メイクアップアーティストのユカハイラックが表現する“日常にある東京の違和感”

メイクアップアーティストのユカハイラックが個展「52 days visual diary」を開催した。本展はユカハイラックが4月6日〜5月27日の自粛期間中にInstagramで毎日公開していたメイク日記がベースとなっている。なぜメイク日記をつけることになったのか。また一見奇抜ともいえるメイクにはどんな想いが込められているのか。

メイクアップアーティストのユカハイラック

——今回の個展「52 days visual diary」は、自身のInstagramで公開していたメイク日記がベースになっていますが、そもそもなぜメイク日記をつけ始めたのですか?

ユカハイラック(以下、ユカ):新型コロナによって4月上旬からすべての仕事がストップしたことが一番のきっかけでした。当時、アシスタントのメユちゃんがついたばかりのタイミングだったのと、彼女がちょうど私の隣のマンションに住んでいたこともあり、最初はメイク練習のつもりで始めました。それでやっているうちに楽しくなって、「毎日続けること」をテーマに4月6日から5月27日の52日間、メイク日記をつけていました。メイクといっても、顔だけではなく、手や足などの体に施したものもあります。すべてスマホで撮影して、顔のメイクに関してはメユちゃんがモデルをつとめ、手や足などのパーツメイクは私自身の体で行いました。

——当初から個展をすることも計画していたんですか?

ユカ:最初は考えていませんでした。まずはその続けたメイク日記を“自分のため”に本にしたいと思い、写真集を作り始めました。ただ、作った後に、たくさんの人にこのメイク日記を見てほしいと思うようになったんです。

私はときどき専門学校でメイククラスの特別講師をしているのですが、そこでいろいろな若者たちを見てきて、やりたいことがあってもなかなか勇気を出せない学生達も多くいました。そうした若い子達が今回の私の作品を見て「なんでもありなんだ」と、行動するための原動力になればいいなと。そして、そんな若い人達が作ったかっこいい作品を見てみたい。そんな思いがあり、写真集の販売を決め、その発表の場を設けるために個展をすることにしたんです。

会場の展示に関しては、すべて自分達で行ったのですが、できるだけDIY感があり、素人っぽさが出るように意識して、展示はすべて普通のコピー用紙に印刷したものを貼り付けていています。実際に個展をやってみるといろいろな人が来てくれて、やって良かったなと感じています。

——一見、奇抜なメイクが多い印象ですが、メイクのテーマはありましたか?

ユカ:特にテーマは決めていなかったのですが、あえて言うなら“日常にある東京の違和感”ですかね。今回、コロナによって仕事がストップしたことで、時間ができたのでよく散歩していたんですが、改めて東京って不思議な街だなと感じたんです。そうした散歩で見かけた違和感のある風景がインスプレーション源となっています。あとは前日に見た夢とか。今回モデルをしてくれたメユちゃんの顔も独特で、“東京のカルチャー感”があるので、普段できないことをやってみました。仕事だと他の人のイメージに合わせてメイクをしていくことが多いのですが、このメイク日記ではシンプルに自分が好きなことをやっていくという感じでしたね。日々の仕事で忘れかけていた、「私が本当に好きな感じ」を感覚的に取り戻したいなという気持ちもありました。

基本的には1日3〜4ルックほど作っていました。私の性格上、細かく丁寧に作るよりもノリとインスピレーションで作っていくといった感じで進めていきました。もともとカラフルなメイクは好きだったんですが、今回はアクリル絵の具など普段モデルさんには使えないコスメ以外のアイテムも使用しています。やっぱりメイクアイテムでは出ない色が表現できて、それはそれで良いなと思いました。今後、自分でも安全に使えるメイク用のアクリルアイテムなどを開発したいという新たな目標もできました。

——インスプレーション源となった“違和感のある”というのはどういった風景のことですか?

ユカ:東京って都会的な中に、ふいに草がぼうぼうに生えている空き地があったり、人工的なものと、自然が混ざっているところがあったりしますよね。そうした整然としているところと、カオスな部分が混ざっている違和感がおもしろくて。それまで何気なく目にしていた風景もあらためて見るとそうした場所がたくさんあるなと再発見しました。

——写真集もかなりしっかりと作っていますね。

ユカ:本を作るのもはじめだったのですが、もともとパソコン作業が苦手だったこともあってすごく苦労しました。デザインも自分でやったのですが、パソコン教室に行って勉強しました。最初は早くできるし手軽なZ I N Eが良いかなと思ったんですが、パッと見て終わりという感じにはしたくなくて、しっかりと残しておきたいなと思い写真集にしました。個展会場の演出と同様に素人感は出したいなと思い、すべて自分でやっています。だからところどころ文字の打ち間違いや消し忘れがあって。でも、そうした偶然性や失敗も良いなとそのままにしている部分もあります。

もともと仕事でファッション関係のクリエイターとからむことが多かったのですが、2年前に展示会に参加したことをきっかけに、アーティストの人と知り合う機会が増えました。中でもフラワーアーティストのアレキサンダー・ジュリアンはすごく仲良しで、彼からいろいろと刺激を受けることも多いです。そうしたアーティストの創作活動の影響もあって、もっと自分を出していいんだなと実感したのも、今回のメイク日記につながっています。

クリエイションって不要不急な一方でかなりエネルギーが必要なもの。私が個展をやったことで、「勇気がなくて行動できないと思っていた若い人達が、好きにやっていいんだな」と感じて、どんどん行動してくれたら嬉しいですね。すでに個展は終了していますが、写真集はまだ購入することが可能なので、興味がある人は私にDMなどで連絡くれれば対応します。

——ユカハイラックという名前も独特ですが?

ユカ:昨年までは本名の平田ユカでやっていたのですが、今年改名しました。ユカハイラックはもともと私のニックネームで、インスタもYUKAHIRACというアカウントでやっています。ハイラックは、HIGHとLUCKで縁起もいいし、ロンドンっぽい響きもあって気に入っています。最近、終活を考えていて、将来に残せるものとして改名しました。写真集もそうした終活の一環です。

アシスタントでメイク日記のモデルを務めたメユ(左)とユカハイラック

——最後に今後やってみたいことは?

ユカ:メイク日記は定期的に続けていきたいし、他のアーティストと組んで、香りや立体物とメイクを絡めたインスタレーションなどはやってみたいです。

ユカハイラック
メイクアップアーティスト。1980年福岡県生まれ。美容師を経て、2006年渡英。2007年ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション卒業。ロンドンでメイクアップアーティストとして活動後、2013年に日本に帰国。以降、雑誌や広告、映像など幅広く活動している
http://yukahirac.comy

Photography Takuya Nagata(W)

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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