「THE SPELLBOUND(ザ スペルバウンド)と申します。素晴らしい音楽体験をお届けしていきます。 宜しくお願いします!」――昨年12月15日に結成がアナウンスされた新バンド=THE SPELLBOUND、そのメンバーはBOOM BOOM SATELLITES・中野雅之、そしてTHE NOVEMBERS・小林祐介。今年1月13日に配信リリースされた「はじまり」から「なにもかも」「名前を呼んで」「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」、さらに5月26日公開の最新楽曲「FLOWER」まで5ヵ月連続でのデジタルシングル攻勢から浮かび上がってくるのは、類稀なる2つの才気が描き出す音の純度と、時代性を超越するハイパーな音の輝度、そして新たなバンドの音そのものに生命を吹き込もうとする挑戦者の決意だ。実は「一般応募」から始まったというボーカリスト・小林の起用から、バンドとしての確信が生まれるまでの日々を、中野&小林はまっすぐに語ってくれた。
——そもそもは中野さんがボーカリストを「一般応募」という形で募集したのが始まりですよね。その時点では、新しい音楽活動についてどんなイメージを抱いていましたか?
中野雅之(以下、中野):そんなに具体的なイメージはなくて。「何か始めなければいけないな」という焦りとかから、わりと思いつきに近い感じでツイートしたのが最初なので。そんな中で、真っ先に小林くんから「立候補させてください」って――5秒後くらいに連絡が来て(笑)。
小林祐介(以下、小林):「自分がやりたい」っていう衝動とともに、これはあまりかっこいい言い方ではないけど、「他の人にやらせたくない」と思って。すぐ連絡しよう!って、本当に感情のままにアクションを起こした感じでしたね。
——それまでお互い面識はあったんですよね?
小林:ありました。最初の最初は……たぶんフェスとかですよね? で、僕がBOOM BOOM SATELLITESのライブに行って、楽屋であいさつさせてもらったりとか。
中野:あとは、僕がツアーでTHE NOVEMBERSをゲストで呼んだことがあったりとか、その後も何回か一緒にご飯を食べに行ったりしてて。ただ、僕がボーカルの募集をかけた時は、もうしばらく会ってなかったし。疎遠っていうか、定期的に会うタームからは外れちゃっていたので。「立候補します」って連絡が来た時は、ちょっと意外でしたね。出来レースとかでは全くなく――。
小林:ガチのガチですからね(笑)。
中野:「いい人と縁があればいいな」と思ってツイートしたので。結果的に、小林くんと自然な形で会うことができたのかもしれないし。「小林くん、何かやろうよ」って連絡を取るよりもよかったのかもしれないですね。
——そこから、実際の制作はどういう形で進んでいったんですか?
中野:最初は手探りです。まず会って、「何か作ってみよう」っていう会話から始まって。週1で小林くんが僕の家に来るようになって――僕の家に小さなスタジオがあるので、そこで何か作ってみたり、お話をしてみたり、っていうことをずっと続けるんですけど、なかなかいい曲につながらなくて。これは結構予想外で……僕はTHE NOVEMBERSの音楽に対してネガティブな印象とか感想を持つことはほぼないんです。それくらい、僕は自然にいいものとして受け入れられる、わりと数少ない日本のアーティストなので。にもかかわらず、なんでこの足し算、あるいは掛け算が成立しないのか?って思うぐらい、「本来なら能力のある2人のアーティストが集まってこんなはずはないな」っていう楽曲しかできない、っていう時間が結構長かったので。
——意外ですね。
中野:僕、実はずっと迷っていて。「これはやめた方がいいのかな」とか「相性がよくないのかな」とか……何かお互い遠慮しているのか、相乗効果が生まれてこなくて。でも諦めずに、週に1回会うのを続けていくうちに、ある日正解に辿り着くことができた!っていう楽曲を手に入れて。「ああ、これこれ」っていう基準がそこで初めてできて。「これができるんだったら、もっといい曲ができるだろう」って思えた瞬間があったんです。そこに至るまでに、1年近くかかった……のかな?
