tokyovitaminのクリエイションと存在から見る、東京ストリートを示すユースの現在

tokyovitaminは、東京を拠点とするクリエイティブなコミュニティとして、2015年から活動を続けている。DJやVJ、フォトグラファーに音楽プロデューサーなど、それぞれの活動を展開しながら、パーティやイベントの際には集まっての発信を行う。現在は現代の東京らしいクリエイティブなクルーとして、その存在が同世代から受け入れられている。これまでにグラフィックアーティストのVERDYとのコラボレーションなど、ファッションシーンにおいてもその名前は知られていることだろう。
昨年12月には、原宿のセレクトショップ「ポートレーション」で初となるポップアップストアを開催し、彼らのマーチャンダイズが販売され、多くの仲間やファンが駆けつけた。このポップアップストアを起点に、改めてtokyovitaminとはどんなものなのかをVickのインタビューから掘り下げていきたい。

活動するために名付けられたプロジェクト、“tokyovitamin”

tokyovitaminの中心人物は、インタビューに答えてくれたVickだ。tokyovitaminは、Vickともう1人の核となるKenchanの2人が出会うことから始まった。2人と周りにいる不特定多数の友人が入れ替わり立ち替わり集まりながら、音楽をベースとしたクリエイティブを行ってきた。そのため、明確なクルーとして結成された集団ではない。いうなれば“クリエイターのたまり場”といった説明が適しているのかもしれない。決まったメンバーで活動するのではなく、リベラルな考えを持ち、友人の意見を取り入れながら、好きなことや興味があることに直結する行動をスピーディに取る。そのアクションが実に斬新だ。では、その発端はどのようなものだったのか。

「僕はもともとはNYで生活をしていたのですが、高校の時に自分のルーツでもある東京に帰ってきたんです。当時から音楽をベースにしたコレクティブとして活動していきたかったのですが、帰国時は周りに友人も知り合いもほとんどいなくて、とりあえず自分が好きそうなパーティやイベントに通っていました。そこでクリエイティブなことをやっていきたいという、同じ意思を持っている仲間を探していたんですよね」。

これが2016年頃の話だ。当時22歳のVickは、イベントに通いながら自分でもパーティを開催するなど、さまざまなイベントを巡る中で出会ったのが、Kenchanだった。最初にあいさつをしてから数ヵ月は特に交流はなかったものの、今はなき渋谷の「トランプルーム」でのイベントで再会し、それを機に一緒に遊びながら交流を深めていった。さらに現在はメンバーのラッパー、Duke of Harajukuと出会ったのもこの時期。Dukeは、Kenchanの大学の友人だったことでつながった。

「熱い感性を持っていた人間同士、遊びながら自然と一緒にいるようになっていったんですよね。一緒にいれば何かができるはずだと思えるやつらが周囲に集まってきていて。その仲間と話していると、やってみたいことやアイデアがたくさん出てきました。まだ若かったし時間もあったので、とりあえずtokyovitaminという名前でプロジェクトを打ち立てて、なんでもいいから何かをやってみようかっていうのが始まりだったんです」。

それからtokyovitaminとして何か発信しようと始めたのが、SoundCloudにおけるミックス「Vitamin Drop」の配信だ。この配信にはメンバーに限らず、つながりがある世界中の多種多様な面々が参加している。普段、音楽活動を行っていないショップスタッフやブランドデザイナーなどもいて、tokyovitaminの多様性を感じることができる。

「ミックスの配信とパーティを主催することは、tokyovitaminとして最初に始めたことですね。配信ではメンバー以外に、普段はDJとして活動していない人も参加しているんですが、それは彼らがフレッシュで新しい音楽を聴き込んでいたからなんです。遊びながら友達が増えていくうちに、本当に音楽が好きな仲間が増えてきたので、彼らの個性や魅力を少しでも発信したいという思いがあって配信を始めました。同時に、いろんな職種の人が参加してくれることで、tokyovitaminがどんな存在なのかを世間に伝えられるんじゃないかとも思って。仲良くなったみんながどんな曲を選んでくれるんだろうって楽しみだったし、ミックスを制作するのはとてもやりがいがありますね。一方でパーティは自分達の遊び場を作ろうという思いでやっています。こう言うと、固定のメンバーで自分達のシーンを作っていこうとしているように捉えられるのですが、僕らはパーティに来てくれる人も、きっと同じことを考えている仲間なんじゃないかって感じているんですよ」。

レーベルとして最初のアクション『Vitamin Blue』

こうしてtokyovitaminとして活動しながら約5年がたち、2020年10月に発表したのが、tokyovitamin名義での初のアルバム『Vitamin Blue』

「これまでにtokyovitaminが出会って仲良くなったラッパーやDJが参加しているコンピレーションアルバムですね。言わば自分達の遊び場でつながった仲間と一緒に作った作品です。DukeやDisk Nagatakiもそうなんですが、個々の活動が活発になってきたこともあって、このタイミングでしっかりとした作品をリリースするのは、良いタイミングだと思ったんです。制作自体は2019年から進めていて、コロナ禍もあり発表するタイミングには悩みましたが、せっかく作ったからには旬なうちにリリースしたいと思って、このタイミングになりました。本当はリリースに合わせてパーティも開催したかったんですけど、コロナ禍で実現できない状況でした。でもアルバムをリリースするだけでは物足りなかったので、あらかじめPVを4本作っていたのを同時に発表しました」。

このPV4本を1つにつなぎ合わせ、tokyovitaminとはどんな存在なのかをVick自身が解説したムービーを入れてプログラムにまとめたのが、「VITAMIN BLUE」だ。この作品からも彼らがどんな活動や発信を行っているのかを理解することができるはず。

