対談〈佐久間裕美子×Z世代〉 「メンタルヘルスと持続可能性について」竹田ダニエル—後編—

カルチャー、ライフスタイル、ファッション、社会運動など幅広いジャンルの執筆活動をし、著書『Weの市民革命』では若者が率先する「消費アクティビズム」のあり様を描いたNY在住の文筆家、佐久間裕美子。キラキラした世代と描かれることも多い一方、気候変動や所得格差など緊急の社会イシューとともに生きるZ世代についての解説を求められる機会が増え、それなら本人達の声を聞き、伝えたいと考えるに至ったことで持ち上がった〈佐久間裕美子×Z世代〉の対談企画。

第1弾の対談相手は注目のZ世代ライター、竹田ダニエル。前編では竹田自身の活動について、中編では、アメリカのZ世代の政治観や、日本において若者のムーヴメントや思想を育む土壌の違いについて聞いた。後編となる今回は、Z世代の視点から見る大人像やポップカルチャーシーンの多面的な変化、自身が執筆することも多いテーマである「メンタルヘルス」について聞いた。

「バズった」を超えた、多面的な理解

佐久間裕美子(以下、佐久間):Z世代が抱えている最大の問題は気候変動で、その原因を作った人達が責任を追及されて逆ギレしたり、被害者仕草をしたり、「わかっていない」と却下することが多いんですが、若い人達がどんどん行動し発言してくれていることに、大人も連帯しないといけない。今の世の中に問題を感じている人は張り切って声を上げていかないと社会は変わらない、特に貧困や気候変動などの緊急課題を解決するのに間に合わない、と思います。

竹田ダニエル(以下、竹田):インターネットの影響でZ世代の趣味が多種多様という前提を考えると、「Z世代ってこうだよね」という括りこそがナンセンスですよね。どの媒体から情報を得るかによっても見える世界が全く違うし、例えばTikTokで普段からZ世代のファッショニスタ達をフォローしているとをやっていると全然奇抜だと思わないファッションも、TikTokをやっていない人にとっては「え、今こんなのが流行ってるの⁉︎」となるし、逆にInstagramでミレニアル世代のインフルエンサーを見ていたら、シンプルなスタイルやマスメディアに影響されたファッションをしている人が多いし、もちろんそれに影響される。

佐久間:アンテナが立っている人は日本に住んでいても世界の影響を受けているわけだけど、「自己肯定感」を吸収することに関してはどう見ている?

竹田:海外のポップカルチャーが「新しい価値観」を知る入り口だった人は多いと思います。自己肯定感が高めのリベラル思考な友達は、中学生の時にデミ・ロヴァートの生き方に感銘を受けて、いわばデミと一緒に成長した感じで、英語を勉強して海外留学もしたんです。ライトな映画ファンが、Netflixでティーンドラマを見て「今のティーンってこうなんだ」と思う傾向も見受けられます。

佐久間:コロナが起きて、世界が変わって、英語で情報を得られるかどうかがサバイバルに繋がってしまっているようなところがあると思うんです。そう考えるとポップカルチャーの力は侮れない。

竹田:ポップカルチャーも多面的に変化していますしね。日本では「行き過ぎたポリコレ」と言われてしまうかもしれないけど、映画ひとつとっても平面的な作品の良し悪しでは判断できなくて、どれだけダイバーシティに配慮してるか、監督の過去の行い、俳優の待遇はどうか……というところまで、現実社会の価値観との関係性について深く考えていくんです。

ポップミュージックも、ただ単に「TikTokで曲がバズったから」ではなくて、「オリヴィア・ロドリゴやビリー・アイリッシュがこんなに人気なのはなぜか? その背景にある社会的な現象は何か?」。逆に「ビリー・アイリッシュが批判されているのはなぜか?」という倫理的・社会問題的な背景情報がわからないと、最終的には日本での洋楽シーンの理解が追いつかなくなりますよね。

日本国内での「アイドル的」な売り出し方との差も開いていると実感します。洋楽シーンでも過去にアイドル的なアーティストが多かったのは事実で、特に政治的な思想はなく、単に「見た目」と「音楽」という情報の少ない見せ方から大きく変わってきているし、(受け取り手が)求めることもどんどん変化している。アーティストの人間としてのあり方と音楽のあり方はやはり切っても切り離せないし、「買い物は投票」という考え方と似たように、どのようなアーティストを支持するかは自分の政治観や社会的意識の表明だということも大前提になっていると思います。

佐久間:ある方面には単に「ポリコレ」に映るかもしれない世界は、実は、受け手の自己認識や自己肯定、メンタルヘルスへの寄り添いにつながっている、ということなんだろうね。

レイシズム・環境問題・資本主義……全てに向き合う

佐久間:逆に言うと、ダニエルの人生は日本にコミットしなくても成立する中で、(現在の活動をする)モチベーションはなんですか?

