Siaと共振するELAIZAのクリエイティビティ 映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』公開に寄せて語られた、表現への想いと背景

オーストラリアの“覆面アーティスト”・Sia(シーア)が初めて監督を務めた映画作品『ライフ・ウィズ・ミュージック』が2月25日に公開された。この映画は孤独で生きる希望を失ったひとりの女性が、家族や周囲の人間の助けによって“愛”を知り、自身の居場所を見つける姿を描いた作品だ。そんな映画の公開に際し、ELAIZAが同映画の主題歌「Together」の日本語版カバーソングを発表。

池田エライザとして女優やモデルとしての確固たるキャリアを持ちながら、昨年11月にはアルバム『失楽園』をリリースするなどアーティストとして新たなクリエイティビティを発揮しはじめた彼女に、表現へと駆り立てる原動力や表現し続ける意味について、今回のSiaとのコラボレーションを糸口に話を聞いた。

『ライフ・ウィズ・ミュージック』を観た時に嬉しさと幸せを感じた

――『ライフ・ウィズ・ミュージック』はSiaの初監督作品で音楽と映像が交差する作品です。ELAIZAさんは俳優やアーティストなど多くの顔も持つ方ですが、音楽と映像の両方に携わる身としてどのようにこの映画をご覧になりましたか?

ELAIZA:まず純粋に1つの映画として素敵な作品に仕上がっていることが、本当にすごいなと思いました。そして美術だったり衣装だったり、この作品はSiaがこれまでの活動で協力関係を築き上げてきた様々なクリエイターたちとともにつくり上げたものなんだと気づいた時、私も映画監督をしているので共感を覚えるところもあったりして、とても楽しみながら鑑賞しました。

――なるほど。映画監督・池田エライザとして何か感じたことはありますか?

ELAIZA:強く感じたのは、嬉しさですね。純粋に素晴らしい感性と言葉を持ち、さまざまな経験をされている女性が生み出した映画を観れるということは、私個人としても嬉しかったですし、これからも女性の監督の作品がさまざまな場所で上映されて評価される世の中になっていくと思います。そんな中でSiaというアーティストが映画を次の表現の場として選んでくれたことが本当に嬉しい。それはいちファンとしてもそうですし、同じく女性で監督をする人間としても幸せな気持ちになりました。

――Siaのクリエイターとしての在り方に共感する部分はあるのでしょうか?

ELAIZA:Siaを目指すことはないですけど、多分ほとんどの女性クリエイターが同じような心を持っていると思うんです。もちろんSiaと全然レベルが違うなんて言い出したら、尽きないですけど。きっと彼女はそんな卑下をしてほしいと思ってないはずだから、これからもたくさん作品を作って欲しいと思うし、私もたくさん作りたいって思います。

Siaの歌が持つ力と、日本語で歌った時に気付いたこと

――ELAIZAさんは、Siaが生み出す音楽のファンであると公言されていますよね。

ELAIZA:そうですね。人ってなかなか叫ぶ機会ってないじゃないですか。自分の思いの丈がここ数百年噴火していない富士山のマグマのようにたまっていっているというか。でもそんな中でSiaの歌声にはそのたまった気持ちを代弁してくれるパワーを感じるし、歌によっては“生きる”というただそれだけを叫んでくれているものもある。それが痛快ですし、自分の中身をいい意味で引っ掻いてくれるというか、かき乱してくれる力があると思うんです。この映画を観て、また新たなSiaに出会えたような感覚もありましたね。

――そんな好きなアーティストが手掛けた映画の主題歌「Together」の日本語版カバーソングを歌うことになったわけですが、お話を受けた時はどんな思いでした?

ELAIZA:ありがたい気持ちと同時に、動揺しましたね。簡単に真似できる歌声ではないですし、真似してはいけないとも思いました。お話を頂いた時はまだ日本語の歌詞ができていない段階で、これを日本語に書き換えた時にどう自分が表現できるのかなっていうのは、かなり想像しましたね。

――実際に歌われてみて、いかがですか?

ELAIZA:彼女の楽曲が持つ魅力やパワーを日本語で表現した時に、日本語の魔力を感じたんです。「ありがとう」という言葉1つとっても、柔らかさを持ってるじゃないですか。柔らかい意味を持った感情には柔らかい平仮名が付いている。この曲は、固い音よりも柔らかい音が多かったので、そこに焦点を当てた歌い方があるなと思い、日本語の美しい柔らかさみたいなものをかなり大切にしながら歌いました。

ELAIZAの表現をつくりあげるもの、背景にある想い

――今回の歌唱はとてもチャレンジングな経験でもあったと思うんですが、しっかりとELAIZA色に昇華されている印象を抱きました。きっとその理由はELAIZAさんが幼少期から多くの音楽に触れてきたからこそだと思うんですが、これまでどんな音楽を聴いてこられたのでしょうか。

ELAIZA:幼少期はバレエをやっていた影響でクラシックを聴いていて。あとは私も今度ライブをするんですが、ビルボードで母親もよく歌っていたので、そこについて行っていわゆるジャズ、R&B、ソウルっていうのは一通り聴いていました。中学生になるとオタクだったので、アニメの曲を聴いたり、でも日曜の教会のミサではゴスペルを聴くみたいな。今はみんなサブスクで昔よりもどんどん、いろんなジャンルを聴くようになってると思うんですよね。プレイリストを介して普段自分が聴かないような音楽も聴いている。自分たちの世代がその先駆けだったのかなって。偏見なくいろんな曲を聴いてたと思います。

――中でも好きだったアーティストはいますか?

