国境を越えトライバル&シャーマニックな音世界を伝える日本人3人組バンド・KUUNATIC その謎めく全貌をインタビューから探る

月を崇拝し、古代の歴史や神話からインスパイアされた物語を下敷きとして、サイケデリック・ロックや各国のトライバル・サウンド、日本の伝統音楽などが溶け合った独自の音世界を紡ぐ日本人3人組バンド、KUUNATIC。2017年に1stEP『KUURANDIA』をリリースして以来、UKツアーや台湾のバンド・クロコデリア(CROCODELIA)とのスプリット盤リリースなどを行ってきた彼女達は、昨年10月に元ギャング・ギャング・ダンス(GANG GANG DANCE)のティム・デウィット(Tim DeWit)のプロデュースのもと独レーベル〈Glitterbeat Records〉から1stフルアルバム『Gate of Klüna』をリリースし、国境を越えて存在感を高め続けている。この6月から7月にかけて、UK、EUの30のヴェニューを巡るツアーも成功裏に終えたばかり。

そんなKUUNATICの全貌に迫るべく、バンド結成の経緯やコンセプト、海外活動をスタートさせた理由や最新作の制作背景について、台湾に住むフミエ(Key, Vo)、東京に住むユウコ(Dr, Vo)、ロンドンに住むショウコ(Ba, Vo)に、ツアーが始まる前の春の日、ZOOMをつなぎ尋ねた。

KUUNATIC 左から:フミエ、ユウコ、ショウコ Photography Shawn Chao
左から:フミエ、ユウコ、ショウコ Photography Shawn Chao

独自の音世界はいかにしてかたちづくられたのか

――まずKUUNATICを結成した経緯を教えてもらえますか?

ユウコ:オリジナルメンバーにベネズエラの出身のアンジーという女の子がいたんですけど、そのアンジーが私とフミちゃん(フミエ)の共通の友人で。もともと2人はKUUNATICの前身となるものをやっていて、スタジオにも入ったりしてたんだよね?

フミエ:うん。最初はアンジーとフィンランド人のサンニって子と私の3人でちょいちょい楽曲を作っていて。そんな時、サンニがフィンランドに帰ることになって、ドラマーを探すことになり、アンジーがユウコさんを紹介してくれて、一緒に音楽作りに参加してもらうことになったんです。それが、KUUNATICの始まりですね。

――前身となるバンドでも音楽性やコンセプトは現在のKUUNATICに近いものがあったのでしょうか?

フミエ:いえ、その時はひたすらジャムをしていて、明確にコンセプトを持って音楽を作っている感じではありませんでした。

ユウコ:トライバル的なサウンドや日本の伝統的な音楽をミックスさせた曲を作りたいというアイデアは、KUUNATICになってから出てきたものですね。アンジーはベネズエラから日本の大学に留学で来てたんですけど、彼女は日本の文化に興味があって、私の方はアンジーのルーツにすごく興味があったしベネズエラやラテンの音楽にも興味があった。それで、フュージョン的な感覚というか、「お互いの国の文化を混ぜた音楽をできたらいいよね」みたいなことを話していました。2017年にリリースした1stEP『KUURANDIA』はその感覚が強く表れていると思います。

――ショウコさんはそのEPのリリース後に加入されたとのことですが、当時のことを振り返るとどんな状況でしたか?

ショウコ:私が入ったのは2017年のイギリスツアー前ですね。これからツアーというところでアンジーが抜けて、「やばい、誰かいない?」という状況の時に、2人が私に声を掛けてくれて。最初はサポートメンバーとしてツアーを回ったんですけど、その後に正式なメンバーとなって今に至ります。入った当初はこんな音楽聴いたことなかったし、KUUNATICは音階の使い方も独特で、とても不思議に感じたのを覚えています。

KUUNATIC – SPiral Halt(2017)

――KUUNATICが奏でるサウンドからはさまざまな音楽要素が聴こえてきますが、皆さんはどのような音楽的バックグラウンドをお持ちなのでしょうか?

