日本人女性編集者の山根裕紀子が12月にドイツのアンダーグラウンド、オルタナティヴな音楽シーンに特化した日英バイリンガルマガジン「RISIKO(リジコ)」を発売する。テーマは今を生きるドイツ拠点のミュージシャンと音楽シーンを国外に紹介し記録に残すことと、年代やジャンルを問わず、ミュージシャン同士が音楽やカルチャーを交換する場を作ることだ。
毎号テーマに沿った巻頭特集を組んでいる。創刊号のテーマは「壁」。横のつながりは薄く、ある種ガラパゴス的な発展を続けるドイツの音楽シーンを俯瞰しながら、「今もなおドイツの音楽シーンに“壁”はあると思うか?」という問いにドイツ在住のミュージシャン30組が答える。彼らの言葉を通じて、ドイツの音楽シーンに立ちはだかる見えない壁とそこに湧き上がる希望やエネルギーを明らかにしていく。 取材対象はレジェンドからアップカミングな新人まで、彼らのプライべートな素顔や思い出に迫るインタビューや寄稿文も掲載。連載記事として、ジャパニーズ・クラウトロック・バンド、南ドイツのフロントマンであるKyotaro Miulaの映画コラムや、オスカ・ワルド(チャカマック)とコニー・プランクトン(トーイングス)による文通コミックも展開する。
山根は「2012年に移住して、8年を迎えますが、音楽メディアを立ち上げることになるとは思いもしませんでした。ドイツはテクノとメタルのイメージでしたし、ジャーマン・ロックにこんな面白い歴史やカルチャーがあるなんて知らなかったです」と移住当初を振り返る。もともと音楽好きではあるものの、ライターとしてミュージシャンのインタビューやプライベートでの交流を重ねるうちに、自身の進む方向性の輪郭がはっきりしてきた。
創刊のきっかけは、知人から紹介された、1980年代に5号だけ発行されたカルト的ミュージックファンジン「OBSCUR」を読んだこと。中でもベルリンを特集したvol.4の巻頭インタビューでアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのブリクサ・バーゲルドが語った「ドイツでは、僕らの音楽は全く理解されてないように思う」という言葉に感化された。アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンはイギリスでレコード契約を結び、アメリカや他国でのライブが成功したことによって、先に海外で成功したDAF (ドイチュ=アメリカニシェ・フロイントシャフト)やCANと同様にドイツ国内でも高い評価を受けたバンドだ。
山根はこう続ける。「ロックを中心としたドイツの音楽シーンは、あまりスポットライトが当たらない存在です。36年前にブリクサがOBSCURで語った内容を周りに話すと、『何も変わってない』という声を多く耳にします。ドイツが歩んできた歴史、言葉の壁など理由はさまざまですが、音楽シーンにある見えない空白は残ったまま。でもそこに面白さがあると思いますし、オリジナルの音楽やカルチャーが生まれているんです。クラウトロック、ノイエ・ドイチェ・ヴェレ、ハンブルガー・シューレ以降、大きなムーブメントは途絶えていますが、自分たちの好きなシーンを掘り下げることでこれから見つかるかもしれません。RISIKOを通じて、どこまでもまっすぐでユニークな彼らの音楽とカルチャーをぜひ知ってほしいですし、日本でも世代や国籍を超えた新たな交流の場として機能すればいいなと思っています」。「RISIKO」の特集に登場する、30組のアーティストが寄せたコメントを一部抜粋して紹介する。
ダモ鈴木(CAN)
「『RISIKO』が他の雑誌なんかに載ってないことを書いてるからいいっていうのは、やっぱりそれを1つのポリシーとして持っていけばいいんだよね。だし、知ってる情報読んでもしょうがないでしょ。自分の人生をリピートしてるような感じ」
メリッサ・E・ローガン(チックス・オン・スピード)
「手にしたものを何でも読んでると、いつまでも黙っていられない時が来る。でもそうこうしてる間に、インディペンデントなジャーナリストたちを支援してみない? そして、今のうちに拘束された彼らを自由にしたら? そう、メディアは武器で、真実は危険! 『RISIKO』、リスクを冒してくれるあなた達に感謝します」
メアリー・オーチャー
「『RISIKO』の創刊は、過去2世代の伝説的なアーティストと若手アーティストを結びつけることで、アンダーグラウンド・カルチャーの遺産を守ることに貢献してる。先人達の影響を受けながらも、若いアーティスト達は同時に現代の道を切り開いてるの」
アイソレーション・ベルリン
「No RISIKO, no fun /『RISIKO』がなければ、楽しくない!」
Kyotaro Miula(南ドイツ)
「昔から雑誌を集めるのが好きで、紙の媒体には深い思い入れがあります。Yukikoちゃんが今回『RISIKO』を立ち上げ、映画のコラムを書く機会を与えてくれたことは光栄です」
また、創刊号へ向けたクラウドファンディングキャンペーンを11月29日まで開催中だ。集まった支援金は創刊号の制作費のほか、支援者にオリジナルトートバッグやTシャツなどのリターンを準備している。創刊号は12月にドイツ、1月に日本でのリリースを予定している。