平山昌尚が見たかった屋外展示による変化。雨に打たれ、日を浴びると絵はどうなるのか?

絵を1ヵ月間、屋外に野ざらしで展示し続けたらどう変化するのだろうか。「紫外線や湿気による劣化は避けるもの」という絵の常識にとらわれない発想を取り入れた個展「町の絵」が三軒茶屋「クリニック」で6月5日まで開催されている。

本展のギャラリー内や敷地の壁、庭に展示されているのは、無二の世界観を持つ平山昌尚の作品。平山はなぜ、絵を屋外でも展示しようと考えたのか。そして、これまでの経年変化をどう感じているのか。雨が降り作品がびっしょりぬれる中、平山に話を聞いてみた。

町の掲示板を見ていたら外でやってみたいなと

——「町の絵」は、作品を屋外でも展示するという斬新なアイデアが取り入れられています。本展のきっかけを教えてください。

平山昌尚(以下、平山):屋外の掲示板にチラシやポスターがありますよね。雨風にさらされ色が抜けたり、擦れたり、波打ったり。数年前からそういった変化が加わる作品の展示をしてみたいと思っていました。

——それって、多くの人が見過ごすものが平山さんの目にはすごく気になるものとして映っていたということですかね。では、今回の個展は屋外展示のために企画し、実現されたのでしょうか?

平山:当初はギャラリーでの屋内展示としての計画でした。その後ギャラリーだけではなく、ギャラリーの庭、隣接したブルーボトルコーヒーを使った展示へと規模が拡大し、屋内外での展示が実現しました。

——平山さんと言えば、Tシャツなどにもなっている線が細いモチーフを想像する人も多いと思いますが、本展では、そのような作品はないですね。

平山:そのときどきによってですね。今回は絵の展示です。

——そうなんですね。では、今回展示する絵を制作するにあたって影響を受けた事柄はありますか?

平山:天気がモチーフになっている作品がいくつかあります。

——外にくるくるとした絵が2つ飾ってありますが、あれも何かの出来事が関連しているのですか?

平山:くるくるは抽象的なイメージです。植物の前に立て看板風に展示しましたが、偶然にもその植物の名前が書いてあるようにも見えますね。

——聞いていたら立て看板に見えてきました(笑)。屋外に展示する絵を描くことはなかなかないと思いますが、室内に飾る絵と屋外に飾る絵で描き方に違いはありましたか?

平山:いつも通りです。作品の展示場所を決める際に、ギャラリー内には雨の日に描いた絵を、他は外に展示しました。雨の日に描いた絵は、家にある物や家から見えるものが題材になっています。

——では、屋外に展示するために特別な紙や画材を使用しているのですか?

平山:屋内外ともに画用紙か厚紙に描きました。画材はアクリルです。

——ギャラリーの中の絵が3枚だけなことにも驚きました。

平山:屋内外とも同じ作品の密度にしたいと思っていたので、結果、ギャラリー内は3点になりました。

恵みの雨です。もっと降らないかな(笑)

——個展が始まって1週間がたちました(※取材日は、5月13日)。ここまでの経年変化をどう感じていらっしゃいますか?

平山:外に展示した作品は徐々に変わってきました。2日前に見た時は変化がなかったですが、今日は紙のゆがみがあります。昨日の雨が影響してるようです。虫の足跡もありましたし、青い花の絵にはナメクジが付いていました。

——そういう変化もあるんですね(笑)。ここまでは予想通りの経年変化なのでしょうか?

平山:意外な変化としては「ART」と描いた作品はアクリルが浮いてきています。

——もし個展の期間中に絵が破れたら、その時はどうされるんですか?

平山:状況に応じて修復します。絵が地面に落ちた場合は貼り直します。

——では、5月に開催したことに理由がありますか? 例年、5月は梅雨入り前で晴れの日が多い印象ですが、今年は雨が多いです。

平山:人の多いこの時季になりました。変化した作品が見たいので、今日は恵の雨ですね、もっと降らないかな(笑)。

——個展終了までにどう変化していくのか、楽しみですね。絵の変化を見る個展は、客もほとんどの人が未経験だと思いますが、反応はいかがですか?

平山:コーヒーを飲みに来た人にも興味を持ってもらえたらうれしいですね。

——屋外に展示された作品を購入された人もすでにいらっしゃるようですが、購入者にはどのように渡すのですか?

平山:会期終了後にその時の状態でお渡しします。額装もできます。

——見た状態のままの作品を気に入って購入することが多いと思いますが、作品が家に届く時には状態が変わっているかもしれないのも斬新です。

平山:庭の作品を購入された方は、ブルーボトルコーヒーの店内からの眺めで決めたそうです。

——このインタビューで個展のことを知って見に来る人もいるかもしれません。経年変化した作品をどのように見てほしいですか?

平山:外の作品は時間の変化も含めて見てもらえたらと思います。

——最初の頃に見に来た人は、終盤にもう一度来たら変化を楽しめそうですね。

平山:ブルーボトルコーヒーの常連の中には経年変化に気付く人もいるかも知れないですね。

——最後に1つ聞いても良いですか? ずっと気になっていたんですが、スニーカーに名前が書いてありませんか?

平山:はい。左足には購入した日付があります。同じものを買うので持ち物に名前と購入日を書くようになりました。時期が判るのは便利です。

——見える位置に書くって勇気がいりますよね。

平山:実家のテレビにマジックで日付が書いてあったので便利だと思って。名前を書くと愛着も湧きますし。時間の変化、今回の展示にも共通しますね。

平山昌尚
1976年生まれ。兵庫県出身。国内外で展示を行う。6月5日まで、三軒茶屋「クリニック」でソロ・エキシビション「町の絵」が開催中。
https://www.himaa.cc
Instagram:@masanaohirayama

■平山昌尚「町の絵」
会期:〜6月5日
会場: クリニック/ブルーボトルコーヒー 三軒茶屋カフェ
住所:東京都世田谷区三軒茶屋 1-33-18
時間:11:00‒17:00 (カフェと屋外展示は 08:00‒19:00)
※平日に限りギャラリーへの入室は予約制(インスタグラムDMにて連絡。 @clinic_tokyo
主催: クリニック
共同企画/キュレーション: Yu Murooka 
特別協力: ブルーボトルコーヒージャパン
http://www.clinictokyo.com

Photography Shinpo Kimura
Text Kango Shimoda

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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