おもしろきこともなき世をおもしろく。「パンクドランカーズ」親方の“UNCOOL IS COOL”な半生 前編

“UNCOOL lS COOL(=ダサイはカッコイー)”をテーマに掲げるファッションブランド「パンクドランカーズ」。そのすべてを担っているのが、デザイナーでありイラストレーターである親方。彼が作るソフビフィギュアは世界でも人気を集めており、今や海外の「DesignerCon(デザイナーコン)」でも台風の目のような存在だ。その脳内から生み出されるコミカルでシュールな世界観は、常識で凝り固まった現代社会へのアンチテーゼなのか? 作品に込めたシュールな視点や海外での日本文化のリアクションなど、すべてをひっくるめて親方という人物の魅力に迫る。

見た人が思わず二度見するのが“パンクらしさであり、自分らしさ”

——いきなりですが、「パンクドランカーズ」の象徴にして、親方さんの代表作的キャラクターでもある“あいつ”の誕生経緯を教えてください。

親方:絵を描きためているノートがあるんですが、ブランドを始めて4年目くらいに、そのノートに描いたのは覚えてるんですよね。最初はTシャツ用のグラフィックでしたけど、そのTシャツはすごく売れたってわけではなかったので、キャラに名前も付けておらずでした。それで2、3回使ううちに愛着が湧いてきたので、「あいつの名前を考えよう!」となった時に「あいつでよくない?」と(笑)。覚えやすいしいいねということで、そのまま“あいつ”になりました。

モチーフもよく聞かれるんですが、特にこれといったものはありません。ただ、「スタートレック」のミスタースポックのようなキャラクターを作りたいなぁと思って描いているうちにでき上がったのがこいつ、いや“あいつ”(笑)。見比べると全然違うんですけどね。

——本気なのかふざけているのか紙一重のセンスが、「パンクドランカーズ」の持ち味です。そんなユニークなアイデアはどうやって生まれているのでしょうか。

親方:とにかく常日頃から「こんな服があったら、こんなデザインがあったらおもしろいんじゃないか?」って考え続けています。街を歩いている時も看板広告を見て、アイデアのネタを探したりとか。

「パンクドランカーズ」のプロモーションビデオ

——イラストレーターとして自分のペースで作品を描くのとは違い、アパレルのグラフィックはシーズンの立ち上げに間に合わせなければいけないというプレッシャーもあるのでは?

親方:毎シーズン、その戦いはありますね。いざ机の前に座って「よし、やるぞ!」となっても、何も出てこないんですよ。すると自分自身がどんどん腐っていく。「もうヤダ」って感じで、フテ寝しちゃったりして(笑)。でも、それが何日も続くと、急にパッと出てくるんです。

——作品を描く際、親方さんはアナログ派でしたよね。

親方:かなりのアナログですね。手描きの絵をスキャンして、色入れはパソコン。他の人がタブレットでぱぱっと描いているのを見て、すごく魅力は感じているんですが、周りが止めるんですよ。「作品が変わるから、やめたほうがいい」って。それに、やり直しがきくのも自分にとって良くないかなと。失敗できないからこそ集中して描くんですよね。時には、失敗できないけど失敗して、でもそれがイイ!ってことあるじゃないですか。そんな偶然もおもしろさですし。

——そんな親方さんが 一番影響受けたアーティストは?

親方:いろんな人から影響を受けているとは思うんですが、昔から好きだったのが「キン肉マン」のゆでたまご先生。他には、岡本太郎さんもメチャメチャ好きですね。あとはパスヘッドとかUSUGROWも。USUGROWはヌンチャクっていうハードコアバンドの CDジャケットを描いていたんですが、それがすごく格好良くて好きでした。

——どうやらアウトラインが太めのスタイルがお好きなんですね。

親方:あ〜好きですね。それはあります! 僕の描く絵も太いですし。

——表現する上で大事にしていること、意識していることはありますか?

親方:“普通では終わらないこと”ですかね。「普通だね」って言われるのがイヤで、ひとクセもふたクセもあって、見た人が思わず二度見するのが“パンクらしさであり、自分らしさ”だと思います。

——親方さんの作品は見た瞬間、ダイレクトに伝わるおもしろさがあります。

親方:そこは大事にしているかもしれません。言葉が通じなくてもわかるおもしろさは昔から意識していて。だから海外でも良い反応をもらえるのかも。

——海外では親方=ソフビフィギュア(以下、ソフビ)の作家として有名ですが、ご自身が興味を持たれたのはいつからですか?

親方:もちろん子どもの頃にウルトラマンの怪獣のソフビは持っていましたが、10年くらい前に「ゾルメン」「ファイブスタートイ」という2つのソフビメーカーから、ほぼ同時期にコラボの話を頂いたのをきっかけに興味を持つようになりました。それから「こういう世界があるんだ」ってどっぷりハマったって感じですね。

——国内では発売→即完売がお約束になっている「パンクドランカーズ」のソフビですが、海外のイベントでも販売されていますよね。

親方:海外のイベントには参加するようになったのは7年前からです。ロサンゼルスで開催される「デザイナーコン(通称:ディーコン)」というイベントが最初で、持っていったソフビが完売せず、少しだけ売れ残ったんですよね。で、それを現地のディーラーさんに営業して買い取ってもらい、帰国したのですが、翌年にはもう行列ができるくらいの大盛況に! その1年の間にアジアでのイベントにも参加したりと海外の認知度が増していたっていうのもありましたが、そこで手応えを感じました。

本当に落ち着きがないので、じっとしているのに耐えられない

——親方さんと同じスタイルのクリエイターって、海外では多いんですか?

