アニメーション映画『神々の山嶺』のフランス人監督・パトリック・インバートの公式インタビューが公開 谷口ジローへの想いを語る

作家・夢枕獏のベストセラー小説を 、世界中にファンを持つ谷口ジローが漫画化した「神々の山嶺(いただき)」。フランス人監督のパトリック・インバートによりアニメーション映画化され、第47回セザール賞アニメーション映画賞を受賞するなど、フランスで大ヒットを記録。7月8日から新宿ピカデリーやヒューマントラストシネマ有楽町など、日本での公開も始まる。

完成を願いながら惜しくも2017年にこの世を去った、谷口ジロー自身も製作に参加。大ヒットアニメーション映画『ウルフウォーカー』の製作チームと共に7年の歳月をかけ、熱い人間ドラマと実写では再現不可能な命がけの登攀シーンを圧巻の映像で表現した。日本語吹き替え版では、堀内賢雄(深町誠役)や大塚明夫(羽生丈二役)、逢坂良太(岸文太郎役)、今井麻美(岸涼子役)といった声優陣が吹き替えを担当する。

ストーリー
「登山家マロリーがエベレスト初登頂を成し遂げたかもしれない」といういまだ未解決の謎。その謎が解明されれば歴史が変わることになる。カメラマンの深町誠はネパールで、何年も前に消息を絶った孤高のクライマー・羽生丈二が、マロリーの遺品と思われるカメラを手に去っていく姿を目撃。深町は、羽生を見つけ出しマロリーの謎を突き止めようと、羽生の人生の軌跡を追い始める。やがて2人の運命は交差し、不可能とされる冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑むこととなる。

日本公開を直前に控え、パトリック・インバート監督の公式インタビューが届いた。

「この映画はフランスと日本の文化の懸け橋のような作品」

——原作者である谷口ジローさんは、フランスでも多くのファンがいらっしゃいます。谷口さんの漫画はパトリックさんをはじめ、フランスのクリエイターの中でも人気なのでしょうか、クリエイターたちが影響を受けていることなどはありますか?

パトリック・インバート(以下、パトリック):もちろん有名です。有名な方ですが、私自身は谷口さんの原作漫画から直接的な影響を受けたというわけではないですが、日本の文化や日本から非常にたくさんの影響を受けたというのは間違いないと思います。それから日本のアニメファンというのは、フランスにも、ヨーロッパにもたくさんいますので、谷口さんのこの原作からの影響というよりは、日本のアニメファンというのが元々いるので、そこから影響を受けていると思います。

——パトリックさんは原作の漫画は今回のオファーより前に読まれていたのでしょうか?

パトリック:今回、このプロジェクトにオファーされる前は、原作漫画を読んでいなかったのですが、谷口ジローさんの他の作品は読んだことがありました。漫画「神々の山嶺」は特に超大作なので、手を出せずにいたのですが、読んでみるとすごく面白くて、あっという間でした。

——谷口さんの原作をアニメーション化することは、非常に大変だったと思いますが、どのようなお気持ちで臨まれましたか?

パトリック:非常にこのアニメ化は難しいところがたくさんありました。どんな作品であれ、映画にするという作業は非常に難しい事の連続なのですが、原作が1500ページにも及ぶ大作なので、谷口ジローさんのスピリットや基本的な考え方をそのまま忠実にしながら、90分に短くするという作業が非常に難しかったです。ただ谷口さんの視点などは尊重して、そして谷口さんの他の漫画を読んだりして、谷口さんのことよりもっと理解するようにしました。人物の描写や、人物の心理的な深い部分については、より複雑なので、谷口さんについて理解することによって、脚色することができました。

——制作にあたり、特にこだわって制作した箇所、また苦労した箇所があれば教えてください。

パトリック:すべての点において苦労しました。アニメにおいて大切なのは、まず元となる絵コンテとナレーション、ストーリーの部分なのですが、これが非常に大切です。これがなければ、次の制作の段階に進めないからです。その後の部分については、予算との兼ね合いで、どれだけの予算を割くことができるか、予算的なことによって決まってくると思います。

——山の描写のために、丹念に研究をされたと伺いました。リアルな山を描く上で気をつけたことは何ですか。(山好きになりましたか?)

