「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」オーナーのヴィクトワール・ドゥ・タイヤックが捉える日本文化と美容意識

2014年にフランス・パリで復刻オープンした総合美容専門店「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」。その歴史は古く、1803年に当時すでに名の知れた調香師であったジャン-ヴァンサン・ビュリーが創業。パリで高い地位を築いてきた同ブランドはセーヌ川の散歩道、ボナパルト通りに復活すると瞬く間に人気を呼び、台湾、ロンドン、ニューヨーク、そして2017年に東京・代官山にも出店。パリの創業当時のイメージに合わせた天井画やコントワー(総合カウンター)、重厚な什器に香水瓶や薬壺が並ぶ。19世紀のフランスを想起させるアーティスティックなパッケージと豊かな香り、天然素材をぜいたくに使用したスキンケア用品が多くの人の心をつかみ、日本には現在7店舗展開している。

「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」を復刻させたのは、オーナー兼アーティスティック・ディレクター、ラムダン・トゥアミとその妻で美容のスペシャリスト、ヴィクトワール・ドゥ・タイヤック。ラムダンは「ル・ボン・マルシェ」「リバティ」を経て、キャンドルの老舗ブランド「シール・トゥルドン」のアート・ディレクションを手掛けた、パリで名の知れたクリエイター。ヴィクトワールは「コレット」のPRを経験後、ビューティのエキスパートとしてパリで活躍してきた。世界を旅するジェットセッターの2人は、パリの店舗で自社商品と共に日本の伝統的な美容製品も取り扱っている。商品の監修を務めるヴィクトワールは、自宅でも日本の製品を多く愛用している。そんな彼女が、日本での個人的な体験やフランスと日本の美意識について語ってくれた。

――初めて日本を訪れたのはいつですか? その時の印象的な思い出は?

ヴィクトワール・ドゥ・タイヤック(以下、ヴィクトワール):15歳の時。当時、姉が東京の「コム デ ギャルソン」で働いていて、私は友人と一緒に初めて日本を訪れました。多くの外国人旅行者と同じように、日本で見たいものがありすぎてすべてを捉えることは十分にできなかったし、何度も道で迷子になりました。

電車に乗って友人と2人で京都へ行ったことが心に深く残る思い出。30年経った今でも、龍安寺を見た時の驚きと感動を鮮明に覚えています。その夜、チャーミングな日本人女性が営む小さな旅館で、初めて温泉に浸かりました。あと、15歳の2人の少女にとって、キディランドでの買い物は最高の体験でしたね!

――あなたとラムダンは世界中を旅して、さまざまな文化や製品に触れてきましたよね。多くの経験を経て、「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」のパリ店舗で日本の美容製品を取り扱うことを決めたのはなぜですか?

ヴィクトワール:私とラムダンは日本文化を愛しています。日本に家族が住んでいて、素晴らしいチームも持っているので、フランスの顧客に共通する日本の良質な製品を見つけることは難しいことではありませんでした。まず、最初に選んだのは「椿油」と「みねばりの櫛」。その後、洗顔に使う「ライスブランパウダー(米ぬか)」です。フランスの顧客は日本の伝統的な美容製品を大変気に入ってくれていて、特に「椿油」が最も売れ行きが良いです(「みねばりの櫛」は代官山本店と京都店で取り扱い)。

私自身も、ヘア用トリートメントに「椿油」と「みねばりの櫛」を愛用していますよ。入浴時には、日本のバスソルトを頻繁に使います。

――家族そろって何度も来日されていますが、美容製品以外でも、自宅で使っている日本製品は他にありますか?

ヴィクトワール:たくさんあります! キッチン用品、陶器、本、雑誌など。ラマダンは腰痛がある時に、日本の湿布にいつも助けてもらっています。子ども達は日本のご飯が大好きなので、日本からフランスに炊飯器を持ち帰りました。自宅には日本のお茶を種類豊富に常備していますし、食事の時には醤油、ポン酢、ウスターソース……とにかく食卓には日本の食品がたくさん並びます! 幸いなことに、パリには品揃えの良い日本の食料品店があり、私たちの好きな製品をほとんど見つけることができるんです。

唯一見つけられないのは、子ども達のお気に入りであるお菓子の「トッポ」です。「ポッキー」しか売っておらず、フランスで「トッポ」を購入できないことは子ども達にとって結構深刻な問題となっています……。

――日本の美容、食、文化に精通したヴィクトワールさんの視点で、フランスと日本の美意識をどのように捉えていますか?

ヴィクトワール:フランスと日本、両方の文化で“美的価値”が最優先にされる点が共通しています。美と調和への追求は尊重され、価値を高めます。

もちろん、フランスと日本の表面的なスタイルは異なりますが、どちらの文化も私達に視覚的に美を楽しむことを教えてくれるような気がします。

――日本初出店から約4年が経過しました。日本の消費者の特徴や他国との違いを見つけましたか?

ヴィクトワール:日本の顧客は店を訪れて、世界観や製品についてすべてを学ぶためにより多くの時間を費やす傾向にあります。購入するまでに時間をかけますが、フランスの顧客は対照的に、スピーディに買い物をします。

日本に出店以来、顧客は植物オイル、植物性パウダー、クレイなど自然由来の美しさに価値を見出してくれています。ナチュラルビューティのルーティンに身を委ねる準備ができたようです。

品質、美学、香水、装飾、自然美、そして独自のサービスといった「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」のすべてを、フランスや日本に限らず世界中の顧客が楽しんでくれています。

――新製品の開発やパッケージのデザインなど、創造するうえで最もインスピレーションを受けるのは何ですか?

ヴィクトワール:ラムダンの思考です! 彼は最も素晴らしいアイデアを持っているから。会社を持つことの利点は、自分達のアイデアを創造することができることです。

「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」は止まることなく、新しいプロジェクトが常に進行しています。私達は創造し、改善し、実験を無限に続けているのです。それは自分自身と顧客を驚かせることが大好きだから! 妥協しない唯一の基準は“品質”です。

――「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」の魅力を端的に言葉で表現するとしたら何と言いますか?

ヴィクトワール:フランス的美学の再発明。世界中の美の秘訣の専門店。

――最後に、今後日本で展開予定の新製品について教えてください。

ヴィクトワール:マスクに貼り付けて、マスク内の空気をリフレッシュしてくれるアロマシールが4月に展開予定です。夏にはようやく、ナチュラルビューティの指南書”An Atlas of Natural Beauty”の日本語版が出版されます。しなやかな香りが漂う、新しいタイプのソープも出る予定です。

ヴィクトワール・ドゥ・タイヤック
フランス名門貴族一家に生まれ、コレットのプレス、美容ジャーナリストとして活躍後、美容総合マガジン『コルピュス』を創刊。2014年に夫のラムダン・トゥアミと共に「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー」を復活させ、パリにブティックをオープン。共同設立者として同ブランドの商品監修に携わる。

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author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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