「もっといかがわしい奴が出てこないといけない」―“色気を超越した崇高な下世話さ”を欲して彷徨う神出鬼没のDos Monos、2021年を総括する ―前編―

結局、“色気”と“下世話さ”なのだ。彼等ははっきりとそう言っている。

3rdアルバム『Dos Siki 2nd Season』のリリース、テレビ東京の実験的番組『蓋』と連動して解禁された4thアルバム『Larderello』、そして今回新たにドロップされた新曲「王墓」。その合間を縫って行われたライヴやさまざまな対談等のゲリラ的活動。突如現れては消えるDos Monosメンバーの動きは刺激的でおもしろく、世間の凝り固まった思考を柔らかくほぐしながら、それでいて私達を途方に暮れさせる生々しさを醸し出している。

その生々しさこそ、Dos Monosが言うところの“色気を超越した崇高な下世話さ”なのだと思う。今回、2021年の総括として組まれた本インタビューの前編では9月に実施されたライヴ「Theater D」やSMTKとのコラボレーションについて語ってもらった。身体的に踊れる音楽でありながらも、そこに留まらず新たな“交通”を通わせていく、つながっていなかった新しい回路が開いていく快感。そして、インタビューは後編で一気にドライブしていく。「音楽ってもっとおもしろいはずなんですよ」と力説するメンバーの会話は、最終的に「いかがわしい奴が出てこないといけない」という発言に繋がり、とある“いかがわしくハッタリの効いた”プロ野球監督の話にまで広がっていった。

相変わらず、Dos Monosのやっていることはおもしろいし、本インタビューもいわゆるおもしろいエピソードに溢れている。しかし、それを“ただ面白がっている”ことへの危機感もある。これからDos Monosが目指す地点は決してDos Monosだけでは成し得ないもので、例えば荘子itが後編で「文化を社会に還元していく」と表現するその地点は、私達のいかがわしさへの変身とハッタリ性の獲得を(暗に)要求するものであるかもしれない。

「ストイックな思い込みが晴れるような体験」。ライヴで得た新たな手応え

――2ndアルバム『Dos Siki』のセルフリメイク作『Dos Siki 2nd Season』を今年の夏にリリースされました。その後、9月のライヴ「Theater D」でそれらをゲストとともにパフォーマンスされましたね。私の周りでは、あのライヴが今年のベストだったと言っている人が多くて、本当にすごかった。リハの時点からいい感じにハマってたんですか?

没 a.k.a NGS:めちゃくちゃ良かった。リハが一番良かったです。

荘子it:意外とリハで最高の音が出ちゃうっていうのはありますね。ライヴならではの、お客さんに向けたエンタメ要素っていうのはもちろん本番のほうがあると思いますけど。

――中でも、「A Spring Monkey Song/春の猿の歌(feat.崎山蒼志、SMTK、小田朋美)」はコラボでありながらもバトルのようでした。崎山蒼志さんの歯を食いしばるようなラップや、小田朋美さん・SMTKのメンバーの地団太を踏むような演奏、それらはDos Monosのラップと調和するというよりも、戦っているように聴こえました。あのステージのマジックは一体、なんだったのでしょうか。

荘子it:もともとDos Monosって、バンドでできないこと、バンドでは出せないグルーヴをやりたいっていう思いが1作目からあったんですよ。バンドだと、それこそクリス・デイヴがグルーヴを革新したと言われているけど、あれってやっぱり人間がマシンビートを取り入れた以降の様式美があるじゃないですか。そうじゃない、もう一回マシンやDAWでしかできない変なヨレとかを出していきたいなという考えがあったので、Dos Monosはずっとバンド編成に対して憧れはありつつも、おもしろくなくなっちゃうんじゃないかという恐れや抵抗があって手を出してこなかったんです。でも、この機会にやってみようと。

荘子it:理想のグルーヴを出すためにはバンドでの練習の時間もいっぱいとらないといけないなと思ってたんですけど、セッションしたら意外と1時間ぐらいでいい感じになっちゃって(笑)。それまでのストイックな思い込みが晴れるような体験をしました。デビューから3年くらいずっと封印してきたけど、なんかあっさりいけるなと。手応えがあった。

