20歳の写真家・柘植美咲が撮る“愛あふれる写真”

2018年、「ポカリスエット」の広告で、高校生カメラマンとして起用され、話題となった写真家・柘植美咲。彼女が撮る写真には、愛があふれている。IMAが主催するオンライン写真コンテストIMA nextでも「LOVE」をテーマにした回でグランプリを受賞。審査員を務めた写真家のチャド・ムーアは彼女の作品に対して「ミサキがカメラを通して被写体への愛を示す方法が素晴らしいと思います」とコメントする。現在、三重県在住の20歳。さらなる活躍が期待される彼女に話を聞いた。

——柘植さんの写真からはすごく撮ることへの愛が伝わってきます。そもそも写真を始めたきっかけは何だったのですか?

柘植美咲(以下、柘植):写真を撮り始めたのは高校1年生の時です。当時は自分に自信が持てず、何か認められるものはないかと考えていた時に、知り合いに写真をやってみたらと言われて始めました。最初はスマホで撮り始めたんですがもの足りず、一眼のデジタルカメラ「EOS Kiss X7」を買いました。ただ私にしたら大きくて、重くて、日常的に学校に持っていくことはできなくて、行事の時に持っていって撮影するという感じでした。ただ、その時撮影した写真って自分でもしっくりきていなくて、好きではなかったです。もうデータもほとんど消してしまいました。

それで「写ルンです」で初めてフィルムで撮ってみたらこういう感じがいいなって思って。フィルムのハーフカメラ「Olympus Pen EE-3」を買いました。それだと毎日学校に持っていけるし、好きな時に撮影ができて、「これだ!」と思ったんです。それで、もうフィルムだけでいいやと思い、デジタルカメラを売って、一眼のフィルムカメラの「Nikon FM2」を買いました。フィルムカメラを買ってからは、学校に毎日持っていって、登下校中や授業中など、日常的に撮影をするようになりました。今でもその2つのカメラで撮っています。

——写真は独学ですか?

柘植:そうです。高校にも写真部はあったのですが、「フィルムはモノクロしかやらない」といった縛りがあって、それが嫌で入部しませんでした。

——それから独学で写真を撮り続けて、2018年には「ポカリスエット」の高校生カメラマンに選ばれました。

柘植:「ポカリスエット」が高校生カメラマンを募集しているというのは、SNSでつながっていたカメラマンさんに教えていただいて、それで応募しました。選考は写真5枚と文章を送るというもので、自分で写真を5枚選ぶといかにも「ポカリスエット」っぽいものを選びそうだったので、私に今回のことを教えてくれたカメラマンさんにセレクトをお願いしました。でも結果が出るまでは、自分で選べば良かったかもといろいろと考えて不安でしたね。

結果が出たのが2月16日で、撮影したのは卒業間近の3月でした。その時、高校生カメラマンは私を含めて3人が選ばれました。撮影は東京で行ったのですが、もちろん仕事として撮影するのは初めてでした。スタッフの人たちからは「キレイに撮るとかは気にしなくていいので、自分達の感性で撮影してほしい」と言われました。そこで出会ったスタッフの皆さんがすごく真剣で、かつ私達のことを信頼してくれていて、“高校生”という偏見もなく、一人のカメラマンとして接してくれました。それが嬉しくて、「この人達が喜ぶ顔が見たい」と、そのために「良い写真を撮ろう」と思いました。掲載されるのも1人何枚とか決まっていなかったので、3人の中で一番大きく、多く使われるのは自分の作品であってほしいとも思っていました。

その時の撮影で「柘植さんはカメラマンにならないの」って聞かれて、それが大きな転機になりました。それまで趣味でやっているだけだから、仕事としてはやっていけないだろうなと思っていたので、プロになることは考えたことがなかったんです。でも、この言葉がきっかけで私でもカメラマンになれる可能性あるんだと初めて気付かされたんです。ただその時は看護師を目指していて看護大学に入学も決まっていたので、そのまま進学しました。

——今も大学には通っているんですか?

柘植:大学は1年ほど通って辞めました。やはり一度、カメラマンとしての可能性を考えると、看護大学に通うことに対して違和感があって、やる気が一気になくなってしまったんです。通いながらも「このままでいいのか」ってずっと思っていて、常に来月には辞めたいと思っていましたね。それで1年生の後期テストの最終日に辞めることを伝えました。それが2019年の2月くらいです。

——大学在学中に写真も撮っていましたか?

