連載「The View My Capture」Vol.5 編集者やコンテンツディレクター等、肩書きにとらわれず活動する写真家・中里虎鉄の「追憶」

気鋭の若手写真家を取り上げて、「後ろ姿」という1つのテーマをもとに、切りとられた自身の作品を紹介していく本企画。後ろ姿というのは一見して哀愁や寂しさが感じられることが多いが、対象や状況によっては希望に満ちたポジティブな情景が感じられることもある。今回は写真家としてだけでなく、雑誌『IWAKAN』の編集者やコンテンツ制作など多方面で活躍している中里虎鉄。過去の実体験を、彼なりの解釈で表現する。

追憶

3年前、当時付き合っていたパートナーと逗子の海へ出かけたことがある。

その後すぐに彼とは別れたけど、僕は長い時間、彼と過ごした過去に留まっていた。

だけど時間が経ち、徐々に現在を生きられるようになった頃、僕は彼の匂いや顔の細かなパーツ、声、愛おしかったクセすらも解像度が落ち曖昧な画となっていくのを感じ、寂しくもやっと前に歩き出せる感覚が嬉しかった。

まっすぐ僕を見ていたはずの彼を思い出すように振り返っても、その時の彼は今の僕に背を向けている。僕も彼をまっすぐ見ることはもうできない。

当時彼に感じていた気持ちはここにはないし、振り返ってもすべて混ざり合って、溶け合って、ただそこにあっただけ。

僕が唯一続けられている写真とはこれからも続けられるように適切な距離感で関わっていきたい。

ーー写真を始めたきっかけは?

中里虎鉄(以下、中里):三日坊主の僕が唯一続けられていたものが写真。小学生の頃、家族で出かけると写真を撮るのが僕の担当だった。写真を撮ることは特別好きでも嫌いでもないけど、続けられていることだから、これからも続けられるように適切な距離感で関わっていきたい。

ーーシャッターを切りたくなる瞬間は?

中里:目の前にいる人のジェンダーやセクシュアリティ、あらゆる規範が揺らいだり解放されたりするようなコミュニケーションや出来事が起こった時に、変化することの美しさを感じる。その瞬間や、その時の感覚を思い出しながら、変化への困惑や希求などを写したい。

ーーインスピレーションの源は?

中里:自分の身の回りや心の中で起こる物事。社会はいつまでもクィアやマイノリティに対して、命と暮らしの保障をせず、差別を容認/助長するような発言やシステムを繰り返す。そのたびに自分自身の存在を無いものとされているように感じたり、ないがしろにしていいと思われているように感じたりする。事実そうである。僕らはこの社会を生き延びなくてはいけないのだ。社会で起こることと、それに対して自分の中での答えや、社会構造を変えていく運動のプロセスで見るもの、感じることすべてが僕の制作活動のインスピレーション。

ーー今ハマっているものは?

中里:おいしいスパイスカレー屋さんを探すこと。いろいろなスパイスや食材が混ざり合って1つのプレートが完成する。そんな社会であったら最高だよな。

ーー今後撮ってみたい作品は?

中里:僕ら(クィア)のリプレゼンテーションはどのようにできるのか、それは可能なのか。思考の末にたどり着いた像を撮りたい。

−−目標や夢は?

中里:声をあげる人の話に耳を傾け、有毒な社会規範や構造が見直されること。その先に使命感ではなく、好奇心や探究心で夢や目標が持ちたい。

中里虎鉄
1996年、東京生まれ。フォトグラファー、エディター、コンテンツ制作など、肩書きにとらわれず多方面に表現し続けたいノンバイナリーギャル。出版社勤務を経て、独立。Creative Studio REINGから刊行された雑誌『IWAKAN』の編集制作も行う。自身のジェンダーやセクシュアリティにまつわる経験談や考えを発信している。
Instagram:@kotetsunakazato

Photography & Text Kotetsu Nakazato
Edit Masaya Ishizuka(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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