連載「ヨーロッパのJビューティ通信」Vol.6 日本古来の知恵とドイツの最新技術のハーモニー「レイ トウキョウ」

欧米の美容業界で注目を集める“Jビューティ”。伝統的に培われた美意識と、概念や習慣に由来する日本の美を象徴した美容法が、世界中の人々の日常の一部へと浸透し始めた。連載「ヨーロッパのJビューティ通信」は、欧米で知名度を上げるJビューティブランドを紹介し、日本古来の美容法を深く掘り下げていく。同連載の監修を行うのは、パリ在住20年以上で、日本の美容ブランドのヨーロッパ市場進出をコンサルティングする「デッシーニュ」の須山佳子代表。ヨーロッパのJビューティトレンドの立役者である彼女がオススメするブランドの魅力と、各々が捉える日本の美意識に迫る。

第6回は、須山が太鼓判を押すドイツ発のナチュラルコスメブランド「レイ トウキョウ」。日本古来の美容の知恵、 天然素材、ドイツの高度なテクノロジーを掛け合わせ、ドイツ在住の日本人、中嶌鈴が2020年に立ち上げた。美容業界で新たな挑戦に臨むきっかけになったのは、環境の変化による自身の肌荒れだったという。独学でコスメ開発について学び、日本古来の知恵とドイツの最新技術が共鳴し、形となった「レイ トウキョウ」。その軌跡とコンセプトについて詳しく聞いた。

ドイツの乾燥した環境にも対応できる、日本古来の天然素材を使ったスキンケア製品の必要性

−−まずは、「レイ トウキョウ」について教えてください。

中嶌鈴(以下、中嶌):「レイ トウキョウ」の製品は、日本古来の美容の知恵を基盤に、ドイツ製にこだわり、開発から生産まで一貫してドイツ国内で行っています。日本で古くから愛用されている椿油や米ぬかなど天然素材を主成分として、ドイツの信頼できる高度なテクノロジーにより製品化しています。

−−「レイ トウキョウ」を立ち上げた経緯とは?

中嶌:私は東京生まれで2006年からドイツで暮らしています。移住当初、仕事のストレスとドイツの硬水、乾燥した気候、食事の変化が原因で肌荒れに悩まされました。日本から持参したスキンケア製品はソフトで肌なじみは良いが、保湿力が持続しない。一方で、ドイツで購入した製品は保湿力こそあるものの、油分が強くてベトベトと肌なじみが悪いという印象でした。


その時、「ドイツの乾燥した環境にも対応できる、日本古来の天然素材を使ったスキンケア化粧品を作ったらどうだろう?」と思いつきました。 美容や化粧品業界には全く携わったことがなかったため、まずは化粧品の商品化についてリサーチを始めたのです。すると、以前勤務していたおもちゃメーカーで経験した製品企画から製造までの一連のプロセスが似ていて、化粧品業界でもその経験が生かせることに気付きました。また、ドイツに渡ってから翻訳・通訳会社の社長を務めており、そのジャンルでも多様なクライアントの事業形態を見てきたので、新エリアであるコスメ事業への参入には躊躇せずスタートできました。

もともと化粧品が好きで、さまざまな種類を試すのが趣味です。ビジネス・起業・利益目的で考え始めたのではなく、好きと好奇心が高じて「レイ トウキョウ」の立ち上げに至りました。モノ作りに情熱を注ぎ、すべてを自分でプロデュースするということをいつかやってみたいと抱いていた長年の夢も、ブランドを立ち上げた理由の一つです。

−−ドイツと日本の異なる美容文化を、どのように融合させましたか?

中嶌:ドイツでは世界の中でもナチュラル、またはオーガニックコスメに関連する研究・開発・技術等さまざまな領域で品質が高いことで知られています。日本では今からおよそ1000年前から、椿油や米などの天然成分が肌を美しくすることは知られていました。最近の研究でも改めてその美肌効果が注目されています。


自分がプロデュースして製品を作るならば、わずかなステップで完結する日本的な美容アプローチと、ドイツで好まれるミニマリズムにも通じるものを作りたいと思いました。和独折衷として、肌への親和性が高く、自然由来成分を使ったもの、それでいて肌の改善と変化を実感できるものを作ることを目指したのです。日本古来から伝わる美容成分とシンプルな美容ステップ、ドイツの最新技術を組み合わせることで、Dual Energy(二重のエネルギー)となり、“温故知新”を感じられるような製品が生まれました。

−−ドイツと日本の美容に対する意識の違い・共通点はありますか?