——THE SPELLBOUNDとしてギアが入り始めるまでの時期を、小林さんはどう振り返っていますか?
小林:その時なりにその都度、一生懸命やってるつもりではいたんですけど。わかりやすい言葉で言うと「心を開くこと」というか――作ってる音楽に対しても、中野さんに対しても、自分自身に対しても。きちんと心を開いて、真正面から真剣に向き合う、っていうことが足りてない時間だったんですよ。それに気付くためにはやっぱり、うまくいかない時間とか、「なんで違うんだろう?」っていうのを、考えたり感じたりする時間がすごく大事だったんだなって。例えば、今言ったような話を、誰か他の人から「いや、それは心を開いてないからだよ」とか「もっと真剣に向き合ってみろよ」とかいくら言われても、そういう言葉を知ることはできても、わかることはできないんです。「なにもかも」っていう曲ができあがった時に、僕の中で「わかった!」っていうヒントが生まれたので。そういうヒントを得た時に、感動的な曲が手元に残っていたっていう……それがすべてなんだなっていうのが、今の自分に生きていると思います。
「小林君はイノセントな人」
「中野さんは神主みたいな感じ」
——中野さんから見て、小林さんのボーカリスト/アーティストとしての魅力を端的に表現すると?
中野:「純粋さ」ですかね。イノセントな人です。目に曇りがない。これはいいことなのかどうかわからないけど……無欲な人です。キーワードとして「モテたい? モテたくない?」っていうことが出たりするんだけど、そういうのを聞かないといけないぐらい、モテるとか、人から理解してもらう、好きになってもらうっていうことに対して、欲が薄いっていうか。それぐらい、あまりにも自然に振る舞っているっていう。そこが僕は、ちょっと川島(道行)くんとかぶるところがあって。ロックスター然としていないというか、ナルシシズムとも無縁な――そういう人の表現ってとても興味深くて。それを今、一緒にTHE SPELLBOUNDというバンドを育てていく中で、小林くんを表現者として1つステップを押し上げていく、っていう作業を一緒にやっています。まあ、これだけキャリアがあって、素晴らしい音楽を生み出してきたアーティストだけど、僕にとってはまだダイヤの原石の状態で。磨いていって輝かせた時に、たくさんの人が感動するんじゃないかなっていう期待がありますね。
——逆に、小林さんから見た中野さんの魅力は?
小林:たくさんあるんですけど、やっぱり一番「中野さんすごい!」と思ったのは――音楽を作ってる時の中野さんって、神聖なものを扱ってるような、音楽をちゃんと信仰してる人の所作に映るわけですよ。今、小手先で音楽って作れてしまうわけですよ、良くも悪くも。そんな中で、周りの人があっけなくバサッと切り落としてしまったり、体よく整えてしまうようなこととかを、「この音楽は何を求めてるんだろう」「この音楽は何を表現するものなんだろう」って……1つひとつの音に対しての向き合い方、手の動かし方、考え方、すべて次元が違うんです。中野さんが音楽の仕事をしているのを後ろで見てるわけですけど、背筋が伸びるんですよね。自分がベストだと思っていた自分の立ち居振る舞いが、よく言えばカジュアルだし、悪く言えば適当だった、って思わされるんですよね、音楽に対して。
中野:……そこまで思う?(笑)。
小林:結構思いますね。言ってみれば、僕には聴こえてない音があるんですよ。マスタリングの現場に行っても編集してる時も、「さっきの音と今の音の違い、僕はわからないです」とかいうこともあるし。いろんなジャンルのプロって、その人にしか見えてないもの/聴こえてないこと/わからないことってあると思うんですけど。その中で言うと、中野さんは……神主さんみたいな感じです。神の声を聴くっていう。
中野:ああ、なるほど。神主さん……言われたの初めてです(笑)。
「音楽って、いい感じになってくると、生き物になる」
——この取材時点(4月26日)で「はじまり」「なにもかも」「名前を呼んで」の3曲がリリースされていますが、楽曲が生まれた順番としては「なにもかも」が最初ですか?
