「もっといかがわしい奴が出てこないといけない」――“色気を超越した崇高な下世話さ”を欲して彷徨う神出鬼没のDos Monos、2021年を総括する ―後編―

前編はこちら)

2021年のDos Monosの活動における<音楽面>について語ってもらった前編に続き、後編では彼等が多岐にわたり繰り広げているコラボレーション、そこで露呈する“色気を超越した崇高な下世話さ”について独自の議論を展開してもらった。

ポップになるためには、自らをさらけ出して見世物になる必要がある

――荘子itさんをはじめとしたみなさんの神出鬼没の動き、つまり音楽に限らずあらゆるジャンルのおもしろい方々とコラボや対談を繰り返し、硬直した価値観を柔らかくする試みを繰り返すことで、Dos Monosの動向に対する受け手の期待はかなり高まってきているように感じます。ある意味、随所でバグを仕掛けて思考を揺さぶっていくキャラクターが確立されてきており、そこにみんながポップさを感じはじめているようにすら思うのです。それはDos Monosらしいことなのか、Dos Monosのみんなさんは果たしてそれを求めているのでしょうか。

荘子it:「Dos Monos面白いことやってるね」とはみんな言ってくれるんですよ。特に業界内ではその反応が多くてそれ自体はいいことなんだけど、でもポップさの地点に行くには、もっと自分をさらけ出して見世物になっていく必要があります。

――「さらけ出す」というのは具体的にどういったことを言うのでしょうか。

荘子it:アーティストが自分の作品について語るっていうのは、究極的には「こう見てほしい」ということだと思うんです。でも、その先に「あのアーティストってこう言ってはいるけど実際はこうだよね」って半分茶化されるようになってからが本物ですよね。尊敬される映画監督なんて、大体批評家に人間としてのダメなところを追及されはじめる。ドゥニ・ヴィルヌーヴとかも女性崇拝が強過ぎてフェミニズムからしても完全にアウトになってしまってるみたいな(笑)。そういう作家の抱える難題をオーディエンスに見破られてからが勝負なわけで。それを隠せているうちは幸福なようでいて、クリエイターとしてはまだ土俵に立てていない。

まあ、ドゥニ・ヴィルヌーヴはあまりに精神分析的すぎる愛でられ方だからそれはあまり好きではないんですけど(笑)、それでもある意味えぐられるような、見てほしくないところを見てもらえるようになったらいいですよね。ポップさって、つまり「いじりがい」があるかってことなんじゃないでしょうか。「やってることかっこいいよね」って感じじゃなくて、「なんかあいつらうざいんだけど」っていうくらい下世話な感じ(笑)。でも自分達は、まだそこまでは全然行っていない。

没 a.k.a NGS:『蓋』(2020年9月にテレビ東京の深夜枠で突如放映された実験的番組。番組と連動してDos Monosの新曲やMVが公開された)でも、特にそんなに悪口とかなかったですからね。

Dos Monos – OCCUPIED!

荘子it:『蓋』は、いつものDos Monosリスナーは全然反応しなかったですね。沈黙だった。そうじゃない、別の層の方が騒いでましたけど。でも普段とは全く違う層で勝負できるっていうのはすごくいいことだと思っていて、ああいった動きは自分達自身の交通を変える意味でもすごく良かったです。交通を作るだけじゃなくて、自分達自身も交通していかないと。

自分で自分に退屈してしまう絶望感。「音楽ってもっとおもしろいはず」

――おっしゃる通り、Dos Monosを知っているリスナーは『蓋』に対してすでに「Dos Monosっぽさ」を前提としたスタンスで臨むところがあるので、本当に重要なのは『蓋』起点でDos Monosを聴いた方の反応ですよね。実際、そのあたりの反応はどのようなものがあったか耳に入られていますか?

荘子it:『蓋』を考察する、みたいな人は多かったですよね。でも、第一義的にどんでん返しや伏線のような考察のしがいを必要とする人達ってどうなんでしょうか。別に娯楽と割り切って観てるわけだからそんなこと言われても大きなお世話かもしれないですけど。とはいえ、批評の方に居直って「だからこそ批評が偉い」なんて時代錯誤なことを言うつもりはない。

となると、やっぱり必要な回路って「考察しているうちに本当の快楽を知ってしまう」みたいなことしかないと思っています。文化資本の高い人達が言うような、「わかっているやつが分かっている」的なことってそれはそれで尊いけれど、Dos Monosはそこを突き破っていきたい。考察する人達の、そのうち数人が本当に覚醒しちゃうみたいなことをやっていきたいんです。

――なるほど、どの程度覚醒させられたかですね。

荘子it:でも実際は、「『蓋』の考察を楽しんでたけど最後ヒップホップグループの宣伝だったのがわかって冷めた」みたいなことを言ってる人も一定数いましたね。まあ、そんな感じで、悲しいかな何も芽生えなかったねっていう出会いがほとんどですよ。人生なんてそんなものです。出会いなんて大体そうじゃないですか。何にもならない、単なる快楽だけが残ったね、みたいな。でもその中で、低い確率ですごいことが生まれるかもしれない。そうなるには、ある程度までは交通量を増やすしかないです。コンセプトと譲れないポイントを守りながら、ちゃんと交通をしていきたい。あとはもう確率の問題なので。

