監督・丸山健志 × 俳優・清水尋也 映画『スパゲティコード・ラブ』で描かれる大都市東京、若者が生きる“今”について想うこと

2021年11月26日に公開された映画『スパゲティコード・ラブ』は、東京を舞台に繰り広げられる13人の若者による群像劇。孤独に苛まれ、夢に食いつぶされそうになりながらも、微かな希望を胸にもがき苦しむ姿を、映像クリエイター丸山健志がスタイリッシュに切り取った。13人の登場人物は一見何の関係性もないように見えるが、物語が進むにつれて複雑に絡み合い1本の線になる……。そんな読解困難なほどに絡み合った彼らの関係性を「スパゲティコード」と呼ばれるプログラミングコードになぞらえ、タイトルにした。多くのMVやCMを手掛け、本作が初の長編映画となる丸山健志と、大森慎吾役を演じた清水尋也にお互いの印象や、作品作り、東京に対する思いなどを聞いた。

——まず、本作は丸山監督初の長編作品です。撮り終えた感想を聞かせてください。

丸山健志(以下、丸山):先日第34回東京国際映画祭で上映されて、日本のお客さんに初めて観ていただきました。その際に観客と僕とで質疑応答の時間があったのですが、42歳の男性が「若者の物語ですが、とても共感できました」とか、就職活動中の方が「今この映画に出合えて良かったです」と感想を寄せてくださった。その言葉を聞いて僕、ファ〜って舞いあがっちゃって(笑)。すごく嬉しかった。映画作品とは、僕のものではなく観賞した方のものだと思っている。だからこれからもっと多くの方に観ていただいて、その反応を見ることで初めて長編映画作品を撮ったという実感が湧いてくるんじゃないかな。今はちょっとまだ“わからない”というのが本音です。

——長編映画とMVとの作り方の違いはありましたか?

丸山:映画とMVとでは、作る目的が違います。映画はお客さんのために作るし、MVはアーティストのために、CMは企業のために作るものですから。ただ、今回関わってくれたスタッフはMVやCMを一緒に作ってきた人達。緊急事態宣言明けの、去年の夏頃から撮影を開始したこともあり、全員の熱量がものすごく高い状態で。楽しく、そしてストレスなく撮影できました。

——13人のキャストの1人に清水尋也さんを起用した理由を教えてください。

丸山:中島哲也監督の『渇き。』を見てから役者として注目していたんです。とてもカッコ良いんだけれど、何を考えているかわからない、それでいてセクシーさもあって……。なんだか得体の知れない印象で、とても気になっていました。それに、昔好きだった人に「最近好きな俳優っている?」と尋ねたら、清水さんの名前が挙がった。好きな人が「セクシーだから清水尋也が好き」なんて言っていて、本当ならイラッとするところなんだけれど、僕も清水さんが好きだったから嬉しくて(笑)。女性、男性問わず惹きつけられる存在ですよね。

清水尋也(以下、清水):わ、すごく嬉しいです。ありがとうございます。

——清水さんと丸山監督とはこの映画が初対面だと伺いました。清水さんから見た丸山監督はどんな印象でしたか?

清水:初対面にも関わらず、お会いした時からすぐにフラットに会話ができて。現場でもすごく話しやすい方でした。僕は役者として芝居をする際には、基本的に監督の指示に従うことを信条にしているのですが、丸山監督がとても話しやすい方だったのでいろいろと現場でセリフや動きを僕から提案させてもらったりしました。

——他の映画監督の現場との違いなどはありましたか?

清水:ずっと映画を撮っている監督とはアプローチが違うなと感じることが多くありました。例えばアングル。丸山監督の撮る僕は、普段見る自分の姿と全く違うんです。それがとても新鮮で、そして勉強にもなりました。

——今回13人もの登場人物がいますが、大変なことはありましたか?

丸山:まずキャスティングでは、13人のキャラクターが絶対にかぶらないことを意識しました。オーディションもしたり、直接オファーすることもあったりと起用の方法はさまざまでしたが、一人ひとりの個性が光るそんな役者を集めました。配役が決まるたびに自然と画が見えてきて、「じゃあ残りの人達はどうしようかな」なんていう風にパズルのように決めていきました。

——清水さん演じる大森慎吾はどこか冷めた役どころでした。清水さんご本人が共感できる部分はありましたか?

