対談〈佐久間裕美子 × Z世代〉 「Z世代は自分達が作る」竹田ダニエル—前編—

カルチャー、ライフスタイル、ファッション、社会運動など幅広いジャンルの執筆活動をし、著書『Weの市民革命』では若者が率先する「消費アクティビズム」のあり様を描いたNY在住の文筆家、佐久間裕美子。キラキラした世代と描かれることも多い一方、高齢化、気候変動や所得格差など緊急の社会イシューとともに生きるZ世代(1997〜2012年頃の生まれ)についての解説を求められる機会が増え、それなら本人達の声を聞き、伝えたいと考えるに至ったことで持ち上がった〈佐久間裕美子 × Z世代〉の対談企画。

第1弾の対談相手は注目のZ世代ライター、竹田ダニエル。日米カルチャーライターのみならず、音楽コンサルタント、アーティストのPRやマネジメント、日英通訳・翻訳家などいくつもの肩書きを持ち、独自の視点で「Z世代的価値観」を提示する竹田との対談を全3回に渡ってお届けする。

前編となる今回は、竹田の目に映ったかつての日本とアメリカのポップカルチャー、SNSと共に育ったZ世代の1人として現在の活動に至る「原点」について聞いた。

一般教養としてのポップカルチャー

佐久間裕美子(以下、佐久間):子どもの頃、竹田さんには日本はどのように映っていた?

竹田ダニエル(以下、竹田):日本の文化といえばかわいい文房具とかバラエティ番組ですね。物心ついたのが2000年代前半だったので、アメリカは今のカルチャーと全然違っていて、テレビは当時ディズニー・チャンネルで、『ハイスクール・ミュージカル』や『ハンナ・モンタナ』、ジョナス・ブラザーズが流行っていて。ポップスターもブリトニー・スピアーズとか。でも、自分は「これが人気」みたいなのにあまり共感できなくて、逆に日本の音楽や音楽番組自体が好きでした。いきものがかりを好きになったり、紅白歌合戦にも惹かれるものがありました。J-POPは自分にとってはすごく新鮮で、やっぱり異国の文化みたいな感じもちょっとあったりして。

当時は、日本のテレビしか見ていなくて。学校の子達がみんな『ゴシップガール』の話をしてるのに、うちでは日本語教育のために親が日本のテレビしか見させてくれなくてあんまりわからないことも多くて仲間に入れてもらえない、なんてこともよくありました。逆に日本に旅行で訪れると、みんなと似たような見た目だし、英語ができるから尊敬されることが多くて、「生活しやすいな」と思うことは多かったです。漫画とかアニメとかも好きだったけれど(アメリカの)学校ではそれがあまりクールではなかったから、中学ぐらいから周りの子達が好きなものやポップミュージックを一生懸命聴くようになりました。当時のiTunesチャートの1位から30位までを全部ダウンロードしたiPodを友達にもらって、全然洋楽がわからないところから「このアーティストが人気なんだったらこれを次に聴こう」と覚えるようにして聴いていましたね。

ポップカルチャーって、アメリカだと普通の生活の中の一般教養として会話に必要だから、知らなきゃいけない焦燥感に追われて。そこから好きになる以前に詳しくなっていきましたね。グラミー賞とかアカデミー賞があると必ずその話題を学校でみんなが話すことが多くて、知らなきゃそもそも会話にも入れてもらえないんですよね。

SNSで拡がる音楽と竹田ダニエルの原点

佐久間:一般教養として身につけていたポップカルチャーの知識が「これで食べていきたい」というような情熱に変わる過程はあったの?

竹田:年上のミレニアル世代(1981〜1996年頃の生まれ)にとってはMyspace(マイスペース)、Z世代や若いミレニアル世代にとってはTumblrが大きなカルチャーで、Tumblrではインディーバンドとファッション、ライフスタイルとブログなどが融合して発信されていました。

もともと世代的にもテイラー・スウィフトが好きなのがきっかけで、Tumblrのカルチャーを追うようになったのですが、テイラーがインディーバンドを巻き込むような活動を2014、2015年くらいからどんどんし始めて。テイラーがTumblrで活発だったから、THE 1975やアークティック・モンキーズ、ハルシーなどもその「オルタナTumblr」の文化圏から台頭して、Tumblrを中心にファンやリスナーの発信がメインでファッションとライフスタイルと音楽が繋がるようになっていきました。ファン主導で画像の加工やアーティストごとの美的世界観の形成をしていたのを、自分ではやらなかったんですけど、研究するように熱心に見ていました。

