パリ発 ファッションジャーナル誌「The Skirt Chronicles」 日本の雑誌に触発された“言葉と写真の出会い”

2017年3月にローンチしたファッションジャーナル誌「The Skirt Chronicles」は、創刊からわずか4年にして世界100ヵ国を超える書店で取り扱われる人気雑誌へと成長を続けている。確かな審美眼を持って、知的な対話と哲学的な切り口でファッション、カルチャー、文学などさまざまな分野を探求するユニークな内容。特徴的なのは、特集がその名の通り時系列(クロニクルズ)に進んでいくこと。プロジェクトには世界中のアーティストが参加している。

発起人はスタイリスト兼ファッションディレクターのソフィア・ネヴィオロ、共同編集長のサラ・ド・マヴァレとハイディ・トゥイトゥ。過去の号では、フランシス・フォード・コッポラの妻、エレノアやピエール・カルダンの歴史的なクチュールのアーカイブ、アズディン・アライアのミューズの1人だったジャクリン・シュナーベルなどをフィーチャー。そして現在、第8号のリリースを記念して、3月中旬から「ビオトープ」が「The Skirt Chronicles」の未発表写真をプリントした別注アイテムを展開している。「雑誌作りの過程で、日本の雑誌に触発された」と語る彼女達。今回は共闘編集長を務めるソフィア・ネヴィオロに、雑誌愛と「The Skirt Chronicles」誕生の背景について聞いた。

コンテンツを時系列で表すための年代記という“クロニクルズ”

――3人はどのような仕事をしていますか?

ソフィア:パリで生まれ育った生粋のパリジェンヌであるサラはスタイリストとして、さまざまなブランド、プロジェクト、雑誌で活躍しています。ファッションスタイリストである彼女にとって、パリという街は最も適した拠点地です。

ハイディもパリ生まれのパリジェンヌで、歴史を学びました。現在、彼女は翻訳者であり詩人。昨年、初となる著書『We Have Been Meaning To』が出版されました。また、カリフォルニアにある書店に「Librairie Haydée」というコーナーを持ち、フランスの本のセレクションも担当しています。

私はニューヨークで生まれ、パリに12年間住んでいます。ジャーナリズムを学ぶためパリに来て、ここから離れたいと思うことなく住み続けています! 現在はファッションのコンサルティングと制作の代理店を持っており、日本企業を含む国内外の企業と仕事をしています。

――3人はどのようにして出会ったのですか?

ソフィア・ネヴィオロ(以下、ソフィア):ハイディの弟、ピエール・トゥイトゥ(パリの人気料理人)を介して出会いました。私達はすぐ仲良くなり、コーヒーを飲みながらお喋りしたり、近況を報告し合う親しい友人同士です。私達3人の共通点は、育ってきた過程で雑誌に刺激を受け、とても愛情を持っていることがあり、一緒に雑誌を作ることにしたんです。目標は、私達の周りでは見つけることができなかった何か新しい雑誌を作ることでした。

――The Skirt Chronicles」の名前の由来は?

ソフィア:雑誌作りのための最初の会議で、サラが持ってきた1960年代に刊行された「スカート」という名前の小さな雑誌からアイデアをもらいました。全15ページの写真が掲載された雑誌で、3人ともそのタイトルに強烈に惹かれて、“スカート”を名前に入れたいということになりました。 コンテンツを時系列で作成する方法を表すために、年代記という意味を持つ単語“クロニクルズ”を追加しました。 

――コンテンツの並びが編集した時系列で並んでいるのが一つの大きな特徴ですが、どんな意図があるのですか?

ソフィア:当初は、トピックの順番を決めるのが簡単という理由だけで、時系列で雑誌を作ることにしたんんです! また、雑誌の制作をリアルタイムで追うことを可能にしたいという思いもありました。制作を少しずつ積み重ねていった結果、1冊でき上がるような感覚で、これを読者と共有するのは私達にとって興味深いことなんです。

日本が持つ伝統と職人技、創造性の融合に感銘を受ける

――B5サイズの判型も最近の雑誌では珍しいですが、どのようなこだわりがあるのですか?

ソフィア:私達自身、大きすぎる雑誌を欲しいとはあまり思いませんでした。コンパクトで持ち運びやすく、いつも手元に置いておきたくなる雑誌。旅行にも持っていき、読む時間があればいつでも取り出せるようなサイズにしました。「The Skirt Chronicles」の哲学は“言葉と写真の出会い”に基づいていて、その両方に同じ重要性を与える雑誌を目指しています。

――特集の内容はどのように決めていますか?

ソフィア:各号の最初に編集コンテンツ会議を開き、3人が持ってきたアイデアと参考資料を出して話し合います。それは私達の最近の関心事と結びついているので、会議といっても自然な会話を繰り広げる中でコンテンツを決めることが多いです。

――過去には日本でトークイベントに参加したり、今回「ビオトープ」の別注アイテムの制作も手掛けています。日本にはどのような印象を持っていますか?

ソフィア:私達は日本をとても愛しています! 3人とも何度か日本に旅行したことがあり、多くのインスピレーションをもたらしてくれる国だと感じています。過去の号では、数人の日本人がコンテンツ制作に貢献してくれました。第2号のテーマは“日本とイタリアの出会い”だったんですよ!

日本が持つ伝統、職人技、創造性の融合に感銘を受けます。これらの側面を尊重するファッションブランド、「アナトミカ」「ムーンスター」「アーツ&サイエンス」などは私達にいつも良い刺激を与えてくれます。

――もともと3人は雑誌が大好きと語っていましたが、お気に入りの日本の雑誌は?

ソフィア:特定のジャンルに対する深い分析と高い精度を持つ日本の視点が好きです。お気に入りの雑誌はたくさんありますが、例を挙げるとしたら「her」や「Casa Brutus」など。もちろん「TOKION」にも馴染みがありますよ。「The Skirt Chronicles」の各号の最後のページに私達チームのポートレートと各店の住所を掲載しているのは、日本の雑誌をめくっている時に見つけたコンテンツから触発されたものです!

――The Skirt Chronicles」の今後の展望は?

ソフィア:2017年の創刊以来成長を続けています。私達の大切な“子供”であり、成長し、変化し、進化し続けます。第7号では少し思春期に入り、以前ならあまり快適だと感じられなかった経験をも可能にしていることに気付きました。さらなる変化を最新の第8号でも感じてもらえると思います。「The Skirt Chronicles」は実験と共有の場。ジャーナルの基礎となる寄稿者の協力的なアイデアと寛大さによって成り立っており、このネットワークが広がっていくと同時に進化し続けていきたいですね。

ソフィア・ネヴィオロ
マンハッタン生まれ、パリの大学でジャーナリズムを専攻。「WWD」や「コンデナスト トラベラー」の他、いくつかのインディペンデントマガジンで経験を積む。現在はコンサルティングと制作会社を持ちファッションに携わっている。

サラ・ド・マヴァレ
パリ育ちの生粋パリジェンヌ。パリが拠点の出版社「エディション ジャロウ」でファッションスタイリストとして経験を積んだ後に独立し、複数のブランドや雑誌で活躍する。

ハイディ・トゥイトゥ
パリ育ちの生粋パリジェンヌ。スペインの出版社が発行する「アパートメント」やコンデナスト社の「ドゥブル」マガジンでライターとして活躍。初の著書となる”We Have Been Meaning To”を昨年出版。

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author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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