全米を制した日本人バルーンアーティスト 神宮エミが考える進化系バルーンとファッション

2019年、北米で2番目の規模を誇る「バンクーバー・ファッション・ウィーク」で日本人バルーンアーティストが海外からの注目を浴びた。2018年にバルーンの全米大会ドレス部門で優勝した神宮エミだ。ポップなカラーリングのバルーン作品はドレスからアクセサリーまでを網羅している。色にこだわりながら、独創的なバルーンドレスの数々を披露し続けてきた神宮エミがバルーンアートに込める思いとは?

2019年のバンクーバー・ファッション・ウィークの模様

——まず、バルーンアートを始めたきっかけを教えて下さい。

神宮エミ(以下、神宮):児童演劇を中心とした役者をしていた時代があって、全国の小学校を回っていました。土日の時間を使ってできることを探していたら、アルバイト情報誌に住宅展示場で風船を配るスタッフの募集をしていたので、興味半分でやってみたら想像以上に楽しかったんです。芝居は約2時間を通して感動を届けますが、バルーンを渡すと魔法をかけたように一瞬で笑顔になる子どもの姿を見たのがきっかけですね。

——もともと器用だったのかも知れませんが、未経験で飛び込むにはハードルの高い分野ですよね。

神宮:そうですね。深く考えていなかったのかも知れません(笑)。でも、バルーンを手渡した時の屈託ない子どもの笑顔があまりにも印象的でした。役者はその年度末で終えて、2013年すぐにフリーランスのバルーンアーティストになって、最初はバルーンパフォーマーとしてデビューしました。

——札幌の「だいどんでん」という大道芸のフェスでデビューされたんですよね。どんなイベントなんでしょうか? 

神宮:バルーンアーティストには、装飾やギフトなどの専門分野があるのですが、もともと演劇の経験があったのでバルーンパフォーマーをしてみたいと。「だいどんでん」はなくなってしまいましたが、北海道の大道芸イベントで17年続いた歴史ある有名なイベントだったんです。著名なパフォーマーもたくさん参加していました。

——大道芸やパフォーマンスから、バルーンドレスなどファッション性を伴った方向性に進まれたきっかけはなんでしょうか?

神宮:あまり知られていませんが、バルーン業界には元々ファッションの文化が根付いていたんです。年に2、3回全国で、コンテストとワークショップが一体化したバルーンのコンベンションが開催されているんですよ。2013年に群馬の高崎で行われた大会に行った時に見たバルーンドレスに衝撃を受けて、来年必ずエントリーしようと思ったのがきっかけですね。

——2014年にバルーンの全国大会「twisters2014」のドレス部門 、コスチューム部門で優勝、ツイスター部門で3位に入賞したわけですが、どんな点が評価されたのでしょうか?

神宮:学生時代にファッションショーを企画、運営する団体「palette」を立ち上げたこともあって、バルーンドレスを作るだけでなく、作りたいもののイメージに合うモデルやヘアメイク、靴選びなど、作りたい世界観の実現にこだわりました。ショー全体の中で作品にどうフォーカスするかを突き詰めたのが、受賞の決め手だったのではないでしょうか。

また、ドレスの作り方は誰かに教わったわけではなく、見よう見まねで何度も失敗を繰り返しながら製作しました。何ヶ月にも及ぶ製作の中で行き着いた形と色に、「既視感がない」という評価をいただきました。

——2017年に開催したNYの個展が初めての海外展示だったんですか?

神宮:2015年からバルーンの世界コンテストには参加していたんですが、個展は初めて。開催時期は季節外れの猛吹雪で学校も空港もすべて封鎖という過酷な状況で。現地の知人からは「タイムズスクエアの前でゲリラ的にやってみるのも良いのでは?」というアドバイスをもらいました。タイミング良く日本テレビの「news ZERO」の密着取材が入っていて、いろいろとサポートをいただいたり、チームメンバーや様々な方のサポートのおかげで無事に開催することができました。

——個展ではどんな評価を受けましたか?