ハイムもデビューしたてで、THE 1975も全く有名じゃなかったところから、インターネットとSNSで拡がって、どんどん有名になっていく過程を見ることができて。特にTHE 1975はムーディーな世界観と若さあふれるサウンドを繋げることが天才的に上手くて、感動するほど好きで。それが自分にとっての「音楽を届けることの研究」の原点でもあります。そこから初めてライブに行ったり、その後、大学でミュージックビジネスの授業を受講して。自分で音楽をやっていた時期も長いですが、それよりもアーティストの良さをどう伝えるのか、ファンの熱狂をどう汲み取るか、どう音楽の魅力をパッケージングするのか、その「カルチャー」の面に対する興味は昔からとても強かったです。

ミュージックビジネスの授業は、いろいろな学部や学校外からの人が参加して、ファッションデザイナーやラッパー、ライブハウスのオーナーなど学校に直接関係ない人も厳密な選考を経て集まっていて、お互いのプロジェクトに関われるワークショップのような授業で、実際にユニバーサル ミュージックから業務委託を受けたり、グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミーのメンバーとしてプロジェクトに関わることができたりして。そこで実際にバンドのマネージャーやアーティストのPRを担当したのが、今の活動の始まりですね。

佐久間:音楽だけでなく、「現象や文化としての音楽」ということに興味がある?

竹田:まさに、YouTubeが出始めた頃に、ちょうど自分も音楽を聴き始めて、変化と一緒に成長できたことが大きいと思います。レディー・ガガとビヨンセが「Telephone」をリリースした時にミュージック・ビデオをみんながYouTubeで見たり、ケイティ・ペリーの新曲をみんなで見る、という現象が当時では一般的で、音楽を「みんなで共通して体験」することの喜びや楽しさはずっと心に残っています。

かつてあったその「みんなに共通している体験」が、今ではとても少なくなりました。2013年のトップ50は必ずしも「みんなが知っている」というわけではなく、聴いている曲はどんどん多様になってきていると思います。今はストリーミングがあるから、それぞれ好きなものを聴けるし、ニッチな音楽を聴いていることがファッションや自己表現の一部でもあります。CDの時代はあまり経験しなかったけど、ジャスティン・ビーバーもYouTubeから出てきたという現象があって。今までミレニアル世代が見てきた、ブリトニー・スピアーズ的な「大手にピックアップされて有名になる」以外のルートがTikTokやストリーミング経由でZ世代アーティストではどんどん出てきて、それは見ていて面白いですよね。

アップデートされ続ける世代観

佐久間:日本語の文章がシャープなのは、とても努力をしたから?

竹田:ライターをやり始めたきっかけは音楽ジャーナリストの柴那典さんに声を掛けてもらって「現代ビジネス」の寄稿依頼をいただいたことでした。メンタルヘルスとZ世代と音楽について一生懸命に書いたのが、テーマとしてもタイムリーで話題になりました。

佐久間:本を読んだりは?

竹田:本は読むことは読みますね。日本の漫画や雑誌は子供の頃からよく読んでいて、そうやって馴染みのある媒体に今寄稿できていることはとても嬉しいです。ただ小説的な日本語は身につかなくて、だからエクストリームでディベート的な日本語になってしまっているのかな、というのはあります。やはり自分の中で英語を日本語に変換してるから。

佐久間:私は竹田さんの文章を読んで違和感を持ったことは1回もないけれど、頑張って書いているという感じ? 初めて日本語で記事を書く依頼があった時はどうでした?

竹田:文献をいっぱい探して、日本語に翻訳し、DJのようにつなぎ合わせ、自分の論を追加する、ということをやっているのですが、それが新しかったのかもしれません。本職の理系研究職の論文引用のスタイルが影響しているとは思います。「現代ビジネス」の記事でも自分にしか出せない切り口で、リサーチ論文のような感じで書いたのですが、それが今でも書き方としては続いていますね。

アメリカのジャーナリズムでは「ニッチな話題を探して意見を言おう」という傾向があります。それがヒットするか炎上するかはわからないけれど、そういった斬新な切り口みたいなものを見ていくうちに「コレとコレは繋がる」と。「i-D」や「Vice」の書き方もそうですが、参考にしているかな。日本では「最近のZ世代のトップアーティスト」のようなまとめ記事がほとんどだけど、英語の記事を1つずつ読んでいったら「じゃあ、どうしてこういう人が出てきたのか」とその背景に繋がる。

佐久間:世代というと「この年からこの年に生まれた人は全員同じ世代」で、いいやつも悪いやつも皆同じ世代にいる一方で、その時代を生きることによる共通項もあるわけで。竹田さん自身、「Z世代ライター」と称しているけれども、それはアイデンティティの中で「世代」というものが大きいから?