ELAIZA:ニーナ・シモンも好きだったし、大塚愛ちゃんも好きだった(笑)。

――すごい振れ幅ですね! 昨年11月にはアルバム『失楽園』をリリースされ、アーティスト・ELAIZAとして本格的に始動しましたが、なぜこのタイミングで歌で表現しようと思われたのでしょう。

ELAIZA:前提として、私が歌うことが楽しいから。小さい時から歌ってばかりで、怒った時も嬉しい時も歌っていました。自分の心を整えてくれる手段として歌があったんです。だけど、いざ仕事となるとやるべきか否か、5、6年以上迷っていたところではありましたね。ただ20代半ばになって「大人としてできることが増えてきたな」っていう気がしてきた中で、(歌を)やってみようと思ったんです。今の若い世代の子たちが私の曲を聴いて、何か感じたり、世の中に対してポジティブな気持ちを持ってくれたりしたらいいなって。

だからこそジャンルもニュートラルに、「こういうサウンドもあるんだ」「こういうジャンルが私好きかも」というような気付きを与えるものにしたかったんです。

――『失楽園』のテーマは“ディストピア”。反理想郷というネガティブなイメージをまとう言葉ですが、このテーマを設けた理由は?

ELAIZA:幼少の頃は育成ゲームよりRPG派でしたし、小説もSF小説が好きだったんです。だから、ユートピアよりディストピアの方がしっくり来る感覚があって。ディストピアって、必ずしもネガティブなものではないというか、そこから希望に向かっていく感じがするんですよ。逆に、ユートピアってどんどんディストピアになっていく可能性も秘めている。曲を聴いて希望みたいなものを感じてほしいと考えた時に、ディストピアというテーマが、実は一番今を生きる方々の心に寄り添うんじゃないかなって思ったんです。

――現在の混沌とした状況も少なからず影響しているのかもしれないですね。

ELAIZA:完全に「渦中」を生きているので、毎日天晴れっていう気持ちではいられないところもありますよね。そうありたいとは思いますけど。

――ELAIZAさんは女優としての顔もお持ちですが、アーティスト業と女優業でマインドの違いはあるのでしょうか。

ELAIZA:女優業の時は「練習生」のような気持ち。朝の挨拶や現場での関係性みたいなものにすごく気を遣いますし、映画の現場というものが1つの生き物のような気がするので、本当に規律正しくあろうと心掛けていますね。

――それでは、音楽の方がよりパーソナルな姿に近い?

ELAIZA:朝の挨拶にしても、もう「おはよ〜」みたいな感じで(笑)。普段の肩肘を張ってない自分かな。

――素に近い感性が音楽では表現できるんですね。

ELAIZA:ダダ漏れですね(笑)。お芝居をする時は背筋がキュってなってる。それはそれで勉強になりますけど、音楽活動ではルーツも含めてもっと自分のパーソナルな部分を肯定できる感じですね。

――なるほど。ELAIZAさんは表現することの意味についてどう考えていらっしゃいますか?

ELAIZA:うーん、私にはそれしか生きてる理由がないというか……。「誰かの役に立たないといけない」という思いが根底にあるんです。自分だけのために生きていても、生きながら死んでいくような人生しか歩めないと感じていて。誰かのためにやってる方が私も生きやすいし、得るものも大きい。私にとって、表現は生き甲斐ですかね。

――それは、どのELAIZAさんにも通ずる考え方?

ELAIZA:そうですね。手段が変わっても、私自身はそんなに変わってなくて。自分の原体験を元にしているか、お芝居のように全くできないところから勉強していったことなのかの違いがあるだけ。私も一応会社員みたいなものなので(笑)。仕事を頂ければその都度向き合うっていう働き方だと思うし。

――必要とされている場所で何かを表現したい?

ELAIZA:必要としてくれる人がいるところに居たい、という気持ちはありますね。

――なるほど。最後に、ELAIZAさんが表現をする上で大切にしていることや、心掛けていることを教えてください。

ELAIZA:なるべく誰かを見捨てたり、見逃したりしないように真摯に生きながら、幅広い視野を持って学び、自分なりの表現を1つひとつ形にしていきたい。私は勝手に発信し続けるので、皆さんも勝手に受け取ってもらえたら嬉しいですね。

『ライフ・ウィズ・ミュージック』
2月25日よりTOHO シネマズ⽇⽐⾕ほか全国公開
■監督・製作・原案・脚本:シーア
■出演:ケイト・ハドソン、マディ・ジーグラー、レスリー・オドム・Jr.
■配給:フラッグ
公式サイト: lifewithmusic.jp

映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』予告編
ELAIZA

ELAIZA
女優・映画監督・アーティスト。1996年生まれ、福岡県出身。池田エライザとして『高校デビュー』(2011年、監督・英勉)で映画女優としてのデビューを飾り、『みんな!エスパーだよ!』(2015年、監督・園子温)、『映画 賭ケグルイ』(2019年、監督・英勉)、『真夜中乙女戦争』(2022年、監督・二宮健)など多数の話題作に出演。2020年には自ら監督を務めた映画作品『夏、至るころ』が公開となった。NHK BSプレミアム放映の歌番組『The Covers』(出演:2018年4月~2021年3月)や松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』などで歌声を披露してきた中で、2021年8月に「ELAIZA」名義で音楽活動をスタートすることを発表。同年11月に1stアルバム『失楽園』をリリースした。

Photography Kousuke Matsuki

author:

笹谷淳介

1993年生まれ、鳥取県出身。メンズファッション誌「Samurai ELO」の編集を経て独立。音楽をはじめ、幅広いジャンルで執筆を行う。 Twitter:@sstn425 HP:https://sstn.themedia.jp/

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