コロナ禍の東京で20人のキャストを撮影 映像作家・写真家のジュリアン・レヴィが記した“パンデミックの作品”とは?

ストーリー性のあるシネマティックなフィルム写真を手掛けている、映像作家で写真家のジュリアン・レヴィ。そもそも作品は、写真と映像の他に文学やシネマなど多岐にわたる。ロマンティシズムとパンクバンドのメンバーとして活動していた経験から、挑発的でありながらどこか哲学的な写真や映像に、詩的で美しい文章が添えられるのも特徴だ。

新作写真集『No One is Here For You』では、コロナ禍にある2020年の東京に生きる若手クリエイターやアーティスト達を被写体とし、それぞれの生活を通して静けさに包まれた大都市の夜に潜む孤独や哀愁など繊細な感情を記録している。被写体には、見上愛、鳥飼茜、池田エライザ、 渡部豪太、 堀嵜ヒロキ、髙橋佳子、ケンゴマツモト、 出川光、ローレン・サイ、甲斐まりか等、漫画家や俳優・モデル、ミュージシャンなどさまざまな分野で活躍する面々が並ぶ。

コロナ禍で世界中の人が感じた“孤独”や“哀愁”等を記録した写真と言葉には、誰もが共感し、自分と重ね合わせてしまうほどだ。ジュリアンはそんな今の“東京”をどう見ているのか?

「東京の状況をイメージしづらい海外の人達にこの景色を見せたい」

――ジュリアンさんの作品は、写真、ビデオ、本、文学、映画など多岐にわたります。どのようにスタイルを確立したのでしょうか?

ジュリアン・レヴィ(以下、ジュリアン):私は、自分自身をストーリーテラーだと思っています。なので、どのメディアを使ってストーリーを伝えるかは、それほど重要ではないんです。伝えたいことがある場合、どんな手段を使っても伝える必要があるということ。必要性の問題です。自分の頭の中には、あらゆるストーリーや理論、キャラクターなどがあるんですが、外に吐き出さなければならない。もちろん、基本的には自分で脚本を書いて、映画を撮っていますが、時には文章や写真の方がふさわしい表現方法の場合があります。個人的には、他の人もいろいろなことに挑戦してみたらいいと思うんですけどね。それが、成功するか失敗するかは問題ではない。人間は複雑な生き物ですし、いつまでたっても満足することはなく、新しい何かを探し求めている。それが良いことだと思います。

――最新作『No One is Here For You』は、コロナ禍の東京をテーマにした作品ですね。この時期に作品を制作しようと思ったモチベーションを教えてください。

ジュリアン:コロナ禍が始まってすぐに、自主制作映画は制作そのものがほとんど不可能になってしまいました。一緒に仕事をしているプロデューサーは、2020年4月にすべての映像作品を一度保留にしました。それから、再開するまでには途方もなく長い時間がかかりましたね。なので、最初は家にこもって文章を書いていたんです。でも、しばらくすると、映像の仕事が恋しくなってしまって……俳優やモデルの友達も同じ気持ちだったようです。私達は突然、自由を与えられたわけですからね。それから、彼等の写真を撮り始めて。そのうちに、「リブロアルテ」から写真集を作らないかと声をかけられました。

誰もいない東京、人通りの少ない通りをさまようアーティスト……こんな光景は今しか見られないかもしれませんから、コロナ禍の東京を記録することも、モチベーションの1つです。特に、東京の状況をイメージしづらい海外の人達にこの景色を見せたいと思ったんです。

――以前出版された『Every Day Is Doomsday』もそうでしたが、ジュリアンさんの写真は、映像作家としてのあなたの経験やスタイルを生かした、ストーリー性のあるイメージと感じます。今回の作品では、どのようなストーリーを考えましたか?

ジュリアン:自分にとっては、写真だけでは十分じゃないんです。ストーリー性がないと迫力が出ないから。『Every Day Is Doomsday』は、写真とショートストーリーがミックスされた、日記のような作品でした。今回は序文こそ添えているものの、あとは写真だけで進むように物語が構成されています。写真の掲載順に関しては、まさに映画のシーンを1つひとつ配置していくような感覚で決めていきました。この写真集は、映画の劇中シーンを集めた写真集のような感覚で読んでもらえたらいいと思います。

――ストーリーを作る時に苦労したことはありますか?