竹田:ミレニアル世代には「甘やかされて育って、自分が特別だと思っていて怠慢で、アボカドトーストと『ハリー・ポッター』が好きなんでしょ?」というような他者からのレッテルがある。それがミレニアル世代だとしたら、Z世代は「自分達で作っているものだ」っていう実感があるんです。

アメリカではZ世代にレッテルを貼るように“that’s so Gen Z”と大人が鼻で笑うように言ったりもしますが、一方ではZ世代はアメリカの人口の中でも最大の層を占めていることもあり、当事者の声がとても大きく、大人が「Z世代はこう」とレッテルを貼ること自体がダサいという雰囲気があります。「インターネットで育っているから」という表層的な分析に対し「いや、私達はもっとこういう経験をしてるし、こういう世代間の相互作用もある」と反論できるし、どんどん自分達の定義も変わってきている。皮肉的なZ世代という定義も自分達の中にあるし、何でも過敏にポリティカルコレクトネスを求めたり、“Everyone is getting depressed(誰もがうつになってる)”とか。そういうのも自発的に、、客観的に分析できているように思うんですね。

そこを踏まえて「自分が定義づけるZ世代を展開する」という意味で、Z世代ライターをやっているかな。Z世代を代表するという意味ではなくて、たまたまその世代に属している身として「私自身はこういう価値観がある」と提示する、というような。

「諦めから来る生命力」

佐久間:ちなみに私はX世代(1965〜1980年頃の生まれ)なのですが、自分が生きてきた時代の共通体験はあるにしても、シニカルなスラッカーという世代の全体感にもシンパシーは弱いし、属性意識は薄いんですね。Z世代にとって世代意識というものが大きいのはどうして?

竹田:ミレニアル世代はメディアや周りの人にネガティブなことを言われてきたわけですが、単体として考えるより「ブーマーの影響を受けた世代」と考えると、客観的に見てもかわいそうという感じがあって。

アメリカでも「Z世代」はまだちょっと新しい言葉なので、いまだに「若者=ミレニアル世代」って思われているところがあって。でもミレニアル世代って、実際一番年上は腰痛持ちだし、一番若くても20代後半。Z世代の一番年上はもう就職してる。もはや〈ジェネレーションα(アルファ)〉(2013年頃以降の生まれ)が出てきているのに、「ミレニアル世代はこうで……」というように言われて、(世の中の認識が)すこし遅れているんですよね。

それでミレニアル世代には「自分達は被害者」っていう意識もあるし、その痛々しい様子をZ世代が見た時に正直ダサいっていうのはあって、それは馬鹿にしつつ、でもその気持ちは同情から来てるというか、「まあかわいそうだよね」と。

それと対比した時に「自分達はかわいそうな境遇にあるけど、それは結局大人のせいだし、かわいそうって言われるよりも大人が頼りにならないから自分達で変えてやろう」という「諦めから来る生命力」のようなものが感じられる。

佐久間:諦めから来る生命力!

竹田:ピーターパン・コンプレックス的なものではなく、逆に「今までのシステムって壊れてるじゃん」ってことを普通にリアリスティックに言う。

例えば、“Girlboss(ガールボス)”が流行って、本が出てドラマにもなって。新しいポップなフェミニズムの形として「ミレニアルピンク」が流行ったりもしましたよね。でも結局、資本主義的に消費されてしまったり、“Patriarchy”(家父長制)に流されてしまっていて。

Z世代から見ると「それら(資本主義や家父長制)に乗るよりも本質的なシステムを変える」だとか「うつだけど、それは自分がおかしいからじゃなく、社会システムがおかしいからだ」と認識して割り切れるということかな。

竹田ダニエル
カリフォルニア出身、現在米国在住のZ世代。ライターとしては「カルチャー x アイデンティティ x 社会」をテーマに執筆。インディペンデント音楽シーンで活躍する数多くのアーティストと携わり、「音楽と社会」を結びつける社会活動も積極的に行っている。現在、「群像」にて「世界と私のA to Z」連載中。
Twitter:@daniel_takedaa

Photography Kyotaro Nakayama
Text Lisa Shouda

author:

佐久間裕美子

文筆家。1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。カルチャー、ファッション、政治、社会問題など幅広いジャンルで、インタビュー記事、ルポ、紀行文などを執筆する。著書に「Weの市民革命」(朝日出版社)「真面目にマリファナの話をしよう」(文藝春秋)、「My Little New York Times」(Numabooks)、「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。慶應義塾大学卒業、イェール大学修士課程修了。2020年12月に「Weの市民革命」を刊行したのをきっかけに、コレクティブになったSakumag Collectiveを通じて勉強会(Sakumag Study)、発信(Sakumag Stream)などを行っている。Twitter:@yumikosakuma Instagram:@yumikosakuma

この記事を共有