サンフランシスコのブッククラブ設立者、ローラ・グルハニッチが提唱する「1人で読書をする時間は他者を尊重する心、共感力を養う」

アメリカの伝統的な趣味の集まりの1つとしてあげられるブッククラブ。一般的なクラブでは1冊の課題本が出され、参加者はそれを読み、ミートアップで感想や考察などの意見交換をする。これを楽しむ人がいる一方で、「全然そそられない本を読むのは苦痛でページが進まない」「期限付きの読書は学生時代の課題のようでストレスを感じる」などの理由から、複数のクラブで入会と退会を繰り返し、挫折している人も少なくない。

しかし、従来のクラブでストレスを感じる要因を一切排除し、ソロ活と読書を同時に楽しんでいるクラブがある。それはアメリカ、サンフランシスコ発のサイレントブッククラブ(以下、SBC)だ。特徴は参加者自身が好きな本を持参して黙々と読書をする点。2012年に始まったSBC は現在、欧米、日本を含めたアジアなど世界中に240以上の支部をもつ。SBC設立者の1人、ローラ・グルハニッチが考える世界中をインフルエンスするクラブとソロ活の関係性とは。

−−世界中の読書家を魅了するSBCの活動は、どのように広まっていったのですか?

ローラ・グルハニッチ(以下、ローラ):2012年から2016年は、私ともう1人の設立者グィネヴィア(・デ・ラ・メア)の2人、そこに友達がたまに来るというものだった。その後サンフランシスコから他州へ移住した友達が、それぞれのエリアで支部を作り広がっていったの。それからは全く面識のない人達からも支部を作りたいと問い合わせがくるようになり、世界中に広がったのよ。過去4年間で、急速にクラブが大きくなっておもしろくなってきた感じ。どこかでSBCのことを聞いたり、インタビュー記事を見たりして、「自分の住んでいるエリアにも支部を作りたいけど、できるかしら?」と問い合わせのあった人達には、「もちろん! 場所と時間を決めて、友だちを誘うだけ。簡単でしょ」と答えている。手軽に始められるところがいいのだと思う。

人とつながる機会ではあるけど、読書という目的があり、まわりを見回すと他の参加者も1人で来ている。各々が自分の読みたい本を読んでいるけど、居心地がいい場所。1人で何かやりたいけど同時に皆がつながりやコミュニティを求めていて、SBCではその双方を提供しているの。世界中の人々が、静寂の中で読書をしながら心を通わせている。様々な国や地域で人々が出会い、つながる様子を実際のミートアップやSNSで見るのは驚きと同時にとても嬉しいこと。この活動を続けるのは楽しいわ。

−−SBCでの読書と完全に1人でする読書、この2つの決定的な違いは何でしょうか?

ローラ:それはおもしろい質問だわ。SBCでは各自が好きな本を読んでいるけど、自分と同じ読書好きの人達とつながることもできる。1人で読書しているだけだったら、読書好きとはつながれないわよね。SBCでは、読後に自分が読んだ本について他のメンバーに話す時間があるの。そこが他の人達とつながりを持てる場。歴史やグラフィックノベル、ファンタジー、サイファイ、ノンフィクションとありとあらゆるジャンルを読んでいる人が同じ場所に集まっているから、誰かが自分の知らない本について話すのを聞いて「その本、おもしろそう!」と知る機会にもなる。これが一般的なブッククラブとは違う点です。通常は指定された本を皆で読むから。私自身がそうなのだけれど、誰かにこれをやりなさいと言われるのは好きではないの。大勢が一緒に読書をしているけれど、SBCからのルールは一切なし。

−−バーチャルでも活動していますね。どのような経緯で始めたのですか?

ローラ:昨年メンバーの1人が「バーチャル限定の支部を作りたい」と言ってきたからよ。それからバーチャル支部のFacebookグループを作り、ミートアップを始めたの。この支部の利点は世界中どこに住んでいても参加できること。バーチャルでなければできない素晴らしいことだと思うわ。それからコロナ禍となり、デンバー、イタリア、日本などの支部もバーチャルのミートアップを始めたの。部屋に1人でいても、読書を通じて人とつながり、好きな本について会話ができる。どこにいても、コミュニティーの一員であると感じられるのは楽しいことよね。現在30くらいの支部がバーチャルでミートアップをしている。

−−同じ場所にはいるけれど会話が中心ではない。瞑想やヨガのクラスに似たような印象を受けました。

ローラ:ヨガや瞑想を通じて同じ空間や呼吸、エネルギーといったものを共有することと、SBCで他の人々と読書を通じて同じ空気や空間を共有することはどこか似ているかもしれないわね。それはバーチャルの集まりであっても同じことだと思う。同じ趣味を持った人達の集まりではあるけれど自分の選んだ本を自分のペースで読むという点で、これはソロ活といえるわ。規定がないから、コミュニティーに所属してはいるけど自分の意思で自由にできる。