竹田:「今の自分にしかできないこと」だという認識を持って、ある意味自分にとっての学びの機会だと思って執筆や取材を受けています。アメリカで起きていることをそのまま伝えるというより、複雑な社会的背景や世代間の関係、そして日本にも共通するような価値観の変化などを模索して切り口を考えて書いていますね。あとこれは最近強く思うのですが、英語がわからないから、または情報を得る機会がないからという理由で「自由になるための新しい価値観」を身に付けられないのはもったいないことだなと思うんでしょうね。少し情報を得れば、すごく思考が開けるということは自分も敬愛しているメディアや執筆家(例えば、佐久間さんなど笑)から学びを得て実感してきています。究極的には、「これが起きているのはなぜか?これが話題な理由は?」とカルチャーを「現象」として深くまで考えることは、自分にとって勉強になっています。

佐久間:日本でも若い子が不安を抱えているわけだよね。将来が不安だからいろんな所に玉を入れるというか、「自分は今これやってるけど、これで食べていけるか心配だから厨房の修業もしとこうか」という人が多いようだけど。

竹田:「Z世代の何割が副業をしているか」という話があって、コロナ中に古着を転売する、アクセサリーを作る、コンサルティングをはじめる、という人が増え、“Entrepreneurship(起業家精神)”がキーワードになっています。

最近出版された『An Ordinary Age: Finding Your Way in a World That Expects Exceptional』(オーディナリーエイジ 特別を求められるこの世界で自ら道を見いだす/レインスフォード・スタウファー著)という本にもありますが、ミレニアル世代以降、受験の競争率が上がり「とにかくスペシャルでなくてはいけない」という意識が強かった。小学校の頃からアフリカに行って水道をひいたり、世界一周したり、車椅子を1000個寄付したり、それくらいのことをしないと中学受験さえも勝ち残れない。大学受験のためにはAP(アドバンスト・プレイスメント)の授業をとり、試験は満点で、ボランティア、社会貢献、起業もする。

若い頃から「経験を積まなくてはいけない」というプレッシャーが重く、インターンシップをする中学生もいるんですよ。その時点で過去の経験を問われるなんておかしいと思いますが。大学生のインターン先探しも本当に大変で、副業収入を得られてラッキーという面もありますが、より多くのことをやらなければいけない、という焦燥感を抱いている人が多いですね。

トップの大学では約半数が何かしらのスタートアップに関わっているような雰囲気で、学校側もそれを支援している。シリコンバレーのテック企業やイーロン・マスクなどのスター起業家の影響は大きいですね。SoundCloudにラップをあげただけで「自分はラッパーでアントレプレナーです」なんて言い方をする人もいますし。資本主義社会において、趣味や個性までもマーケティングしなければならず、「自分をブランディングする」ことの必要性は若い頃から植え付けられていることは確かです。

知識がメンタルヘルスを守る

佐久間:そんなに多くのことをみんなができるわけではないじゃない? 焦燥感、いわば「圧」を感じて生きるって深刻なことだと思うんだけれども、Z世代が全体的に抱えているメンタルヘルスの問題についてはどうですか?

