「Amazon」から突然届いた大量の荷物がアート作品に。志賀俊祐による写真表現への挑戦

DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速化によって生活の一部となったEC。その最たるプラットフォームといえば、「Amazon」だが、便利になった恩恵の一方で不可解なできごとが起こっているのも事実。

写真家として活動する志賀俊祐は、コロナ禍でそのことを身をもって体験した1人だ。

2020年2月、コロナによって最初の緊急事態宣言が発令。ほどなくして、「Amazon」から購入した覚えのない荷物が毎日届き始めたという。送り主も中身もわからず、個人情報の漏洩など不安は募っていった。と同時に、志賀はこの事態と向き合い、写真家として何かができるのかを考えたという。

「Amazonより突然届いた身に覚えのない大量の荷物。知らない中身を開封して確認する日々の連続に、膨らんでいた好奇心を行き場のない不安や怒りへと変えると同時に、この不思議な事象を記録しようと思いました。自分で撮影を行うと、ネガティブな感情が写真に表れてしまいそうだったので主観を入れず、未開封の状態で中身を撮影する方法はないか考え、X線検査機で撮影してみようと思いました」。

志賀俊祐はこのできごとを出発点に、最新作『Hi There』を制作・発表した。

身に覚えがない荷物が突然届く、それは誰の身にも起き得ること。日常に前触れもなくやってくる不可解なできごとを目の当たりにした時、自分だったら何を想い感じるだろうか? 『Hi There』の作品群を通じて、その断片が見えてくる。

写真とは別のアプローチで、自分だからこそできる表現をずっと考えていた

ーーそもそも、身に覚えのない荷物というのは、「Amazon」から急に届いたんですか?

志賀俊祐(以下、志賀):はい、なんの前触れもなく。最初は2020年の5月に、初心者用の釣具セットが届きました。確かに僕自身、釣りは大好きなのですが、誰かからのサプライズプレゼントにしては冗談が過ぎるというか。
そこでカスタマーサポートに連絡しましたが、僕宛に届いているのは間違いないけれど、送り主に関しては個人情報だから教えられないと。最初は普通に返品して終わりました。

ーー1回目であれば、単純に間違いかなという程度ですよね。

志賀:そうなんですが、次の日も届いたんです。その時は、偽物のイヤーポッズでした。それも返品しましたが、またその次の日も届いたんです。

ーーということは、3日連続で!?

志賀:はい。しかも、ちょうどカスタマーサポートに連絡している最中に荷物が届いて。さすがにこれはおかしいということで、「Amazon」に事情を説明してほしいとお願いしました。僕の個人情報が漏れているのも不安でしたから。でも、お答えできないという回答でした。毎日返品対応しているのも大変なので対応してほしかったのですが、結局は僕のほうで処分してもらって構わないと。

ーー最終的に、いくつくらい届いたのですか?

志賀:届いたのは30個くらいで、保管してあるのは20個くらいですね。箱だけ開封して、中身は見ていない状態でしたね。緊急事態宣言があけてから、荷物は届かなくなりましたが。

ーーそんな次々と勝手に届く荷物を、なぜ作品にしようと思ったのですか?

志賀:前回の展示(2020年2月開催「bugs」)では、自分の身の回りで起こるおかしなできごとを「バグ」というテーマや手法を用いて表現しました。もちろん内容は違うのですが、前回同様に共通しているのは「おかしな事象である」の部分でした。

ーー写真や撮影の在り方は、時代を重ねるごとに変わっていますよね。

志賀:僕自身も今までフォトグラファーとして仕事をしてきましたが、どんな撮影でも自分にオファーがきた時点で、自分が何をするべきかをずっと考えていました。一方で、スマホも普及して写真家も増えてきた中で、僕が撮影しなくてもいいんじゃないか? と感じることもたくさんあって。

自分の父もカメラマンで、特にブツ撮り(=静物撮影)に関して高い技術を持っています。そのつながりで仕事をいただけることもありますが、父に対する要望と同じ感覚でオファーをいただいても、「僕でいいのか?」と思うこともあったんです。なので、写真とは別のアプローチで、自分だからこそできる表現をずっと考えていたというのはありました。

