“ソロ活”のススメ スペイン人作家、エクトル・ガルシアが提唱する「ソロ活で生きがいを見つける」

“Otaku”“Emoji”“Mottainai”など、翻訳されずに世界共通語になった日本語はたくさんある中で、“Ikigai”を世界に広めた人物としてスペイン人の作家エクトル・ガルシアがいる。日本語版は、『外国人が見つけた長寿ニッポン幸せの秘密』(エクスナレッジ、2017)。2016年に欧米で出版された同書は現在も注目を集めている。一節にある『Using flow to find your ikigai(フロー〈人がある行為に没入し、精力的に集中している感覚〉を使って、生きがいを見つける)』では、自分自身と向き合い、没頭できるもの、本当に好きなものを探ることで生きがいを見つけられるとしている。

ソロ活は、自分だけの時間を持ち、心ゆくまで何かに没頭して、新しい価値観を見出すこと。ソロ活と生きがいのつながり、そして著者自身の生きがいを聞いた。

——まず2004年に日本に移住したきっかけを教えてください。

エクトル・ガルシア(以下、エクトル):スペインで大学を卒業後、アメリカ、スイス、日本でのインターンシップに申し込み、スイスと日本は受かりました。それで運命が決まりましたね。初めにスイスに行って、次に日本へ。インターンシップを経て仕事を見つけ、現在に至ります。日本に住んで今年で16年目です。

——日本に初めて来た時の印象は?

エクトル:日本人がヨーロッパに初めて行く時と同じような感覚だと思います。アフリカやヨーロッパ、アメリカなどには行ったことがありましたがアジアは日本が初めて。今までに見たことがないものばかりで、宇宙に来たような不思議な感覚でした。

2004年当時は英語表記のものが少なかったですね、何もわからない世界だったので毎日が冒険でした。不思議に感じたこと、意味のわからない言葉や文化を日本人の知人に聞いて、それらをまとめたブログを始めました。当時スペインでは日本に関する記事は黒澤明の映画くらいしかなかったので、日本のリアルな文化が全く浸透していませんでした。日本で驚いた経験を人に紹介したくてブログと執筆を始めました。このブログは、スペインのブログ読者数ランキングで1位になったこともあるんですよ。

日本の食に関しては、旅先などで未だに初めて見る食べ物があります。日本食は日本語と同じように奥深い文化だと感じています。

——生活の中で生きがいという言葉を知ったのですね?

エクトル:“生きがい”という言葉を知った時におもしろい言葉だと思い、世界に広めたいと思いました。著書には日本の悪いところは書いていないので、「これは本当の日本ではないよ」と言われることもありますが、日本の良いところを広めることが私のスタイル。“生きがい”という言葉を「芸者」や「侍」、「寿司」と同じくらい海外に浸透させたかった。現在、「Ikigai」というタイトルの書籍は50冊くらい出版されていますが、生きがいを題材にした書籍を海外で出版したのは私が初めてでした。この言葉の魅力を実感しています。日本のテレビ番組でも『IKIGAI』は取り上げられていて、私も取材を何度も受けています。

——生きがいを深く考えたきっかけは?

2012年から2、3年間、潰瘍性大腸炎に似た病気を患い大変な経験をしました。このことは著書では一切公表していないのですが、ある意味で自分のために心身ともに苦しみながら『IKIGAI』を書いたのです。

2016年、出版当初はなぜこんなに売れるのか不思議でしたが、世界で200万部を突破して売れ続けています。これはコロナ渦も影響しています。ずっと家にいなければいけない状況は不自由です。旅行にも行けない、お金があっても使い道が無くなったり、そうすると仕事をしていても何のために働いているのか分からなくなる。そうすると生きがいについて考えたりするのでしょうね。

——同書は、沖縄の長寿の里でインタビューをした内容が軸となっていますね。なぜ沖縄だったのですか?

エクトル:哲学者サルトルの思想、実存主義と妻の出身地である沖縄の家族のつながりからインスピレーションしました。妻が那覇市出身なので、沖縄は数えきれないくらい訪れています。

執筆にあたりスペインでいう村上春樹さんのような作家、フランセスク・ミラージェスさんと沖縄の大宜味村へ行きました。彼は取材のエキスパートでもあり本書の編集も担当しました。大宜味村では100人以上に生きがいとは何かをインタビューしました。

昨年12月にナショナルジオグラフィックのドキュメンタリー制作で大宜味村に行きました。初めて訪れた2015年当時は、現地の人に変な外国人だと思われていたかもしれませんが、今回行ったら自分が人気者になっていて不思議でしたね。民泊に『IKIGAI』の書籍が置いてあったり、サインを求められたり。しかし同時に著者としての責任も感じるようになりました。例えば、日本の良いところを書き過ぎて、観光客が増えすぎると困りますよね。バランスは大事だと思いますが、日本の長所だけを書くという自分の信念は貫きたいですね。

あと驚いたのは、昨年10月にインドに行った時に『IKIGAI』が13ヵ月間売上1位の書籍になっていたこと。アメリカでも売れていますが、インドほどではありません。

——海外の多くの人が、YouTubeで『IKIGAI』を紹介していますね。

エクトル:特にアメリカの男性達から、生きがいを見つけるにはどうすれば良いのか聞かれます。『IKIGAI』では、15のチャプターで生き甲斐の見つけ方を紹介していて、日記を書く、運動をするなどのアイデアを出しています。人の性格はさまざまだし、答えは1つではないと思っています。

