連載「ヨーロッパのJビューティ通信」Vol.1 「個性を持った1人ひとりの肌に適応する製品を」 フランス発の日本製スキンケアブランド「イレーン スキン」

欧米の美容業界で注目を集める“Jビューティ”。伝統的に培われた美意識と、概念や習慣に由来する日本の美を象徴した美容法が、世界中の人々の日常の一部へと浸透し始めた。新連載「ヨーロッパのJビューティ通信」は、欧米で知名度を上げるJビューティブランドを紹介し、日本古来の美容法を深く掘り下げていく。同連載の監修を行うのは、パリ在住20年以上で、日本の美容ブランドのヨーロッパ市場進出をコンサルティングする「デッシーニュ」の須山佳子代表。ヨーロッパのJビューティトレンドの立役者である彼女がオススメするブランドの魅力と、各々が捉える日本の美意識に迫る。

第1回は、フランス人チームが作る日本製スキンケアブランド「イレーン スキン」。ファウンダーのクリスティン・チェンについて須山は、「成分とフォーミュラに対する造詣が深い方」だと語り、彼女が主宰する日本の美容とライフスタイルをテーマにしたポップアップストア「Bijo;」でも取り扱っている。

2017年創設の「イレーン スキン」は現在、7種類のセラムとクレンジングを展開中。日本の美容法であるレーヤリングにならい、複数のセラムを混ぜ合わせ悩みに応じてパーソナライズされたスキンケアを提案する。欧州とアジアで長く美容業界に携わり、各国の美容法に精通するファウンダー、クリスティンはなぜJ-ビューティに着目したのか?「イレーン スキン」創設の背景と、J-ビューティのトレンド事情を聞いた。

「Jビューティのタイムレスなアプローチは、私達現代人の精神や価値観と一致している」

――“Jビューティ”というワードは昨今、欧米では馴染み深くなりましたが、単なる“日本式の美容法”という枠に収まっていないように思います。あなたは“Jビューティ”をどのように定義しますか?

クリスティン・チェン(以下、クリスティン):“Jビューティ”とは日本古来の美容法に触発されたものを意味しますが、同時に、革新とテクノロジーによって再発明された新たな美容法と言えます。Jビューティの世界は他に類を見ない、伝統、自然、科学の完璧な組み合わせで成り立っています。エフォートレスなアプローチでミニマルなスキンケアルーティーンに焦点を当て、素朴な日常の中の芸術に忠実であるのがJビューティです。予防に特化し、献身と規律を要する、シンプルで効果的なスキンケア法だと思います。

――欧米でJビューティがこれほど流行している要因は、何だと考えられますか?

クリスティン:Jビューティには“レス・イズ・モア”の精神が宿っており、天然成分に基づきながら科学を重視しているためではないでしょうか。近年、環境への関心が高まる中、消費者はサステナビリティを推進しています。また、ウェルネスや健康的な生活への需要も高まっていますよね。ミニマルなアプローチであるJビューティは、その信頼性と、自然由来のスーパーフード成分の使用により、現在のトレンドと見事にマッチしているのだと思います。

――あなたはアジアとヨーロッパで暮らし、美容業界に10年以上携わっていますよね。各国に独自の美容文化がある中で、なぜ日本製にこだわり、Jビューティに特化した「イレーン スキン」を立ち上げたのでしょうか?

クリスティン:日本は独特の文化と伝統を持つ美しい国です。日本文化の他の多くの側面と同様に、美の理想とスキンケア法は、伝統的な価値観と概念に直接結びついています。日本の歴史と伝統からインスピレーションを得て、それを科学と融合させることは、東洋と西洋の両方の文化を超越するブランドを作るという私の夢でした。何よりも、Jビューティのタイムレスなアプローチは、私達現代人の精神や価値観と一致していると感じています。日本は品質の水準が高いため、すべての製品を日本で作ることは私にとって当然のことのように思えました。

――美容以外で、あなたが日本からインスピレーションを得る要素とは何ですか?

クリスティン:私は常に、日本の文化、美意識、デザインに刺激をもらっています。特に、不完全で、無常、未完成な自然美をありのまま尊重する“侘び寂び”の精神という、日本の伝統的な美意識に触発されます。この精神は私に、真の自己と、実生活の不完全さを受け入れるよう促してくれるのです。

「イレーン」は有害な2000以上の成分を禁止した、最初の日本のブランド

――他ブランドと差別化を図る、「イレーン」の革新的でユニークな特徴とは何ですか?

クリスティン:より優れた浸透性と有効性を可能にした、私達の特許技術であるActif-Xカプセル化にあります。7種類の「スーパーフルーツ ブースター カスタマイズ セラム」は、混ぜ合わせ調合することで特定の肌の悩みに対応します。合計35の組み合わせと、Actif-Xカプセル化で強化された独自の処方により、目に見える結果をもたらす有効な処置であることを保証します。

――100%自然由来、クルエルティーフリー、透明性の高い生産環境に加え、科学的証拠に基づいて2000以上の有害な成分を禁止していますよね。自らに課した制約の下において、製品開発の課題とは何ですか?

クリスティン:「イレーン」は科学的にクリーンと定義されない有害でアレルギー誘発性のある2000以上の成分を禁止した、最初の日本のブランドです。一般的な成分を使用できないという制約があるため、満足のいくテクスチャーや安定性を得られないという課題に直面することがあります。研究開発チームが長期間の実験と研究を行い、最良の質感と結果を得て、新境地を開拓することができています。

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。

クリスティン:Jビューティの文化は、性別、肌質、肌の色に関係なく、すべての人に役立つと信じています。私達の製品は、個性を持った1人ひとりの肌に適応するため、カスタマイズできるように作られており、これらを通じたインクルージョンを支持します。また、よりカスタマイズ可能なアイデアを見出し、スキンケア製品を進化させて、より包括的な美容のビジョンを取り入れていくつもりです。加えて、ジェンダー平等の実現も推進していきます。

現在、科学業界にいる女性達を後援するプログラムや奨学金制度を実施しており、これを世界のより多くの地域に広げていく取り組みを強化します。最後に、地球上で人々が安全に生存できる活動領域を尊重するために、さらに多くのサステナビリティ・イニシアチブを計画しています。

クリスティン・チェン

クリスティン・チェン
化粧品企業でキャリアをスタートさせ、10年以上美容業界に従事。アジアとヨーロッパの各国で暮らした経験から、西洋と東洋の美容法に精通している。なかでも日本の美容法と文化に大きく影響を受けた。自然、伝統、科学を融合させ、現代のライフスタイルに合った製品を提供するため、2017年「イレーン スキン」を創設。

須山佳子

須山佳子
東京生まれ、パリ在住20年。INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE にてブランド経営学のMBAを取得。2010年に日本からのヨーロッパ市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」を立ち上げる。2016 年、Jビューティとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「Bijo;」を主催。取引先はハロッズ、ボンマルシェ、リッツ・パリ、セフォラなど大手デパートからセレクトショップまで約20ヵ国、150店舗。

Direction Keiko Suyama

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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