連載「ヨーロッパのJビューティ通信」Vol.5  薬用植物+CBDによる相乗効果で、日本の究極の癒やしを届ける「Shikohin」

欧米の美容業界で注目を集める“Jビューティ”。伝統的に培われた美意識と、概念や習慣に由来する日本の美を象徴した美容法が、世界中の人々の日常の一部へと浸透し始めた。連載「ヨーロッパのJビューティ通信」は、欧米で知名度を上げるJビューティブランドを紹介し、日本古来の美容法を深く掘り下げていく。同連載の監修を行うのは、パリ在住20年以上で、日本の美容ブランドのヨーロッパ市場進出をコンサルティングする「デッシーニュ」の須山佳子代表。ヨーロッパのJビューティトレンドの立役者である彼女がオススメするブランドの魅力と、各々が捉える日本の美意識に迫る。

第5回は、カリフォルニア発のJビューティウェルネスブランド「Shikohin」。須山は「アジアの薬用植物にCBDを加えた点に独自性があり興味深い。スキンケアだけでなくボディとバスケアを展開しており、パッケージも洗練されている」と絶賛する。5月にローンチしたばかりの「Shikohin」は日本にルーツを持つ信原威が立ち上げた。世界各国を渡り歩いた経験を経てたどり着いたのは、“癒やし”をテーマとした日本のビューティブランドを届けること。単なる美容法だけでなく、心のケアにも焦点を当てた「Shikohin」について、信原威に詳しく聞いた。

「出発点は、私達の生活に何らかの繋がりや平和、そして喜びをもたらしたいという願望」

−−まずは、「Shikohin」について教えてください。

信原威(以下、信原):「Shikohin」は、アジアの薬用植物の知恵と現代の麻由来のCBDを組み合わせた、初のJビューティスキンケアブランドです。セルフケアのルーティンを高めるエレガンスと機能性、心配りを丹念に組み合わせて、相乗効果のあるホリスティックな癒やしの製品を届けています。1つの目的は、地球をより良い場所にして後世に残すこと。環境への悪影響を軽減するため、持続可能な調達方法で成分をクルエルティーフリーに徹底しています。

「Shikohin」はラグジュアリーな製品を作るだけでなく、人々がシンプルで豊かな生活を楽しめるような体験を生み出す場でもあります。同時に人々が互いに感謝の気持ちを示すためのスペースを作るウェルネスコミュニティの育成にも取り組んでいます。繋がりを育み、有意義な理想を描くことで身体的、精神的、感情的な幸せを高める全世界のネットワークを構築したいと考えているから。世代から世代へと受け継いで世界と共有したいのは、これらの集合的な叡智なのです。

−−「Shikohin」を立ち上げた経緯とは?

信原:子どもの頃、父と一緒に食用の野生植物やキノコを探し、ハーブをはじめとした植物の重要性を学びました。根や花から作られたお茶、温かいハーブバスによる治癒等、日本では植物に薬効があると考えられているのです。島で育った私達日本人は、人と自然が調和して共存するべきだと信じており、母なる大地からの恵みを大切にし、尊重してきました。一方、穏やかで平和な子ども時代とは対照的に、現代社会は忙しくペースが速い。ストレスを抱えて精神的・肉体的健康を害する身近な人を見てきたため、喜びと健康上の恩恵をもたらすビジネスを構築したいと思うようになりました。

ホリスティックな東洋医学と日本の漢方医学に長い間携わった私は数年前、CBDの優れた治癒の可能性について学びました。それを機に、最新技術によりアジアの薬用植物とこの天然成分の組み合わせがどのような相乗効果を生むかについての研究を始めたんです。

「Shikohin」の出発点は、私達の生活に何らかの繋がりや平和、そして喜びをもたらしたいという願望。真の健康と幸せは、肌に触れ、体に取り込むもの、つまり非常にシンプルなものから生まれるのだと信じています。

−−「Shikohin」と命名した理由は?

信原:「Shikohin」は日本語で“ささやかな楽しみ”を意味し、必ずしも必要ではないけれど、それなしでは生きていけないもの。究極の“ささやかな楽しみ”とは、呼吸し、リラックスし、ケアを行い、人生の美しさと喜びを感じる瞬間を与えることだと思います。嗜好品の概念に心惹かれるのは、自分自身に小さな喜びと楽しみの瞬間を与え、シンプルなセルフケアが日常を価値あるものにすると信じているから。「Shikohin」の製品を通して、人々がストレス社会から休息し、それなしでは生きられないような価値ある体験を与える何かを作りたいという私の思いが名前に込められています。

−−「Shikohin」のベストセラーとシグネチャー商品は?

信原:ベストセラーはエンライトニング・ナイトセラムです。ヒアルロン酸よりも水分を多く含む天然成分シロキクラゲ(トレメラ)の配合により、水分補給と老化防止の特性を持ちます。

ハンド&フットマッサージクリームの処方は、シロキクラゲからの植物由来のヒアルロン酸、保護松樹皮抽出物(ピクノジェノール)、そして幅広い効能のあるCBDオイルで肌を落ち着かせます。ヒノキ、柚子の皮、コパイババルサム、クロトウヒ、白樟脳のアロマセラピー効果と栄養価の高さが、ストレスの多い1日の疲れを癒やします。

小物類のベストセラーは、こんにゃくスポンジと陶磁器製のカッサです。こんにゃくスポンジは、食用こんにゃくの根の繊維から作られ、100%生分解性。こんにゃくは、お肌を優しく角質除去し、死んだ細胞や毒素を取り除くのに役立ちます。陶磁器製のカッサのユニークな形状は人間工学に基づいて設計されており、手に快適にフィットし、顔の輪郭を包み込みます。

「何世紀にもわたって日本の美容法や文化的伝統の一部であった、ホリスティックウェルネスの実践を取り入れる」

−−各国に独自の美容文化がある中で、なぜJビューティにそれほど惹きつけられたのでしょうか?

