新世代バンドの雄・MONO NO AWARE、コロナ禍を経て紡がれた“変化”に満ちたその新作について

文学的かつ遊び心のあるリリックとポップなバンドサウンドを武器に唯一無二の存在感を放つMONO NO AWAREが4枚目となるアルバム『行列のできる方舟(はこぶね)』を完成させた。混乱を極める現代で忘れそうになっていた「身近にあるかけがえのないもの」、「ありのまま」とは何かと問うた本作。今回は、制作時のエピソードを皮切りにアルバムタイトルに込められた思いについて玉置周啓、加藤成順の2人に話を聞いた。

今まで以上にメンバー全員がコミットしたアルバムに

――今回の『行列のできる方舟』は全体を通して玉置さんの素直な言葉で表現されている多幸感に満ちた作品という印象です。身近にあったかけがえのない存在に気付くことの大切さや逃げ場のない現実を肯定的に引き受けることを1つのメッセージとして表現されているのかなと感じました。

玉置周啓(以下、玉置):「そこにあったから」を作った時に僕にしては珍しく、「いい曲だ」という手応えがあったんです。だから「そこにあったから」をランドマークにその周辺地域を開拓していくような感覚でこのアルバムを作ったんですよね。メッセージで言えば、おっしゃったような「身近にあったもの」や自然体というものがどういうものなのか。最近よく耳にする「ありのまま」というものは一体どういうものなのかを問うた感じかな。

でもサウンドはありのままと言いつつも、ナチュラルな感じにいくんじゃなくてどっちかというといろんな音を使って、できるだけ刺激を増やすみたいな感じでしたね。違和感を頑張って増やした感じ。

――MONO NO AWAREのサウンドはアルバムを出すごとにブラッシュアップされている印象です。今回のアルバム制作でサウンド面での変化はありましたか?

加藤成順(以下、加藤):今回大きく変わったのは、周啓のデモが完璧なものではなくて、鍵となるワードがあったり、サビだけが決まっていたりなど、完全に決めたものではないものをバンドメンバーに共有して曲にしていったことですかね。周啓のデモは芯となるものが伝わるものになっていますし、そこをメンバーで大きく広げていくことができたのが大きな変化なのかなって思います。

――それは意図してやってみようと思った?

玉置:今回はコンセプトを決めず、アルバム制作を始めたということもあって、メンバーともう少しコミュニケーションを取りたいなと思ったんです。今までは、僕がコンセプトを決めて僕がほぼ曲を作って、みんなにやってもらう感覚で。それでもいいんですけど、バンドとして考えた時にどうなのだろうって。僕がメンバーの才能の幅を狭めている可能性があるなと思ったんですよね。だから今回はできるだけ共有して作ってみようと思ったんです。

加藤:その結果、メンバーがやれることの“枠”が広がって。今まで以上にメンバー全員の個性が感じられるアルバムになっていると思いますね。

玉置:そうだね。渡すデモも、スケッチに近いものというか。曲名も決まってない、1文字、2文字のタイトルと、「謎」とか「海」とか「風」とかそういうパッと思いついた言葉と1分のデモみたいなものをメンバーに投げて。それで反応がいいものを詰めていくみたいな作り方にしたんです。そういう意味では意図的かもしれないですね。レコーディングだけじゃなくて、デモを作る段階から、曲の内容自体にみんながコミットできるようなやり方を模索したという違いが前作からの変化ですね。

――コミュニケーションを取ろうと思ったキッカケは?

玉置:「ゾッコン」、「そこにあったから」、「LOVE LOVE」の3曲を作った時点でアルバムの大体の感じが人間関係に関することになりそうな予感があって。今、Dos MonosのTaiTanとポッドキャストをしているんですけど、そこで話していく中で、さっき言った「ありのまま」とか「自分らしさ」とか「絆」とかみんな何も考えずにその言葉を使っているような感覚があるんじゃないかと、これは以前から考えていたことではあったけど、TaiTanと話すうちにそれがはっきりしてきたんです。人の目があるから「自分らしさ」とか「絆」とかを考えるのかなって。

結局、TaiTanと盛り上がったのは、人間ってそもそもバラバラでいいよねという話で。なんでこんなにつながっていなきゃいけないんだろうねって。コロナであぶり出された感じはありますけど、例えば、隣の人が陰謀論者だとわかるとか、言葉が通じると思っていた相手が、実は通じなかったり、通じ合わないって思っていた人と意外と話せたりとか、人間関係について発見がある年だったので、とにかくそういうものをアルバムに落とし込みたかった。それを作るのに自分のエゴだけで作るのは、矛盾するというか、プロセスもそれにちゃんと付随した形がいいだろうということで、メンバーとコミュニケーションを取りながら作ろうというふうに決めました。

