50年間の記憶と記録。「1972-2022 TOMMAXと長濱治 二人の沖縄とアメリカ」―後編

写真家の長濱治と、今は亡きアーティストのTOMMAXこと、真喜志勉(まきし・つとむ)による、沖縄日本復帰50周年を迎えた2022年5月15日から約1ヵ月間、展覧会「PLAZA HOUSE × MOON HOTELS & RESORTS presents 沖縄日本復帰50年企画 1972-2022 TOMMAXと長濱治 二人の沖縄とアメリカ」が沖縄で開催された。

前編に続く後編では、展示作品の紹介や開催会場について。

前編はこちら

「1972-2022 TOMMAXと長濱治 二人の沖縄とアメリカ」に展示された作品

沖縄を拠点に活動する、写真家・活動家の石川真生を捉えた1枚。沖縄をめぐるひとびとを中心に撮影し、沖縄が持つさまざまな側面を厳しく捉え続けている、長濱が絶賛する写真家の1人。

「石川真生さんは、本当にすごい写真家。沖縄のいろいろな歴史や事件を取り上げていて、この写真は、戦後の米軍基地の金網(フェンス)の内側と外側をテーマに、実際にあった事件を再現している。この金網は中に入れないように120度だか、130度だか角度がつけてある」(長濱)。

横たわっている人形は、かつて米兵に殺され、米軍基地のフェンスの外側に放置された沖縄の少女の遺体を再現したもの。風化してはならない、また目を背けてはならない沖縄の事件を石川さんは追い続けているそうだ。

沖縄がまだアメリカだった時代、米軍基地に駐屯するアメリカ兵達をとりこにしたのが、通称「オキナワンロック」と呼ばれる沖縄発のバンドが生み出した音楽。かつてのコザ市(現在の沖縄市)を中心に、ベトナム戦争さなかであった沖縄で、1964年に発生した、独自のグルーブ感を放つオキナワンロックは、アメリカの地から片道切符でやってきた海兵達にとって必要不可欠な存在だった。その沖縄発のオキナワンロックのバンドの中でも異彩を放っていたのが、コンディション・グリーンだ。

「ヴォーカルのかっちゃん(=川満勝弘)は、幻の人。コザを中心に活動をしていたけど、この人は本当にすごいんだ。俺は金武でライヴを観たんだけど、鳥の頭をちょん切ったり、蛇を裂いたり、自分のカウボーイブーツに米兵のビールをガーッと入れて『飲め!』って言ったりさ」(長濱)。

長濱が1969年に沖縄を訪れた時、当時のコザ市で撮影した若き海兵達の写真。週末の夜を大いに楽しんでいるような笑顔を放つ、イカした青年達の姿だ。しかし後ろの看板に写る「梅毒」という日本語の文字が時代を物語っており、この笑顔は、明日にでも戦地に向かう若い兵士の最後の夜を楽しむ、つかの間の休息時間に放たれたものでもある。

「沖縄に片道切符でやってきたマリンコ(=海兵)は、20歳そこそこの若者達。あの時、ベトナムへ出向いた兵士達の半分は戻ってこれないという話を聞いていたし、人っていうのは、明日自分は死ぬかもしれないという極限に立たされた時、笑うしかないんだよ。そういう人達が集まると、刹那的な明るさになってしまう。だから『写真を撮ろうぜ!』ってなるとすべてが明るくなって、だけどカメラを向けながら『なぜあんなに明るくなれるんだろう』って、彼らの笑顔が重く心にぐっと刺さった。戦争の惨さを感じたよ」(長濱)。 

沖縄返還前、米軍基地内の道を走る子ども達の姿。男の子を追いかけている、後ろ姿の少女は裸足だ。

「この写真はいい。米軍基地内で、無邪気に裸足で走る子ども達はハッピーなんだよ。だけど金網の外(米軍基地外)では、『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(上間陽子著)であるように、不幸な家庭環境に育った少女達が沖縄の夜の街を裸足で逃げる現実が、50年経った今もある。裸足の少女の2つの世界があることをこの写真から伝えたかった」(長濱) 。

バイク好きの長濱が撮影先で乗っていたバイクは、「ヤマハ」だった。

「不良の時の僕。ミシシッピで、自分のアシスタントだった写真家の三浦憲治に撮ってもらったんだ」(長濱)。

1980年代後半、長濱が敬愛する音楽、デルタ・ブルースを奏でるブルースマンを撮りに向かった先が、ブルースの聖地であるミシシッピ州クラークスデイル。アポイントなしで現地に乗り込み、名だたるミュージシャンを訪ねポートレートを撮影していった。こちらは、写真集『Cotton Fields』の表紙にも登場するブルースマン、ジャック・オーウェンス。今回の写真展でも、多くのブルースマン達の姿を捉えた写真が展示されていた。

