連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」vol.2 never young beach のベーシスト、フォトグラファー・巽啓伍 1つの作品、1枚の写真の「余白」から思いを巡らせる

常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。

第2回は、never young beachのベーシストとして活動する巽啓伍。巽は、大阪芸術大学で映像学科を専攻したものの、周囲のように映画づくりへ熱意を抱くことができず、やりたいものや好きなことを模索する日々を過ごしたという。そんな中パトリック・ツァイの写真に衝撃を受け、彼が使っていたオリンパスのμⅡ(ミューツー)をリサイクルショップで手に入れて写真を撮り始める。以降、財布のようにカメラを携帯し、日記的に日常を撮影。2021年には写真展も開催した。そんな彼が影響を受けた写真集、アートブックとは?

『Our Friends』
シャオペン・ユアン

写真の余白から想像する

写真には、そこに写っているもの以外の部分、その周囲や背景を想像させる余白があります。自分が友人を撮影した写真を数年後に見返すと、今とその時とでは関係性が変わっていることに気付いたり、当時好きだった音楽を思い出したり、その写真をきっかけにいろいろなことが呼び起こされる。そういうところが写真のいいところだと思っています。映画や小説と違うのは、写真には実在している人のストーリーを想像できる余白があるということでしょうか。

この写真集は、中国の写真家レンハンが29歳の若さで自ら命を落としたというニュースを聞きつけ、友人でもあった写真家のシャオペン・ユアンが彼の葬儀に参列した若者達を撮影してまとめたもの。僕が実際に見た景色ではないけれど、参列した人がどういう気持ちで着る服を選び、この場所にいるんだろうと想像してしまいます。いろいろな人の気持ちが交錯する様子が見てとれるのが印象的でした。正解はわかりませんが、写真の並びやページ構成の意図を考えるのも楽しいところです。

バンドのアルバムの曲順を決める時に、ボーカルの(安部)勇磨が歌詞の並びを気にしていることがありました。10曲あれば10曲それぞれでいろいろな言葉を使っているので、リズム的に流れがよくても、「この歌詞のあとにこれがくるのは違う」といった感覚があるようで。それは、写真の並びを考えることにも近いのかなと思いました。

葬儀の行きなのか帰りなのか、後ろに人は乗っているのか1人なのか。それはわかりませんが、どんな気持ちでハンドルを握っているのか考えさせられます。美しい青い光が差し込んでいるのもどこか寂しげで。

『IMAGE』
ジャックムス

iPhoneで撮影した写真をまとめた1冊

僕はiPhoneではあまり写真を撮りません。こんなにハイテクなものがポケットに入っているのになぜだろうと思うこともあるのですが。なんとなく、スマホとカメラでは向けられたときの被写体の表情が違う気がしてしまいます。僕はスマホで自写真を撮っているのが楽しく感じないのかもしれません。

この写真集の写真はすべてiPhoneで撮影されたものです。「ジャックムス」というファッションブランドを手掛けるデザイナーのサイモン・ジャックムスが撮影していて、被写体は新作のバッグから家族や友人、バカンスの様子までさまざま。写真の色合いや配置に、写真家とは違うセンスを感じられる気がします。写真は全部タテ位置で一定の画角ですが、iPhoneの画面上と紙にプリントされ大きなサイズで見るのとでは、印象が全く違う。そこも惹かれたポイントです。

「ジャックムス」はブランド自体がユニセックス。ウィメンズよりではありますが、このフルーツの写真にはセクシャルな色気も感じられ、パラパラめくっていてもよく目につきます。ルッキズムとかに直接的にアプローチしているわけではなくても、撮っている人のいろいろな思想が垣間見えます。

『Viva Video!』
久保田成子

「ヴィデオ・アート」の先駆者、久保田成子の個展に衝撃を受けて

久保田成子さんは、ニューヨークを拠点に活躍したヴィデオ・アートのパイオニア。僕は、夫であるナム・ジュン・パイクの作品が好きで、彼女の存在を知りました。日本で個展が開催されていて(大阪の国立国際美術館にで9月23日まで。東京でも開催予定)、初めて作品を見たんです。その時の衝撃が大きすぎて、思わず図録を買ってしまいました。

感覚としては、ライヴを観に行って、演奏がまだ始まっていないのにバンドが登場した瞬間にもうかっこいい、一音鳴らしただけでさらにこみ上げるといったものに近い展示でした。わりと大きな展示だったのですが、中だるみすることもなく、その感覚が最後まで続く感じ。図録を見返すと、その時の衝撃が蘇ります。アート作品からこういった刺激を受けることは少ないのですが、見終わったあとに「自分は何ができるだろうか?」と考えさせられるし、「もっと受け取れることがありそうだ」と、もう一度見に行きたくなります。

久保田さんは映像と彫刻を身組み合わせた「ヴィデオ彫刻」をはじめ、マルセル・デュシャンとの出会いからつくられた「デュシャンピアナ」シリーズなど、映像を用いた前衛的な作品をつくっています。鏡を使った作品では映像が上下の鏡に映し出されるようになっていて、映像が続いている。基本的に有限でありどこかで止まるはずの映像が、永久に映し出されているのが不思議な感覚でした。

巽啓伍
1990年生まれ、兵庫県出身。国内外で活躍するバンドnever young beachのベーシスト。音楽活動のかたわら、写真展の開催、映画評論サイトのコラム執筆、ミュージックビデオで監督を務めるなど多角的に作品づくりを行う。
Instagram:@keigo_tatsumi
@never_young_beach_official

■「dotREC | 001_210821」(MAAと巽啓伍のコラボレーション作品、MAAデザインによる写真とグラフィックのTシャツを販売)
会期:8月21~27日
会場:KATA
住所:東京都渋谷区東3-16-6
時間:15:00〜20:00(8月21日)、13:00-20:00(8月22〜26日、27日の16:00からクロージングパーティ)
webサイト:KATA
オンラインストア:https://liquidroom.shop-pro.jp/

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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