日常にある奇跡的な瞬間を切り取るオカダキサラの観察眼

東京の街中を舞台に、何気ない日常で起こる奇跡的な瞬間を切り取る写真家のオカダキサラ。彼女が捉える被写体や瞬間には多様なツッコミどころが含まれていて、あらゆる物語が湧き上がってくる。膨大なスナップ写真の作品群はどのようにして生み出されるのか? 東京という都市へのこだわりから巧みに瞬間を切り取る背景を中心に話を聞いた。オカダの目には何が写っているのか。

東京生まれの東京育ちで、東京在住だけど、東京にいると観光客のような気分になる

−−今回の個展のテーマは、「東京2020オリンピック」に関連するものですし、キサラさんの作品は「東京」という都市に深く関わっていますね。まず、自分が「東京人」だと思いますか?

オカダキサラ(以下、オカダ):私は東京生まれの東京育ちですし、今も住んでるのは東京なんですけど、東京にいると観光客のような気分になります。他県の人と比べると東京の人ではあるんですが、自分ではそう思えないしなんとも言えない気持ち。でも、東京の街を写すことによって、そこに住む人々を通じて東京さを感じられるような気がしています。その人間性がわかるんじゃないかと思って東京をテーマに撮影しています。

−−TOKY∞VER』の写真に写っている人達は、東京人だと思いますか?

オカダ:ある人はそうでしょうし、そうじゃない人もいますね。

−−個展の形式はどうやって決定したんですか?

オカダ:ステートメントで、2021年に東京オリンピックが開催されたことについて、言及しているんですが、本来開催される予定だったロゴマークの“2020年”がいつまでもあるので、珍しいと感じたんです。東京って流行を追いかけて目まぐるしく変わっていくはずの都市なのに、2020年に引きずられているようで、再び時が動き出す前にその時の写真をまとめて今回、発表しました。時計は時間を意味しているし、オリンピックの象徴的な輪を時計にアレンジしようと思ったんです。

−−オカダさんの写真には、力強さとミステリー感があります。ミステリーさを感じるのは一瞬ですか、それとも写真を改めて見返した時ですか?

オカダ:どっちもあって。ちょっと変わったものがあると、すぐにシャッターを切ります。撮りためた写真の中から、またもっとそういうイメージの写真を探してしまうんです。なので、ちょっとでもミステリアスだと感じたものは撮影していますね。

−−1日、200枚近くも写真を撮ると聞いたことがあります。

オカダ:そうですね、200枚くらい撮っています。今日も撮ってるんですけど……そうですね、200枚くらいですね。1年中撮っているという感じです。

一瞬だけ流行った“マスクの着用”という事実を実験的に、記録しているように撮影する

−−カメラと被写体の理想的な距離を見つけられたようですが、その距離感はどのようなものなのでしょうか?

オカダ:写真を始めて4年が経つんですけど、最初は近い距離感で撮っていたんです。そのうちに、1つのものよりも人物と場所が集まっているような観光っぽさが気になってきてから、だんだん距離を取るようになりました。4、5年前から距離が離れてきましたね。

−−ストリートフォトグラファーとして、撮られたことに気付いた人からはどんな反応がありますか?

オカダ:「おお、この人撮ったな」とか「あ、撮られてる」っていう感じの反応が多いですね(笑)。

−−でも、誰も会話をしないんですか?

オカダ:そうですね、特にはないですね。

−−東京のおじさん達にカメラを向けるのはなぜでしょうか?

オカダ:おじさんって歩き方とかにその人の人生が映し出されていることが多くて、マダムもそうですよね。今の若い人達って、撮られることに慣れているから固くなりにくいんですけど、年齢を重ねると自分らしさが出てくる。そんなおじさんが多いなと。あと、私の行動圏に多分おじさんが多いんですよね、通勤とか帰宅時もそうですけど。

−−写真のモデルとして見ているということですか?

オカダ:どうだろう……おじさんがモデルというわけではないです。でも、東京という街を表していると思うし……。おじさん達は、目的を持って街を歩いていると思うんです。若い人はブラブラ歩いても退屈しないけど、おじさんは目的がないと歩き出さないような気がするんですよね。一般的にですけど。そういうのと東京の街がちょっとだけリンクするような感じがあります。

−−キサラさんが最近撮った写真では、マスクの存在感が大きくなってしまいますよね。写真家として、マスクに対する反応はどのように変化していったのでしょうか。

オカダ:マスクをつけ始めた時、表情が見えないっていうことが街の雰囲気にも影響するのだとちょっとびっくりしました。顔の半分は見えているわけですから、アイコンタクトくらいはできると思ったんですけど、難しかったですね。でも、1つだけ言えることはマスクで隠している分、以前よりも撮られることの反発は少なくなった感じがしますね。私だけの考えかもしれません。

あと、長い目で見ると、マスクをしない時間のほうが長くなるわけじゃないですか。もっと、暑くなってくればマスクをしたがらなくなりますし。みんなが積極的にマスクをしている、本当に一瞬だけ流行ったという事実を実験的に、記録しているように撮影しています。まだ、何かが終わったわけでもないんですけどね。

一瞬、目を離すだけで変わっていく東京の風景

−−キサラさんの作品は、視点を分ける仕切りがありますよね。具体的な壁の写真でもあり、地下鉄の駅の黄色い線のような境界線もある。この仕切りは、いつも意識しているのですか?