パトリック:自分が登山家ではなかったので、まずは山についてのそれぞれのテーマでインターネットや本で調べ、色々な資料や知識を得ました。それから、実際に登山をする人をスタジオに呼び、彼にどうやって山に登るのか、具体的なジェスチャーや身振り手振りを加えて色々教えてもらいました。それから、アルプスと違い、ヒマラヤの登山というのは、日本やフランスの山を登るのとも少し違い、厳しい部分があるので、そういった部分をリアルに、忠実に作っていく必要がありました。SF映画とも違って、できるだけ忠実に、リアルに、写実的に描くようにということに気をつけながら作りました。

——日本の街並みや料理、仕草など日本の描写が印象的でした。表現するにあたり工夫した点はありますか。また、どのようなアドバイスを受けましたか。

パトリック:先ほどの山登りと一緒で、日本文化の側面についても、描くにあたり、インターネットでたくさんの資料や画像など、さまざまなものを参考にしました。それから、フランス人で日本文化のファンという方はすごく多くて、スタッフの中にも日本に住んでたことがあると人がいました。また、友人でフランスに20年住んでいる日本人の方もいます。日本文化、あるいは日本における人間関係、上下関係や死生観、日常生活では靴を脱ぐというような居住条件など、彼らからいろいろ教えてもらいました。日本の住居では、畳は一畳の大きさが決まってるんだよ、ということを教えてもらうところから始まりました。

——深町の本棚にジブリや寺田克也さん、松本大洋さんの本がありました。居酒屋ではロックパイロットの曲が流れていました。これらはどなたのアイディアですか。

パトリック:これらを描写したのは、もちろん、そういった日本の偉大な漫画家たちへのオマージュです。漫画家達以外の本も、写真家の本など、深町の本棚にはたくさん並べているのですが、そういったところに気づいていただけたというのはすごく嬉しいです。ありがとうございます。

——好きな日本の映画作品は何でしょうか? アニメ、実写問いません。

パトリック:高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』です。

——日本の漫画でアニメーション化してみたい作品はありますか。

パトリック:浦沢直樹さんの「20世紀少年」です。

——日本で劇場公開されることについて、どのようなお気持ちですか。

パトリック:まもなく日本で公開になるのはすごくうれしいですし、緊張もします。アニメ大国において、私の作ったアニメ作品が公開されるというのは、幸せでもあり、ちょっと怖い気持ちもあります。

——日本の観客にメッセージをお願いします。

パトリック:この映画が日本で公開され、日本の皆様に見ていただけることを大変光栄に思います。この作品は原作が日本で生まれ、小説が漫画になり、それがフランスに渡り、フランスでも出版され、そしてフランスで映画化されました。映画はフランスと日本の文化の懸け橋のような作品となっています。私自身日本の芸術や映画からも大変影響を受けており、今回このような形で今まで日本からいただいていたことに対して御恩返しができるということを大変喜んでおります。この映画が日本の皆様にも気に入っていただけたらこの上ない喜びです。

パトリック・インバート
映画監督、アニメーター。数多くのテレビシリーズに携わり、映画『アヴリルと奇妙な世界』、『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』ではアニメーション監修を担当した。2018年には、『とてもいじわるなキツネと仲間たち』をバンジャマン・レネールと共同監督し、セザール賞にて長編アニメーション賞を受賞した。

■『神々の山嶺(いただき)』
監督: パトリック・インバート
原作:「神々の山嶺」作・夢枕獏 画・谷口ジロー(集英社刊)
日本語吹き替えキャスト:堀内賢雄 大塚明夫 逢坂良太 今井麻美
2021年 / 94分 / フランス、ルクセンブルク / 仏語 / 1.85ビスタ / 5.1ch
原題:LE SOMMET DES DIEUX 
吹替翻訳:光瀬憲子
配給:ロングライド、東京テアトル
https://longride.jp/kamigami/

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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