竹田:メンタルヘルスの話もセルフアウェアネス(自己認識)から来ると思っていて。全て繋がっているんですよね。

「他の子達よりも機会が少ないのは、自分ができないとか、バカだからじゃない」「自分は有色人種だから歴史上のディスアドバンテージがあって、クオータ制などもあるけど、それでも社会には根強いステレオタイプやレイシズムがある」というように。レイシズムや環境問題や資本主義……全てに向き合い、社会構造を認識することでメンタルヘルスを守る。

セルフアウェアネスは、やっぱり知識から来るもので、マインドフルネスだとか、もっと深いところだと“Therapy-speak(セラピースピーク)”という概念があって、すごく単純な感情もセラピスト的な専門用語で分析することがもはやスラング的な「流行り」になっています。

「新しく出会った人となんかエネルギーがマッチしなくて、なんとなく自分のトラウマをプロジェクトされてるような気がして……」とツイートしたり。それに対して「嫌いなだけだろ、気が合わないって言えよ」と引用リツイートされたりしますが。TikTokでも「あなたはこう言われたらこう考えますか? 親からのトラウマによるPTSDかもしれません」というように、Self-diagnosis(自己診断)を促すような投稿があったり。

ビリー・アイリッシュを含めた多くのポップカルチャーのアーティストが、メンタルヘルスについてオープンに話すようになったり、TwitterやInstagramに流れてくるインフォグラフィックから知識を得やすくなった影響は大きいですね。ミレニアル世代にも共通しますが、Z世代は(セラピースピークを)やりすぎなのでは、という議論も出てきてはいます。同時に、メンタルヘルスを優先することは当然「持続可能性」というより大きなテーマにもつながってきます。

佐久間:メンタルヘルスと持続可能性の話でいうと、Z世代は早くから気候変動について勉強し、常に脅威を身近に感じていることが原因でディプレッション(うつ)や気候不安症(Climate Anxiety)を感じる人が多いですよね。

竹田:TikTokでも、車に座って「世界が炎まみれになってるのに、今日もスタバで働かなきゃいけないの? マジ?」という動画があって。

ミレニアル世代に見られる「個人が起こせる行動として、金属製ストローを持ち歩く」的な動きに対し、Z世代はエコな行動はしつつも、「根本原因は社会構造にあり、そこに一番大きな影響を及ぼすのは政治だ」と気づいていて、ジェフ・ベゾスのような人を極端に嫌う。口だけだ、と言われるかもしれないけど、「個人の責任」というマインドセットから一歩先に踏み出せたことは変化ですよね。

佐久間:Z世代が誰もAmazonで物を買わなくなったら、お金の流れにすごく大きなdent(へこみ)を作れるわけだしね。

竹田:普通に仕事をしながらも、現実逃避として「友達と一緒にコミューンを作って農業できたらいいのにな」ということはよく言いますね。

特権と影響力を認識し、声をあげよう

佐久間:ダニエルは自分をペシミスト(悲観主義者)かオプティミスト(楽観主義者)のどちらだと思う?

竹田:オプティミスティック(楽観的)ではないですね。Z世代全体で見てもオプティミスティックではないと思います。

ペシミストでありながら、「世の中は変えられない」と諦めるのではなく、はっきりと何が問題なのかを指摘して向き合い、まず「悪は悪である」ことを認識することを徹底している気がします。

「他の人の方が大変だから、自分は静かに暮らそう」ではなく「他の人の方が大変だからこそ、声をあげられるなら行動を起こそう」という意識が多くのZ世代がBLMのデモに参加したことや、投票率が高いことなど、いろいろなところに反映されているのではないでしょうか。

「自分の“Privilege(特権/自動的に受けられる恩恵)”を自覚し、声を聞かれにくい“Less-privileged”な立場の人のためにも声をあげよう」「自分の影響力を認識しよう」と。

竹田ダニエル

竹田ダニエル
カリフォルニア出身、現在米国在住のZ世代。ライターとしては「カルチャー x アイデンティティ x 社会」をテーマに執筆。インディペンデント音楽シーンで活躍する数多くのアーティストと携わり、「音楽と社会」を結びつける社会活動も積極的に行っている。現在、「群像」にて「世界と私のA to Z」連載中。
Twitter:@daniel_takedaa

Photography Kyotaro Nakayama
Text Lisa Shouda

author:

佐久間裕美子

文筆家。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に「Weの市民革命」(朝日出版社)「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋)、「My Little New York Times」(Numabooks)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。2020年12月に「Weの市民革命」を刊行したのをきっかけに、コレクティブになったSakumag Collectiveを通じて勉強会(Sakumag Study)、発信(Sakumag Stream)などを行っている。Twitter:@yumikosakuma Instagram:@yumikosakuma

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