対談〈佐久間裕美子 × Z世代〉 「過去に学び、変化を起こそう」竹田ダニエル—中編—

カルチャー、ライフスタイル、ファッション、社会運動など幅広いジャンルの執筆活動をし、著書『Weの市民革命』では若者が率先する「消費アクティビズム」のあり様を描いたNY在住の文筆家、佐久間裕美子。キラキラした世代と描かれることも多い一方、気候変動や所得格差など緊急の社会イシューとともに生きるZ世代についての解説を求められる機会が増え、それなら本人達の声を聞き、伝えたいと考えるに至ったことで持ち上がった〈佐久間裕美子 × Z世代〉の対談企画。

第1弾の対談相手は注目のZ世代ライター、竹田ダニエル。日米カルチャーライターのみならず、音楽コンサルタント、アーティストのPRやマネジメント、日英通訳・翻訳家などいくつもの肩書きを持ち、独自の視点で「Z世代的価値観」を提示する竹田との対談を3回に渡ってお届けする。前編では自身の活動について語ってもらったが、中編では、アメリカのZ世代の政治観や、日本において若者のムーヴメントや思想を育む土壌の違いについて聞いた。

「コミュニズムはかっこいい」反資本主義の世代

佐久間裕美子(以下、佐久間):『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』(堅田香緒里 著/タバブックス)を読んでいるんですが、つくづく自分達の世代はネオリベ的価値観の中で生きてきたかを痛感して。例えば、シェリル・サンドバーグの『リーン・イン 女性、仕事、リーダーへの意欲』という本では、日本でもアメリカでも女性達が経済的な理屈の中で「なんかできちゃってる」という幻想を抱き、家父長制に基づいたシステムの中で生きていたんだな、と思っていて。結局、「救われていなかった低所得の女性を見ようとしてこなかったことが、これまでの市民運動の弱点だった。「社会進出」以前に、むしろ働くことは当たり前で、底辺の仕事だけをさせられてきた女性達がいて、そういうことを今、Z世代が突きつけてきている気がする。

フェミニズムもそうだし、いろんな意味での社会の改善運動からは見えなかったのか、見えないようにされていたのか、目に入らなかったことを見せてもらっているというか。

竹田ダニエル(以下、竹田):親世代とも経験していることは一緒ですよね。ミレニアル世代が9.11を経験している世代で、Z世代がポスト9.11かつコロナの世代と言われていて。9.11なりリーマンショックなりを経験した親から受ける影響も全体的に大きいですよね。

アメリカのZ世代には「“自分達だけじゃなんにも変わらないよね”と言うのが一番ダサい」「自分達の力でどうとでも変えられる」という感じがあって。それは学びから来なきゃいけない。永遠に間違いを繰り返しているのは見ればわかるから、「じゃあ過去の歴史に学ぼう」と。友達がパーティに行って「ねえ、マルクス読んでる? 『共産党宣言』読んでる?」と聞いてまわったり、TikTokでも「マルクスなんかの古典を読んでる人はホットだよね」って言われていて「ホット」であることの定義がどんどんラディカル化しているんですよ。

“Bimbo(ビンボ)”というのがTikTokで流行っていて、超露出の高いピンクの服を着てメイクも超濃くてギャルなのに、超過激フェミニストでクィアで、“This video is for girls,gays and theys(※女性・LGBTQ+・ノンバイナリーのグループに属する人々を指す)”、つまり「(シス・ヘテロな)男はいなくていいから」と。なんというか、これまでのフェミニズムの形と全く違う。理論的にはインターセクショナルでありながら、シニシズムから来ていて、しかもめちゃくちゃ若い。とにかく反共主義の思想が全然ないんですよ、冷戦を経験してないし。だからコミュニズムはかっこいいと思っていて、ラップトップにコミュニストのシールを貼ったりする。

バーニー・サンダースの影響も大きいですね。“Eat the rich(金持ち達を食え)”的な、その言葉自体には意味があるわけではないけど「資本主義は駄目だよね」という認識がある。実際にTikTokを通じてトランプ集会を潰すことができたり、選挙で変化を起こすことができたり、「SNSで誰かに話しかけたら意見が変わるかもしれない」という意識もあります。

ブーマー世代のFacebook的な、身内でどんどん狭まっていくのではなくて、どんどん広がっていく感じ。クィアで田舎に居たら、30年前なら一生カミングアウトできなかったし自分のアイデンティティに対して疑いを持っていたかもしれないけど、今はTikTokでクィアなインフルエンサーをフォローできるし、メディアで多様な人々が取り上げられているし、気軽に世界中の同世代の人達ともつながれる。「自分の考えが間違ってるわけじゃない」と、同じ考えの人を容易に探せることが発言する力にもなるし、潰されることが少ないかなって思いますね。

若者のムーヴメントを育む社会

竹田:日本とアメリカの大きな違いでいうと、アメリカは保守派同士が密接につながっているけど、逆に正反対の意見を持った人達の団結力もすごく強い。バトったとしても潰されはしない勢力があるから、声を上げることには全く抵抗がないんですね。

ブリトニー・スピアーズやエイミー・ワインハウスは大人に支配されたポップスターではあったけど、レディー・ガガやテイラー・スイフトは大人になってから政治的発言をしてアイコニックな存在になり、今やビリー・アイリッシュは17、8歳で“Fuck Trump”って言える。そうやって自分の声を取り戻した有名人の影響というのは大きいと思います。

佐久間:アメリカと日本のZ世代の最大の違いに、人口が多いか少ないか、という問題があって、人口が少ないと声を上げた時に小さくなってしまう。特に日本の場合はこれからどんどん歳をとっていく人達の負債を背負っていかなければならない悲壮感のようなものもあると思うのだけど、その辺はどう見えている?