中嶌:ドイツでは近年、パーソナルケアの意識が高まってきていて、市場も成長しているようです。アンチエイジングや日焼け止め、ニキビ予防など、特定の目的をもったスキンケア製品が増えています。また、日本と比べて手頃な価格帯で展開されています。ドイツはエコロジーに対する意識が高いので、パッケージデザインも簡素で単一的、ナチュラルなものが好まれます。


もともとドイツの方々はお化粧をしない(嫌う)方が多く、基本的なスキンケアすら全くしない、でも夏は日焼けすることを好む、という方が大半であったようです。しかし、近年は美容意識が変化し、特にコロナ禍にはセルフケアする方々が増えた傾向にあります。消費者は「自身も使う製品も自然であること」の価値感と要望が高いため、製品基準も上がり、規制も厳しくなっています。

日本とドイツの共通点といえば、アンチエイジングに対する興味の高さ。自然由来の成分を配合しつつ、さまざまな皮膚科学アプローチを用いて美肌効果も期待できるドクターズコスメなど、両者の良いところ取りの製品が増えています。

−−品質の高いオーガニックコスメが浸透しているドイツで、Jビューティは人気になっていますか?

中嶌:私の個人的な感覚ではありますが、ドイツではまだ注目されていない印象です。昨年あたりからようやくファッション雑誌に“Jビューティ”という言葉が使われ始めた感じでしょうか。とはいえ、海藻、抹茶、柚子、こんにゃく、椿油、米ぬかなどの美容成分は先行して注目されており、ドイツ製のスキンケア製品にも取り入れられつつあります。“Jビューティ”として、これから注目度が高まることを期待したいです。

「シンプルでありながら機能性を重ね備えるという、ドイツと日本に共通する価値観」

−−美容以外で、ドイツに暮らしながら大切にしている日本文化はありますか? 逆にドイツの文化から学んだこととは?

中嶌:シンプルでありながら、機能性を重ね備えるというのは、ドイツと日本に共通する価値観だと思います。ただし、削って省くだけでなく、工夫を凝らす、努力をするという点は日本独特の美学ですよね。その繊細さを失わないように心がけています。

ドイツで暮らしてから自然と、コミュニケーション方法が変わったかもしれません。「意見+理由=結論」と秩序立てて説明する伝え方は、合理的で周りとの調和を取りやすく、目的にたどり着く早道なのかもしれないと感じています。

−−最後に、今後のヴィジョンについて教えてください。

中嶌:わかりやすくシンプルなアプローチでありながら、多機能な製品を企画中。現在、パリのボンマルシェ百貨店で開催中のポップアップ「Bijo; Japanese Beauty Bar」に参加しています。より多くの人々へ「レイ トウキョウ」をお届けできるように、販路も広げていきたいです。

中嶌鈴 ナチュラルコスメブランド「レイ トウキョウ」創設者兼ディレクター

中嶌鈴 
ナチュラルコスメブランド「レイ トウキョウ」創設者兼ディレクター。東京都生まれ、ドイツ在住。日本大学芸術学部卒業。日本で玩具メーカー等に勤務しグラフィックデザイン、商品企画・開発を経験した後、2006年にドイツに渡り、翻訳・通訳会社の社長を務める。2020年に「レイ トウキョウ」をドイツ・デュッセルドルフにて立ち上げる。

須山佳子

須山佳子
東京生まれ、パリ在住20年。INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE にてブランド経営学のMBAを取得。2010年に日本からのヨーロッパ市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」を立ち上げる。2016 年、Jビューティとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「Bijo;」を主催。取引先はハロッズ、ボンマルシェ、リッツ・パリ、セフォラなど大手デパートからセレクトショップまで約20ヵ国、150店舗。

Direction Keiko Suyama

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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