中野:並行して作ってる感じだったから、曲の断片がいくつもあって……今リリースされてる3曲は、ほぼ同時に進めてた感じですね。で、完成度が上がってきて「これだ!」ってなった時に、歌詞を書き始めた一番最初が「なにもかも」で。歌詞までつけてみたんだけど、いい部分もあるし、そうでもないような気がするし、みたいな感じだったところから、全然レベルがグンと上がったのは――「あんまり難しいことを考えないで、伝えたいことを伝えてみなよ」ぐらいのキーワードで作ったら、僕にはこんな素晴らしいものは思いつかない!っていうぐらいの歌詞が来たので。これで1つ、自分達の中のベンチマークができたな、っていう強い印象を持ったんですよね、「なにもかも」ができた時に。
——ハイブリッドな質感とバンドサウンドの融合は、手法としては今や普通に存在するものですけど、「時代の最先端」というよりは、10年後・20年後に聴いても輝きを放つような普遍性を感じる音楽だし、4曲目の「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」にもそれは感じます。
中野:音楽家としての理想って、時代を超越すること――10年後とか20年後に聴いた時にノスタルジーとともに「いい曲」として評価されるか、完全に時代を超えてしまって「これっていつの時代の音楽なの?」って「?」マークがつくぐらいの存在感を持ったものを作れたら、一番嬉しいんです。ビートミュージックなんかは基本的に、日替わりぐらいでトレンドがあるので、1週間後の最先端を目指しても、2週間後には時代遅れになってることが常なので。そこで抜き合い差し合いをしても、勝負できる気が僕はしなくて(笑)。「今日は一番かっこいいけど、明日クソになる」っていうものに揉まれて生きてきたっていうのもあるから。そういう価値観よりも、いつまでも輝き続ける音を作りたいので。今、ミュージックシーンに主流として存在している音楽の価値観では計れないものを作る、っていうのが1つの目標でもあるんです。
小林:今っぽい音楽を「今の音楽」って考えた時に――「トレンドとか時代と寝ちゃう音楽」と「今自分が生きてて、何かものを考えてるっていうこととちゃんと向き合った時に生まれざるを得ない音楽」っていうものがある気がしていて。どちらかと言うと後者って、やっぱり普遍的なものになると思うんですよね。人って時代ごとに人間性まで変わることってないと思うので。いつの時代でも人が生きてて、ものを考えてて、っていうところで共感できるような音楽を目指していきたいと思いますね。
——「A DANCER ON THE PAINTED DESERT」まで公開されたミュージックビデオでは、辻本知彦さんのコレオグラフィーによるダンスシーンが印象的な映像になっていますね。
中野:僕達は自主制作だし、ライブもやりにくいこの状況の中でのスタートだったので。どうやって自分達のことを紹介していくか?っていう中で、ミュージックビデオをどういうものにするかは重要だったので……頑張って作っています(笑)。一貫して辻本さんに振付で参加してもらって、曲に新たな側面とか、感覚、価値観を提示してもらったな、と思って感謝しています。「ああ、そういう解釈があったんだな」っていう感じが、僕としてもあって。高い次元で表現者として挑んできてくれたなっていう印象です。
——映像の中ではバンドとしての佇まいも観ることができて、「始まった感」がありますね。
小林:実感湧きますよね、演奏してるシーンでは。
中野:でも、いよいよライブ活動も始めていくので。楽しみにしていてほしいなと思いますね。
——5ヵ月連続リリースの最後の曲「FLOWER」も、THE SPELLBOUNDの壮大なプロローグのような、ダイナミックな広がりのある楽曲で。音楽「で」何かを表現するっていう形ではなくて、音楽そのもの「を」真摯に表現するっていう在り方に、たくさんの人に触れてほしいと思います。
中野:ああ、確かにね。それはそうかも。音楽自体を表現するっていう。音楽って、いい感じになってくると、生き物になるので。それ自体が何かメッセージ性を帯びていたりとか、伝える力をすでに持っていたりとかするので。そういう音楽を作れたら理想的だなと思ってますね。