ジュリアン:たくさんありましたよ。まず、予算がとにかく少なかったこと。ほとんどを1人で担当しました。メイクアップアーティストもアシスタントもいない、とにかく自然な状況で撮影したかったんです。フィルムカメラを使用したんですが、撮影そのものがとても美しくてピュアなものになりました。一方でとても難しくもありましたね。冬の夜に誰もいない東京を1人で歩きながら、寒い中で写真を撮った時「自分は一体何をしているのだろう?」という気持ちになったことが印象に残っています。

また、全体を通して、撮影中は深い孤独を感じていました。故郷に帰れなかったし、仕事のパートナーにも会えないので、写真を見せて一緒にセレクトすることもできないですし、お気に入りの場所は閉まっていて撮影することもできなかった。色のチェックもすべてリモートで行いました。そういう意味で、この本は間違いなく、“パンデミックの作品”です。かなりタフな撮影でしたが、いい経験になりました。

――被写体はどのようにキャスティングしましたか?

ジュリアン:ローレン・サイさんや志磨遼平さん等の親友もいれば、過去に一緒に映画を作った人もいますし、連絡を取っても撮影する機会がなかった人もいます。何か基準があったわけではなくて、「孤独をテーマにした本なんだけど、写真集に載りたい?」というようなやりとりがあっただけ。最初に「うん、やってみる」と答えてくれた人達が写真集に載っているんです。シンプルな話ですね。

「日本の映画界でもルールを破ることを恐れず映画を作ろうという情熱を持った人達に出会いたい」

――現在、東京を拠点に活動されていますが、東京にはどのようなイメージを持っていますか? 活動の拠点を東京に移した理由は何でしょうか?

ジュリアン:東京に拠点を移したのは以前、ニューヨークに住んでいた時に、映画の撮影で何度か東京に来たことがあって、徐々に東京が好きになっていったからですね。それで、しばらくここを拠点にすることに決めたんです……。東京は大好きで、私が生まれたパリと比べると、あらゆるものが異なっています。どちらが良い悪いではなく。東京という土地と人々は刺激的で、驚きもあります。親切ですしね。唯一、苦労するのはパリやニューヨークに比べて、インディペンデントかつ力強さを備えた映画を作るのが難しいこと。今でもフランスやアメリカ人プロデューサーと仕事をすることが多いですが、日本の映画界でも、ルールを破ることを恐れずに素晴らしい映画を作ろうという情熱を持った人達に出会いたいですね。それが私の使命だと思っています。日本のファンはより良い映画を求めていると思います。

――「シャネル」や「ミュウミュウ」などのラグジュアリーブランドの広告にも携わっていますが、クライアントワークへの取り組み方や魅力について教えてください。

ジュリアン:ラグジュアリーブランドは、どういうわけか自分の映画を気に入ってくれているようです、理由はよくわからないんですけど(笑)。とても光栄なことです。おもしろいプロジェクトを提案してくれるブランドと仕事をするようにしています。特にファッションブランドの映像作品は、自分が制作している作品とのルールが全く違うので、とても刺激的で好きです。純粋に芸術性を突き詰めることから、ファッションにシフトすることも難しいことではない。単に別物というだけで、どちらでも自分のスタイルや世界観を作ることができます。

――映画の仕事は、写真作品にどのような影響を与えていますか?

ジュリアン:よくわからないですね。ただ、色や動き、キャラクター作りなど、映画監督としての経験を写真に反映させているんじゃないかとは思います。私の写真は映画に似ているとよく言われるので、映画制作が良い意味で作用しているんだと思いますよ。

――最近、気になっている日本の文化は何ですか?

ジュリアン:日本のバンドのミュージック・ビデオをたくさん監督しているので、日本のロック・シーンにはかなり思い入れがありますね。自分が持っている日本に関する知識の中では、ロック・シーンが一番深いです。日本のアンダーグラウンドやインディーズ・シーンには、素晴らしいバンドがいます。あとは、小説もよく読みますし、日本のウイスキーは、夜に執筆する時に一役買ってくれています。

――今後の展望を教えてください。

ジュリアン:今の現実の状況は、あまり良くはないので、もっと映画や作品を作って自分の世界を構築することですね。

ジュリアン・レヴィ
パリ生まれ。現在は東京を拠点に活動する。作品は写真や映像、文学、シネマと多岐にわたる。パリのポンピドゥ・センターやアクト・ドゥ・ギャラリー、ニューヨークのギャリス・アンド・ハーン・ギャラリー等、世界各国の美術館やギャラリーで展示された。2014年には銀座の「シャネル・ネクサス・ホール」で個展「Beauty is you / Chaos is me」を開催し、2016年には写真集『Everyday is Doomsday』(Damiani)を出版。12月1日まで「ブックマーク」でコロナ禍の「東京」に生きる感性豊かな若手クリエイターやアーティストたちを被写体とした新作個展「No One is Here For You」を開催している。

■No One is Here For You
会期:12月1日まで
会場:ブックマーク
場所:東京都渋谷区神宮前4-26-14
時間:11:00〜20:00
入場料:無料

author:

芦澤純

1981年生まれ。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。数年の海外放浪の後、2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から「TOKION」エディトリアルディレクター。

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