信原:私の文化的なルーツは日本であり、Jビューティの自然でクリーンな成分とゆったりとした美容法が魅力的だからです。Jビューティはミニマリズムとシンプリシティを極め、自然の美しさと予防的ケアに重点を置いています。その価値観に感化され、ホリスティックウェルネスの知恵と、内面の美が外側に現れるという私の信念が「Shikohin」で表現されています。

−−Jビューティをどんな言葉で定義しますか?

信原:私にとってJビューティとは、日本の天然成分と現代の科学的革新から生まれた、クリーンでシンプルな製品を使用すること。重要なのは、何世紀にもわたって日本の美容法や文化的伝統の一部であった、ホリスティックウェルネスの実践を取り入れる点にあります。肌の自然な輝きを最高水準の美しさとして昇華させるのがJビューティ。化学物質や化粧品を使って外見をつくろったりするのではなく、早い段階で肌や全体的な健康を気遣うことによる予防に焦点を当てているのです。

−−フランスとアメリカの美容メソッドを取り入れた「Shikohin」ですが、他国とJビューティとの美容文化の違いは何ですか?

信原:現在までロサンゼルスに11年間暮らしており、過去に携わったトルコ、イエメン、エジプト、グアテマラ、フィリピンでの仕事のプロジェクトは私に多様性の価値を教えてくれました。私達は世界各国で発見した癒やし効果のある天然成分と、日本の伝統的な漢方医学に使用される治癒効力の高い植物を組み合わせて処方されています。製品開発者は菌類学者であり、キノコを採取し、最新の科学記事を読んで最も効果的な治癒法を見つけることにも優れた人物。フランスと日本の美しさはどちらも非常にミニマルでエレガントなので、その自然に根ざした要素を製品に取り入れたかったのです。

−−昨今Jビューティがこれほど人気になっている理由は何だと思いますか?

信原:自然の美を受け入れ、日常生活をシンプルにしようとする人が増えているからではないでしょうか。自分の体に最もクリーンで安全な天然成分を求める彼らに、高品質で控えめなラグジュアリーと呼ぶべきJビューティが完璧に応えるのです。ますます多くの人が東洋の伝統の知恵に関心を寄せ、スキンケアに対して包括的なアプローチを採用していると感じています。10ステップ以上の多層的なルーティンとして人気のKビューティのトレンドとは異なり、肌の悩みに対する高機能で必要最低限の製品のみに焦点を当てたJビューティは、よりシンプルで手間のかからないルーティンを備えています。シンプルかつ実績のある処方により、バスルームの棚のスペースを占領する無限の製品にお金をかける必要もありません。現代生活のストレスと緊張が高まる中で、人々は平穏な瞬間を生み出し、憩いの場を見つける方法を探しているのだと思います。

−−美容以外で、あなたが日本からインスピレーションを得る要素とは何ですか?

信原:特に自然に感化されますね。日本の森林浴や天然温泉は、「Shikohin」のコレクションに多くの影響を与えました。自然の中で五感が研ぎ澄まされるように、治癒的で多感覚的な体験をしてもらいたいのです。静寂の森の中を歩いたり、心地よい天然温泉に浸かったりする気分で、顔や体を愛情込めてケアしていると感じてもらえたら嬉しい。

−−最後に、今後のヴィジョンについて教えてください。

信原:「Shikohin」は、心身の健康を高めるシンプルで心のこもった美容法で人々に力を与えることを使命としています。なぜなら、永続的な美しさを生み出すことは、念入りな日々の実践を要するプロセスだと考えているから。多くの製品、ステップ、人工的な手を加えず、自然の成分と自然な方法による心を込めた美容法、瞑想、自己認識、健康的なライフスタイルを通して心身に恩恵をもたらします。また、多様性、マインドフルネス、精神的・感情的な幸せ、そして内側から滲み出る美しさをともに育む、包括的かつ支え合いの精神を持ったコミュニティの育成にも情熱を注いでいきます。

信原威

信原威 
プレミアムスキンケア&ウェルネスブランド「Shikohin」創始者兼CEO。ロサンゼルスのさまざまな新興企業の指導者およびコーチを務めた経歴を持つ。また、大企業が革新的なビジネスを始めるのを支援する国際的なリサーチ&コンサルティング会社EXA Innovation Studioを創設した他、人々の日常生活に楽しい瞬間を生み出す製品とサービスに焦点を当てたインキュベーションファウンドE-StudioのCEOでもある。

須山佳子

須山佳子
東京生まれ、パリ在住20年。INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE にてブランド経営学のMBAを取得。2010年に日本からのヨーロッパ市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」を立ち上げる。2016 年、Jビューティとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「Bijo;」を主催。取引先はハロッズ、ボンマルシェ、リッツ・パリ、セフォラなど大手デパートからセレクトショップまで約20ヵ国、150店舗。

Direction Keiko Suyama

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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