ブランド「ラフ・シモンズ」として初のウィメンズの成否はいかに?

10月23日、「ラフ・シモンズ」が初のウィメンズコレクションを発表した。

と言っても、ラフ・シモンズ自身がウィメンズを手掛けるのは初めてではない。2005年以来「ジル サンダー」「ディオール」「カルバン・クライン」で、そして約1ヵ月前、「プラダ」でウィメンズを発表している。ミウッチャ・プラダと共に担う「共同クリエイティブ・ディレクター」という特殊な役職ゆえに、プラダでは「コラボレーションした」と言ってもいいほど。2001年から10年間タッグを組んだ同郷ベルギー出身のアーティスト、ピーター・デ・ポッターのアートワークを用いるなど、かなり自分色を出していた感はあった。しかし、ビッグネームの下では、ブランドらしさにかなり配慮せねばならなかったはずだ。

であるから、このたびお披露目されたのは、「初めてラフらしさが100%発揮されたウィメンズコレクション」ということだ。ブランド設立25周年を迎えた記念か、コロナ禍で思うところがあったのか、はたまたミウッチャ氏との共同作業でなんらかのフラストレーションがたまったのか?! ともあれ「ラフ・シモンズ」2021年春夏コレクションを、ウィメンズに特化して見てみたい。

まずはムービーを鑑賞した。

タイトルは「TEENAGE DREAMS」。不穏な音楽が流れ、漂うのはダークなムード。ビビッドな色彩で描かれた空間で男女のモデル達がゆっくりと歩き回ったり這いつくばったりしている。ヘアメイクやマーブル模様のプリント、フレアパンツから70年代のサイケデリックファッションが彷彿とされ、ラフおなじみのメッセージが施された服やバッジも目につく。

と、ここで終了してはいけないのが「ラフ・シモンズ」だ。服の造形だけではなく背景にどんなカルチャーがあるのかが重要視されるから、それも知っておかねばならない。黒地に紫、赤、黄の文字の3パターン用意されたリリースを見ると、ラフのかねてからの着想源であるジョイ・デヴィジョンの曲名や『ふしぎの国のアリス』に混じって、ヒッピーカルチャーを描いた『ヘアー』(1979)や『砂丘』(1970)、『エイリアン』(1979)、『スクリーム』(1996)、『エルム街の悪夢』(1984)といったホラー、『ブレックファスト・クラブ』(1985)などの青春もの、サスペンスや『アナイアレイション ー全滅領域ー』(2018)といったSFまで、映画作品のタイトルが羅列してあった。

映画に関して門外漢であり、ホラーは怖くて見られない私には、モデル達が穴から登場するのがアリスをイメージしてのこと、くらいしかすぐには思いつかなかったが、ムービーには多くのメタファーが潜んでいるのだろう。不穏な空気や、70年代の薫り、幻想的なムード、非条理な内容はこれらの映画から来ているはず。ラフのファンはリストアップされた作品を一斉にチェックするのだろうか。

ラフの考えるユースカルチャー

さて、それで結局のところウィメンズはどうだったのか。

正直に言えば、服そのものに驚きはなかった。カラーリングやグラフィックは気になったが、よくあるフォルムだし、メンズに付随したようなデザイン。ウィメンズに特別力を入れたようには見えず、スカートが追加されて、サイズが女性向けになったくらいなのでは。女性モデルがほぼスカートを履いていたのは古い価値観にとらわれ過ぎてはいないか、と訝ってしまったが。ラフ好きの女性であればすでにメンズをオーバーサイズで着ていただろうし、「ジェンダーレス」がモードの常套句となり、ユニセックスへとかじを切るブランドもある中、わざわざ性別を分けるのは女性顧客の新規開拓を意図してのことなのだろうか。しかし、「ウィメンズ」とカテゴライズされた服を着るファンション好きの女性達は、私をはじめ、第一印象を大切にする。背景にどんなカルチャーがあるのか、まで思いを巡らす人はそう多くはない。

では、今回も「TEENAGE」と掲げていたように、ラフと言えばユースカルチャーとの繋がりの深さであるから、若者層に訴えかけるのか。が、それも難しいはず。なぜならここでは今のティーンエージャーを指しているのではなさそうだからだ。着想源から考えると、主に70年代に学生運動にいそしんでいた若者や、1968年生まれのラフ自身の若い頃の精神であるような気がする。同じユースカルチャー好きでも、「セリーヌ」の2021年春夏メンズコレクションで、同い年のエディ・スリマンがTikTokerをピックアップしたのとはベクトルが異なる。

となると、今回のウィメンズ発表に歓喜したり共感したりするのは、そもそもラフ好きで、ジャストサイズやスカートを求めていた女性か、70〜80年代に青春時代を過ごした世代なのでは。決して万人受けするコレクションではない。「ラフ・シモンズ」にあまり免疫がない女性達は、「プラダ」を手にした方が満足度が高いのかもしれない、と思うのだった。

author:

栗山愛以

ファッションライター。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業、大阪大学大学院修了。「コム デ ギャルソン」で広報担当を7年間務めた後、首都大学東京(現・東京都立大学)大学院を経てライター活動を開始する。現在はモード誌を中心に活躍中。ファッションをこよなく愛する。

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