職人が精魂込めて作り上げたベルリン生まれのオーガニッククラフトリキュール「フレイマイスター・コレクティブ」

世界中の音楽フリークが羨望のまなざしを向けるベルリンのローカルクラブ。強烈なパッションと独特の世界観は実際に体験した人にしかわからない、他の何にも代え難い価値がある。しかし、ベルリンにはもう1つの顔があるのを知っているだろうか。オリジナリティー溢れるユニークなバーとそこに通う常連達だ。それらは間違いなく、ベルリンのローカルカルチャーの構築に一役買っているのだ。西には葉巻が似合うハードルの高い老舗が、東にはクラブに劣らない良い音楽と個性豊かなアーティストやクリエイターが集う人気のバーがある。他にも、地元の年配層から愛されるパブ、有名建築家がデザインしたスタイリッシュなレストランバーなど、バーの数だけ違う顔がある。そして、それぞれの場所でそれぞれの文化が生まれ、さまざまな人間の人生が交差する。これが、ベルリンのバーカルチャーなのだ。

そんなベルリンのバーカルチャーに精通しているある人物を知人から紹介してもらった。クラフトリキュールブランド「フレイマイスター・コレクティブ」の創設者であり、クラフトリキュールのパイオニア的存在として知られているセオ・ライカールトだ。「フレイマイスター・コレクティブ」とは、人工甘味料や添加物を一切使用していない品質が保証されたオーガニックリキュールであり、選りすぐりの蒸留所とプレンツラウアー・ベルク区に位置する”Beckett’s Kopf”をはじめとする一流のバーテンダーとの連携によって開発されている。

”ドイツといえばビール”といったステレオタイプなイメージは過去の産物かもしれない。ベルリンで生まれたこだわりのクラフトリキュールについて、セオに語ってもらった。

クラフトリキュールのパイオニアが日本のマーケットで目指すものとは?

ベルリンのクロイツベルク地区はクラブとバーが入り混じり、クリエイターやアーティストが多く住むエリアとしても知られている。同地区に位置する「フレイマイスター・コレクティブ」のオフィスは、緑豊かな公園を挟んだ向かいの閑静な場所にある。リキュールのフレーバー名が記載された蒸留器が並ぶ研究所のようなユニークなオフィスで、できたばかりの新作リキュールをテイスティングさせてもらいながら、セオにさまざまな質問を投げかけた。

――クラフトリキュールのブランド「フレイマイスター・コレクティブ」はどのようにして誕生したのですか?

セオ・ライカールト(以下、セオ):ドイツ発のトラディショナルなリキュールブランドを手掛けたいと思い、スタートさせたのが「フレイマイスター・コレクティブ」です。独立した小規模の蒸留所と一流のバーテンダーと提携を結び、2016年にスタートさせました。取引先は、バーやレストラン、ワインショップ、リキュールショップがメインとなりますが、少量で販売することはまだ大変なんです。ネットワーク作りから、流通の確保など、どうやったらブランドをうまく展開させることができるか試行錯誤しながらやっています。

――どのようにして蒸留所を探したのですか? 小規模で質の高い蒸留所を探すのは大変ではなかったですか?

セオ:現在、約30種類のリキュールがありますが、それぞれすべて違う蒸留所で作っています。その多くがドイツ国内ですが、良いプロダクトを作れることはもちろんのこととして、それ以外に(蒸留所の)製造業者のアイデンティティーやフィロソフィーを重要視して選んでいますし、男性だけでなく女性もいます。蒸留所に関しては、「フレイマイスター・コレクティブ」をスタートさせる前に、何年もかけて情報収集をしました。どこで誰がどんなものを作っているのか調べたり、コンペティションに参加して情報交換したり、知人や友人、デリバリースタッフや業者からも情報を得ましたね。その中からコンセプトや方向性に興味を持ってくれた製造業者と話をして、徐々にネットワークを作っていきました。そのおかげで良いパートナーに恵まれることができました。

――「フレイマイスター・コレクティブ」のトレードマークというのでしょうか? ボトルのデザインがすべて違っていて、それぞれに製造業者の顔が描かれているのがユニークだなと思いました。有機栽培の野菜などでは生産者の顔がわかるようになっていることが多いですが、リキュールにおいても同じように作り手を明かすことによって、品質や安全を保証しているのでしょうか?

セオ:まず、店舗でボトルを手にした時にリキュールに関するすべてのことが一目でわかるようにしたかったのが一番の理由ですね。ボトルには、製造業者の顔だけでなく、どんな味かわかるように使用している原料の詳細を載せています。リキュールのボトルがすべて同じである必要はないと思っているし、高価で特殊なボトルにする必要もないと思っています。シンプルで無駄がなく、どんなリキュールなのか分かりやすく、中身で勝負できるのが「フレイマイスター・コレクティブ」のセールスポイントですね。リキュールのネーミングがファンタジーで他にはないというのも特徴です。

――確かに、目につきやすいし、リキュールに詳しくない人にとっては親切なインフォメーションですね。30種類もあると選ぶのに悩んでしまいますが、特に人気のリキュールはどれですか?

