インディペンデントブックストアが選ぶ「2021年ベストアートブック」

2021年も12月末。この時期といえば、SNSも含め、さまざまなメディアで年間ベスト○○が次々と発表される頃合いだ。そこでTOKIONは、アートブックを取り扱うインディペンデント書店に「2021年ベストアートブック」を聞いた。

コロナ禍で美術館などに気軽に足が運べなくなり、ポジティブマインドが低下するなど、アートを身近で楽しむ時間が少なくなりつつあるが、2020年に比べ2021年は、展覧会の開催も徐々に開催され始めてきている。そしてフィジカルのイベントの開催に合わせて、アートブックや写真は世界各国で多数リリースされ多くの人を元気づけてくれた。ここで紹介された本を片手に、2022年はこれまで以上に芸術を堪能したい。

Tokyo and my Daughter(完全版)/ホンマタカシ

絶版高額古書として取引されていた名作が、15年ぶりに完全版としてリプリント。固有性が希薄なコンクリートとガラスの都市のデザインされた狭小住宅で、洗練された家具やモノに囲まれた小さな娘とのささやかな日々のイメージ群は、実はタイトルから想定するような家族のアルバムではなくて、女の子は友人の子で家も友人のお宅、という”私写真”を挑発するような「虚実の転倒」が含意されている。これが不思議な感覚を呼び起こす。まったく知らないのに親密な私空間にいる感覚。「どこでもない東京」の「記憶喪失者のリアリティ」。

SUNSET COCKTAILS/ギヨーム・オーブリー、スターリング・ハドソン、関口涼子

パリの建築家兼アーティストで芸術科教授でもある、ギヨーム・オーブリーの夕陽に関する美学論考をベースに、パリ拠点のアメリカ人ミクソロジスト、スターリング・ハドソンが考案した12種類のカクテルを紹介。そして、パリ在住の日本人詩人、関口涼子がそれぞれのカクテルに芸術作品をペアリングし後書きを添えている。例えば「HOLLYWOOD」というカクテルには、美術家のエド・ルシェと映画監督のビリー・ワイルダーなど。美術史の文脈でミクソロジーカクテルを考える。視覚のみならず、味覚と時空までも取り込んだ身体的かつ超越的な芸術鑑賞。このエスプリに脱帽する。

Selected By BOOKMARC

ブックマーク
マーク・ジェイコブスがブランドのインスピレーション源を表現する場所として、日本では原宿に2013年にオープンした「ブックマーク」。これまでに国内外アーティストや作家のサイン会、エキシビションなどの開催は延べで150回を超えており、扱われている書籍は、国内外、メジャーマイナーを問わず幅広い。今回の選書は、「ブックマーク 東京」の統括として書誌仕入れとイベントのブッキングを担当する持田剛による。
http://www.marcjacobs.jp/contents/bookmarc.php

Breakfast/ニール・マクディアミッド

写真家、ニール・マクディアミッドが4年にわたり撮影した、テーブルに置かれた朝食の写真をまとめた作品集。毎日微妙に変化する光の質感、色、テーブル上のレイアウトから、朝食というシンプルな日常のシーンに美を見出している。イギリス人作家のイアン・フレミングによる印象的なフレーズ「Hope makes a good breakfast. Eat plenty of it.」から始まり、穏やかな時間が流れている本書は、一息つきたい時など何度でも開きたくなる。

Janus/ビルデ・ピオンテック

アイデンティティの構築や潜在意識、社会システムなど、目に見えないものをテーマに作品を制作する写真家、ビルデ・ピオンテックによる、「記憶と変化」についての一解釈をまとめた作品集。
写真はスタジオの片隅で撮影され、アーティストが制限された空間の中でどのようにインスピレーションを得ることができるかを探っている。魅惑的な存在感を放つ果物、野菜、花、そして身体と物体が織りなすシュールなイメージに引き込まれ、少し不思議な視覚的体験ができる。

SWIMMING POOLS/マーリア・シュヴァルボヴァー

スロヴァキア人の写真家、マーリア・シュヴァルボヴァーによる作品集。世界的に注目を集めたデビュー作「Swimming Pool」を中心としたいくつものシリーズがまとめられている。
レトロな雰囲気が漂う一方で、どこか遠い未来や別世界をも彷彿とさせる彼女の作品。そこに感情はなく、見る者に不思議な違和感を与えて惹きつけ、夢の中のような世界へと誘う。独創的な色彩、共産主義時代の要素、日常的な空間を取り入れたマーリアの美学を存分に感じることのできる1冊。

Selected By BOOK AND SONS

ブック アンド サンズ
タイポグラフィや写真集を中心にアートブックを取り扱う専門書店。デザイナーでありオーナーの川田修が、専門書や希少な本に触れる場所を作りたいという想いからオープン。大手書店に並ばない自費出版の本を直接仕入れるなど、独自のセレクトを大切にしている。今回の選書は、川田修による3冊。
https://bookandsons.com

ここにあるしあわせ/近藤亜樹

鮮やかな色彩と大胆な筆跡が魅力的なペインター、近藤亜樹の初の作品集。2019年冬から2020年春にかけて、故郷の札幌で描いた色とりどりの花や食材、澄んだ瞳の人物像などの瑞々しい近作が収録されている。随所に登場する母子像からは、母となった近藤自身の、子への温かい愛情を感じさせる。尊い命を見つめながら、日々のしあわせをすくい上げ描く近藤絵画の“ここにあるしあわせ”に深く包み込まれる。(辛遊理)

The Second Seeing/リュウ・イカ

アーティストのリュウ・イカによる写真集。リュウは、モニターで見ていた日本のバラエティ番組のおもしろいイメージと、サラリーマンがみんな同じようにスーツを着て通勤する現実のギャップから、この世界の「劇場性」を発見する。
ページをめくると、笑い、崇高、奇妙、美など、さまざまな感覚を呼び起こす風景が広がっており、現実世界に登場する多重な存在を目撃する。私達はこの現実世界という舞台のどこにいるのだろうか。(宮下遥)

Selected By NADiff a/p/a/r/t

ナディッフ アパート
コンテンポラリーアートに関する商品やイベント、展覧会の企画を発信しており、アートトレンドの「ライヴ」で感じることができるアートショップ。1月7日からは、写真家の須藤絢乃による個展「Anima / Animus」が開催される。今回の選書は、スタッフの辛遊理、宮下遥による。
http://www.nadiff.com

※紹介していただいた書籍は、各書店にて取り扱い中です。

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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