TaiTan:自分の場合、オードリー・タンとコラボしましたとか、DAWを使った広告やりましたとか、その積み重ねによって「Dos Monosってそういうことをやるグループである」という認識が盤石になっていくっていうのは、ちょっと前までは興味がありました。そういう意味では『蓋』も成功だったのかなと。ただ、そればかりが期待されはじめると、もう予想の範疇になってしまう。自分で自分に退屈しちゃうっていうことへの危機感はすでに芽生えはじめていますね。

Dos Monos – Civil Rap Song ft. Audrey Tang 唐鳳

――なんとなく、そう思いはじめているのかなって気はしていました。

TaiTan:もっと他のアーティストに関しても奇想天外な動きが見たいんですよね。もっと派手に驚きたい。俺等くらいの、どこの事務所にも所属してなくて資金もたかが知れてる人達がアイデア次第で色んなこと仕掛けられるのに、もっとリソースを持ってる人達って世の中いっぱいいるじゃないですか。僕等よりよっぽど潤沢な予算がある人たちが、それなりに曲作ってMV作ってってルーティン回してるだけってなってしまうのは、1リスナーとしては物足りないというか。別に批判してるわけじゃなくて、自分は「そのやり方があったか」っていうのを常に求めているので。カニエ・ウエストみたいな、ヤバいことする人が日本から出てきてもいいのになって思います。もっとそういう人達に振り回されたい。

荘子it:みんなで祭りを起こしていきたいんですよね。僕等って本当に、果てしなく非力なので。1人のアーティストがかっこよくても、一部の好事家が喜んでるだけで全然意味ないじゃないですか。もっと大きい存在が動いていかないと、文化として社会に還元していかない。そういうことを嫌う文化人もいるけど、自分は同意できない。もっとみんなでやっていきたいですよ。

TaiTan:「音楽ってもっとかっこいいはずなのに」っていう気持ちが最近すごく強いんですよね。みんなで右にならえで曲作ってMV撮ってルーティンをまわしてるのって、音楽とかやってる人達が最も忌み嫌うべき態度なはず。すごいつまんないじゃないですか。そこに対してずーっと退屈な気持ちや渇望感がある。音楽ってもっとおもしろいはずなんですよ。だから僕は、同じような志を持っている色々な領域の人達と結託して、どんどんたくらんでいきたい。

――そろそろ、「Dos Monosおもしろいよね」って言ってる人達も、ただおもしろがっているだけじゃなくて一緒におもしろいものを作っていくことになるといいですよね。

荘子it:自分はずっと10代の頃から、文化的な領域だけで交通を考えていたんです。シネフィルカルチャーやクラブカルチャーがもっと深いところで結びついたらいいのにな、両方繋げることができたらなって思っていた。自分達は、ある意味その部分は結構成功していると思います。でも、それはまだ文化の領域での交通で、たとえば経済へは結びついていない。自分たちは別に雇用も生み出せてないし。結局、文化をめちゃくちゃ本気で考えていくとそこにたどり着くんですよね。最初はそういう考えをしていなかったからこそ、最近はクリアに見えてきました。

三者三様にアプローチした『ドキュメンタル』のタイアップ新曲

――新曲「王墓」は『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』とのタイアップ曲ですが、これもまた意外な展開の1つでした。

荘子it:『ドキュメンタル』からは最初は「既存曲を使わせてください」って来たんですけど、こちらから、必ずもっと合うものができるから新しい曲を作りたいと申し出ました。

TaiTan:昔の曲使っても発展がないし、向こうに何を提示したらおもしろいコラボレーションになるかと。

荘子it:僕とTaiTanはお笑いの要素をちょっと入れたりもしたんだけど、没はそうでもなかった。自分は日本文化の中におけるお笑いについて書いて、TaiTanはもっとちゃんとお笑いの戦いの内側の視点に入っていった。

TaiTan:俺のはもうほとんど『ドキュメンタル』を作ってきたチームに対するラブレターというか(笑)。

荘子it:そうそう(笑)。自分はもう少し一歩引いたところから書いて。で、フックを挟んで没はお笑いに一切関係ないことを書いている。でもそれも、没の中で「いつもと変わらないスタンスで書いたほうが、広がりがあっておもしろくなる」っていう考えがあって。結果的に、3人がそれぞれ考えたうえで、クライアントワークを決められた枠の中だけで返さずにやっている。俺とTaiTanはそれぞれのプロ意識でクライアントワークを想定以上におもしろくしてやろうって思っていて、没はある意味アマチュアリズムの極致としてそれをやらないっていう判断。

没 a.k.a NGS:俺の場合は、普通に音楽でそこを破っていけるようなことをしてるからメタ的なことをわざわざやらなくても、という感覚。音楽でヤバかったらヤバいと思ってるから。自分は普通にMVも好きだし、そういう消費をしている人だし。Dos Monosの中だからこそそういった自分のおもしろさは出ていると思います。

