スタイリスト・TEPPEIが『#Dayssnap #デイズスナップ』に込めた想い

スタイリストのTEPPEIが、書籍『#Dayssnap #デイズスナップ』を自主制作した。本書は、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言による自粛期間中の4月7日から5月25日の間に、Instagramに投稿していた80枚のスナップ写真を1冊にまとめたもので、フォロワーに応募形式で無料配布するという。なぜスナップ写真を撮り始め、1冊にまとめたのか。さらに本書を手掛かりに、服に対する想いや自身のスタイリングについて語ってもらった。

「自分は服に生かされてきた人間なんだ」ということを再認識

――自主制作された書籍『#Dayssnap #デイズスナップ』は、自粛期間中にInstagramに投稿していたスナップ写真を1冊にまとめたものですが、そもそもなぜスナップ写真の投稿を始めたのですか?

TEPPEI:当時を振り返ると、コロナの影響は3月の下旬頃から徐々に出だしていて、依頼を受けていた撮影のキャンセルが相次ぐ状況でした。また緊急事態宣言が出るのか、出ないのかといったデマも流れたりと、社会が混沌としている雰囲気でもありました。そのような状況下で、4月7日に緊急事態宣言が発令され、その日自宅にいた僕は、着ていた服を妻に頼んで撮ってもらったのが投稿の始まりだったんですよね。

――では当初からスナップ写真の投稿を続けることや書籍化することは決めていたのですか?

TEPPEI:いえ、決めていませんでした。投稿を毎日やっていこうとも考えていなかった。本当に意識せずに撮り始めたんです。その時はコロナに対する生命の危機を感じたり、経験をしたことがないような不安な感情を抱いたりと、大変な状況でした。さらに自分の身近にあった服、そしてファッションとは一体なんだろうとすらも考えました。今ではこうして1冊にまとめたことで、当時の行為や心境を言葉で説明できるようになったというか。僕にとってスナップの写真を撮るために着飾るという行為は、自問自答でした。言ってしまえば、これまで僕が服と向き合ってきたことの答えを見つけるための反射的行為だったんだと思います。このことは書籍の冒頭でステートメントとして書いています。

――自問自答する中でどんなことに気付きましたか?

TEPPEI:「自分は服に生かされてきた人間なんだ」ということを再認識しましたね。服って、ある人にとってはただの着るものでしかないんですけど、僕にとっては大切な存在。それこそスタイリストとして駆け出しの頃は、仕事がまだなくて、自分に自信を持てる状況ではなかったんです。自己嫌悪に陥って、友人にも会えないほど悩んで自宅にこもっていた時期。そんな時に展示会でオーダーした「アンリアレイジ」の服が届いたんですよ。こんな素晴らしくてかっこいい服があるなら、これを着て外出してみようと思えたんです。それで原宿に出掛けてみたらスナップ写真を撮られることになって、さらにそのスナップがきっかけで仕事をもらえたんですよね。この出来事のように僕のターニングポイントには、必ず服の存在がある。まるで僕の人生を後押ししてくれたようなことが、人生の局面で何度もありました。今こうやって生活ができていて、この人生を歩んでいるのも、服と一緒に生きてきたからだと感じています。

――ちなみに撮影はどのようにしていたのですか?

TEPPEI:投稿時にフォロワーからも質問がありましたが、写真は僕のiPhoneですべて妻に撮ってもらいました。

――スナップの写真ではほぼ椅子に座っていますが、これはなぜですか?

TEPPEI:“ステイホーム”につなげた僕なりの表現方法が座るという行為でした。そこでスタイルに合わせて椅子を変えながら、自粛期間中ということで自宅の周辺に運んで撮影をしていました。最後の投稿写真では椅子がないのですが、これは自粛期間が終わり、前に進みたい気持ちを表現したかったので椅子を外したんですよね。

ファッション業界に対して少しでも恩返しになれば嬉しい

――ではいつ頃、書籍にしたいと考えたのですか?

TEPPEI:パンデミック以降、不要不急の外出を避けるため、着飾る行為が淘汰されてきた印象がありますが、僕は服を着ることで、自分の気持ちが安らいで穏やかになっていくことに気付いたんですよね。それはスナップ写真を投稿していく中でどんどん実感に変わってきて。それはある人にとって、映画を観ることや音楽を聴くこと、本を読むことだったりと、不要と言われているようなものかもしれない。でも不要なものでも救われる人がいるんだってポジティブに考えられるようになった。そう、服を着飾るってことは「気を飾る」と言ってもいい。どこに行く、誰に会うという目的ではなく、家にただいるだけでも服を着飾ることで気持ちは変わるってことを、僕をフォローしてくれてる人達に提示し共有したくなりました。そのためには書籍としてパッケージにするのがベストだと考え、形にすることを決めました。

――デザインは誰が手掛けているんですか? 

