生き方のモデルの狭さが“社会への違和感”につながっている 写真家・ノンフィクションライターのインベカヲリ★インタビュー後編

写真家・ノンフィクションライターとして活動するインベカヲリ★。昨年出版した『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA)が、第53回「大宅壮一ノンフィクション賞」にノミネートされるなど、ノンフィクションライターとしても高い評価を得ている。そんなインベが5月に『私の顔は誰も知らない』(人々舎)と『「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理』(イーストプレス)を出版。バラバラに出版された2冊だが、読むとそこには “社会への違和感”というテーマが浮かび上がってくる。自身も「社会には適応できない側の人間」と話すインベが、この2冊を制作して、日本の社会に対してどんなことを感じたのか。インタビュー後編では、『私の顔は誰も知らない』について話を聞いた。

前編はこちら

——『私の顔は誰も知らない』はインタビュー&エッセイ形式になっていますが、もともと連載でやっていたものをまとめた感じですよね?

インベカヲリ★(以下、インベ):そうです。ウェブで連載していたものを、単行本にするにあたって、エピソードをつけ加えてだいぶ加筆したりして。だから連載とは結構変わっていると思います。

——この本では多くの女性に話を聞いていますが、つらい話を聞くことも多々あったと思います。そこに引きずられて一緒に落ち込んだりすることはなかったですか?

インベ:私は引きずられるということはないタイプですね。

——あまり人に共感しない?

インベ:共感することはありますけど、私の場合は相手を「弱いもの」だと思って接してないので。私が欠落した人間だから、自分と似たものに接している感覚のほうが強いです。たぶん引きずられる人って、自分が何かしてあげたいけど、何もできない無力さに落ち込むんではないですか?でも私が何かしてあげようとは思わないし、してあげる対象でもない。みんなたくましいな、と思って接しています。

——インベさんはまずモデルさんにインタビューして、それをもとにシチュエーションを考えて、モデルさんと撮影を行うという手法で作品を作っていますが、実際モデルに応募してくる人の年齢層はどれくらいですか?

インベ:10代から40代まで幅広いですが、20代後半くらいが一番多いですかね。年齢制限はないのですが、特に話が面白いと感じるのは20代後半から30代前半。人生に葛藤がありながら、それなりに経験をしてきているから、言葉が深いんです。40歳以上になってくると逆に達観していて、迷いのない人が多いですね。

——被写体の応募は結構来るんですか?

インベ:そこそこ来ます。でも昨年、事件ルポの本を出してからは減りました。やっぱり殺人モノのノンフィクションを出すと、もう写真は撮ってないと思われるんですかね。でも『私の顔は誰も知らない』を出版したらまた増えました。

——被写体に応募してきた人はみんな撮るんですか?

インベ:実際は難しいです。全員には会うんですけど、何も見えてこなかったり、すごく浅い話で終わったりすると、こちらも撮影のイメージがわかないので、なかなか撮れないんですよね。時間が経ちすぎると、相手と連絡が取れなくなったりもしますし。

——写真のイメージはインベさんが考えるんですよね? すんなりOKという感じなんですか?

インベ:許容範囲をあらかじめ聞くので、その上でイメージ作ります。「他の人ができないようなことをやりたい」って人もいますし、私は水の中で撮るのが好きなので、それは水の中に入れる子しかいれないし。あと人に見られていると集中できないという人は街なかはやめて室内で撮るし、それは聞きながらやっています。人によっては、食べ物を食べているところは撮られたくないっていう人もいたり、その辺りは個人差があるので。

「普通に生きる」ことの難しさ

——読んでいると、「普通に生きる」ことの難しさも感じる部分があります。「普通に生きたい」けど、それが「できる人」と「できない人」の違いはインベさん的にはどう思いますか?

インベ:現代を生きていると、病む人のほうが健全じゃないかと思う時はあります。「これは何かおかしい」と気づいて、疑問を持ってしまう人のほうが、むしろ真っ当ではないかと。それで適応できなくて病として症状が出てしまうのは、本人にとっては辛いことだとは思うんですけど。逆に何の疑問なく適応してしまう人のほうが私は接していて怖いと感じます。常識を疑わない人達、というのはいるので。

——インベさんも「普通に生きる」ことに難しさを感じていますか?

インベ:小学校に入学して、自分の興味のないことに関して学ばないといけないことの意味がわからないとか、いろんな要因で普通に生きることの難しさを感じていました。そこから「いかに幸福になれるか」を追求してきたので、今が一番良い状態です。これまで「心と体をいかに健康にするか」だけを一番に考えて生きてきたので、自分の精神コントロールに関しては完璧だと思っています。

——そうは言っても心を安定させるのは難しくないですか?

インベ:「邪魔な情報はシャットアウトする」とか、「付き合わない人間を決める」とかはすごく考えてきました。だいたいみんな収入を優先するじゃないですか。でも幸福を第一に持ってくると、仕事で「この人と付き合いたくない」と思えば、仕事ごと切り捨てる。経済的な安定よりも、精神の安定を優先してきました。だからほとんどの人には真似できないんじゃなかと思います。

——確かに。「優先順位の1番か2番にお金がないと、なかなか生活ができない」って考えになってるので、真似できなそうです。インベさんはSNSもやってますよね。そこから悪い影響は受けないんですか?