竹田:不況だし人数が少ないし……最終的には大人の意見が一番大事で「大人に気に入られなければやっていけない」という感じがある。

佐久間:それは現実としてあるということ? それとも若い世代の頭の中に?

竹田:若い世代の頭の中にもあると思うし、大人が「若い子すごいよね」と言ったとしても、結局は大人のために利用する感じが否めなくて。若者のためのムーヴメントではなくなってしまっている、というか。若者がムーヴメントを起こしても、大人は「自分達も若い頃そうだった」というより「なんだ、あいつら若くて何も知らないのにバカか」と言ったり。周囲のZ世代が、大人に気に入られるためにそういう風に言うこともあると思うんですね。

佐久間:わかる! 年功序列が強い社会だからかな?

竹田:学校で先生に気に入られるためにいじめに加担することも少なくない。自分の強い意志を持つことがすごく難しいと思っていて。「会社でジェンダーに対する差別があった」と言う友達も多いけど、なかなか声に出すことができていない。佐久間さんや長田杏奈さんの熱心なファンで本とかも読むけれど、それを書けるのはインスタの親しい友達に向けてだけだったり「これは絶対的に間違っている」って自信を持って言えないんですよね。

佐久間:それはどうしてだと思う?

竹田:やっぱり、それは絶対的に間違っているという認識が社会にまだないからなんじゃないかな。

佐久間:アメリカのZ世代は人口も多い分、雇用や競争ということでいうとわりと替えがきくけれど、日本はZ世代にも働いてもらわないとしょうがないという構造がある分、労働者人口としてももっと自分達からいろんなことを要求していいと思うの。ただある程度の自己肯定感がないと、要求することって難しいのかと思うんだけど、日本のZ世代があまり自分から要求できないのは、大人から踏みつけられてきたからなのかな?

竹田:変化を起こす前例を見てないからじゃないかな。政権を変えた経験もなければ、選挙で何か変わったところも見ていない。前例としてポジティブな変化があればいいと思うんですけど。

佐久間:最近よく日本のリベラルは「成功体験がない」ということを耳にするけれど、確かにZ世代の場合は、要は見てきた社会がずっと自民党ってことだもんね。

竹田:そうですね。価値観的にも。

佐久間:Z世代のアートディレクターと話していたら、やっぱり「自己肯定感が持てている人と持てていない人の差が激しい」ということを言っていて。

竹田:そうかもしれないですね。「ジェンダーライツとか Marriage equalitiy(婚姻の平等)の話をして、実際に同性婚が合法化された」というような前例があれば、自信になるんだろうけど。何かするとはぐらかされて何も変わらない、ということが続くと「真面目にやってるだけ損」という気持ちになってしまう。真面目にやっていない人達が得しているし。

個人的な感覚だけど、日本語で読めるものと英語で読めるものの差がどんどん開いてるような気がしていて。アメリカではメディアのインディペンデント化がすごく進んでいて、例えば「ティーンヴォーグ(Teen VOGUE)」が誌面からネットになり、Z世代が主導しながらもものすごくラディカルな政治的なことやセルフケアやカルチャーの話をしている一方、それと同等な日本のメディアがない。

「自分は社会がこうなればいいな、と思ってるんだよね」と話したら「あ、『ティーンヴォーグ』でこんな記事があったよ」と共有できて「えっ自分が言いたかったことが既に言語化されてるじゃん!」ということがある。

日本のメディアではいまだに「フェミサイドかどうかは意見が分かれる」というような議論ばかりが目立ってしまう。自己肯定感を高めるにも、(ラディカルな)思想を育むにも、知識は必要だから、日本語と英語で読めるものの差が開いている以上、思想のミスマッチは起きますよね。

Z世代が大人を見る視線

佐久間:Z世代はいろいろと上の世代から言われることもあると思うけど、逆に大人に対してはどう思っている?

竹田:Z世代は「大人って全然だめじゃん」ということをよく理解していると思います。Facebookで、良い年した白人の大人がウォルマートで有色人種に対して差別的な行為を堂々としている投稿動画が出回ったり、ワクチンを打たないことをアイデンティティにしてしまっている、陰謀論に染まった保守派の大人達とか、白人男性中心的な価値観を絶対に手放さない政治家がいまだに権力を持っていたり……この点は日本でも同じはずですが、大人はみんな偉くてすべて知っているわけのではない、ということは特にコロナや大統領選を通して露呈しました。

若者の方がわかってることもあるし、今の大人と自分達の状況は違うから、「お前の年頃には俺達はあんなに頑張っていたのに」という話は通用しない。大人になったら25歳くらいで家を持ち、子供がいて……というのは優遇された時代だったからできたこと、と冷静に見られる。親についても“They didn’t know what they were doing(彼らも若い時は何もわかっていなかったよね)”とよく言います。

竹田ダニエル

竹田ダニエル
カリフォルニア出身、現在米国在住のZ世代。ライターとしては「カルチャー x アイデンティティ x 社会」をテーマに執筆。インディペンデント音楽シーンで活躍する数多くのアーティストと携わり、「音楽と社会」を結びつける社会活動も積極的に行っている。現在、「群像」にて「世界と私のA to Z」連載中。
Twitter:@daniel_takedaa

Photography Kyotaro Nakayama
Text Lisa Shouda

author:

佐久間裕美子

文筆家。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に「Weの市民革命」(朝日出版社)「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋)、「My Little New York Times」(Numabooks)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。2020年12月に「Weの市民革命」を刊行したのをきっかけに、コレクティブになったSakumag Collectiveを通じて勉強会(Sakumag Study)、発信(Sakumag Stream)などを行っている。Twitter:@yumikosakuma Instagram:@yumikosakuma

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