フミエ:私は神楽や日本舞踊を習っていました。KUUNATICで日本笛を吹いている曲があるんですけど、それは神楽で使っていたもので。それが自分のルーツにあって、日本の伝統音楽の要素や感覚をバンドに取り入れたかったんです。あと、60年代のサイケやプログレがすごく好きで、そこからの影響も大きいですね。私はDJもやってるんですけど、そのあたりの音楽をよくかけています。

ユウコ:私はけっこう幅広くというか、平たく聴いている感じですね。基本的にはメタルやハードコアが好きなんですけど、サイケやプログレも好きだし、エレクトロニック・ミュージック、ダンス・ミュージックも好きで。最初にお話しした通り、いろいろな国の音楽や文化にも興味があって、西洋圏ではない音楽、トライバル的なサウンドも聴いてます。

――ショウコさんはいかがですか?

ショウコ:私は、両親がクラシックのオーケストラの演奏家だったので、完全にそっち系で育ちました。父親がバロック音楽をすごく好きで、幼少期はずっと半ば強制的に聴かされているような感じでしたね。大きくなってからロックやポスト・パンクに出会い、その後もいろいろな音楽を聴いてきましたが、音楽に向き合う時に、やっぱりバロック音楽がベースになっていたりするのかなとか思ったりもします。引っ付いてくるみたいな感じというか。

月に対する特別な想い

――三者三様と言いますか、そういった多様なバックグラウンドがKUUNATICのユニークな音楽性につながっているのですね。ところで、KUUNATICというバンド名は造語だと思うのですが、どのような想いや意味が込められているのでしょうか?

フミエ:“KUU”はフィンランド語で月を意味する言葉で、それを“LUNA(月)”を含んでいる“LUNATIC(狂的な/狂人)”と掛け合わせて、KUUNATICというバンド名になりました。KUUNATICのメンバーは、みんな月を崇拝しているんです。ミステリアスで美しいというところにも惹かれますし、高揚や狂気を誘うとされるなど、月にまつわるさまざまな伝統や文化にも惹かれています。

ユウコ:月って、生まれてからずっと身近にあるものなんですけど、裏側が見えないところも含めてミステリアスで神秘的で、ある意味ファンタジーに近い存在とも感じられて。そういった二面性や不思議さに魅力を感じます。

ショウコ:月が出ていれば絶対見ますし、月のサイクルによって眠れなくなるとか、身体的レベルで影響を感じていますね。それは精神的なところにもつながっているんですけど。特に女性は月の満ち欠けに影響される部分があるのかなと思います。あと、すごく象徴的な話があって。私達がライブをする時って、大体、満月だったりするんです。

――それはすごいですね! 意図的に合わせてるわけではないんですよね?

ショウコ:はい、たまたまだと思うんですけど。

フミエ:月を呼んで呼ばれてって感じなんですよ、KUUNATIC。

ユウコ:この3人で何かをしていたら、「今日は満月だよ」とか「今日は新月だから」とかそういう話はわりとカジュアルに出てくるんですよ。

海外での活動のベースをどのように築き上げたのか

――KUUNATICは、2017年のEPリリース後からすぐにイギリスツアーを行ったり、台湾のバンド、クロコデリアとスプリットEPをリリースしたりと、最初から海外での活動を志向されていたように思います。初作品リリース後にいきなりイギリスツアーというのは簡単にはできないことだと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

フミエ:私は、今は台湾に住んでいるんですけど、KUUNATICを始める前にイギリスに住んでたんです。留学で行ったんですけど、その間に友達とブッキングエージェンシーを始めて、日本人アーティストのヨーロッパでのライブやツアーのコーディネートを担当していました。その関係でヨーロッパ、特にイギリスにコネクションが強く、自分達のバンドでも海外でライブをやっていきたいと思っていたので、それを活かしてイギリスツアーを実現させた感じですね。

ユウコ:私はKUUNATICの前にエレクトロニック系のデュオをやっていて、1回ヨーロッパのフェスに出たことがあったんですけど、とても楽しくてその時に「もっと海外でやりたい」という気持ちが強くなりました。今、KUUNATIC以外でもソロプロジェクトなどで活動しているんですけど、ヨーロッパに縁があるみたいで、ライブをすることが結構ありますね。ただ、KUUNATICは、海外だけでやろうとか考えていたわけではなくて、日本でもいろいろと活動していたんです。

フミエ:私達の音楽って異質すぎて、どこかのシーンに属するとかはない感じなので、日本では幡ヶ谷のforestlimitや落合のsoupで自主企画のイベントをやっていました。あと、誘われるところでライブをやったり。いろいろやっていた中で、結果的にヨーロッパに引っ張られていった感じですね。

