MOODOÏDのパブロ・パドヴァーニが語る、最新EP『PRIMADONNA』の制作背景と日本への愛

メロディーズ・エコー・チャンバーのギタリストとしてキャリアを歩み始めたパブロ・パドヴァーニ率いるフランスのサイケデリック・ポップ・ユニット、ムードイド。2013年にテーム・インパラのケヴィン・パーカーがミックスを務めた『Moodoid EP』を皮切りにこれまで2枚のアルバムと3枚のEPをリリースしたムードイドは、そのサイケロックやポップス、エレクトロなど多彩な要素が入り混じる煌びやかな音世界により、国境を越えてリスナーを魅了し続けてきた。ここ日本とも浅からぬ縁を持ち、東京という都市にあふれるエネルギーや音に着想を得た楽曲「Planète Tokyo」や、水曜日のカンパネラとのコラボ曲「Langage」も発表。この6月にリリースされた最新EP『PRIMADONNA vol.1』のジャパニーズ・エディションには、NY在住の日本人アーティスト、ミホ・ハトリをフィーチャーした楽曲「Idéal Doki-Doki – 理想的ドキドキ」も収録する。仕事やプライベートで幾度も日本を訪れている親日家のパブロに、最新作の制作背景や、日本とそのポップカルチャーへの愛などについて、語ってもらった。

「女性」をテーマに、多彩な女性アーティストを迎えた最新EP

――6月にリリースされた最新EP『PRIMADONNA vol.1』は「女性の不屈の精神を讃えるプロジェクト」とのことですが、プロジェクトに込めた想いを教えてください。

パブロ・パドヴァーニ(以下、パブロ):ずっと「女性」をテーマに女性ヴォーカルだけの作品を作りたかったんだ。

――全ての曲でゲストをフィーチャーしており、Melody’s Echo Chamber(メロディーズ・エコー・チャンバー)、Juliette Armanet(ジュリエット・アルマネ)、Felicia Douglass(フェリシア・ダグラス)、Say Lou Lou(セイ ルル)らさまざまなアーティストが作品に参加しています。どのような経緯や理由でアーティストを選定されたのでしょうか?

パブロ:僕の作品ではあるんだけど、今回は女性ヴォーカルをフォーカスするからクリエイションの面でも対等な関係でやりたかった。だから自分のリアルな人間関係の中で作りたくて。Melody’s Echo Chamberではギタリストとして活動していたし、Juliette Armanetは僕が親しいフランス人のシンガーで、映像ディレクターとして彼女に映像を提供したこともあるんだ。Say Lou Louはアメリカを旅行した時に出会って、とてもフィーリングが合ったからだよ。

――日本盤には元チボマットのミホ・ハトリとの「Idéal Doki-Doki – 理想的ドキドキ」も収録されています。コラボレーションの背景について教えてください。

パブロ:僕は日本が好きだし日本語の曲を作りたかったんだ。以前、水曜日のカンパネラのコムアイと競作した時の感触も良かったから、また日本人のアーティストとやりたいなと。だからすごく探して、ミホ・ハトリの音楽に出会った。彼女と仕事したくてたまらなかったから、オファーを快く受けてくれてすごく嬉しかったよ。日本でやりたいことがたくさんあるのに今はできないから、せめてリモートでコラボレーションをして日本へのモチベーションを保っているよ。

MOODOÏD『PRIMADONNA Vol.1 ジャパニーズ・エディション』
Moodoïd & Miho Hatori – Idéal Doki-Doki – 理想的ドキドキ (Lyric Video)
Moodoïd & Miho Hatori – Idéal Doki-Doki – 理想的ドキドキ (Version karaoké)

愛してやまない日本の文化・音楽との出会い

――そんなに日本が好きなんですね。

パブロ:愛してやまないね(笑)。日本を初めて訪れたのは2014年だったけど、その後6年間、仕事やプライベートで年に1回は日本に行っていた。

――2018年の2ndアルバム『Cité Champagne』には、東京をイメージした「Planète Tokyo」や、コムアイとの共作「Language」を収録していますが、そもそも日本の音楽や文化にどのように出会ったのか、教えてください。

パブロ:以前は、あまり知らなかった。それで初めて行った時に今まで触れたことのない全く別の世界で衝撃を受けた。言葉も暮らし方も何もかもが全く違い、とてもエネルギーを感じた。例えば、地下鉄やJRなど交通機関や空港に必ず特定の音があることに驚いて、東京のそうしたいろいろな音を繋ぎ合わせたらおもしろいと思って「Planète Tokyo」のアイデアが生まれたんだ。実際に成田空港でアナウンスの前に流れる音をサンプリングして使わせてもらっているんだよ。

MOODOÏD『Cité Champagne』
Moodoïd – Planète Tokyo (Official Audio)

――「Language」と「Idéal  Doki~ Doki」、この2曲の日本語バージョンを作った理由を教えてください。

パブロ:僕は英語が苦手で、日本ではコミュニケーションが取れずにメランコリックになってしまう瞬間があったんだけど、そんな時にジェスチャーやカルチャーなど言葉以外の伝達手段で通じ合ったんだ。だからコムアイとの競作曲には「LANGAGE」がピッタリだと思った。コムアイが日本語で歌うことによって、僕が伝えたかった言葉の壁やコミュニケーションの難しさを表現することができたと思う。「Idéal  Doki~ Doki」はサックスの音をたくさん使ってハッピーで優しい80年代の日本のポップ・ミュージックに思いを馳せて作ったんだ。日本語の響きが素敵だと思うし、だからこれからも日本のアーティストと日本語の曲を作っていきたいよ。

――2018 年のインタビューでも、『Cité Champagne』の制作において、YMOや松下誠、坂本慎太郎らの音楽がインスピレーション源となっていた、との発言がありました。 彼等の音楽のどのようなところに魅力を感じましたか?