世の中の多くの人は、内向的と外交的の完全にどちらかというよりは両方の性格を持っていて、SBCはその両方の性格に対応している数少ない場だとも思うの。ディスカッションの時間はあるけど気が向かないなら参加しなくていいし、静かに自分のペースで本を読めばいい。他のブッククラブにも入っていて、そこでの課題本をSBCで読んでいる人もいるのよ(笑)。

オンラインのコミュニティーでも同様。誰かがある特定のジャンルのおすすめを探していると書き込むと、誰かが「この本はいいよ」とポストする。さらにそのポストを見た他の人が「読んだことがないジャンルだったけど、とても良かった」とつながっていくの。強制はしないけど、いろんなジャンルを試して、冒険できる機会作りはしている。

−−作家を招いたクラブも開催していますね。

ローラ:出版社や作家自身が声をかけてきて興味が湧いたら、企画を進めているわ。でも「この本を読んで」という内容にはならないように、作家本人に注目するよりも、テーマの設定やアプローチ、書き方のスタイルなどにフォーカスしている。あとは、多様性を持ってさまざまな人種、文化を持つ人達の本を取り上げるように心掛けているわ。先日のゲストは、『Subductionサブダクション(沈み込み)』の著者、クリスティン・ミラレス。物語の主人公はアメリカ北西部の先住民の暮らす地域で仕事をしているラテン系の女性。物語の中でいくつものカルチャーが出会い1つになるという点で、現在の世界の状況や特にアメリカの現状を考えるきっかけとなるとても興味深い物語なの。今年はさらにジャンルを広げて伝記、フィクション、風刺・ユーモア、ヤングアダルトなども取り上げる予定。

−−新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンによって1人で過ごさなくてはいけない状況を余儀なくされる人もいました。SBCの中で何か変化はありましたか?

ローラ:オンラインへの移行はとても大きな変化だった。ロックダウンになり、多くの人はコミュニティーを求めるようになったけど、自宅にいながら新しいものを見つけるのは限界もあるわよね。ジュネーブやオーストラリア、最近ではデンバーもそれぞれの地域規制に従って、屋外でソーシャルディスタンスを取り、安全な状況を確保してミートアップを再開している。リアルでもバーチャルでも、SBCを通して誰かと出会うのは、人間らしさを取り戻す機会でもあると考えている。これからも人々がつながる機会を提供していきたいわ。

−−読書をしている“Quiet time”(沈黙の時間)は心を鍛え、思慮深くさせると思いますか?

ローラ:そう思うわ、私自身もとても思慮深い人間だと思う(笑)。どれくらいの時間が必要かは個人差があると思うけど、“Quiet time”が必要だと感じたら、優先してその時間を作ることが重要ね。常套句ではあるけど、私達のまわりでは常に多くのことが起こっていて、PCやスマホの画面、お知らせ音など気が散る要素もたくさんある。でも私達の脳はそれらすべてに対応できるようにはなっていない。例えキンドルで読書をしていたとしても、それをいったん手放す。デジタル機器や日々の騒々しさから離れる時間は必要だと思うわ。

私にとって読書は知らなかった物語や人生と出会い、関わりを持つ機会。フィクションを読む人は、読まない人よりも共感力が高い傾向にあるという研究があって、読書をすると共感力が鍛えられるの。共感力があると自分とは違う感性の人達を理解したり心を通わせたり、何かを学んだりできるようになるでしょ。もちろん読書は娯楽でちょっとした現実逃避でもあるけど、得られるものはたくさんあるし、物語を追いながら空想を巡らすことはとてもぜいたくな時間だと思うわ。

私達のウェブサイトやブログで興味のあるイベントがあれば気軽に参加してほしい。知らない人と出会い、他の人がどんな本を読んでいるかを知るとてもいい機会よ。いつでも歓迎するわ。

サイレントブッククラブ
2012年、友人であり近所同士だったグィネヴィア・デ・ラ・メアとローラ・グルハニッチが、サンフランシスコの近所のバーで読書をしていたことをきっかけに始まったブッククラブ。友人との読書で生活が豊かになり、幸せになると感じて設立したクラブは現在、世界中に240以上の支部があり、それらの情報はボランティアにより毎週更新されている。SNS上の交流ではなく、現実に人が集まり読書をして、生きた空気を一緒に共有する場を提供している。
https://silentbook.club/

Picture Provided Silent Book Club

author:

NAO

スタイリスト、ライター、コーディネーター。スタイリスト・アシスタントを経て、独立。雑誌、広告、ミュージックビデオなどのスタイリング、コスチュームデザインを手掛ける。2006年にニューヨークに拠点を移し、翌年より米カルチャー誌FutureClawのコントリビューティング・エディター。2015年より企業のコーディネーター、リサーチャーとして東京とニューヨークを行き来しながら活動中。東京のクリエイティブ・エージェンシーS14所属。ライフワークは、縄文、江戸時代の研究。

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