言葉遊びをやめて、ストレートな思いを綴った

――なるほど。では、今回のリリックは玉置さんの昨年感じた素直な思いが言葉になっている。

玉置:そうですね。以前までは、言葉遊びでだまくらかすというか、煙に巻くスタイルで歌詞を書いていたりしましたけど、今回はそれをやめたというか、言葉遊びはほぼない。韻を踏むくらいですかね。

――リリックのお話をすると「LOVE LOVE」はストレートに愛を伝えるというか。ものすごく深い愛を歌っていますよね。

玉置:「LOVE LOVE」は19歳の時に作った曲なんですよ。“深いことを言うバンド”になる予定だった頃に書いた歌詞なんですけど(笑)。27歳の僕には書けないというか、〈君のコンタクトレンズになって〉という歌詞なんて、もうなくしてしまったような感覚で(笑)。だからこそ、この前まで興味が湧かなかった過去の曲というか、ちょっと若々しすぎて無理だなって思った世界観みたいなのが、失われたものとして魅力的に見えてきたし、コロナとか関係なく日本社会に不信が渦巻いているということもあったので、「言葉遊びをしてる場合じゃないな」って思ったんです。正直、僕はストレートなものは嫌いなんですけど、今の社会状況を考えると、もう少し真摯な態度が大切だなって。だから僕自身が胸を打たれたものをパッケージングしようと思って選んだ曲なんです。

――以前の曲だと「ダダ」もこれまで温めていた曲ですよね? 何故このタイミングでアルバムに収録しようと思ったんですか?

玉置:そうですね、よくご存知で! 「ダダ」は成順が入れようって言った気がする。

加藤:4月くらいかな、周啓が制作に困っていたのかは覚えてないけど、自分のパソコンに今まで作っていた過去のMONO NO AWARE曲のファイルがあって、それを周啓と共有して話をしたのが大きかったかもね。さっき言っていた“昔だからこそ出る歌詞のよさ”と通じる話で、「ダダ」を改めて聴いた時に「今アレンジしたらいけそう!」みたいな感触があって、すごく盛り上がったんだよね。

玉置:そう、今のモードに合う昔の曲はそのままやってもいいかなと思えたというか。もしかしたら3年後にはハマらなくなっているかもしれないと思ったので、モードが合ってるうちに作りたかったし、形にしたかった。「ダダ」は初めて長く付き合った人との別れみたいなタイミングで作った曲で、そういう瞬間の、好きだけど別れないといけないとか、すれ違いというものをしみったれた感じではなく、そういうもんだというスタンスで見ている感じがいいなと感じたんです。それって人間関係にもよくある形だと思って、アルバムに入れたんですよ。

「方舟」に乗れたら、それでお終いなのか?

――また、コロナ禍に世界が苛まれる現代において「方舟」を用いたアルバムタイトルも特徴的だと思うんですが、このタイトルに込めた思いなどはありますか?

玉置:毎回気まずい思いをするんですけど、お酒を飲んで、たまたま思いついた言葉でして。響きがいい感じだったので……。思いついた段階でこれしかないという思いはあったんですけどね。現代において「方舟」というモチーフが存在し得るのかと思って。

――なるほど。

玉置:適当ではないんです。インタビューを何本か重ねたんですけど、毎回絶妙な言葉の詰まり方になってしまって(笑)。よくわからないけども最適なタイトルを付けた気はしているという感じですね。

――今回のアルバムは2020年に感じたことを曲に落とし込みたかったとのことですが、思うように活動ができなかったことで、ライブヴや制作面で再確認できたことはありましたか?