神宮:開催期間中に知人から「『Time out NY』に載っている!」と連絡があったんです。その後、日本のカルチャー好きが集まるようになり、どんどん広がって海外系のメディアにも取り上げていただきました。プロモーションも含めた地下鉄の中でゲリラ的なインスタレーションも相当やりましたね。NYでは、反応もダイレクトでしたから、より海外で挑戦したいという意識が強くなりました。

2017年に開催したニューヨークの個展

——その後のターニングポイントでもあったと。

神宮:そうですね。地下鉄の中でのプロモーションを「ブルックリン アカデミー オブ ミュージック」のキュレーターが偶然見ていて、翌年、バルーンドレスの製作のためにイベントに招待して頂きました。何かを手にするにはとにかく動かなければいけないと痛感した経験です。

——2018年にはラスベガスで行われたバルーンの全米大会で念願の優勝を果たしました。

神宮:全米大会には2015年から毎年参加していましたけど、準優勝止まり。バルーンでさまざまなものを作りたいという思いから、サイズ違いのオブジェ部門、コスチューム部門、パフォーマンス部門など1大会で2部門以上挑戦していまいた。ファッションに絞らずに作品を作ってきたことで得たテクニックや技術、そしてジャンルを超えた発想は今でも私の財産になっています。しかし、その年はファッション1本に絞った。それで優勝できたんだと思います。

——バルーンではエンタメとアートやファッションに特化したクリエイティブの表現には大きな差がありますか?

神宮:エンタメはパッと見のインパクトとわかりやすさが大切ですね。アートやファッションはコンセプトやストーリーを組み立てることが重要です。全米大会では海外での挑戦ということもあり、独楽と花魁という日本の伝統的な2モチーフをテーマに据えました。その後、アメリカという雄大な大地からインスピレーションを受け自然をテーマに、2017年に「炎」、2018年に「水」をテーマにした製作した中で「水」の作品で優勝することができました。本物のジュエリーもバルーンで作りたいという思いから、スワロフスキーとバルーンを組み合わせたネックレスを発表したのもこの作品です。

——ロンドン、ミラノ、パリ、ニューヨークコレクションでインスタレーションを披露したきっかけは?

神宮:テレビ番組の「アナザースカイ」で、秋元梢さんが海外ブランドのランウェイモデルを務める前に、オリジナルのファッションで海外コレクションに参加されていたことがきっかけで可能性が広がったと話されているのを見たんです。それに影響されて、海外ツアーを決意しました。勢いで開催した部分も大きかったので、チームのみんなには迷惑をかけました。

——各都市の反応は?

神宮:NYとロンドンに関してはラグジュアリーブランドのパーティにも招待されましたし、海外メディアが積極的に撮影してくれました。ミラノでは、「アルマーニ」の前で発表した時に私のコレクションのモデルとショー終わりのアナ・ウィンターが同じフレームに収まった瞬間があり、それを見たミラノのアート展の実行委委員からも声が掛かりました。パリは公式スケジュールが出ていなかったことが理由で撃沈でしたね。

コロナ禍でランウェイのあり方も見直されていますよね。実際に現地でインスタレーションを開催したい気持ちは強まる一方、環境を考えると一筋縄では行かない。でも、今は環境というテーマのもとで活動をしていますし、ファッションにもこだわった作品を作ってきたので、いつかパリでランウェイ形式のコレクションを発表したいです。

——神宮さんのバルーンドレスと他のアーティストの作品で決定的に違う点は何でしょうか?

