“ソロ活”のススメ ニューヨークのセックス・エデュケーター、カーリー・Sが提唱する「ソロセックスで自分を愛せるようになる」こと

1人飲み、1人旅、1人飯。ここ数年で日本でも認知や理解が高まっている、自分のペースや考えを大切にする行動や体験を指す“ソロ活”。精神的な自立や他人への脱依存の考えからも“さみしい”“ぼっち”といったネガティブな感情ではなく、新しい自分が芽生えるきっかけとして市民権を得た。デジタル時代に自分だけの時間を確保することは想像以上に難しい。言い換えれば、1人だからこそ可能な心ゆくまで何かを楽しんだり、新しい価値観を見出す機会はそう簡単にやってこない。しかし、皮肉にも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で、図らずもその機会を得た人は多いはずだ。

ソロセックス、いわゆるマスターベーションは性教育においても自分を愛せるようになり自己肯定感が高まると言われている。他人を受け入れるゆとりが生まれ、誰にでも自然と優しくなれるという考え方だ。孤独はその人が自分と向き合う大切な時間であり、自分の体に触り快感を得ることは自分を再確認することと同義ではないだろうか。セックス・エデュケーターで人気ブロガーのカーリー・Sがソロセックスについて語る言葉は慈愛に満ちている。

——セックス・エデュケーターになったきっかけは?


カーリー・S(以下、カーリー):以前ハーレーダビッドソンで働いていました。そこで、性や人種など、たくさんの差別があることを知りました。そんな日々の中で、セックストイショップがオープンすると知り、スーパーバイザーの仕事に応募したのがきっかけ。性教育のワークショップ開催のために素晴らしい人達から指導を受けました。ワークショップの参加者にはセックスを通して人生をさらに充実させ、悦びを得られる方法をアドバイスしていました。

——現在は、ボディポジティブなセックス・エデュケーターとして活動をしていますね?


カーリー:私のような外見のセックス・エデュケーターはほとんどいないから、最初は大変だったけど成功しました。主流は外見勝負だから「ヴィクトリアズ・シークレット」のモデルのように痩せていて、小麦色の肌の人達。私みたいに肌が白くて、たくさんタトゥーがあるような人ではないです。だから私を見て、なぜ自分に自信が持てるのかと不思議に感じる人もいるほど。

——どうやって自分に自信が持てるようになりましたか?


カーリー:私の母は長年、自分がどうであろうとも美しいって感じられるように育ててくれました。人は何かしら美しいものを持っていました。自分を信じて強くいられるように育ったのは本当に幸運だった。家族や親友、一緒に働いてきた人達にも恵まれました。同僚達はとても親切で、尊敬するメンターでもある。エデュケーターになる上でも良い影響を与えてくれました。

——カーリーのブログ『TAKE YOUR OWN ADVICE』 では、ソロセックスがボディポジティブになるために役立つと書かれています。そう考え始めたのはいつ頃ですか?

カーリー:大学時代でしょうか? ニューヨークの実家を出て、ペンシルバニアの競争が激しい大学に行ったのだけど、差別する人が多かったからばかにされたりもして、疑心暗鬼でした。音楽学校に通いながら学生課で働いて、ストリッパーもしていました。警察に連行されて殺人事件の証人として裁判に出廷したこともあります。勉強は大変だったし、後にニューヨークに戻って学位を取ったけど、他人に時間を使ってばっかりで自分の時間なんて全然なかったです。でもソロセックスで自分に悦びを与えることで自分を愛せるようになって、他人ともっと上手にコミュニケーションが取れるようになりました。どうやれば自分の体が快感を得られるのか探求して、その答えがわかると人にも悦びを与える方法がわかります。

すべての経験が私を強くしてくれました。自分を恥じて自信喪失したとしても、他人をインスパイアしたいと強く思っていたから、困難を乗り越えようとポジティブに行動してきたつもりです。

——ソロセックスのルールはありますか?

カーリー:人を傷つけたり、動物や子どもを利用して誤ったことをするのはいけないことだけど、間違ったやり方なんてない。自分の体に触れて感じるだけ。典型的な方法が自分の快感に当てはまるとは限らないから、いろいろなことを試して欲しいです。

セックストイショップで働いていた時、自分に当てはまることが他人に当てはまるわけではないのだとわかりました。自分自身で悦びを感じられることが大事だと思います。まずは自分の欲求を知り、何に興味があるのかを問うことが大切。どう触れると快感なのか、Gスポットの開発のためにバイブレーターなどのセックストイを使うことはノーマル。みんなにセックスを通じてハッピーになってほしい。

——フォロワーはソロセックスを楽しんでいますか?

カーリー:さまざまな体位、トイやアクセサリーを使ってソロセックスを楽しんでいます。トイに関する質問がたくさんあるけど、体のどの部分が刺激を求めているのか、どのくらいの刺激が欲しいのか、どんな感触が好きなのかなどの質問をして、その人のセンスを感じ取って個々に対応しています。

——パンデミック以降、思考の変化はありましたか?