――ちなみにショウコさんは現在ロンドンにお住まいだそうですね。  

ショウコ:毎年UKツアーはやっていたのでなじみがあったのと、ずっと学生の頃から取りたいと思っていたビザが去年のパンデミック中にやっと取れたので、引っ越しました。こっちにいるほうがライブやツアーもフレキシブルに対応できるので。海外でのライブ経験というと、KUUNATICに入る前、ソロのシンガーソングライターとしてロンドンでオープンマイクに参加したことがあるんですけど、その時にフミちゃんがロンドンにいていろいろと助けてくれたんです。本格的な海外での活動はKUUNATICに誘われてからですね。

滅亡後の世界からの再生を、独自の音世界で描き出した最新作『Gate of Klüna』

――昨年10月にリリースされた『Gate of Klüna』は元ギャング・ギャング・ダンスのティム・デウィットがプロデュースを手掛けていますが、ティムとはどのように出会ったのでしょうか?

フミエ:私が台湾に移ったあとに現地のフェスでDJをする機会があり、そこにティムも来ていて、友達が紹介してくれたんです。だけど最初はギャング・ギャング・ダンスのメンバーだったことも知らないまま普通に話をしていて。

――それは何年くらいのことでしょうか?

フミエ:2018年ですね。その時に、KUUNATICの活動やコンセプトのことを伝えたら、すごい共感してくれて。彼もミックスやプロデュースなど音楽の仕事をしていると話していたんですけど、元ギャング・ギャング・ダンスだったというのは、あとからわかったことで。まさか台湾にいるとは思わなかったので、びっくりしました。その頃、私達は『Gate of Klüna』の制作準備中で、「今回の作品には誰かプロデューサーがいたらいいよね」って話をしていたところだったんです。それで、メンバーにティムに会ったことを話したら、「ティムだったらおもしろいアイデアを持ってきてくれるかもしれないね」と意見が一致して、彼にプロデュースを依頼したんです。

――ユウコさんはティムのプロデュースに対してどう感じられましたか?

ユウコ:ティムは、ソロのアーティストとしては、どちらかというとエレクトロニック・ミュージック寄りの人なんですよね。打ち込みのアルバムを作っていたりして。そんな彼が私達のようなバンドを手掛けることで、離れたものが混合してミラクルが起こるというか、今までとは違う作品が生まれるんじゃないかと期待していたんですけど、実際いい結果が出たなと。あと、KUUNATICはもともと「みんなそれぞれ演奏したことのない楽器を担当する」というコンセプトで始まっていて、アンサンブルにアマチュア的なところもあったと思うんですけど、ティムというプロフェッショナルが入ってくれたことによって、まとまりのあるサウンドに仕上がったと感じています。

――ショウコさんはいかがですか?

ショウコ:ティム自身もアーティストなので制作意欲やこだわりがめちゃくちゃあって、それが圧巻でしたね。彼とメンバーみんなでとにかくアイデアを出し合って、何度も何度もレコーディングをし直して。さっきユウコさんが言った通りティムはエレクトロニック系の人ですけど、ギャング・ギャング・ダンスの1stはトライバルな感じがあって彼も参加していたし、どっちも通っている。だからこそ出てくるアイデアや彼独自の目線がとても刺激的で、稀有な体験でしたね。

KUUNATIC – Tītián(2021)

――そのようにして制作が完了した『Gate of Klüna』はドイツのレーベル〈Glitterbeat Records〉からリリースされました。どのような経緯でリリースが決まったのでしょうか?

フミエ:グリッタービートはもともと私がすごく好きなレーベルで、リリースされる作品はよくチェックしていたんです。それでアルバムができあがった時にメールをしてみたら返事が来て、「最近音楽を聴いていた中でこのくらい興奮したのは久しぶりだ」と言ってもらえて。それでやり取りを進めて、リリースが決まりました。

ユウコ:私もグリッタービートのリリース作は好きで聴いていましたし、そこからKUUNATICのアルバムをリリースできることになったと聞いた時はとても嬉しかったですね。

――『Gate of Klüna』は古代の神話にインスパイアされた物語をベースに制作されているとのことですが、その具体的な内容について教えてください。

フミエ:『 KUURANDIA』の4曲目に「Battle of Goddesses」という曲があるんですけど、この曲を作った時に鍵となるイメージ、世界設定が生まれて、それが全体的なコンセプトに広がっていったんです。簡単に説明をすると、「アルマゲドンが起こって世界が滅亡する」みたいな内容なんですけど。