荘子it:配置なんだよね。意見を突き合わせるとそれぞれが対立しているように見えるけど、それをうまく配置することで、Dos Monos全体としてはいい感じのものになる。

没 a.k.a NGS:自分はずっと葛藤してましたけどね。今はもうその配置をしてるっていうのに自分で納得している。

荘子it:没は常に葛藤して煩悶してる男だから。1年前くらいは自分とかの方が主張が強かったんだけど、最近はもう俺は曲作るだけの人みたいな(笑)。一番過激なのは、両極としてのTaiTanと没で、俺はもう良い曲だけ作ればいいかなって(笑)。

「ハッタリ感に世間が振り回される1年になってほしい」。Dosが目指す2022年

――この、いろいろ行き詰まってしまっている状況の中で、音楽業界だけでなく他のさまざまな業界も含めてDos Monosの動きって参考にできると思うんですよ。今、もう全部がテンプレ化してるじゃないですか。

荘子it:みんなそれっぽいことだけは言えるんですけどね。ナマの人間っぽさが出てこないと魅力的じゃないのに、みんなきれいなものをきれいなまま横に流してしまう。それでうまくまわっているならいいのかもしれないですけど。でも、やっぱりベースはそこだと思います。まずそもそもの土台として、ちゃんとエロさを出すのが大事。いわゆるセクシーじゃない意味のエロさですね。本当に無菌のものばかりで、ちょっとでもそこに付臭したらめちゃくちゃエロいのにって思います。まずはそこさえあれば大抵おもしろいものにはなるし、世の中のおもしろいものの99%はそれだと思う。

――生身の人間の息づかいが香り立つだけで全く違ってきますよね。

荘子it:でもさらに言うと、それは結局「人間」の中でわちゃわちゃやってるなって程度でのすごさでもある。あと1%のすごいものは、「人間」を超える「神感」を持っていると思います。エロさを超えた崇高さ。そういうことを考えていると、実はDos Monosを好きでいてくれている人達よりも、そんなこと全く思ってない人達と繋がる方がすごいんじゃないかと思えてくる。そこで初めて、本当の「すごさ」が試されるのかなと。例えば、日本の最も土着的な文化としてお笑いとか野球があるじゃないですか。その中でのトリックスターとして、われわれは新庄(剛志)にならないといけないと思うんです。

没 a.k.a NGS:新庄はすご過ぎるよね。

TaiTan:みんな大谷で満足し過ぎたんですよ(笑)。僕は、もっとハッタリの効いた、いかがわしい奴をこそ待望してる節があって。だから、新庄(の北海道日本ハムファイターズ監督就任のニュース)は今年一番嬉しかったです。彼は来年、プロ野球の再解釈みたいなことを絶対やると思うんです。たとえ最下位でもファン興行として経済がまわるというような。そういうハッタリ感にも世間が振り回される1年になってほしい。たしかにスーパースター大谷はすごいけど、それだけがすごいんじゃない、こういう価値観もあるんだってみんなが発見するっていう。

――しかも新庄は、プロ野球という封建的な世界であれをやるのがおもしろいですよね。

TaiTan:だから、自分は新庄みたいな人と仕事がしたいですね。そういったセンスとコネクトしていきたい。スベっててもスベってないことになるっていう、あれってなんなんでしょう。ずっと見ていられるし、神感がありますよね。しかも、それに対して来年中日ドラゴンズは立浪が監督で、長髪禁止とかって言ってるんですよね。新庄vs立浪っていう構図は見ものですよ。新庄的な意味のわからない昭和のハッタリ感で成り立っている価値観が勝つのか、それとも旧来の昭和的価値観が復権するのか。日ハムが最下位だったら、それはそれで新庄の勝ちだと思う。

荘子it:来年のプロ野球、少なくとも日本の政局よりはおもしろくなりますね。

Dos Monos
東京都出身の3MCから成るヒップホップクルー。中核、ブレイン、メインのビートメイカーである荘子itが中学、高校の同級生だったTaiTan、没を誘い、2015年に結成。デビュー前にSUMMER SONICに出演し、その後、JPEGMafiaなどが所属しているLAのヒップホップレーベル、Deathbomb Arcと契約。海外公演などを経て、2019年3月にファーストアルバム『Dos City』をリリース。2020年7月にセカンドアルバム『Dos Siki』、翌2021年の同日にそのリメイク盤で、black midi、崎山蒼志、小田朋美、SMTK、Qiezi MaboとともにJAZZ DOMMUNISTERSが参加した『Dos Siki 2nd Season』を発表。その後9月にはアルバム『Larderello』『Dos Siki (1st & 2nd season)』(CD)をリリース。
Twitter:@dosmonostres
YouTube:Dos Monos

Photography Kana Tarumi
Edit Ai Iijima

author:

つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿多数。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)など。 X:@shadow0918 note:shadow0918

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