長濱の伝説の写真集、『Hell’s Angels -地獄の天使』にも登場する、ニューヨークはマンハッタンにアジトを構えていた、さすらいのバイク集団、ニューヨーク・ノマド・エイリアンズ(後のヘルズ・エンジェルス・ニューヨーク支部)。サンフランシスコでヘルズ・エンジェルスと衝撃的な出会いを果たし(詳しくは前編にて)、バイカー達の姿に魅了された長濱は、ニューヨークにいるノマド・エイリアンズの存在を知り、1969年から1979年までの10年間、アメリカに行く機会があれば、ニューヨークの彼らのアジトを訪れ、リアルな姿を撮影していった。長濱は、ヘルズ・エンジェルスに接近した唯一の日本人と言っても過言ではない。

TOMMAXの愛称で知られている、アーティストの真喜志勉。長濱とは多摩美術大学の同級生で、真喜志は洋画科、長濱は彫刻科に通い、ジャズやブルースなどの音楽が好きなことで意気投合。在学中はともに多くのジャズミュージシャンのライヴを一緒に観に行ったそう。大学卒業後、沖縄に戻った真喜志を訪ね、長濱は1969年に沖縄へ。そこから2015年まで2人の交流は続いた。こちらのポートレートは、真喜志が亡くなる数ヵ月前に長濱が撮影したもの。また1972年に出版された写真集、長濱治『暑く長い夜の島 –長濱 治 沖縄写真集』(1972)の表紙にも真喜志は登場している。      

展覧会で展示されていた、生前の真喜志が愛用していたストライプのラグビーシャツとフェラーリのキャップ。真喜志は、1963年に大学を卒業後、1970年代にニューヨークに渡って約1年滞在。有名なジャズクラブ、「ビレッジヴァンガード」で皿洗いのアルバイトをしながらジャズの洗礼を受け、また当時のポップアート、ミニマリズム、コンセプチュアルなどの現代美術に触れた。帰国後は、沖縄を拠点にアート活動を行い、米軍基地や基地問題など戦後沖縄の社会状況をポップアートで表現。1995年に沖縄タイムス芸術選賞大賞を受賞、また絵画教室「ペントハウス」を主宰するなど、アーティストの育成にも力を注いだ。

展覧会は、沖縄市にある日本最古のショッピングセンター「PLAZA HOUSE」と、北谷のウォータフロントにある「MBギャラリーチャタン by ザ・テラスホテルズ」の2ヵ所で開催された。「PLAZA HOUSE」は、沖縄が米国統治下だった1954年、アメリカ独立記念日にオープン。在沖米軍やその家族を対象としていたことから、建物、入っている店ともにアメリカンなスタイルで人気を呼んだそう。68年の月日を経た現在も残るミッドセンチュリーな建物が魅力だ。ここ数年はリニューアルが進み、新しいスタイルの店が続々と出店している。中でも、3階にあるギャラリー「RYCOM ANTHROPOLOGY」では、アメリカだった頃の沖縄を捉えたモノクロ写真を展示し、“琉米文化の知と感性を今に伝えるギャラリー”を展開。「1972-2022 TOMMAXと長濱治 二人の沖縄とアメリカ」は、そのハイライト的な内容として開催された。

https://plazahouse.net

 

もう1つの展示会場が、「MBギャラリーチャタン by ザ・テラスホテルズ」。こちらは、2021年春にオープンしたホテル。アートの展示に力を入れており、ホテル内では国内外で活躍する沖縄出身、または沖縄在住のアーティスト達の作品をロビーや各フロア、客室などで展示している。中でも真喜志の作品に関しては、多くが展示されている他、フリオ・ゴヤ、角敏郎などの作品も観ることができる。オープンして間もないが、異国情緒あふれるリゾートタウン北谷の中でも、沖縄発のアートを取り入れたモダンなスタイルのホテルとして注目されている。今回の展覧会は、ロビーをギャラリースペースとして運用し、作品を展示していた。

https://mb-gallery.jp

長濱治(ながはま・おさむ)
1941年名古屋市生まれ。多摩美術大学彫刻科を卒業した後、広告制作会社に就職。写真家・立木義浩のアシスタントを経て、1966年よりフリーランスに。主に海外のロックフェスティバルやカウンターカルチャー周辺を撮影しながら、ファッション、広告、ポートレートの分野にて活躍。他にもニューヨークのバイカー集団、アメリカ南部のブルースマン、各業界の第一線で活躍する日本の男達、また長年かけて沖縄のひとびとを撮り続け続けてきた。ファッションブランド「NEIGHBORHOOD」と交流が深いことでも知られている。主な作品に『暑く長い夜の島 –長濱 治 沖縄写真集』(1972)、『HELL’S ANGELS 地獄の天使』(1981)、『猛者の雁首』(2005)、『THE TOKYO HUNDREDS 原宿の肖像』(2014)、『創造する魂 沖縄ギラギラ琉球キラキラ 100+2』(2018)、『Cotton Fields』(2020)などがある。

author:

Kana Yoshioka

フリーランスエディター/ライター。1990年代前半ニューヨークへの遊学を経て、帰国後クラブカルチャー系の雑誌編集者となる。2003年~2015年までは、ストリートカルチャー誌『warp』マガジンの編集者として活動。現在はストリート、クラブカルチャーを中心に、音楽、アート、ファッションの分野でさまざまなメディアにて、ライター/エディターとして活動中。

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