オカダ:はい、意識しています。スクリーンを通して観るような感覚でデザインを意識しています。あの黄色い線は印刷物のイメージで捉えていますし、目が不自由な人のためのデザインであったり、そのデザインの意味を広く捉えていることもあると思います。

−−それはデザインそのものに対してでしょうか? それとも人の反応に対してでしょうか?

オカダ:個人的にも写真的にも両方の意味で捉えています。デザインが誰のためにあるのか、どのように作用しているのかということもありますよね。それも東京の一部として見ています。

−−今回の個展では、地下鉄で撮影された写真がかなり多いですね。地下鉄で撮影しようと思ったきっかけは何でしょうか?

オカダ:2021年って、東京オリンピック開催の影響で、地下鉄に乗っている人が少なかったんですよ。人が少ない地下鉄っていうのは今後、そう見られないと思ったんですが、実際に見てみると、人の動きや乗り換えがとてもドラマチック。人が少ないからドラマがないかというと、そうでもなくて。地下鉄の風景がよく見えるようになったから、何が起こっているかがわかりやすいし、人との関係性がおもしろくなって、写真を撮り始めたんです。

−−東京の工事現場や作業員等、物理的に変化する瞬間をよく撮影されていますね。それは必然なのでしょうか?

オカダ:必然的なものだと思いますし、それが東京だと思います。渋谷駅が典型的な例です。工事が終わっては始まり、それが終わればまた別の工事が始まるっていう、東京の都心部では全体的にそういうことが起きているんでしょうね。人口を支えるためのインフラは必要ですけど。田舎に行くと3年前に来た場所なのに、何も変わっていないと感じることがあります。でも、東京では迷子になっちゃうことも多いんです。その迷路のような感じ、動き回っている時間が東京の好きなところです。変化を続けることで、飽きることはない。

−−そのアクティヴな変化が、キサラさんを観光客のように感じさせるということでしょうか?

オカダ:そうですね。人は常に動いていて街の出入りも多いので、街も変わっていくんですよね。一瞬、目を離すだけで変わってしまうと思います。

−−写真に写っている広告が印象的でした。その表情は「広告」という文脈からは離れているような気がします。広告をどのように見ていますか?

オカダ:東京の特徴の1つが広告の多さだと思うんですよね。街に貼られてる広告がとにかく多いので、気になったのと、私は活字中毒なので、広告の一字一句を全部読んじゃう癖があるんです。それで広告を撮り始めました。広告をメインにしちゃうんですけど、「おっ、良い写真だな」と思って撮っています。

−−というと言葉は映像と同じように重要なのですね。

オカダ:言葉が大切な時もあります。特にコロナが蔓延し始めた時に「距離を置いて」っていうメッセージが出ましたよね……。

−−外国人である私の東京のステレオタイプなイメージは、夜の街で広告がライトアップされていたり、点滅しているようなものです。なぜ、日中の撮影が中心なんですか?

オカダ:ちょっと言いにくいんですが……1つには、私が昼型人間なので、そんなに遅くまで起きていられないんです(笑)。でも、正直なところ、夜だとすべてが大げさに見えてしまうと思うんです。私が写真で表現したいのは、日常の不思議という素晴らしさと周りを見れば楽しいことがあるということ。だから、特に何も起こらないような時間帯で撮影しています。

−−キサラさんの写真にユーモアのセンスを感じます。そのセンスは、内面から湧き出るのか、それとも外から見えるものなのでしょうか?

オカダ:圧倒的に外からです。私はそんなにセンスがないと思っていて、世の中がおもしろすぎるんですよね。そのおもしろさの一端を捉えることができるのは魔法のようなもの。私が撮影している間にも後ろでもっとすごいことが起きているのかもしれない。圧倒的に外の世界がおもしろいんです。

オカダキサラ
1988年東京都生まれ。2012年、武蔵野美術大学映像学科卒業。2011年に第4回1_WALLファイナリストに入選する。2015年にニコンサロンJuna21に、2016年にはコニカミノルタプラザフォトプレミオに入選する。2021年に個展「ⒸTOKYO to KYO too」をGallery TK2で開催した他、「©TOKYO 現想幻実の東京日和」(京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク、2021)、「トーキョーテンペンチーズ!」(キヤノンギャラリー銀座・大阪、2022)等がある。Kis/PHOTO
Instagram:@okadakisara
Twitter:@oKadaKisara

■「TOKY∞VER(トーキョーオーヴァー)」
会期:8月1〜14日
会場:ROOMCRIM NAGOYA
住所:愛知県名古屋市中区大須3-1-35 HASE-BLDG.3 2階
公式サイト:www.roomcrim.conceptshop.online/
Instagram:@roomcrim_nagoya
※今まで撮りためた作品の中から厳選して45点ほどを展示。作曲家ウチダアキヒコとのコラボ作品も展示する

author:

トビー レノルズ

はニューヨーク出身のライター。音楽や映画、アート、ファッション、そしてそれらが交錯する可能性等、幅広い分野に興味を持つ。現在、東京に在住。

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