清水:それがあまりなくて……。僕って結構悩みを抱えることもなくて。楽しいことも大好きですし。

丸山:そう、清水さんって会う前に抱いていたイメージと全く違うキャラクターなんですよ。ナイーブで繊細な人なのかなと思っていたら、すごく軽い(笑)。なんかぴょんぴょんしてるんですよ。歩いていてもぴょんぴょんしているというかね。こんなに軽い人なのに、どうして繊細な役を演じられるんだろう? と本当に不思議で。

清水:(笑)。僕は普段から演じる役と、自分との性格に共通項を見出して芝居することはないんです。どんな役に対してもものすごくフラットに臨んでいます。台本を読んで役に対する理解は深めるけれど、読み込んで「現場でこう演じよう」ということはしません。自分でイメージを作り上げてしまうと、どうしても独りよがりの役になってしまうし、現場に立ったらイメージと全然違うってことのほうが多いですし。相手役の芝居も想像と違うと噛み合わなくなってしまいますしね。僕一人では芝居ができないから、その場で生まれるものを大切にしています。大森慎吾もそうやって生まれました。

SNSは距離感を意識したほうがいい

——作中では、SNSでの繋がりや承認欲求に対する描写が印象的です。お二人は昨今のSNSで人々が繋がることだったり、承認欲求にかられる人々に対してどう考えていますか?

丸山:こういう映画を撮影しておきながらこんなことを言うのは……って感じですが、僕は結構否定的に捉えています。理由は、単純に良い話を聞いたことがないからです。SNSで恋愛に発展したり、友達ができたりと、簡単に人が繋がることができる。でも、そうやって人間関係を築いた人からは後悔ばかり聞かされるんですよね。「こんなことしなきゃ良かった」って。でも一方で、その出会いが良いものであれば肯定的に捉えられたのかもしれないとも思います。寂しさを簡単に埋められるツールとして考えるとすごく有効的だし、SNSで日々の活力を得られるということであればすごく良いものだと思いますよ。

清水:僕はSNSど真ん中世代。SNSと共に育ってきたから、周りで使っていない人がいないし僕自身も使っている。SNSの良いところは、簡単に人と繋がることができるところ。会ったことのない人や異国の地に生きる人とも繋がれるわけで。それで仕事関係のコミュニティが広がっていくとか、接することのできない人とコミュニケーションを取るきっかけになる利点があると思います。一方で、そういう繋がりを作るハードルが低くなっているからこそ、繋がりの尊さを失ってきているのかもしれないとも感じています。簡単に繋がれるということは、簡単に捨てられる関係だと考えることもできる。だからSNSで良い思いをしない人もいるかもしれないですよね。

——SNSど真ん中世代として、どうSNSと向き合うことが正解だと思いますか?

清水:向こうにいる誰かとの距離感を意識して、ご都合主義で使うのが良いと思いますし、僕はそうしています。例えばコメント。僕に向けられる良い意見には「ありがとう!」って感謝しつつ、良くない意見に対しては「はいはい」って気にしない。実際、嫌なコメントもたまに来るんですよ。でも、僕は会ったことがない人に対して暴言を吐くことが理解できないので、そんな攻撃的な言葉を向けられても何も刺さらないんですよね。ダメージを受けないからこそ、うまく付き合っていけているのかもしれません。

「東京は夢をかなえる場所」

——本作は東京を舞台に物語が描かれています。丸山監督は石川県出身で、清水さんは東京都出身ですがそれぞれの東京に対するイメージとは?