ユウコ:女神達が戦い、文明、社会が滅びてしまうんです。

フミエ:3人ともSFやファンタジーの終末的な世界観がすごく好きなんですよ。ツアーをしているとよく雑談をするんですけど、話しているうちに、ナチュラルにそれ(SFやファンタジー)っぽい内容になっていくんです。あと、火山の噴火や地震などの自然災害が起こった時も、3人でいろいろなことを話したりします。私達の音楽は例えば気候変動といった現象に対して直接的に何かを訴えたりするものではありませんが、自然の持つエネルギーや脅威といったところからはさまざまなインスピレーションを得ています。

『Gate of Klüna』のコンセプトに戻ると、イメージは古代なんですね。ただ、私達は現代にいるわけだから、今古代の話をするということは、結局、未来の話になるんです。この社会がなくなったあとに、古代的な世界がまた訪れるという。そういうイメージのもとに、実際の古代の歴史にインスパイアを受けながら、自分達が好きな呪術やトライバルな要素などを織り交ぜていって、オリジナルのストーリーを作り上げ、それを音で表現していったんです。

――すべてが一度フラットになって、そこからまた新たに生命や文明が立ち上がっていく様子が描かれていると。

フミエ:まさにそんな感じですね。前の EP『KUURANDIA』で表現したのが、国や大地とかいわゆる私達が存在するための場所で。そこで「Battle of Goddesses」で描いているアルマゲドンが起こり何もなくなってしまい、今自分達でいろんなものを再構築しているというイメージです。アルバムの中では、日本でいう弥生時代くらいのところまでは社会が進んでいる感じですね。

――再生に向かうプリミティブなエネルギーであったり、祝祭というかシャーマニックな祈りであったり、そういうイメージが曲から伝わってきます。シャーマニズムみたいなものはもともと3人ともベースにあるんですか?

フミエ:実は、私の母親が本当にシャーマンなんですよ。だから、個人的にはすごくなじみがあるんです。KUUNATICで歌っている言葉も、英語で歌っている部分と自分達で作った言語で歌ってる部分があるんですけど、その言語は、チャンティングやお経からインスパイアされている部分があって。幼少期にチャンティングを聴いて育っているので、KUUNATICにも反映されているのかなと思います。

ユウコ:シャーマニズムは、月と同じように、メンバーみんなが惹かれるものでもあるんです。

――なるほど。KUUNATICにとってライブもすごく重要な存在だと思うのですが、ライブを行うことについて、どう考えていますか?

ユウコ:めちゃくちゃ大事ですね。やっぱりお客さんとの一体感とかは他に代えられないものだと思っていて。ライブで生演奏するということ、その場にお客さんがいるってことは、本当にかけがえのない体験で。それは私達にとってすごく重要なんです。

ショウコ:この間もみんなでその話をしていたんです。KUUNATICって、シャーマニズムやトライバリズムにインスパイアされているんですけど、それって、発する側と受け取る側の両方がいないといけないものじゃないですか。だから、私達にとって、ライブはとても大事なんです。オンラインでライブをしたことももちろんありますけど、やっぱりなんか違う。ライブの場って、エネルギーの交換をしていると思うし、それは画面越しだと難しいんです。

――今後のご予定を教えてください。

フミエ:6月から7月のUK、EUツアーのあとに、11月に再びヨーロッパツアーが入っていて、オランダのフェスLe Guess Who?で Animal Collectiveキュレーションのステージに出演することも決まっています。その間に次のアルバムのレコーディングができたらいいなと思っています。リリースは来年以降になると思いますが。

KUUNATIC

KUUNATIC
フミエ(Key, Vo)、ユウコ(Dr, Vo)、ショウコ(Ba, Vo)からなる3人組バンド。月を崇拝し、神話的物語を下敷きとした独自のバンドサウンドを奏でる。2017年に1stEP『KUURANDIA』をリリースし、同年にUKツアーを敢行。2018年に台湾のバンド、CROCODELIAとのスプリットEPをリリース。2021年10月に、独レーベル〈Glitterbeat Records〉から1stフルアルバム『Gate of Klüna』をリリースした。
Twitter:@kuunatic
Instagram: @kuunatic

Construction Shunsuke Sasatani

author:

藤川貴弘

1980年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、出版社やCS放送局、広告制作会社などを経て、2017年に独立。各種コンテンツの企画、編集・執筆、制作などを行う。2020年8月から「TOKION」編集部にコントリビューティング・エディターとして参加。

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