神宮:色ですね。私は常に色を先行して作品のイメージを重ねていきます。バルーンの中にアクリルの絵の具を入れたり、異なる色のバルーンを2つ重ねることで深みのある色や抽象的な表現が可能になります。例えば、透け感があるゴールドのバルーンの中に黒いバルーンを入れてふくらませると、高級感のある光沢が出ますし、青いバルーンと白いバルーンを組み合わせると、パステル調に変化する。これらの変化を組み合わせて作品に落とし込んでいます。ファッションブランドや企業とのタイアップでも、キーカラーを伺い、テーマに沿った色を作ることから制作がスタートします。

——バルーンアートは、ある瞬間に最高のパフォーマンスを求められるものではないでしょうか。一方でファッションは耐用性も必要。形に残らないという前提で作る作品に対するモチベーションは何でしょうか?

神宮:バルーンは永遠に同じ形を保つことはできませんので、製作に時間を掛けられない分、密度は濃いですし、その価値もあると思っています。ただ、バンクーバー・ファッションウィークを経験してもう少し考え方がフレキシブルになりました。「EMIJINGU」の中でもファッション特化型、インスタレーションも含めた空間作りの2つのセクションに加えて、今年1月にはバルーンを永遠なものとして万華鏡のようなデザインでパターン化してプロダクトに落とし込んだり、12月にはパフォーマンスを軸とした作品も手掛けようと考えています。バルーンの粒を組み合わせた表現をしている中で、人の肌も空気も木も、地球上のすべてが分子構造で成り立っているわけですから、それらの粒子とバルーンの粒をどう自然に調和させていくかが、私のクリエーションで目指すところだと思っています。

——環境問題にも力を入れているとのことですが、具体的にどのような活動をしていますか?

神宮:昨年の11月にタイのゴム農園を訪れたんですけど、すべてが圧巻。広大な土地にゴムの木が均等に植えられ、土地の形状から季節や水分量までを計算して農園が作られていました。ゴムの樹液は夜間採取が基本ですから、家族ごとに採取エリアが決められて、夜通し作業している様子を目の当たりにしました。1本のゴムの木から樹液が採れるまでに7年かかり、以降は20年〜50年間採取が可能です。樹液が採れなくなった木は家具などに再利用されます。無駄がないですし、プロが使うバルーンは凝固剤や着色料なども天然素材を使用しているんですよ。

——バルーンアートは制作過程も含めてフィジカルに見たり触れたりするのが醍醐味ですよね。それがかなわない現在において、新たなバルーンアートの可能性は何だと思いますか?

神宮:先程の4つの指針を継続するにしても、やり方は時流に臨機応変な対応をしていくしかありません。先月大病を患ったのですが、コロナ禍で面会ができず大変不安でした。退院時に同じ病院に入院している患者さんにバルーンをプレゼントしたら大喜びしてくれて。この経験がきっかけで、バルーンアートを全国の病院の小児科病棟にプレゼントするプロジェクト“lucaemma(ルカエマ)”も進めています。

また、文化庁の支援がおりたらバルーンアートと、コンテンポラリーダンス、映像を組み合わせたパフォーマンス作品の制作も考えているところです。東京五社の1つであり、1900年の歴史がある府中市の大國魂神社から新型コロナの影響で下向きな気持ちも晴れるような、希望の桜をオンラインを通して世界に発信し、世界中に新しい日本の文化芸術をお伝えできるように進めています。

神宮エミ
児童演劇の役者として活動後、2012年にバルーンアーティストの活動を開始。
2014年にバルーンの国内大会「twisters2014」のドレス部門 とコスチューム部門で優勝。2017年にブルックリンで個展を開催し、2018年にはラスベガスで行われたバルーンアートの全米大会で優勝する。2019年には北米で2番目の規模を誇るバンクーバーファッション・ウィーク初めてのランウェイを発表。今年オープンした、ユニクロの日本最大のグローバル旗艦店「UNIQLO TOKYO」で8名のアーティストコラボ展示にも選ばれた。
https://www.emijingu.com

author:

Jun Ashizawa

1981年生まれ。「TOKION」エディトリアルディレクター。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から現職。

この記事を共有