TEPPEI:いざ形にしようと思った時、自分ですべてに責任をもってやりとげたいと考え、自主制作することにしました。でも自主制作では、1人だけではできない部分もありました。それこそ制作費には限りがあるので、お金ではなく、僕の想いに共感してくれて、一緒にやりたいといってくれる人じゃないとできない。その時に真っ先に顔が浮かんだのが、YOSHIROTTENでした。彼は僕がやってきたことや想いを言わずしてもわかってくれるほど付き合いが長いので、相談したところ、2つ返事でOKをしてくれてアドバイスもくれました。さらに彼のチーム、YARのスタッフ達も手伝ってくれて、とても感謝しています。ちなみに中面のデザインは、スナップ雑誌の『TUNE』『FRUiTS』にオマージュをささげていて。特に『TUNE』は、僕のスナップを表紙に使ってくれたりして、今の僕をスタイリストとしてスタートラインに立たせてくれた欠かせない雑誌。ただ服が好きなだけの自分、それしかなかった自分を肯定してくれた、友達よりも最初の味方だったんですよね。その感謝の気持ちも込めています。

――自主制作とのことですが、販売はどうされるのですか?

TEPPEI:今回の新型コロナウイルスの影響は、アパレル業界にも大きな打撃を与えています。そこで制作した書籍は、無料で僕のInstagramのフォロワーと関係者の方に配ることにしました。無料配布することで、これまで僕を救ってくれた服、そしてファッション業界に対して少しでも恩返しになれば嬉しいです。

――どのようにしてフォロワーの人に配布するのですか?

TEPPEI:詳しい応募方法は、僕のインスタで投稿する予定ですが、贈る方には僕の名前とその方の名前を書きます。直筆のサインを入れることで、自分の熱がより込められますし、贈る方とのコミュニケーションにもなりますからね。

――ではTEPPEIさんのスタイリングについてお話を聞かせてください。モードにストリート、メンズにレディース、ルーズからタイト、モノトーンからカラフルと、本当に自由にスタイリングされています。それは一見、ルールがないように見えますが、しっかり統一されている。服を選ぶ時は、どんな基準がありますか?

TEPPEI:ちょっとしたロジックはありますけど、ただ感覚に頼って着ているだけというか。この感覚というのは、僕のルーツである2000年代に、原宿や渋谷を歩いていた時に培われたものです。2000年代の東京って、それまでの80sや90sに流行ってきたスタイルに、モードやストリートといったさまざまなカルチャーが1つに混じり出した時期だと思うんですよね。その時代をリアルタイムで生きてきたので、今でも当時と同じようにシームレスに服を選んでいるんだと思います。だから僕のセルフスタイリングは、さまざまなカルチャーやジャンルをミックスしていて、最後に自分らしい匂いを足しています。

――その匂いはどのセルフスタイリングを見ても、実にTEPPEIさんらしく感じられますが、ルールはありますか?

TEPPEI:大げさかもしれないですけど、セルフスタイリングを一種の表現方法とするならば、音楽家が音を奏でる、画家が絵を描く、料理家が料理を作るといった表現と変わりません。ある料理人はいろいろな料理を作る、ある音楽家はいろいろな音を奏でる、いろいろ生み出したとしてもそれはきっとその人の作品でしかないのだと思います。それと同じで僕のセルフスタイリングは、何をやっても僕にしかならない。皮肉を言うならば、みなさんが僕を知ってくれているからかもしれません。僕はずっとこの匂い付けをやり続けていて、みなさんがそれを見てきてくれたから、僕らしいと感じているのかもしれませんね。

ファッションの未来は明るくなると信じたい

――最後に今後のファッションシーンはどうなっていくと思いますか?

TEPPEI:短絡的に考えてしまうと、パンデミックの影響で社会全体のムードが悪くなって、おもしろくないピースが埋まっていくかもしれないと思っていました。しかし、ファッションというのは多角的なものなので、守りに回ってしまうブランドがあれば、そうではなくこんな時だからこそ強いアイテムを作るブランドもあると、最近、街を見ていて感じました。
このコロナ禍で、みなさんの大半が生命の危機を感じたのは間違いないと思います。人に刃物を向けられたわけではないですけど、何か目には見えないものに脅かされるのを世界同時に感じたわけで。その不穏な環境にすらも順応してきてしまった感覚がありますが、一度きりの人生、命ある自分という観念を、多くの人が痛感したと思う。そんな価値観に基づいて服を楽しむことについて考えた時に、服に回帰してくる人の多くは、どうせ服を着るのだったら強い服やおもしろい服を着ようと自分を彩るはず。それはどっちが100でどっちが0という話ではないですけど、そういう人は今後、増えてくるだろうと感じています。だからファッションの未来は暗いだけではなくて、明るくもなるはず。むしろ明るくなると信じたい。そして明るさを求める人は多くなくても、僕はその方達のそばに寄り添いたいです。

TEPPEI
1983年生まれ、滋賀県出身。スタイリスト。上京後の2000年代初頭に『FRUiTS』『TUNE』といったスナップ雑誌に掲載され、その個性的なスタイルは国内外でカルト的な支持を集める。その後、スタイリストとして本格的な活動を開始。現在は、「アンリアレイジ」の2021パリコレクションや2020年ドバイ万博日本館の公式ユニフォームのヴィジュアルディレクションの他、数々のアーティストイメージやブランドヴィジュアルのディレクションを手掛けている。
Instagram:@stylist_teppei

Photography Shinpo Kimura

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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