日本人の弱い部分は、周りの人達に合わせて他人に言われた通りになってしまうところ。そうすると、心を病んだり、鬱や自殺につながってしまうことがあります。そういった状況は本当の自分から遠ざかっている時に起こります。まずは自分自身を知るべきで、その先に生きがいがあります。生きがいは羅針盤でもあり、本物の自分から遠ざかっていると、羅針盤がどこに向かっているのか分からなくなる。自分の羅針盤がどこに向かっているかをまずは見つけるべきです。

仕事、家庭、毎日忙しい中で、自分を見失うことがあります。どのような状況でも自分の時間やスペースを見つけるべきです。それは、ヨガや瞑想、簡単な日記を書くことなどでも良いんです。今日の楽しかったこと、嫌だったことを3つずつ書くだけでも良い。2週間継続して書いていると、嫌なことは共通して繰り返されていることに気づきます。それによって嫌なことに対するアクションを考えられる。毎日のフローに入る活動を増やしたほうが良いですね。例えば趣味が3つあったとして、一番フローに入りやすいものを選ぶべきだと思います。スポーツをする人は、フローのコンセプトが理解しやすいと思います。最初はつらいけれど、感覚をつかめば幸せな気分になれます。

——フローに入る行動とソロ活につながりはあると思いますか?

エクトル:フローに入る時は、ソロ活になることが多いですね。場合によっては2人のほうが良い時もあるので悩むところですが、バランスを取ることが大事です。自分に夢中になりすぎると、周りの人を大事にできなくなってしまう。私のフローは朝10時頃からパソコンやスマホには触れないで執筆をして、あとは運動したり、音楽を聴いたりしています。パンデミック後も、このフローは変わりませんが、生活には変化がありました。私はリスクをとるのが好きではないので、あまり外出していないし、人にも会っていない。友達とは頻繁にZoomで話をしていますが、人と会えないのはさみしいですね。

あとは散歩をしないとストレスがたまるので、短い散歩を妻と、長い散歩をしたいときは1人で出掛けています。散歩は気分転換ができて好きです。地中海の文化には、「目的のない散歩」が日常に根付いています。人々は道に出て目的の無い散歩をして、疲れたらカフェに寄ったりもする。東京でも似たような感覚で散歩をしていて、代々木公園や新宿御苑で森林浴をすることもありますよ。

——生きがいは何ですか?

エクトル:執筆は生きがいの一つですが、いろんなことをやっているので一番重要なものではありません。朝1、2時間執筆すると飽きてしまうこともある。写真を撮る、散歩や旅行も好きですね。文章を書いて、世界中の人達とつながりたいですね。そうすれば世界中のさまざまな考えを聞けます。もうすぐ新書『Magic of Japan』が出版されます。最初はスペイン語版で、来年英語版を出版します。東京の魅力的な50ヵ所を写真と一緒に掲載しています。穴場のような場所も載せています。いつも1冊書き終えたら、次を書き始めるのですが次回は侘び寂びなど、日本の美意識に基づく言葉をテーマに執筆したい。日本庭園の考え方も奥深くて美しいと思います。

心から書きたいと思ったこと以外は書きません。また、本として出版するかはわからないですが、例えば日本はリスクをとらない社会ですよね。私も日本人のようにリスクをとらない考え方になってきています。人間は潜在意識の中に恐怖心を持っています。福島の原子力発電所事故の際にも日本にいたのですが、地震は怖いですよね。いつ何があってもリスクをとらずにいることは大事だと思います。日本の文化をもっと勉強していきたいですね。

あとスペイン人と少し似ていますが、日本人は自分の興味に一途に没頭する人が多い。これはオタク文化につながり、さらに生きがいにもつながっていると感じています。TwitterやInstagram上には、漫画家やアーティストなどの才能のある人がたくさんいますから、日本には生きがいを見つけている人も多いはずです。でも、生きがいがはっきりわからなくても良いのです。幼少期から90歳まで何かをやり続ける人は10%程度しかいませんから。

エクトル・ガルシア
スペイン生まれ、2004年から日本在住。日本移住前は、エンジニアとして欧州原子核研究機構(CERN) に所属。現在は作家として活動。日本のポップ・カルチャーを発信するウェブサイト「kirainet.com」は、世界中から毎月100万を超えるアクセスがある。心理学およびスピリチュアルを専門とするジャーナリストのフランセスク・ミラージェスとの共著に、『IKIGAI: the Japanese Secret to a Long and Happy Life(Penguin Random House、2017)』『The Book of Ichigo Ichie(Penguin Random House、2019)』などがある。
Héctor García official website

Text Miho

author:

NAO

スタイリスト、ライター、コーディネーター。スタイリスト・アシスタントを経て、独立。雑誌、広告、ミュージックビデオなどのスタイリング、コスチュームデザインを手掛ける。2006年にニューヨークに拠点を移し、翌年より米カルチャー誌FutureClawのコントリビューティング・エディター。2015年より企業のコーディネーター、リサーチャーとして東京とニューヨークを行き来しながら活動中。東京のクリエイティブ・エージェンシーS14所属。ライフワークは、縄文、江戸時代の研究。

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