柘植:仕事の依頼があったらたまに東京に行って撮影していました。大学でも日常的に撮影しようとは思ったのですが、自分の気持ちがついてこなくて、全然写真が撮れなかった。それがすごく嫌で、このままだと「写真を撮ること自体が嫌になってしまう」と思ったので、大学では日常的に撮らなくなりました。大学以外では撮影していましたが。

それで大学を辞めてからは、親戚がやっているクリーニング屋で撮影を続けていて、今年に入ってからはお父さんを撮影し始めました。ある人に「お父さんの写真おもしろいね」って言われて、何がおもしろいかわからないけど、撮り続けてみようと思って、続けています(笑)。

ただ「撮りたい」と思った瞬間に撮るだけ

——今年2月にはIMA nextの「LOVE」をテーマにした回でグランプリを受賞していましたね。

柘植:IMA nextはいろいろとテーマがある中で、「LOVE」なら自分でもいけるなと思って、高校時代に撮影した5枚を選んで応募しました。それまで「柘植さんの写真はおもしろい」と言ってくれていた人はいたんですが、改めて評価されたのは自信になりました。審査員はチャド・ムーアさんだったんですが、このコンテストに応募する直前に本屋でライアン・マッギンレーさんの写真集を見て、私に似ているなと思っていたんです。だからチャドさんに選んでもらって、縁を感じています。

——写真を撮る上で意識していることはありますか?

柘植:撮りたいと思った瞬間に撮影しているので、何かを意識して撮影することはないです。撮れば良かったとか、そんな後悔はしたくないので、考えるよりも先に撮っていたい。仕事でも、与えられたシチュエーションで、私が何とかするから任せてと思っています。基本はフィルムで撮影していますが、今後はデジタルも挑戦してみようかなと思っています。

——ボケている写真もありますが、それは意図的なものだったりしますか?

柘植:意図的ではないです。知識も技術もない私がカメラをのぞいて撮ったらそうなっていた、ということです。基本的にボケているのは高校生の時の写真だと思いますが、私自身もボケていたのかもしれないですね。

——柘植さんの考える“いい写真”とは?

柘植:プロだとか、アマチュアだとか関係なく、どんな写真も全部正解で等しく、そこに不正解はないと思っています。その中でも、“いい写真”には愛があってほしいなと思います。その写真に少しでも愛があったら、これは私の写真への願望です。

——荒木経惟さんや山本康一郎さん、片山正通さんといった年上の方々とも交流がありますが、どういった経緯で知り合ったんですか?

柘植:荒木さんは海外の仕事で撮影させていただきました。荒木さんは何十年も写真を続けていて、すごいなと尊敬しています。康一郎さんはInstagramで私のことを知ってくれたみたいで、メッセージをいただきました。それで何回か東京に来た時にお会いして、相談に乗ってもらっています。片山さんには私の写真を見てもらって、アドバイスをしてもらったりしています。私が三重県在住なので、なかなかお会いする機会はありませんが、康一郎さんも片山さんも“東京のお父さん”みたいな感じです。

——近い年齢の写真家は意識しますか?

柘植:他の写真家のことは意識しないですが、年齢に限らずいろんな方の写真を見ます。私達の前に「ポカリスエット」の広告を撮影していた奥山由之さんは2回しかお会いしたことないですが、勝手に先輩みたいだなと思っています。

——仕事をしていく上で東京に引っ越すことは考えたりしますか? 

柘植:それはよく聞かれますね。人によって意見はバラバラで、「東京にはたくさんのカメラマンがいるから三重にいることが個性になる」とか「東京に出たほうが撮影の仕事は増える」とか。まだ自分でも決めかねています。今は仕事があれば、東京に行くという感じですが、理想としては気軽に行き来できる環境を作れたらなと思っています。例えば、友達と東京でシェアハウスを借りるとかできたらいいですね。

——今後、個展の開催や写真集の制作などは考えていますか? 

柘植:今年、コロナがなければ展示をする予定でした。その展示は時期をみて開催したいと考えていますが、少し変な展示になると思っています。写真集も作りたいですね。

——最後にこれからの目標を教えてください。

柘植:ずっと写真は撮り続けていたいです。やっぱり写真を撮ることが好きなので。あとは、好きな人とおいしいごはんを食べたり、旅に出たり、幸せな生活ができればいいですね。

柘植美咲
写真家。2000年、三重県生まれ。2016年の高校1年生の時から写真を撮り始める。2018年、「ポカリスエット」の高校生カメラマンに選ばれ、広告を撮影。2020年2月、IMA nextの「LOVE」をテーマにした回でグランプリを受賞。現在、日常的に撮影を続けながら、仕事の依頼なども受け付けている。
https://33ki2ge.tumblr.com

Photography Misaki Tsuge

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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