SMTK、崎山蒼志と音を交わしたスリリングなステージ

――ゲストに、ライヴでの即興性を大切にする方達が多かったのでそういう意味でも本番はめちゃくちゃすごかったですね。あと、SMTKはスリリングさみたいなものが間違いなく出せる、その“間違いなさ”みたいなのがあるじゃないですか。一方で、例えば崎山さんはガチでスリリングなところがあると思うんですよ。狙ってやるというよりは、あのライヴでも結構ギリギリの危うい感じが出ていておもしろかった。

没 a.k.a NGS:そもそもあのライヴだからという以上に、あのサウンドの中に崎山君を入れちゃうということ自体がスリリング(笑)。

荘子it:崎山君は高校生でデビューして以降第一線でやってるけど、良い意味で場慣れしてないというか(笑)。あれは逆にすごいですよ。

A Spring Monkey Song (feat. Soushi Sakiyama, SMTK & Tomomi Oda)

没 a.k.a NGS:でもやっぱりあのメンバーはスタジオ盤で1回一緒にやってたのが大きかった。それがなくて、いきなりライヴのためにセッション始めたらなかなか苦労したんじゃないかな。

荘子it:そうだね、共通認識があったからね。でもスタジオ盤の音源も実は同時に演奏はしていない。まず、自分の「春の猿の祭典」っていう曲のドラムだけ抜いた音源に石若駿に叩いてもらって、次ベース抜いてマーティ(・ホロベック)にベース弾いてもらって、ギター抜いて細井徳太郎にギター弾いてもらって、ピアノとコーラス抜いて小田朋美にピアノ弾いてコーラス歌ってもらって……というように、1個1個引いて足していくやり方で作っていった。一斉によーいドンでバンド演奏はしていなくて、その切り貼り感、ガチャガチャした各パートがバラバラに動いている感じがグルーヴにも繋がっている。

荘子itが探る、トラックメイクに隠されたグルーヴ

――今年は、SMTKの2ndアルバム(『SIREN PROPAGANDA』)にもDos Monosとして参加されましたね。収録曲「Headhunters(feat. Dos Monos)」のトラックメイキングについて伺いたかったです。過去の音源を、記憶や感覚を頼りにサンプリングしていくいつもの荘子itさんの方法と違い、SMTKの演奏音源を元にサンプリングし作られた曲でした。ソースに対する記憶が介在しないこと、もしくはソースが「その音源しかない」という有限性によって起こったクリエイティビティの変化はあったのでしょうか。

荘子it:実はサンプリングする時って、素材になってしまえば大体同じなんですよね。記憶があるものもないものも、結局最終的には音を解体して料理していく段階になるとほとんど変わらない。それよりも、いろいろなサンプル源にあたって曲を作る時って、自分の発想を超えたいっていうのがある。いろいろごちゃごちゃやって作ってる間に、ノイズも含めてカットしきれないカサカサした微細な揺らぎがどうしても残ってしまうじゃないですか。

SMTK 「Headhunters (feat. Dos Monos)」 Official Music Video

荘子it:即興的なダンスを踊るように、その揺らぎを拾って、新しい発見をしながら作れるっていうのがいいんですよね。逆に、「あのネタ使いたいな」って使うフレーズが決まっている時は、ある意味道が見えてる状態でそっちの方はわりと置きに行っているというか。だから、そもそもそういうサンプリングの使い方はあまりしないようにしていますね。

――記憶によるサンプリングというよりは、そこで偶然性を欲していると。

荘子it:ただ、最新曲「王墓」に限っては、自分の中で4、5曲くらい決まったレファレンスがあるんです。サンプリングはゼロなんですけど、それはある意味ゴールが見えているということ。なので、いつもよりは少し自分の中に理想のイメージがあって、それを具体化していくような作り方をしました。今回、珍しくAbleton付属のベースを弾いてるんですけど、めちゃくちゃいじりがいのある音が出たんですよ。いつもはベースラインもサンプリングで作るから、自ずと異変が起きやすいんですけど、今回は鍵盤で弾いてる。でも、最初にベースラインを思いついても、結局はそれを弾いた後に音色をいじっている段階が一番クリエイティブで。