パブロ:『Cité Champagne』の制作初期はフレンチタッチだったけど、ちょうどその時、80年代の日本のポップ・ミュージックがアメリカやイギリスの音楽から色濃く影響を受けていると何かで知って、聞いてみたらハマったよ。エキサイティングで、エキゾチック。魅力はなんと言っても音のクオリティー。というのもローランドやヤマハ、コルグなど当時世界有数のシンセサイザーの最新機器を使って楽曲が作られていたからね。

――近年、日本のシティ・ポップが流行していますが、どのように感じていますか?

パブロ:長年日本人だけしか知らない音楽だったけど、インターネットの普及で、こうして眠っていた日本の音楽が世界的に流通するようになった。最近はパリのカフェやバー、友達の家でもシティ・ポップが流れたりしてすごく嬉しくなる。今後、そういう機会は増えていくんじゃないかな。

多彩な音世界の背景と、これからの活動について

――MOODOÏDの音楽は、さまざまなジャンルを消化したハイブリッドなサウンドが特徴的ですが、パブロさんはどのような音楽を聴かれてきたのでしょうか?

パブロ:子どもの頃はKing Crimson(キング・クリムゾン)やGong(ゴング)など70年代のプログレッシヴ・ロック。その後はRoedelius(ローデリウス)やBrian Eno(ブライアン・イーノ)といったアンビエントからNEU!(ノイ!)などクラウトロックを聴いていたよ。最近開拓しているジャンルはエレクトロだよ。特にこだわらず色んなジャンルの音楽を聴くのが好きだね。

――『Moodoid EP』(2013年)はケヴィン・パーカーがミックスを手がけていますが、彼との出会いについて教えてください。

パブロ:ケヴィンがMelody’s Echo Chamberのプロデューサーを務めていてパリに住んでいた時にバーで出会った。当時、僕は21〜22歳で、まだMOODOÏDのデモテープしかなかったんだけど、僕がMelody’s Echo Chamberのバンドに参加していて、彼女がTame Impala(テーム・インパラ) の2ndアルバム『Lonerism』に参加していたこともあり、僕とケヴィンは次第に親しくなっていったんだ。彼はミックスのやり方を知らない僕に、自分がやると言ってくれた。そして移動中のバスの中やコンサートの待ち時間で、二人で話し合いながら一度もスタジオに入らずに、作業を終えたんだ。目が開かれる思いだったよ。パソコン1つでどこでも音楽は作れるということを彼から学んだんだ。

MOODOÏD『Moodoid EP』

――パンデミックを経て、音楽の制作の仕方や、音楽に向き合う姿勢などに変化はありましたか?

パブロ:いろいろあった。昨年のロックダウンで、約2ヵ月パリのアパートに1人で暮すことになった。全く人に会わない生活は初めての経験だったけど、じっくり制作に取り組めたし、元々1人は好きだからいろいろ考えた。その結果、パリでなくても仕事はできるだろうと算段をつけて、マルセイユに引っ越したんだ。今のスタジオは海から5分のところだから、行き詰まったら海で泳いでリフレッシュして仕事ができるから、いいよね?

――素晴らしいですね。今後のリリースや活動予定について教えてください。

パブロ: 今夏に『PRIMADONNA vol.2』を完成させたい。今は2曲完成していて、残り3曲のコラボレーションアーティストを探している。vol.1同様、いろいろなアーティストとコラボレーションをしていくよ。まだ詳しく言えないけどイギリス人やスペイン人、日本人が候補だね。

――では最後に、パブロさんが音楽を通して伝えていきたいことや、大事にしていること、日本のファンに伝えたいことは?

パブロ:楽曲作りで最も大切にしてることは「愛」「恋」。このテーマは普遍的で世界中の誰もが理解できるよね。僕自身、愛や恋からいろいろな物事を学び、成長している。だからありきたりなようだけど、「愛に生きろ」、「何かに夢中になれ」、そして「情熱を持て」ってことかな。それが人生で最も大切だし、人生を明るくすると思うから。

MOODOÏD
ジャズ・プレイヤーのジャン・マルク・パドヴァーニの息子として生まれ、かつてはメロディーズ・エコー・チャンバーのギタリストとして活躍していたパブロ・パドヴァーニが率いるサイケデリック・フレンチ・ポップ・ユニット。テーム・インパラのケヴィン・パーカーがミックスした『Moodoid EP』(2013年)のリリース後、翌年にはデビュー・アルバムとなる『Le Monde Möö』を発表し、その独特で煌びやかなポップ・サウンドが、フランスのみならず全世界から注目を集める。2017年にリリースした『Reptile EP』でもケヴィン・パーカーがミックスを担当し、ネオンが溢れる日本への憧れを描いたエレクトロ・ハウス・トラック「Planète Tokyo」がヒット。2018年、セカンド・アルバム『Cité Champagne』がリリースされ、収録された水曜日のカンパネラとのコラボ曲「Language」は、SUMMER SONIC 2018とEurockéennesの連動企画として実現し、両者はフェスのステージ上での共演を果たした。
Twitter:@moodoidmusic
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Facebook:@Moodoid

author:

内藤明子

ライター、コーディネーター。カルチャー誌の編集を経て、2017年に渡仏。ウェブマガジンにてパリの最新情報やアーティストのインタビューなどを執筆中。IInstagram:@naito.ak

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