写真家・小尾淳介が捉えた1990年代のカリフォリニア・ウエスト・コーストのカルチャーと葉山の接続

カリフォルニアと葉山、ファインダーの向こう側に見える風景。鎌倉で生まれ、1970年代の湘南のサーフカルチャーを体感しながら独特な感性を磨きカリフォルニアに渡った写真家・小尾淳介。今回、葉山芸術祭の一環として「一色Base」を舞台に写真展を開催する小尾に、彼が切り取る印象的なカリフォルニアの世界観のルーツを語ってもらった。

「カメラを始めたきっかけは最初に通った英語学校にカメラマンの先輩がいたこと」

−−葉山芸術祭の一環で写真展を開催することになったきっかけは?

小尾淳介(以下、小尾):一緒にサーフィンやスノーボードをしたりしていた友達の斎藤淳太くんが葉山の「一色Base」を経営していて。葉山芸術祭には彼が毎年参加していたんだけど、コロナ禍で2年連続開催できなかった。ようやくまた今年開催できるようになって、ちょうど僕が葉山に引っ越してきたということもあって「オビジュンの写真でなんかできないかな?」っていう話から始まったんです。彼は生まれも育ちも葉山だけど、僕は鎌倉出身だから、都内から葉山に引っ越してくるのに、いろいろ情報をもらった。結局「一色Base」のすぐそばに家を建てたんだけどね。

−−鎌倉がルーツの小尾さんが葉山に引っ越したのはどうしてですか?

小尾:やっぱり次の世代に何か残してあげたい、という気持ちが強かったんです。土地を購入してゼロから家を建てたいということで、最適な場所を探し始めた。ただ、今回家を建てた葉山の土地が見つかったのは本当に偶然だと思う。タイミングが良かったというか、いろんな要素がうまくいってこの場所と奇跡的に出会えた。「呼ばれた」というのが近いかもしれないね。葉山は鎌倉よりちょっと田舎でのんびりしているし、今の僕にはとても雰囲気が合うんだよ。何も無理しないでいいのが気に入にいっている。

−−トークショーには同じ写真家の横山泰介さんも参加されるとのことですね?

小尾:泰ちゃんは僕もよく知ってる間柄で、すごく大切な先輩なんです。彼も葉山に住んでいるしカリフォルニアのこともよく知っているから、せっかくなら対談をしようかって話になって声をかけてみたら快諾してくれました。

−−今回の写真展は「カリフォルニアと葉山の暮らし」がテーマとのことですが、カリフォルニアにはいつ頃住んでいたんですか?

小尾:1979 年にカリフォルニアに渡って、1990年の手前くらいまで10年ぐらい住んでいたかな。すぐ上にケンって兄貴がいて先にカリフォルニアに行って飛行機学校で先生をしていたんだけど、その頃高校を中退した僕も彼を頼ってアメリカに行って、セスナのライセンスを取ろうとしたのがきっかけだね。

−−写真を学びに行ったわけじゃないんですね。

小尾:そう。カメラを始めたきっかけは最初に通った英語学校にカメラマンの先輩がいたことかな。その人と仲良くなって彼がよく仕事をしていた日本のメディア向けのコーディネーターカンパニーでバイトを始めたんだ。コマーシャル撮影隊が来た時にお世話する。ドライバーとか通訳をやっていたんだけど、その時に撮影っていうものがすごいおもしろいって感じて。いろんな撮影にすべて同行していたからね。でも写真学校には行ってない。UCLAで少しだけ基礎クラスを取ったくらい。

−−ほぼ独学なんですね。

小尾:まずはアシスタントについて、日本人はもちろん、ドイツ人やアメリカ人のカメラマンなんかもいたっけ。大きなコマーシャルのセカンドアシスタントなんかをしながら、いろいろ学んだ。今「キヤノン」を使っているのは、その時のカメラマンが「キヤノン」を使ってたからだよ。

「予測の外側に起きる瞬間を切り取りたい」

−−カリフォルニアの印象的な風景をたくさん撮影されていますよね?

小尾:半分以上は仕事での撮影期間で撮影したもの。撮影期間中っていうのは、ずっと写真撮っている。特にオーダーされたわけじゃなくても、そこで僕の感性に触れたものはすべて写真に収めていたんだ。それがいつの間にかたくさんアーカイヴされていったんだ。そこに住んでいたから、当然カリフォリニアが被写体になることが多くなったんだよね。

−−なるほど。小尾さんにとってカリフォルニアのイメージってどんなですか?

小尾:やっぱり光が強い。刺すような光。サーフィンをしているから海の上みたいに開けた所からは、いつも太陽に照らされた景色がいっぱい見える。そういう強い光が作る陰影の中で毎日暮らしていると、立体感がある風景がすごく好きになる。僕の写真は陰影が強いものが多いのだけど、それはそういう理由だね。

−−ざらついた特徴的なイメージは鎌倉じゃなくて、カリフォルニアの光が関係しているんですね。

小尾:そうだね。鎌倉はあまり関係ない。⻘い空とかパームツリーみたいに誰もが思うカリフォルニアのイメージじゃなくて、⻄海岸の強い光が僕の写真のルーツだね。特に夕方の光が好きなんだ。太陽が傾いてくると、どんどん世界がオレンジ色になっていく。光の強さも増してくる。横から射す強い光が対象物に当たると陰影がさらに強くなる。その感じが好きなんだ。

−−ところで写真を撮る時一番大事にしているのはどんなことですか?

小尾:何よりも、素早く撮るってこと。時間をかけてしまうと人や風景とかのテンションがどんどん変わっていってしまうから。瞬間的に撮影することによって、テンションとか動作の1つひとつを、撮り逃がさないように、できる限り素早く撮るんです。物事はいつだって自分の予測に反して、いろんなことがどんどん移り変わっていく。僕はそういう予測の外側に起きる瞬間を切り取りたい。なるべく早く撮ることで、見逃していた瞬間が自分の手に入るという状態が作れる。だから瞬間的な集中力が何よりも大切かな。

−−今回の展示ではどんな写真をチョイスしたんですか?

小尾:まずは、部屋に飾ってもいいな、と思える写真を選んでいますね。パネルのものと額装してあるものがあるけど、どちらもそのまま部屋に飾れるようになっている。展示は、「一色Base」というのは壁が細かく分かれてるから、各壁ごとにカテゴリ分けして写真を編集しました。海のイメージ、砂漠のイメージ、モノクロで撮影したイメージという感じにね。

小尾淳介
18歳で渡米。LAを中心にフォトグラファーとして活動を開始する。その後、日本に拠点を移し、現在も数多くの雑誌や広告写真を手掛ける。2017年、自身の写真表現の原点である、30年以上にわたるカリフォルニアでの生活のワンシーンを切り取った写真集『OUTSIDE CALIFORNIA』(anna books)を上梓した。

Text & Edit Mo-Green

小尾淳介写真展 “Life Style of West Coast×Isshiki Hayama”

■小尾淳介写真展 “Life Style of West Coast×Isshiki Hayama”
会期:4月23日〜 5月15日
会場:一色BOAT HOUSE
住所:神奈川県三浦郡葉山町下山口1506
時間:11:00〜22:00 ※「一色Base」の営業時間に準じる
入場料:来店時に店内メニューから要注文

Special Talk ObiJun×Taisuke Yokoyama
「西海岸カルチャーに学ぶ、葉山の暮らし方」

■Special Talk ObiJun×Taisuke Yokoyama
「西海岸カルチャーに学ぶ、葉山の暮らし方」
※YouTubeで配信予定

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mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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