ーーそのあたりが、前回の展示から地続きになっている部分でもあるという。

志賀:はい。なので、前回の展示が終わったあとから、ずっと新しい題材を探していました。で、2020年5月に「Amazon」からそのテーマやってきたという。最初の3日くらいは恐怖と不安しかありませんでしたが、気持ちを切り替えて何か作品にしようと。

自分の意思をまったく入れずにシャッターを切る

ーーX線で撮影しよう、というアイデアはどこから生まれたんですか?

志賀:知らない荷物が届いた時に意識していたのは、とにかく中身の安全性でした。できれば、箱を開封せずに確認したかったので、そうであればX線かなと。

最初は荷物そのものをスキャンして、さらに荷物にダイレクトプリントをして展示しようと考えていましたが、技術的に難しくて。でも、X線であればトリミングも現像もできるので好都合だったんですよね。

ーーただ、機械が撮影するということは、写真家の意図や狙いをコントロールすることはできませんよね?

志賀:むしろ、それが良かったんですよね。「Amazon」から突然届いた荷物を、自分の意思をまったく入れずにシャッターを切る。そのプロセスというのは、自分の意識の外側で起こったもので、自分の主観がまったくありません。そんなことを経由して最終的に出てきたイメージが、今までの写真の概念にどんな影響をおよぼすのか、ということも今回のテーマにつながると思ったんです。

ーーなるほど。X線の機材って空港などでは目にしますが、一体どうやって準備したのですか?

志賀:インターネットで「X線 レンタル」と検索しました(笑)。そこで見つけた業者さんに連絡して、テストさせていただきました。基本的な機能はスキャナーでデータとしては3MBしかないのですが、あとから現像できるTIFFデータで保存できるのはラッキーでした。

ーー確かに、実際の画像はそれほど鮮明ではないですよね。

志賀:今回の展示をするにあたって、必ず「荷物の中身は何だったのか?」ということに話題が集まると思っていました。ただ、本質的にはその部分を重要視したのではなく、一般的なニュースになるようなできごとを作品として展示して、それを拡散させるということをやってみたかった。なので、抽象度が高いX線の画像はちょうど良かったです。

ーー逆に、X線の解像度が高かったらテーマに反してしまうというか。

志賀:そうですね、別の選択をしていたと思います。解像度が低いことで、展示物に近寄って見ようとするじゃないですか。今回に関しては、近寄っても何だかわからなかったりもするんですが(笑)。そんな風に、考えてもらう時間や距離感があっても良いなと。中には、スカルなどまったく違ったものに見えるものもありますから。

ーーX線の機械に次々と荷物が流れていく動画も発表していますよね。荷物が流れている間は、ずっとスキャンされているということですか?

個展「Hi There」で発表した動画

志賀:そうですね。20個の荷物に対して、僕ではない第三者の方が4〜500回くらいスキャンしてくれています。その中から自分的に良いと思った構図のものを選びました。なので、その部分だけは、僕自身の意思が入ってしまっているのですが。

鑑賞する楽しみだけでなく、実際に使えるものにも魅力を感じる

ーー今回の作品は、X線でスキャンしたデータをライトボックスの上にプリントしています。なぜ、ライトボックスを用いたのですか?

志賀:まず、純粋にライトボックスというプロダクトが好きだったというのがあります。写真の歴史の中で、カメラはずっと残そうとしますが、ライトボックスに関しては捨てられてしまっている。その部分も、写真の歴史の変化を象徴する一部分かなと。

ーー結構な数を集めましたよね。しかも、サイズも統一されています。

志賀:たまたまですが、今回展示したサイズの中古品がたくさんあったんです。大きいサイズのものは、とっくに処分されてないんですよ。なので、どこからか情報を聞きつけた業者の方からも「うちに7個ありますよ!」と、逆に連絡をもらったりもして(笑)。

ーーどのようにライトボックスの上にプリントしたのですか?