セオ:シュペック・ベルネ、ドッペル・ヴァホルダーが売れ筋ですね。他にも、ジンやウィスキーも人気があります。

――ドイツと言えばビールというのが、誰もが知っているステレオタイプなイメージですが、リキュールに関してはどうですか? 需要がありますか?

セオ:あまり知られていませんが、実は、ドイツにはリキュールの長い歴史があるのです。小規模のクラフト蒸溜所が多数点在しており、それぞれが果実や穀物を原料としたオリジナルの蒸溜酒を生産しています。隣国のスイスやオーストリアの山脈にはウィスキーの有名な蒸留所がありますし、私もそこからクラフトマンシップを学んだり、知識を得ています。

――ドイツだけでなく、ヨーロッパの他国にもマーケットを広げていた中で、コロナパンデミックの影響によりロックダウンになってしまいました。ドイツにおいては、1年近くバーが営業できない厳しい状況となってしまいましたが、どんな影響を受けましたか?

セオ:一番の取引先がバーになるので、営業ができないことからオーダーが入らないという影響はありましたね。ただ、オンラインでも販売を行っているのと、リテーラーやワインショップや酒屋などに卸すことは変わらずできていました。あとは、パートナーであるプロフェッショナルなバーテンダー達と新たなフレーバーの開発を行ったりしていました。ロックダウンによって大きな影響は受けましたが、環境の変化だと思っていますし、その間にフレーバー開発に専念できたことは貴重な時間だったと思っています。

――新フレーバーの反応が楽しみですね。ロックダウンが解除されたとはいえ、まだまだ海外との取引は厳しい状況にあるかと思いますが、そういった中で日本で展開したいのはなぜですか?

セオ:日本はとても素晴らしいバーカルチャーが根付いているし、盛んだと思っています。それに、フランスやイタリアといった美食の国と同じように日本にも舌の肥えた人が多いし、味を知ってますよね。私達のパートナーシップはとても強い信頼関係が築けていて、最高のフレーバーを開発できている自信があります。レベルの高い教育と経験があるので、他国でマーケットを広げることは難しくありません。日本でも同じように舌の肥えた人にも合うものを提供できるアイデアがあるのです。

――日本では国内発のクラフトジンやビール、ウィスキーブランドが多数登場し、トレンドとなっています。日本で展開するにはライバルが多いと思いますが、その辺についてはいかがですか?

セオ:単に「フレイマイスター・コレクティブ」を日本に卸したいわけではありません。私達は日本でプロデュースをしたいと思っています。ドイツと同じように信頼できる蒸留所とバーテンダーとパートナーシップを結び、日本独自のリキュールを展開したいと思っています。そのためのアイデアをたくさん持っていますし、良い出会いを探しているのです。すでに、デンマークでは製造と販売の両方を行っています。

有名な酒蔵の日本酒がリテーラーを通して、ヨーロッパ各地に広がっているのは既知の事実だが「フレイマイスター・コレクティブ」が目指すのは逆の活動である。ドイツにおけるクラフトマンシップはどんな分野においても歴史があるのだと改めて知るとともに、日本の食文化はやはりワールドクラスで賞賛されていることに嬉しくなった。

「日本へは事業が成長したらまた行きたいですね。ちょうど、先日九州で製造された焼酎ベースのジンをもらいました。春、夏、秋といった季節のネーミングがつけられているんですが、夏はフレッシュで、秋は森林の香りがしたり、日本の季節と同じように香りやフレーバーが違うのがとても興味深いです」。日本へ訪れたのは10年前に2、3度というセオだが、当時を振り返りながら笑顔で日本について語ってくれた。

セオ・ライカールト
「フレイマイスター・コレクティブ」の創設者であり、2人のパートナーとともに共同で設立。ドイツの蒸留酒製造者の中でも真のパイオニアであり、彼が手掛けた「「Das Korn(ダスコーン)」や「シュタインライヒ」は数々の賞を受賞。2012年には「Craft Spirits Berlin」を設立し、ヨーロッパでの有数のクラフト蒸留所に焦点を当てたイベントとなった。現在、インディペンデントな蒸留所と協力して「フレイマイスター・コレクティブ」のプログラムを作成し、各製品の開発にも携わっている。

Photography Hinata Ishizawa
Special Thanks Junichi Yaguchi(Studio Y), Sayaka Shimahara

author:

宮沢香奈

2012年からライターとして執筆活動を開始し、ヨーロッパの音楽フェスティバルやローカルカルチャーを取材するなど活動の幅を海外へと広げる。2014年に東京からベルリンへと活動拠点を移し、現在、Qetic,VOGUE,繊研新聞,WWD Beauty,ELEMINIST, mixmagといった多くのファッション誌やカルチャー誌にて執筆中。また、2019年よりPR業を完全復帰させ、国内外のファッションブランドや音楽レーベルなどを手掛けている。その他、J-WAVEの番組『SONAR MUSIC』にも不定期にて出演している。 Blog   Instagram:@kanamiyazawa

この記事を共有