写真家・薮田修身が「ミスチル」のレコーディングに密着  “ドキュメンタリー”にこだわった個展を開催

写真家の薮田修身によるMr.Childrenのニューアルバム『SOUNDTRACKS』のレコーディング風景を撮影したインスタレーション「THERE WILL BE NO MIRACLES HERE」が、渋谷パルコで開催中だ。会期は2月1日まで。その後、2月11〜28 日には心斎橋パルコでも開催される。

同展示は、2019年7月から2020年3月まで、Mr.Childrenのニューアルバム『SOUNDTRACKS』のレコーディングに薮田が密着し、撮影した1000枚以上の写真で構成されている。会場内では来場者が各自持参したデバイスで音楽を聴きながら作品を楽しむことで、よりドキュメンタリーとして楽しめるようになっている。また同タイトルの写真集も会場にて先行販売している(写真集の一般販売は1月25日から)。

薮田は1999年にニューヨークのレコーディングスタジオでMr.Childrenと出会い、2004年からアーティスト写真やアルバムジャケット、ライブなどを撮り続けている。2015年には「薮田修身写真展 BLACK BOX–unpainted face of Mr.Children–」を開催しており、今回で薮田によるMr.Childrenの展示は2回目となる。今回、東京での展示に合わせて話を聞いた。

「いいものを撮影しよう」という欲はなくして、よりフラットにシャッターを押した

——今回の展示は撮影する前から考えていたんですか?

薮田修身(以下、薮田):最初は今まで通りレコーディング風景を撮影しようくらいで、展示に関しては考えていなかったです。それで2019年7月、ロンドンで行われた1回目のレコーディングで、「Documentary film」という曲を聞いた時に、今までは、「ドキュメンタリー」というと社会性が強いものをイメージしていたんですが、その曲を聴いてもっと個人的でもいいんだと気付いて。普段東京でアルバムをレコーディングする際は、毎日は撮影に行けなくて、断片的に追うという感じだったんですが、今回は海外で撮影するということで、僕もそれにずっと同行して毎日密着できたので、それならドキュメンタリーとして発表してもいいなと思い、今回の展示を決めました。

——どれくらいの期間密着したんですか?

薮田:期間は2019年7月から2020年3月までです。その間にロンドンに3回、ロサンゼルスに1回、各2週間ずつくらい行きました。それこそコロナでロックダウンになる直前だったので、それが少しでも遅かったら大変なことになっていたでしょうね。彼らのレコーディングに密着していると、音を作る時は真剣で集中力もすごいなと、改めて感心させられます。

——今回の展示はスライドショーとなっています。スライドショーで見せることは、事前に決めていたんですか?

薮田:早い段階から多くの画像を見せたいと思っていて、それならスライドショーにしようとは考えていました。スライドショーではセレクトせずに1000枚以上の写真を時系列に並べています。

——あえて写真をセレクトしていないということですが、その意図は?

薮田:セレクトしてしまうと、その時の感情や流行りの写真っぽいものを選んでしまう。何年後かに見た時に、違う写真をセレクトしておけばよかったなんてことも感じるかもしれない。今回は、スライドショーで多くの写真を見せられるので、あえてセレクトせず、見た人が好きな写真を選んでほしいなと思っています。レタッチもしていないので、レコーディングのありのままの雰囲気を少しでも感じてもらえたら嬉しいですね。会場ではぜひ『SOUNDTRACKS』を聴きながら見てほしいです。

——撮影する際に意識していたことはありますか?

薮田:あまり自分の感情に抑揚をつけないように意識しました。ライブ写真とかだと、その時、その場の盛り上がりによって、撮る側のテンションも変わってきますが、今回はなるべくフラットさを意識して、「良いものを撮影しよう」というよりは、ありのままを写すように心掛けました。

この撮影に限らずなんですが、若い頃はいい写真を撮影して、自分の写真が一番っていうのを目指していたんですが、そういう欲はなくなってきました。長くやってきて、そうした変化が自分の中にも芽生えてきています。仕事に関しても、ずっとファッションや広告などをやってきたんですが、最近は作家的な意識の方が強くなってきていますね。もちろんファッション写真も好きなんですが、それだとやっぱりファッションって枠の中で収まってカッコいいだけで終わってしまう。好きなことをやりたいという思いが強くなり、より多くの人に響くことを意識するようになりました。

——最後に来てくれる人へのメッセージをお願いします。

薮田:より多くの人に見てもらいたいと言いたいところですが、こんな状況なので無理せず、ご自身で判断していただければと思います。そして、こんな状況で来てくれる人には感謝しかないです。ぜひ、楽しんでください。

薮田修身
埼玉県出身。斎藤一男に師事。W所属。ファッションフォトグラファーとして、雑誌、カタログ、広告、ムービー等を中心に活動。2015-16年にかけて国内巡回写真展「BLACK BOX -unpainted face of Mr.Children-」を開催
https://www.osamiyabuta.com

「THERE WILL BE NO MIRACLES HERE OSAMI YABUTA」
≪東京≫
会期:1月15日~2月1日
会場:PARCO MUSEUM TOKYO 
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO4階
時間:11:00~20:00(短縮営業中)※最終日は18:00閉場
休日:なし
入場料:一般800円
https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=510

≪大阪≫
会期:2月11~28日
会場:PARCO EVENT HALL 
住所:大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-8-3 心斎橋PARCO14階
時間:10:00~20:00(短縮営業中)※最終日は18:00閉場
休日:なし
入場料:一般800円
https://art.parco.jp/eventhall/detail/?id=573

■薮田修身写真集
『THERE WILL BE NO MIRACLES HERE』
本体 6300円
判型 285×280ミリ、144 ページ
東京会場で先行販売後、1月25日全国一般発売

Photography Hiroshi Fujiwara

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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