カーリー:大きな変化はないけど、人とどのようにつながりを持ち続けるか、どのようにストレス解消をすれば良いかをよく考えてその手助けをしようと思いました。ストレスで性的な感情が湧かなくなってもしょうがないってアドバイスしたり、遠距離でパートナーに会えない人達をつなぐ役割もしています。

多くの人が心のバランスを保って生活できるように祈っています。悦びを感じてストレス解消してくれるように。特にニューヨーカーには伝えるけど、何が起こっても深呼吸して冷静になることが重要だと思っています。多くのニューヨーカーは、常にストレスを抱えているから、セミナーをする時はあえて大きく深呼吸させます。それで解放されることもある。

最近は、セックストイのオンラインショップ「スペクトラムブティック」で、記事を書いたり、ユーザーの質問に答えたり、ウェブサイトの運営にも携わっています。あとは、ポルノコンテンツの制作やウェビナーの開催も。過去に自由な性表現を訴えるサミットを開催したのだけど、近いうちにソロセックスのセミナーやデジタルカンファレンスもする予定です。

——カーリーのフォロワーに変化はありましたか?

カーリー:良い意味で変化があったと思います。トイにさらに興味を持ち、自分のために時間を使っています。トイの売り上げも伸びているから、ソロセックスを楽しむ人も増えています。私はSNSにかなり力を入れています。専門はトイだから、フォロワーやユーザーにトイを使用する上でのヒントを与え、アドバイスすることに力を入れています。ジェンダーによってアドバイスを変えることはほとんどない。身体の構造はほとんど同じだし、ビギナーだったら使いやすいトイを紹介します。求めている快感を最大限に引き出してもらいたいですね。

——セルフ・エスティームを高める最良の方法はありますか?

カーリー:私のウェブサイトでたくさんのヒントを紹介しているけど、一番は自分の体をいたわること。好きではない体の部位を、入浴中に大事にケアして愛情を注ぐ。例えば、私の足はすごく乾燥しているからお気に入りのローションを入念に塗ります。普段気にかけていないところを気にかけることから始めるのが良いですね。自分を毎日褒めてあげることや人が褒めてくれた時に否定しないで、素直に認めることも大切。誰が惨めな日々を過ごしているかわからないでしょう、だから笑顔や服装など、どんな些細なことでも良いから褒めること。そうすると、人を少しだけでもハッピーにしてあげられるし、良いエナジーを広げることで、誰かの一日が良いものになるかもしれない。

冴えない日が続いていても、起床して朝食を食べられることだけでも素晴らしいこと。何かをできることだけでも素晴らしいことです。「素敵なブラウン色の目だわ」なんて自分の外見を褒める。難しく考えないで、どんなことでも良い。

——常に思いやりを持って活動しているのですね。

カーリー:Mr. Rogers (Fred Rogers)を知っていますか? 1960年代から長年放送されていたアメリカの子ども向け人気番組「Mister Rogers’ Neighborhood 」の司会者だったんですが、私は彼が大好き。どんな子どもも受け入れて優しく接します。私は人が攻撃しあうのを見て、もっと共感して、理解しあえるようになれば良いのに、とずっと思っています。思春期は難しいですけど。私自身のいじめの経験を踏まえて、今いじめを受けている人へ「いつかは終わるから大丈夫よ」って伝えたいです。

落ち着いて、考え方をポジティブにするだけで世界は変わるので、私もポジティブになれるように思考を変えています。例えば地下鉄でパジャマを着ている人を見た時、馬鹿にする人がいるかもしれないけれど、私だったら「楽ちんで良さそう」って思います。他人が私の悪口を言ったとしても、全く気にしない。その人は私の趣向を理解できないだけ。みんなが同じ趣味を持つことはあり得ないと理解しています。

今後はポルノ制作会社を作る予定です。ボディポジティブ・ポルノで、視聴者が見ていて心地良くて、自信が持てて、セクシーになれる作品を作りたい。自分が満足できる手法で作りたいからそれがかなう場所を見つけたい。撮影はスタジオやバー、家でやると思うけど、ニューヨーク市は何もかも物価が高すぎます。いずれにせよニューヨーク市からは離れたいと思っているから、ニューヨーク市郊外で始めるかもしれません。

カーリー・S 
ニューヨーク生まれ、ブロンクス在住。バイブレーター、ワンドの女王。セックス・エデュケーター、ポルノスター、モデル、セックスブロガー。ニューヨークの老舗セックストイショップのプレジャーチェスト、アメリカ最大のアダルトイベントExxxotica、グローバルメディアのコスモポリタンなど数多くのメディア、イベントでセックス・エデュケーターとして紹介されている。現在は、ボディポジティブなセックス・エデュケーターとして記事寄稿、セミナーやイベント開催など活動の場を広げている。

Picture Provided Carly・S
Text Miho

author:

NAO

スタイリスト、ライター、コーディネーター。スタイリスト・アシスタントを経て、独立。雑誌、広告、ミュージックビデオなどのスタイリング、コスチュームデザインを手掛ける。2006年にニューヨークに拠点を移し、翌年より米カルチャー誌FutureClawのコントリビューティング・エディター。2015年より企業のコーディネーター、リサーチャーとして東京とニューヨークを行き来しながら活動中。東京のクリエイティブ・エージェンシーS14所属。ライフワークは、縄文、江戸時代の研究。公式サイト

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