連載「Books that feel Japanese -日本らしさを感じる本」Vol.2 「ブックマーク」マネージャー持田剛 音楽とアート、2つのシーンで新たな価値観を作りあげた本

国内外さまざまあるジャンルの本から垣間見ることができる日本らしさとは何か? その“らしさ”を感じる1冊を、インディペンデント書店のディレクターに選んでもらい、あらゆる観点から紐解いていく本連載。今回は、マークジェイコブスがブランドのインスピレーション源を表現する場所「ブックマーク」で書誌仕入れとイベントのブッキングを行うマネージャーの持田剛にインタビュー。もともと「タワーブックス」で働いていた経験と、「ブックマーク」と関わりの深いアーティストの2軸から、改めて世界へ発信したい極めてドメスティックなカルチャーシーンを感じる4冊を選んでもらった。

Super Milk Chan Forever/田中秀幸

1990年代を代表する日本独特のキャラクターカルチャー

キャラクターを活かした日本のアーティストが世界的に評価されるようになったのは、田中秀幸さんが最初期だったのでは。1990年代からグラフィックアーティストとして、電気グルーヴのアートワーク、きゃりーぱみゅぱみゅMV、テレビCM、スーパーミルクチャンと多方面で活躍されていたその作風は、可愛らしいキャラクターに毒っぽい要素があって、シニカルでちょっと意地悪さもあるもの。近年90年代リバイバルと言われて久しいですが、田中さんを筆頭にしたグラフィックアーティストと、欧米で起きていた90年代の地殻変動みたいなカルチャーがマージして新しく表現されている印象を受けます。これはスーパーミルクちゃんの20周年と、「ヘブン バイ マーク ジェイコブス」にコントリビュートしていただいた商品のリリースに合わせて行われた「ブックマーク」での展示の際の図録。日本のイラストレーションの基本となるテクニカルな部分と、少し毒々しい表現が見ていて飽きない1冊です。

Remix/酒井いぶき

自由をまといレディメイドする東京ミクスチャーな作品集

世界観が独特だと思うんです。テプラという既製品を使いデイグロなカラーリングで、彼女なりのガーリーを表現している。そこにすごくオリジナル性や東京っぽさを感じる。ごった煮のコラージュは手作りっぽさが残っていて、それが唯一無二というか。テキストをアート作品に入れていくのは、バーバラ・クルーガーやジェニー・ホルツァーをはじめメッセージの方に軸足を置く傾向があるけれど、彼女は深い意味合いを入れているわけではなくて、全体のコラージュの中で作られる構成力で、1つのアウトプットを作る。途中なのか完成なのか、あえて過剰な説明をしないのも魅力。以前ワークショップを行ってもらったのですが、彼女の制作過程ってすごくインプロビゼーション(即興)で、すごく綺麗なバランスを作っていくんです。あっという間に。反復不能な一回性のマジックが宿る様な印象を受けました。これまであらゆる形で創作してきたアートワークがアーカイブされたこの1冊を見ればその感覚を感じ取ることができるはず。

Underground GIG Tokyo 1978 -1987/佐藤ジン

写真集としての日本的、音楽カルチャーとしての日本的が纏まった1冊

1970〜1980年代の日本のパンクロックシーンを撮っていた佐藤ジンさんの写真集です。当時から日本のインディーズのシーンはすごく盛り上がっていて、国内だけでしか語り継がれていないシーンでしたが、あえて今、東京にもNY・ロンドンに続いて、ほぼ同時期にパンクロックのシーンがあって、そこにはすごく個性的なバンドやグループがいたということが網羅されているこの一冊を紹介したい。アーティストごとの紹介ではなく年代でアーカイブされている。東京でこういうシーンがあったことは、あまり語られないので、海外の友人らに紹介すると驚かれることが多いです。この頃のインディーズシーンは、アーティストが舶来の模倣ではなく、自分たちの表現を体張って本気でしている。今でこそ日本の音楽シーンを総称してJ-POPと呼ばれるようになりましたが、この時代のインディースシーンは日本の音楽が確立されていくカンブリア紀だったんじゃないかなと僕は思っています。

ゆでめん/MIKE NOGAMI

純粋な感覚で時代の先をいくというカリスマ性

“はっぴいえんど”も同じく、言わずものがな日本のロックシーンを作った方々。そんな彼らのデビューアルバム『ゆでめん』の制作風景を、写真家の野上眞宏さんが撮り下ろした写真集。以前にも野上さんは彼らの写真集を発表していて、その本の中には、メンバーの細野晴臣さんがラリー・クラークの『Tulsa』のカバーと同じポーズしている写真がある。たしかに『Tulsa』は当時写真集の世界では評価されてはいたものの日本ではまだ知られていない存在だった。その発売とほぼ同時期に、おそらく世界の、アメリカのバンドですら残してこなかったであろうオマージュを、写真の世界よりも先行して日本の音楽シーンで実現していたという事実に、すごく衝撃を覚えました。こちらの写真集は、日本の音楽業界がまだまだ黎明期で今と比較できないくらい小さな世界だった中で、メンバーの細野晴臣さん、大瀧詠一さん、松本隆さん、鈴木茂さん、4名の先達者が、後の日本語ロックの方向性を決定づけた瞬間を収めた貴重な歴史的資料ともいえる内容です。

独自の世界観を表現しながらそこに新たな価値を作り出す人達の魅力、日本らしさを世界に発信していきたい。

東京らしいカルチャーを感じるアーティストのちょっと賑々しい作品集と、日本の音楽シーンを確立していったアーティストを追った写真集。あえて両極端な選書になりました。もちろん今注目の写真家さんのおすすめの写真集などまだまだ紹介した本はたくさんありますが、僕自身のルーツや「ブックマーク」「ヘブン バイ マーク ジェイコブス」と関わりの深い方々を中心にピックアップしました。音楽にまつわる写真集は、自宅で音楽を聴いている時に読み返しますし、アーティストの作品集は、何かのヒントを見つけたい時に。それがインスピレーションになったり、新しい感覚につながって、見るたびに再発見することがあります。今回紹介した4冊のように、独自の価値観を世界基準の視点から構築していくアーティストやクリエイターが、結果的によりドメスティックな世界観を作っていく。その面白さやと魅力、日本らしさを世界に発信していけたらと思っています。

持田 剛
「ブックマーク」マネージャー。2013年に原宿にオープンした「ブックマーク 東京」の統括として書誌仕入れとイベントのブッキングを精力的に行う。過去「ブックマーク」で行った国内外アーティストや作家のサイン会やエキシビションは延べで150回を超える。

Photography Masashi Ura
Text Mai Okuhara
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

この記事を共有