インベ:SNSはほぼ宣伝にしか使っていないので、そこまで変なコメントとかは飛んでこないし、見たくないものは見ないので、今のところ問題はないです。

——SNSとの付き合い方というか、SNSの功罪はあると思うんですが、インベさんはどう考えてますか? InstagramやTwitterを通して、一般人が有名になれたりする。いいところもあるけど、倫理観なく「有名になるためにはなんでもする」とかもいます。

インベ:インターネットやSNSに関しては、良い部分も悪い部分もあって、判断できないですが、それ以前に「どんな悪いことをしていても、お金を稼いでいる人が偉い」みたいな風潮のほうが、全般的に怖いなって思います。倫理観がなくても、お金をもっていれば「すごい人だ」と認識する。YouTuberに限らず、そういう人はいるように感じます。人間的にまったく尊敬できなくても、お金によって人の価値が高まるのは恐ろしいですね。

世の中になじめない人の声を拾い上げる

——この本はインベさん自身のこともかなり書かれています。自身のことを書くのに抵抗はなかったですか?

インベ:ありました。書きたくなかったから、他の女の子のインタビューが半分になったんですよ。自分のことに対しては、「こんなのを書いて読みたい人いるのかな?」とはいまだに感じています。

——読者としてはインベさんのことも知れてよかったですけどね。実際、若い頃のセルフポートレートとかも掲載されていて、昔は自分が出ることは嫌じゃなかったんですか?

インベ:当時はそれが唯一の自己表現だったので。周りに本来の私を知っている人がいないというか、すごく誤解されている感じがあって。自分は本当は危ない人間なのに誰もそこに気づいてくれない、そういう空虚さがあって、それがセルフポートレートという表現になっていたんです。

私、見た目がこんな感じで、声もふわふわしているから、「優しい」とか「女性らしい」という枠にすぐ押し込められてしまう。でも本当は全然そうじゃないんですよね。だから作品を出すことで初めてリアルな自分が理解されるという感覚はいまだにあります。

——『家族不適応殺』や『無差別殺傷犯の論理』とこの本では響くターゲット層が違いますよね?

インベ:読者層は違いますね。でも私としては、やってることは同じです。この本に出てくる女性達は世の中になじめないけど、その中で全力で生きている。無差別殺傷犯である小島一朗は日本中から「死刑にしろ」と言われた人間で世の中から完全に排除された側。私自身も「正解の外側」にいる人間だから、そういう人の言葉を引っ張ってきて、社会にぶん投げたいという意味では変わらない。

—— “生きづらさ”ってどこからくると思いますか?

インベ:私は“生きづらさ”って言葉も使わないようにしてるんですが、やっぱり生き方のモデルみたいなのがかなり狭いんだと思います。ちょっとでもそこから外れると「そんなんじゃ生きていけない」ってなる。なんか全部そこな気がします。女性は特に、小学校低学年くらいで、気づくと、誰から言われたわけではもないのに、「女はこうあるべき」という考えを学んでしまっている。

——それは普段触れているテレビとか広告とかの影響で徐々に?

インベ:そうだと思います。今の大学生の話を聞いてると美容整形をするのは当たり前だと言うんです。電車内の広告も「学割あります」とか「気軽に二重にできます」とか、それを毎日何社も目にしていると当たり前になって「美人でなくてはいけないんだ」となりますよね。その「美人」っていう概念も誰かが作ったものですけど、自然と自己否定感が植え付けられているのが怖いです。

——それに抵抗している感じですか?

インベ:私は抵抗して生きてきましたけど、たぶん抵抗すると大変なので、迎合する方を選ぶ人も多いと思うんです。でも抵抗してもしなくても、そういう環境に身を置くこと自体がストレスだから、それが精神疾患とか、精神不安定につながっている。個人的にはそう思ってます。抑え込んだ何かが、自分でも自覚のないまま出てしまう。無差別殺傷犯も構造は同じだと思います。

——何かしらの発露ができる場が必要だと?

インベ:そうですね。『私の顔は誰も知らない』には極端な女の子の話が結構出てきますけど、こんなに絶望を抱えていても、パワフルで生き生きしていて楽しそうというところにフォーカスすることにこだわっています。そうした空気感が私にとって呼吸のしやすい世界なんです。

インベカヲリ★

インベカヲリ★
写真家・ノンフィクションライター。1980年、東京都生まれ。短大卒業後、独学で写真を始める。編集プロダクション、映像制作会社などを経て、2006年からフリーとして活動。一般人女性の人生を聞き取り、その心象風景を写真で表現するポートレート作品を撮影。2008年三木淳賞奨励賞受賞。2013年に写真集『やっぱ月帰るわ、私。』(赤々舎)で第39回木村伊兵衛賞最終候補に。2018年第43回伊奈信男賞を受賞、2019年に日本写真協会新人賞を受賞。写真集『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間』のほか、ライターとしても、共著『ノーモア立川明日香』(三空出版)や忌部カヲリ名義のルポ『のらねこ風俗嬢-なぜ彼女は旅して全国の風俗店で働くのか?-』(新潮社電子書籍)、『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』(KADOKAWA)など。
http://www.inbekawori.com
Twitter:@kaworikawori

私の顔は誰も知らない

■私の顔は誰も知らない
著者:インベカヲリ★
出版社:人々舎
価格:¥2,420
発売日:2022年5月16日
ページ数:380ページ
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910553016

「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理

■「死刑になりたくて、他人を殺しました」無差別殺傷犯の論理
著者:インベカヲリ★
出版社:イースト・プレス
価格:¥1,870
発売日:2022年5月19日
ページ数:268ページ
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781620824

Photography Yohei Kichiraku

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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