荘子it:本当に最初の、いわゆる楽譜やmidiが果たす役割は取っ掛かりでしかない。自分はあまりフレーズ自体をいじるのは興味ないんです。ベースラインもあの曲はずっと同じ。ドラムの展開を変えるのも、DTM始めたての頃は結構やってたんですけど、その欲求は、今はあまりない。TaiTanのヴァースとかはギミックのある展開が合うので必要最低限はやったりしますけど、基本的にはワンループで通しますね。

シンプルな下部構造、複雑怪奇な上部構造。Dos Monosの世界を行き来するおもしろさ

――Dos Monosの音楽って、実は身体的に聴けて「踊れる」ものが多いですよね。一方で物語的にも聴ける。前者は主に音として、後者は主に意味として聴かれていて、当然ながらその2つの回路は絡み合っています。そこの絡み合いがDos Monosの音楽のおもしろいところですよね。

荘子it:「上のレイヤー=物語的に頭で考える部分」と、「下のレイヤー=肉体的・身体的にノる部分」という上部/下部構造があって、それはウワネタとビートの関係でもありますよね。Dos Monosの場合、下部構造はわりとシンプル、上部構造は複雑怪奇なもの、という作りだと思います。自分は、過去に上部構造の探究にどっぷり漬かっていた時代もあるんです。それに対して嫌だなと思うこともあって、下部構造の下世話さというか、シンプルな強さを持ち込みたいと思うようになりました。

つまり、下部構造が踊れるものになっていて、その上で上部構造もおもしろいものにしたいと。その上部/下部の交通をしたいんですよね。例えば、最近、『やさしい女』のリバイバル上映の際に、ロベール・ブレッソンの映画について中原昌也さんとトークイベントをやったんですけど、ブレッソンの映画ってめちゃくちゃビートが効いてるんですよね。カトリック的な聖なる作家という上部構造のイメージで語られますけど、下部構造がすごくしっかり通底していて実はノれる映画なんですよ。そういったビート感は抽出して取り入れていきたい。

没 a.k.a NGS:意外に、Dos Monosってラッパーのキャラ立ち自体がおもしろいんじゃないかなっていうのがあって。みんな上部構造のことを言うけど、ちょっと引いてみたら結構キャラでやってたりもする。自分はそこで貢献していると思うし。

TaiTan:自然にビートにノらせてたら、気付いたら単語が襲来してくるというのがDos Monosのおもしろさなんじゃないでしょうかね。いつも作る時は荘子itからテーマだけが与えられて、それぞれが全く違う方向にリリックも単語も書き連ねていくんだけど、それをリスナーが勝手に繋げて聴いてくれる。そう思うと3人でやってる価値はありますよね。

荘子it:上部構造の世界だとつい下部構造がないがしろにされがちなんだけど、上部構造で物語やイデオロギーを紡いでいっても、そこに亀裂をもたらすビートでありたい。

TaiTan:でも、どちらにせよ、繰り返し聴くことでもう片方が見えてくるということはある。ビートだけ聴いてても、めちゃくちゃおもしろい単語が1つだけ聴こえてきたとかおもしろいしね。

荘子it:そう、今度は逆にただ踊ってただけなのに、いつのまにか上部構造に行ってたみたいな。その相互交通が大事ですよね。

――ライブでは、交通の回路が普段の聴取時とは違う形で突然開かれることがあるからこそエキサイティングなのかもしれないですね。

Dos Monos
東京都出身の3MCから成るヒップホップクルー。中核、ブレイン、メインのビートメイカーである荘子itが中学、高校の同級生だったTaiTan、没を誘い、2015年に結成。デビュー前にSUMMER SONICに出演し、その後、JPEGMafiaなどが所属しているLAのヒップホップレーベル、Deathbomb Arcと契約。海外公演などを経て、2019年3月にファーストアルバム『Dos City』をリリース。2020年7月にセカンドアルバム『Dos Siki』、翌2021年の同日にそのリメイク盤で、black midi、崎山蒼志、小田朋美、SMTK、Qiezi MaboとともにJAZZ DOMMUNISTERSが参加した『Dos Siki 2nd Season』を発表。その後9月にはアルバム『Larderello』『Dos Siki (1st & 2nd season)』(CD)をリリース。
Twitter:@dosmonostres
YouTube:Dos Monos 

Photography Kana Tarumi
Edit Ai Iijima

author:

つやちゃん

文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿多数。著書に『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)など。 X:@shadow0918 note:shadow0918

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