“ソロ活”のススメ オーストラリアの森林火災監視員、サラ・ドラモンドが提唱する「ルーティーンで1人の時間が心地よくなる」

1人飲み、1人旅、1人飯。ここ数年で認知や理解が高まっている、自分のペースや考えを大切にする行動や体験を指す“ソロ活”。精神的な自立や他人への脱依存の考えからも“さみしい”“ぼっち”といったネガティブな感情ではなく、新しい自分が芽生えるきっかけとして市民権を得た。

デジタル時代に自分だけの時間を確保することは想像以上に難しい。言い換えれば、1人だからこそ心ゆくまで何かを楽しんだり、新しい価値観を見出す機会はそう簡単にやってこない。しかし、皮肉にも新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で図らずもその機会を得た人は多いはずだ。

オーストラリアやアメリカでは森林火災が多発するため、山頂の監視塔で火災予防をする森林火災監視員という仕事がある。監視員は1人で夏の数ヵ月間を大自然の中で過ごす。大学で教鞭を執り、作家としても活動するサラ・ドラモンド。彼女は数年前に森林火災監視員となり、夏の間はほとんど誰とも会わずに山頂で過ごしている。大自然の中で否が応でも孤独と向き合う日常とはどのような生活なのか?

——大学教授、作家、森林火災監視員などさまざまな肩書を持っていますが、今は何をしていますか?

サラ・ドラモンド(以下、サラ):今オーストラリアは冬だから、大学で講義をしている。気晴らしには1人で釣りに行くの。森林火災が発生する夏の時期は、フランクランド山頂にある小さな監視塔で、森林火災監視員をしていて、1日中ラジオで音楽を聴きながら、山の中で煙がたっていないかを監視するの。勤務中は退屈な時もあるけれど、注意力が必要な仕事。監視員になって3年目だけど、「自然の中では、何が起きるかわからない」という不安を感じることがたくさんある。

——森林火災監視員の日々の過ごし方は?

サラ:監視塔でラジオを聴きながら、1時間ごとに天気、気温、湿度、風向きなどの確認をするの。山の中で観光客に遭遇して会話をすることもある。

——監視員になろうと思ったきっかけは?

サラ:監視員をしている友人から話を聞いて興味を持った。彼がこの仕事を辞める時、私を後任として推薦してくれたの。自然豊かで美しい場所なのでこの仕事が大好き。環境保全に興味があって、森林火災の原因を知ると、森の性質に合わせて状況をコントロールすることが必要だと気付いた。オーストラリアは森林火災の歴史が長いけれど、火災後は森が再生して動物がまた住み着くの。

——1人の時間は何をしていますか?

サラ:読書と執筆ね。最近インターネットをつないだから映画を観たりもする。5年間インターネットなしの生活だったから、生活しやすくなったわ。あとは、愛犬と海辺を散歩したり、料理をしたり。週末の夜に1人で釣りに行くのも好き。この静かな環境で自然生態系を理解しながら楽しく生活しているわ。

——ソロ活が好きですか?

サラ:好き。1人で過ごすのが心地いい。自分で解決できる力を持つことはとても大事。例えば自分の大切な人が亡くなったりするでしょ。1人で過ごすことに慣れていると、そういう時に悲しみを乗り越える力が強くなる。

昨日、家の雨漏り修理をしていたの。「パートナーがいれば助けてくれるのに!」なんて思うけど(笑)。でも男性と付き合っている時は、相手が私に何かしてくれて、私が相手に何かしてあげなければいけないことに疑問を感じていた。だって自分のことは自分でできるから。例えば釣りに行った時、他人と協力し合うこともあるけど、何か起きたら自力でなんとかしなければいけないでしょ。最終的には、どんなことも自力で解決する必要があると思うわ。

——自分自身と向き合う方法として、ソロ活に価値を見出す人が増えています。サラのライフスタイルは恵まれた環境に見えますが、今の暮らしを始めた時の周りの反応はどのようなものでしたか?

サラ:ここに住み始めた時は、電気もなくて「1人で大丈夫?」と心配されたわ。住み始めたばかりの頃、夜にライオンくらい大きな野犬が私の家の周りをぐるぐる回っていたの。その日は怖くて眠れなかった。この地域にはハンターが狩猟に来るから、家の外に男性用のブーツを置いて護身していた。でも今は周囲の人が敬意を持って接してくれるから、ちっとも怖くない。私が監視塔で働いていることを古風だと感じる人もいるけど、素晴らしいと感じてくれる人もいる。森林火災監視員の仕事に就きたいと思っている人もたくさんいるのよ。

——新型コロナウイルスによるパンデミックで生活に変化はありましたか?

サラ:あまり変わらない。ここにはロックダウンもないし、ビーチにも行けるから街中に住む人と同じストレスは抱えていない。でもこの状況が続くことは心配。この前、有毒のマッシュルームを食べてしまって具合がとても悪くなったの。でも、一番近所の家まで25kmも離れている。「何かあった時に誰が私を見つけてくれるのかしら」と不安に感じることがパンデミックになってからは増えた。自粛期間中は不安な気持ちを払拭するためにノンフィクションではなくて現実逃避ができるような作品を読んでいたわ。

執筆も思うように進まなかった。今の状況でキスやセックスのことを書くのは難しいし、キスをする気分にもなれないわね(笑)。でも11月に新作の本が出版される予定。これからもここに住み続けて、もっと心地よい空間を作りたいと思っているの。あとは自分にも他人にも親切であり続けたいとは思う。パンデミックが起きてから親切な心を持つことは何よりも大事だと感じるようになった。

——ソロ活を始めた人に何かアドバイスはありますか?

サラ:1人でいることに心地よさを感じられなければ、精神的に自立できないと思う。それと自分を高めるためにルーティーンを持つことも大事ね。あとは犬を飼うのも良い、犬は人を寂しくさせないから。

サラ・ドラモンド
オーストラリア生まれ。マードック大学で歴史学博士号を取得。作家として数多くの小説を発表、2010年にはザ・ベスト・オーストラリアン・エッセーズ(オーストリアのエッセー賞)を受賞。その他にバリスタ、造園家、大学教授、夏限定で森林火災監視員とラジオサポートとして活動。現在は、西オーストラリア州の南側の海岸沿いに在住。

Picture Provided Sarah Drummond
Text Miho

author:

NAO

スタイリスト、ライター、コーディネーター。スタイリスト・アシスタントを経て、独立。雑誌、広告、ミュージックビデオなどのスタイリング、コスチュームデザインを手掛ける。2006年にニューヨークに拠点を移し、翌年より米カルチャー誌FutureClawのコントリビューティング・エディター。2015年より企業のコーディネーター、リサーチャーとして東京とニューヨークを行き来しながら活動中。東京のクリエイティブ・エージェンシーS14所属。ライフワークは、縄文、江戸時代の研究。

この記事を共有