「VITAMIN BLUE」
Disk Nagataki 「EXALT feat. NAPPYNAPPA」
Young Coco 「I DON’T BEEF WIT U」
Duke of Harajuku 「ICE CREAM (feat. LEX)」
Mat Jr 「VOYAGER」

アルバム『Vitamin Blue』には、tokyovitaminが提示してきた活動そのものが凝縮されている。コンピレーションだからということもあるが、ヒップホップを基軸に置きつつも、ハウスなどのダンスミュージックも収録されていて、彼ららしい多彩な作品に仕上がっている。

「ハウスが好きなメンバーもいるし、ヒップホップが好きなメンバーもいます。僕らはジャンルにかかわらず音楽を聴くし、ハウスもラップシーンも、自分達の世代で作っているものがすごくおもしろくなってきている感覚があったので、ミックスさせようって意識がありましたね。例えば、Jin Doggのリミックス『LITTLE DEMON(DISK NAGATAKI BOOTLEG)』がそう。こういった表現をtokyovitaminでやりたかったんです」。

この楽曲はヒップホップとハウスが邂逅したアプローチになっていて、実に現代の東京感にあふれている。そしてジャケットのアートワークを手掛ているのは、YouthQuakeのBobby Yamamoto。Vickは、ピルのグラフィックがtokyovitaminのイメージとマッチするからという理由で、ブルーの背景とピンクのピルというカラーリングでBobbyにオファーしたそう。YouthQuakeは、彼らともっとも仲の良いユースクルーで、これもまた多様性に富んだtokyovitaminらしいアクションだ。

服を通じて感じる自分達のコミュニティ感

この一連の流れから、初開催となったポップアップストアにつながる。

「本当は『Vitamin Blue』のリリースに合わせてポップアップストアを開催したかったんですが、正直、世の中のムードもわからないままでしたし、12月に入ってもお店は通常通りに開いていませんでした。もちろんパーティも開催されていない。でも、何もしないままでいるわけにもいかなかったので、できる範囲のことを日中にやってみたんです。こういう状況に加え、初めての開催だったのでどんな感じになるんだろう? って不安はありましたが、結果としていろんな人が来てくれて嬉しかったです。お客さんは、友人だけではなく知らない人もいて、VERDYCreativeDrugStore、YouthQuake、FAF(FAKE ASS FLOWERS)など、僕らの友達が作っている洋服を着て遊びに来てくれてました。その光景を見て、ウェアを通じた自分達のコミュニティ感を体感できたんです。僕らのカルチャーが好きで共感してくれる人がたくさんいるんだなって」。

tokyovitaminが音楽以外に洋服を作るのには理由がある。

「アメリカに住んでいた頃から、インディペンデントレーベルが好きだったんです。例えば、NYのFool’s GoldPEAS & CARROTS INTERNATIONALだとか。彼らがラッパーや仲間と一緒にマーチャンダイズを作ったり、イベントをやっているのを見ていて、そのアクションがすごくかっこよかった。僕も自分が好きなことが明確なので、もっとtokyovitaminが提示するマーチャンダイズの世界観を広げていきたいです。ただファッションブランドとしての位置付けではなくて、自分達が遊んでいるパーティやイベントで使うものを作っていきたいと考えています」。

パーティをはじめ、“現場”を中心に活動を展開してきたtokyovitaminは、多くのアーティストと同様にコロナ禍での苦境に立たされている。

「パンデミック初期は、この先がどうなるのかわからないという不安もありましたが、これからはこの状況が新しい日常なんだと理解していくしかないですし、その中でできることを模索していくべきだと考えています。KenchanはVJとして、Dukeはラッパーとしての作品制作、DiskはDJやプロデュース業など、各々の活動を展開しながら、この状況だからこそのできることを自分達のプロジェクトとして進めていきます。今後は洋服作りにより力を注いでいくかもしれないですし、イベントが開催できなかったとしても、自分達が納得できる形で作品をリリースしていきたい。tokyovitaminはレーベルとは言ってもまだまだこれからなので、制作を通して勉強を繰り返しながら、まずはブランディングを確立して、次のコンピレーションアルバムに向けて動いていきたいです」。

最近では、ポップアップストアの大阪編をセレクトショップ「イマジン」で2月末に開催したばかり。今後もセレクトショップとのコラボレーションや音楽作品のリリースを予定している。tokyovitaminのクリエイションは、新しくてどこまでも自由だ。それは1990年代に真新しい形として東京にストリートカルチャーが生まれていった流れと、どこか重なる部分があるのではないだろうか。tokyovitaminや彼らと同世代が今後生み出していくものの先には、どんな未来があるのだろうか。楽しみでしかない。

Vick
音楽を軸にしたレーベル、tokyovitaminのディレクター。DJとしても活動しており、主に渋谷や原宿を拠点とする同世代のクルーやアーティストと制作活動を行っている。tokyovitaminとしては、1stコンピレーションアルバム『Vitamin Blue』を2020年10月にリリースし話題を集めた。
Instagram:@vickokada / @tokyovitamin

Photography Ryo Kuzuma

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author:

田島諒

フリーランスのディレクター、エディター。ストリートカルチャーを取り扱う雑誌での編集経験を経て、2016年に独立。以後、カルチャー誌やWEBファッションメディアでの編集、音楽メディアやアーティストの制作物のディレクションに携わっている。日夜、渋谷の街をチャリで爆走する漆黒のCITY BOYで、筋肉増加のためプロテインにまみれながらダンベルを振り回している。 Instagram:@ryotajima_dmrt

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