親方:服とオモチャを両方やっている人はいますよ。サンディエゴで「バイオレンストイ」というショップをやっている友達がそうです。ライセンスを取得して『グレムリン』や『ロボコップ』のおしゃれなニットを作ったりしていて。しかも少人数でやっているのも僕らと似ていますし。サンディエゴでは、この前初めて「サンディエゴ・コミコン・インターナショナル」にも参加しました。

——コミックやトイ、アニメなどほぼすべてのジャンルのポップカルチャーやエンターテインメントを扱う、著名なコンベンションですよね。

親方:アメリカで一番規模が大きいのが「サンディエゴ・コミコン・インターナショナル」。その次が「ニューヨーク・コミコン」、次いで「ディーコン」って感じですね。「コンプレックスコン」からも誘いがあったんですが、他の参加イベントとかぶっていたので断っちゃいました。それに「ディーコン」のほうがディープなインディーズのアーティストが出てくるので、マニアックでおもしろい!

——ちなみに英会話は?

親方:それがまったく(笑)。まぁ適当に喋ってますよ。通訳兼アテンダーがいる場合もありますが、相手が気を使って簡単な英語で喋ってくれるので、あまり不便さは感じていません。一時期はちゃんと喋れるようになりたいと思って勉強したんですが、ダメでした。それに向こうに長く滞在していると、最後のほうにはなんとなく聞き取れてくるし、大体こんなことを言っているんだろうなぁってわかるようになりますし。

——実際に肌で感じる、海外でのリアクションはどんな感じですか?

親方:海外に出てよくわかるのが、ソフビは日本のカルチャーということですかね。なのでフロム・ジャパンの作家というだけで、ちょっとだけ良く見てもらえるんですよ。「オー、待ってました!」みたいな(笑)。オモチャの世界では、そういうリスペクトの姿勢をすごく感じますね。

——「パンクドランカーズ」の親方ではなく、ソフビ作家の親方としてリスペクトされていると。そこは日本と違いますか?

親方:どうですかね。実は日本では、ソフビだけで食えている人ってほんのひと握りで、それ以外は別の仕事をしながらの兼業作家が多いんです。ソフビを作ってくれる工場自体、仕事がキツいという理由で若い人はあんまりやらないなんて言われていて、今や下町方面にちょこちょこあるくらい。とはいえ最近は、若い子もだんだんと「ソフビで仕事になるんだ」って気付いてきたようで、ちょっとずつ数が増えているみたいですが。

——時代の変化とともにあるんですね。こんなご時世ですし、時代に合わせて変わっていく人は多いと思います。親方さんは?

親方:僕は変わらないですね。それこそ中学生の頃から好きなモノもずっと一緒で、ずっと中二(笑)。そもそも宣伝やアピールが下手くそなので、その変わっていくやり方自体がわからないんです。たまにありますよ、海外のイベントで行列ができてすげぇ盛り上がったのに、日本では全然それが伝わっていなくて、残念だねって。そういう時に悔しいなとは思いますが。

——わかる人にはいかに偉業かわかるんですけどね。では、ファンは親方さんに何を求めていると感じていますか?

親方:ソフビのファンでいえば、イベント会場なんかで直接お話しすることはあります。大体がオジサンで、オジサンがオジサンにサインするっていう不毛な行為をしながら(笑)。そういう人はみんな純粋。「このまま作り続けてください!」って言ってくれるのを、「これがかわいい女の子だったら最高なのになぁ」って思いながら聞いています(笑)。

——最近ではぬいぐるみも作っていましたし、新たなチャレンジを期待する声も多いのでは?

親方:チャンスさえあれば、新しいことはずっとやり続けたいですね。例えば、ミニカー。以前「シュプリーム」「ホットウィール」とコラボしていましたが、あんなんメッチャうらやましいですよね。やりたいことはまだまだいっぱいありますよ。海外のファンの方も多いので、海外でのコラボもドンドン増やしていきたいし。これまでの仕事を続けながら、そちらもちょっとずつ規模が大きくなっていったらいいなって思っています。

それでいうと、今年11月に開催予定の「ディーコン」では、主催者側から「大きなブースを用意するし費用もこっちで出すから、ソフビだけでなくコラボアパレルも作ってほしい」と言われています。それが今年の一番大きな僕らの仕事になるんじゃないかなぁ。

——コロナ禍であっても、攻めの姿勢は変わらずですね。

親方:本当に落ち着きがないので、ジッとしているのに耐えられないんですよ。なのでこれからも落ち着きなく、アッチコッチ動き回りながらおもしろいことをやっていくつもりです。
(後編に続く)

親方
1971年生まれ。千葉県出身。空手3段、左きき。1998年、“和+洋+遊、UNCOOL IS COOL”が、基本コンセプトのブランド「パンクドランカーズ」を設立し、アパレルの枠を超えて多ジャンルにデザインを手掛ける。2003年より現在まで展覧会(個展)やライヴペインティングも頻繁に開催している。
Instagram:@oyakatapunk
https://www.punk-d.com

Photography Yuji Sato
Edit Shuichi Aizawa(TOKION)

author:

Tommy

メンズファッション誌、ファッションウェブメディアを中心に、ファッションやアイドル、ホビーなどの記事を執筆するライター・編集者。プライベートにおいては漫画、アニメ、特撮、オカルト、ストリート&駄カルチャー全般を愛するアラフォー、39歳。 Twitter:@TOMMYTHETIGER13

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