丸山:夢をかなえる場所ですごく魅力的な一方で、夢に殺される残酷な場所でもある。でも、結果的には人として成長できる街ですよね。どんなことも経験できるから、魅力的で大好きです。僕は東京にいることで、ネガティブになることが全くないんです。だからずっとこれからも住み続けたいと思っています。そういえば、東京国際映画祭で記者の人に「東京が14人目の主人公ですよね」と言われて確かにそうだよなって、妙に納得してしまいました。

清水:僕の考えも丸山監督と一緒で、日本で一番夢が集まる場所であり、日本で一番夢が散ってる場所だと思っています。東京で生まれて育った僕からすると、生活の場。ずっと住んでいるからこそ、地方に憧れを抱くこともあって。でもいざ離れてみると「東京って楽しいじゃん」って思う(笑)。ただ帰ってくると息苦しさを感じることも事実で……。表現するのが難しいですけれど、大好きでもあり大嫌いでもあるというのが本音ですかね。ずっと平和で華やかで煌びやかなだけの街じゃない。そんな二面性を持っている街だからこそ、たくさん人が集まってくるのかもしれない。素敵な街だよな、って感じています。

——最後にこれからの二人の目標を聞かせてください。

丸山:世界と勝負できる映画作品を作り続けたいです。MVや広告も作り続けますが、勝負するのは映画で、と考えています。

清水:明確に目標を定めるのは肌に合わなくて。その都度選択肢を目の前に置いて、本当に自分がやりたいことだけを選択していきたいです。その結果、行き着く先が理想の場所でない時は自分の負け。そんな意識を持ちながら、子ども心のような純粋で楽しい充実感を忘れることなく前進していきたいです。来年はデビュー10周年の節目の年なので、より一層気を引き締めてより良いものを作って多くの人に見てもらえたらいい。そして、丸山監督にまた呼んでいただけたら嬉しいですよね。いつでもどこへでもすぐ駆けつけます!

右:丸山健志(まるやま・たけし)
1980年生まれ。石川県金沢市出身。2004年に脚本・監督を務めた学生映画『エスカルゴ』がぴあフィルムフェスティバル入賞、第6回 TAMA NEW WAVE 審査員特別賞を受賞しプロデビュー。以降、MV、TV-CM、ドキュメンタリーなど、発信の形にとらわれることなく話題作を発信し続ける。MONDO GROSSO「ラビリンス[Vocal:満島ひかり]」のMVでMTV VMAJ2017でBest Dance Videoを受賞
https://www.takeshi-maruyama.com

左:清水尋也(しみず・ひろや)
1999年生まれ。東京都出身。主な出演作に、映画『渇き。』(2014,中島哲也監督)、『ソロモンの偽証 前篇・事件/後篇・裁判』(2015,成島出監督)、『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019,山戸結希監督)、ドラマ『インベスターZ』、(2018)、『サギデカ』(2019)、『アノニマス 〜警視庁“指殺人”対策室〜』(2021)など。最新作に、連続テレビ小説『おかえりモネ』(2021)、声優初挑戦にして主演の座を射止めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』(2021,平尾隆之監督)、映画『東京リベンジャーズ』(2021,英勉監督)などがある。2019 年、第11回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。待機作にドラマ『となりのチカラ』(2022年1月スタート,EX系列)、映画『さがす』(2022年1月21日公開予定,片山慎三監督)などがある
http://www.office-saku.com/artists/new_actors/hiroya_shimizu.html
Instagram:@hiroyashimizv

■『スパゲティコード・ラブ』
現代の東京を舞台に、自らの存在意義や居場所、愛情を求めてさまよう13人の若者の姿をドラマティックに描く群像劇。一見無関係に思える13の物語は、やがて複雑に絡み合い、1つのエンディングに向かって疾走していく。
11月26日から渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開中
出演:倉悠貴、三浦透子、清水尋也、八木莉可子、古畑新之、青木柚、xiangyu、香川沙耶、上大迫祐希、三谷麟太郎、佐藤睦、ゆりやんレトリィバァ、土村芳
監督:丸山健志
脚本:蛭田直美
撮影:神戸千木
配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/spaghetticodelove/

Photography Hironori Sakunaga
Styling Shohei Kashima(W)
Hair & Makeup TAKAI


author:

渡部恵

編集者・ライター。大学では映画理論を専攻。卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。広告やウェブメディアでファッション・美容を中心に制作ディレクション、編集、ライティングを行なっている。

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