志賀:前回の展示で協力してくれたラボの方とずっと検証を重ねて、UVプリンターというアクリルにプリントできる機械ならできるということになりました。

ーーライトボックスを用いたことで、写真プリントの作品とは違う価値がありますよね。

志賀:現代アートの市場では、写真になった瞬間に売れにくくなるということもあります。僕としては鑑賞する楽しみだけでなく、実際に使えるものにも魅力を感じます。ですから、今回の作品は写真というよりも照明として使ってもらえると嬉しいですね。長く使えるように、LED製のテープライトをハンダで僕自身が付け替えています。

ーー既存のライトからカスタマイズしているんですね。

志賀:そこにはもう1つの意図があります。その昔、ナムジュン・パイクがブラウン管のテレビを用いた作品などを作っていました。でも、故障してもパーツ自体が作られてなくて、作品そのものが二度と見られないという問題が起きているんです。仮に自分の作品を購入してくれた方が見られなくなると考えたら、LED化して長く使ってもらえたほうが良いかなと。

ーー改めて、今回の作品を発表したことで生まれた気付きはありましたか?

志賀:基本的には機械に任せてスキャンするので、僕の意思はほとんど入っていません。そのせいか明確な気付きは少なかったのですが、改めて自分の意思の外側にあるものをまとめる難しさを感じました。

ただ、その難しさは嫌いではないですし、それがあるからこそ自分が撮るよりも、自分のことを俯瞰で見てディレクションしているほうが自分に合っていることを再確認できました。そのことが、今後の自分の表現にもつなげられるような気がしています。

ーーそれは先ほどの話にあったように、自分が撮る意味に対する疑念だったり、写真表現の話にもつながるということでしょうか?

志賀:そうですね。今でももちろん写真家として活動はしているんですが、僕が仕事をする時は、内容よりも人で選んでいる気がしています。おもしろい人達とおもしろいものを作りたい、ということです。

でも、ある時から周囲の人が活躍したり別の道を進んだりして、いつからか一緒に仕事ができなくなってしまった。それと、やっぱり父親の存在ですね。僕のキャリアは父のアシスタントから始まったので、その時から師弟関係になり、独立してからは同業者になりました。その関係性に居心地が悪いと感じたことはありませんが、同じことをやってもやっぱり超えられない。そういう意味でのコンプレックスがあるんでしょうね。

なので、改めて写真に向き合って、自分らしい別のアプローチで活動してかつて一緒に仕事をしていた友人とまた仕事をしたり、父親と同じ景色を見られたりする関係性でいられるようになったら良いと思っています。

ーーそのきっかけの1つが、コロナ禍に「Amazon」から届いた謎の荷物というのも、興味深いですね。

志賀:最初は、中身もわからないし個人情報が漏れているので、恐怖しかありませんでした。結局、勝手に荷物が届くのは「ブラッシング詐欺」といって、商品の評価を上げることを目的にした新手の詐欺のようです。支払いは詐欺グループが行っていますが、それよりも評価を上げることのほうが価値が高いと考えているんでしょうね。本当に最初は僕も家族も怖かったんですが、これはチャンスだとも思って作品につなげることができました。

――不思議なできごとがチャンスを生みましたが、今後はどのような作品を手掛けていきたいと考えていますか?

志賀:X線でスキャンしたデータがまだまだたくさんあるので、次は机など家具にも応用できるかなと。もっと精度を上げて、空間作りも勉強してインスタレーションとして発表するのも良いかなかと考えています。

志賀俊祐
1985年生まれ。2006年、志賀俊明(s-336)に師事。2015年に独立。2020年、写真展「bugs」をGallery COMMONで開催。2021年には、「Amazon」から突然届いた荷物を用いた「Hi There」を制作し、THE PLUGにて個展を開催した。
https://shigashunsuke.com
Instagram:@shigashunsuke

Photography Satoshi Ohmura
Text Analog Assasin

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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