、世の中は全然公平なルールでなんて成り立っていないってわかりますよね?

端的にいうと、自由意思を働かせた人間の行動によって、社会の今までの“普通”が崩れてしまったら、劇中でいうところの“設定されたシステム”が脅かされることがあったら、世界はどうなるでしょう? 意思を持ったホストは即氷漬けにされてしまうんですが、これって非常に今のアメリカや中国っぽくないですか? そんな厳しい世界の中でも体制に反対し、頑張っている人はいるけれど、結局迷路の中を走らされているハツカネズミのようなもの。本人は頑張れば世界のルールに応じて報われると信じているけれど、プログラミングされた社会ではそんなの無理な話。めちゃくちゃな世界ですよね。でも、それって現実世界そのものにも見える。恐ろしいけれどそれが真実であり、常識なんです。

覚醒せよ! 反逆者であれ!
自分で考えてこそ“本質”が見える

この物語の主人公はホストの1人「ドロレス」という女性なのですが、他のホストと同じく、デロス(運営側)の作った虚構の世界を維持するために、都合の悪いことが見えないようにプログラムされています。でも、ある出来事によって覚醒してしまう。都合の悪いものも、いいものもすべてを認知してしまい、また、自我が芽生えてしまった。つまりドロレスは運営側に都合のいい、もしくはこの世界の秩序を守る“幸せになっていい”人物ではなくなってしまったんですね。自分の意思で自分の生活を変えていこうと人間相手に反乱を起こす、真の反逆者へと進化したんです。

この出来事は僕にはある種、このコロナ禍における希望のストーリーに映りました。「みんな、ドロレスのように生きたらいいのに」って大きなヒントを得たような。残念なことに、コロナ禍では、本当にどうでもいいことでも他人に対するやっかみや攻撃がとても増えたと感じていて。それって、今までのサステナブルではない生活が新型コロナによって露呈して、みんなが一気に不安になったから。人間って、アンドロイドの設計と同じく都合の悪いことから目を背ける生き物なんですが、新型コロナによって次々に不都合なことが否が応にも見えてきてしまった。でも、マニュアルや想像力がコロナ以前のまま取り残されている人は「自分だけは大丈夫だ」という傲慢さから、何かうまくいかなければクレームをつけて人のせいにして安心している。それが同調圧力に似た力によって、拡散してどんどん広がっていった。

その現実を目の当たりにして思ったんです。「自分で考えることがそんなに嫌なの?」って。他人を攻撃することは簡単にできるけれど、心に生まれた攻撃的なエネルギーは “自分を封じ込めている今までの常識”から解放する動力に変換すればいい。それができない人は「どうぞ氷漬けになってください全員」と(笑)。要は「覚醒せよ」ってこと。そして、自分を覚醒させるのは自分しかいないということを理解すること。それを理解できた人は、ものすごく強いと思います。この世界の見えない檻を作っているのは誰か、本当に自分が良いと思う社会はどういう姿か……。うそだらけの社会、特権階級に有利になるように作られた社会に評価されることよりも、“本質”を大切にするドロレスのように、自分の頭で考え、リスクを抱えながら乗り越えていくことが、真の人間の姿なんだと思うんですよね。僕自身、自分をドロレスそのものだと思っていますよ(笑)。いつだって、反逆者でいるのが、僕ですからね。

Photography Teppei Hoshida
Edit Kei Watabe

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