玉置:とりあえず、多くのミュージシャンが言うように、ライヴはバイオリズムの1つだったんだなって思いますね。それ以外に社会との接点がないんだということに気付かされました。音源は作っていたけど、結局メンバーとしか会わないから、危険なことだなって思いましたね。個人的には「SaveOurSpace」運動が起こったときに、「芸術が政府からお金をもらうな」と過剰に批判されたことも大きかったです。音楽業界が孤立しているようにも感じて。「音楽を必要としていない人もいるよな」って思ったときに、すごく寂しかった。独りぼっちだなって。

加藤:僕は、最初のうちは、自分の好きなことをしたり、ゆっくりMIZの曲を作ったりもして、意外と楽しく過ごしていたんですよ。

玉置:そうだね、最初は楽しそうにしてた。久々の暇みたいな感じで。僕もそうだったし。当初は2ヵ月くらいで収束すると言われたし、「とりあえず2ヵ月休みがあって、そのあとフジロックだ!」みたいな気分だったから。でもフジロックが中止となって、そこから僕はローに入ったけど、成順はその後もけっこう楽しそうだった。だからこいつ脳天気だなって(笑)。

加藤:(笑)。だけど、このまましばらくライヴができないということが現実味を帯びてきて、僕もモードが変わっていったんです。

玉置:成順も冬には「最近暇すぎて、やることがなくなってきた」と言ってて、そうだよなって。今回のアルバムの制作プロセスの変化には、この経験が与えた影響も大きいかもしれないですね。みんながどう過ごしているかというのを初めて考えたというか、だからこそ制作でコミュニケーションをたくさん取ろうって思えた。僕が「こういうものが作りたい」と伝えまくるとつながりすぎちゃうじゃないですか。僕はそこまでズブズブな関係でバンドをやりたくないし、MONO NO AWAREは目標もないし、4人の音楽の趣味もバラバラだし、その状態でなぜバンドというものを続けられているんだろうと考えた時に、「理由はないな」って僕は思ったんです。それがすごく心地いい。理由があるとその理由が消えた瞬間に存在意義がなくなってしまうので、そこが集団の怖いところだなって思うし。それだわ! アルバムタイトルのこと思い出しました(笑)。

――改めて教えてもらってもいいですか。

玉置:方舟には“真理”や“理由”みたいなイメージがあったんですよ。コロナも関係しているかもしれないですけど、2017年くらいからSNSが活発になってきて、“真理”や“理由”、“正義”を誰もが語れないといけない状況下になってきた。それが僕には恐ろしくて。みんな“理由”が欲しいし背中を押してほしいし、誰にも否定されない“真理”や“自分らしさ”とか確立されたものが欲しいって思ってる。それを求めている姿が、「方舟に並ぶ行列」に見えたんですよね。“真理”や“理由”さえ手に入れれば、死ぬまで安泰に暮らせる感覚が蔓まん延してる感じが、現代にはある気がする。

――そんな状態でいいのかという思いがある?

玉置:そうですね。「方舟に乗れたらそれでいいのか? それで終わるものなのか?」って疑問があって。実際、そういう部分もあるとは思うんです。お金も“方舟”で、資本主義社会であれば大金を持ってしまえば楽に生きていけるかもしれない。だけど、全員がその“方舟”に乗れるわけではなくて、むしろ乗れない人のほうが多い。そして、それに乗るために社会のルールを破るのもいとわない人がいたりもする。そういうのを見るといろいろと考えざるを得ない感覚もあって……。不平等や歪みって、今たくさんあるじゃないですか? そんな中で『行列のできる方舟』という言葉を聞いた方達が何を感じるのかな?と気になって、このタイトルを付けたんです。

――確かに、方舟って聞くだけでも、いろんな意見がありそうですもんね。助け舟という印象もありますし、幸せをもたらす舟だと思う人もいるかもしれない。

加藤:そうですね、人それぞれいろいろな受け止め方があると思いますし、そこに“正解”があるわけでもないと思うんです。

玉置:うん、たくさんの意見があることがおもしろいなって。共感してもらいたくて作ったアルバムでもなかったので、摩擦でもいいから反応がもらえたら嬉しいですね。

MONO NO AWARE
東京都八丈島出身の玉置周啓(Vo& Gt)と加藤成順(Gt)、2人が大学で出会った竹田綾子(Ba)、柳澤豊(Dr)からなる4人組ロックバンド。ポップの土俵にいながらも、多彩なバックグラウンドを匂わすサウンド、言葉遊びに長けた歌詞で、ジャンルや国内外の枠にとらわれない自由な音を奏でる。FUJI ROCK FESTIVAL’16 “ROOKIE A GO-GO”から、翌年のメインステージに出演。2021年6月に4thアルバム『行列のできる方舟』をリリースした。
HP:https://mono-no-aware.jp/
Twitter:@mono_no_aware_

Photography Kazuo Yoshida

author:

笹谷淳介

1993年生まれ、鳥取県出身。メンズファッション誌「Samurai ELO」の編集を経て独立。音楽をはじめ、幅広いジャンルで執筆を行う。 Twitter:@sstn425 HP:https://sstn.themedia.jp/

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