連載「ヨーロッパのJビューティ通信」Vol.2 「自然の至宝とテクノロジーの融合」を体現する、発酵米が原材料のナチュラルスキンケアブランド「ビゼン」

欧米の美容業界で注目を集める“Jビューティ”。伝統的に培われた美意識と、概念や習慣に由来する日本の美を象徴した美容法が、世界中の人々の日常の一部へと浸透し始めた。連載「ヨーロッパのJビューティ通信」は、欧米で知名度を上げるJビューティブランドを紹介し、日本古来の美容法を深く掘り下げていく。同連載の監修を行うのは、パリ在住20年以上で、日本の美容ブランドのヨーロッパ市場進出をコンサルティングする「デッシーニュ」の須山佳子代表。ヨーロッパのJビューティトレンドの立役者である彼女がオススメするブランドの魅力と、各々が捉える日本の美意識に迫る。

第2回は、日本古来の美容の源である発酵米を原材料にした洗顔せっけんを作る「ビゼン」。創設者のフローレンス・ミエット・イシザカについて須山は「日仏文化に精通していて、とても聡明でおもしろい方」だと表現する。生粋のパリジェンヌであるフローレンスは、「カルティエ」「バーバリー」「ランセル」など大手ブランドの日本子会社の責任者を担ってきた経験から、現在はブランド戦略コンサルタントとして活動中。2021年に「ビゼン」を立ち上げ、自然由来の美容製品を作ると同時に日本の地域活性化にも取り組んでいる。

日仏両方の文化を深く理解した彼女がJビューティブランドを始めた理由について、「自然とテクノロジーは理想的な組み合わせ」だと説明する。現在は日本とヨーロッパに拠点を持ち、多角的な視点を養い続ける彼女に、日本文化と精神性、Jビューティのトレンドについて聞いた。

発酵によって増幅された米の力が凝縮されている「ビゼン」の製品

――まずは、「ビゼン」の製品について教えてください。

フローレンス・ミエット・イシザカ(以下、フローレンス):「ビゼン」は日本製のナチュラルスキンケアブランドで、内面と外面の両方の“美”への“全”体的アプローチとして、総体的やホリスティックが由来になっています。日本で先祖代々受け継がれる健康と美容の源である発酵米を原材料に、天然由来の成分のみで製造。「ビゼン」の製品に有害な成分は含まれていません。米の発酵プロセスは、アミノ酸、セラミド、繊維などの貴重な天然有効成分を引き出し、肌に水分を与えて保護し、老化を促進する酸化を防ぎます。また、循環的で持続可能な水田で栽培され、オーガニックの認定を受けた全粒米を使用し、休耕水田の再耕作により、地域の活性化にも力を注いでいます。

――ヨーロッパの大手ブランドでキャリアを積んできたあなたが、Jビューティをテーマにした「ビゼン」を立ち上げた経緯とは?

フローレンス:「ビゼン」を通して、日本の文化を世界に届けることこそ私の目的です。日本文化の特徴の1つは、自然との強い繋がりと、絶え間ない革新の探求。そして私にとって、自然とテクノロジーの同盟であるJビューティは理想的な組み合わせでした。「ビゼン」の製品には、発酵によって増幅された米の力が凝縮されています。

――“日本式の美容法”という呼ばれるJビューティについて、あなたはどのように定義しますか?

フローレンス:Jビューティは「ビゼン」のように、自然の至宝とテクノロジーの融合です。そしてそれが、日本の美の本質だと私は捉えています。厳密な美容習慣はJビューティの特徴の1つで、予防ケア、クレンジング、保護と、スキンケアの主な目的は修復ではなく“予防”にあります。このアプローチは、欠如を受け入れることと密接に関連しており、日本で“わびさび”と呼ばれる精神性です。不完全な美の認識と、静穏な心を導く道でもある。時間と不完全さによる古色は、人と物をより美しくします。私達は日本の美の本質に根付く、この精神性を大切にしなければならないと思います。日本の美容習慣の重要な一部である、オイルと泡を使ったダブルクレンジングを、「ビゼン」は今年新たにローンチする予定です。

――ヨーロッパの市場を知り尽くしたあなたの視点から、Jビューティがこれほど人気になっているの理由は何だと思いますか?

フローレンス:一時的な流行ではなく、日本独自の強い価値観はヨーロッパの人々にとって絶えず魅力的でした。日本の美容は、ミニマリズム、柔軟性、肌と環境への敬意であり、現代的で時代を超越する価値観です。最先端技術と天然成分の融合、さらに内面の美に重きを置いたアイデアはミレニアル世代に共鳴しています。健康と予防に関心のある現代社会では、長年にわたり日本文化の中心であった総体的アプローチが、自然な流れで最前線へと到達したのだと考えています。

――拭き取り式やミルク状のクレンジングが主流のフランスで、泡立てるタイプの「ビゼン」の洗顔せっけんに対して、使用者からどのようなフィードバックを受け取っていますか?

フローレンス:パリジャン(女性と男性)のお客さまから、水分補強力に対して高い評価を得ています。たっぷりの柔らかい泡を生成する、使用時の楽しさも大変気に入ってもらえているようです。また、伝統的な日本の米の包装からインスピレーションを得た、和紙を折ってせっけんを包み込む「ビゼン」のパッケージの美学についても、たくさんのポジティブなフィードバックを受け取っていますよ。

日本の“瞬間”を楽しむという考えがインスピレーションの源泉

――美容以外で、あなたが日本からインスピレーションを得る要素とは何ですか?

フローレンス:日本は、長い歴史と時間に対するユニークな概念を持つ国です。1000年以上の歴史を持つお寺が現存する一方で、人の一生を一瞬の儚い命を持つ桜と同等だと捉えていますよね。一時的なものは私達の永遠に近づけ、この“瞬間”を楽しむことが大切だという考えは、私にとって素晴らしいインスピレーションの源泉です。日本が尊重するタイムレスなアプローチは、今日のデジタルの世界において、日常生活にバランスを求める人々の共感を呼んでいます。時の試練に耐えてきた100年前の美容成分を使用することは、過去と現在の両方に繋がる方法なのです。

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。

フローレンス:私のビジョンは、マイクロモーメント(意図を伴う行動の瞬間)を通してお客さまに安らぎをもたらすことです。日本の美容と物語は、この体験を可能にする宝庫なので、より多くの人々と共有したいと思っています。

フローレンス・ミエッテ・イシザカ

フローレンス・ミエット・イシザカ
国際市場におけるラグジュアリーブランドマネージメントのスペシャリスト。「カルティエ」「バーバリー」「ランセル」で日本の子会社の責任者、マーケティングおよび製品マネージャー等、さまざまな役職を経験。現在、ブランド戦略コンサルタントであり、日本のブランドのヨーロッパでの開発をサポートしている。2021年「ビゼン」を創設。

須山佳子

須山佳子
東京都生まれ、パリ在住20年。INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE でブランド経営学のMBAを取得。2010年に日本からヨーロッパ市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」を立ち上げる。2016 年、Jビューティとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「Bijo;」を主催。取引先はハロッズ、ボンマルシェ、リッツ・パリ、セフォラなど大手デパートからセレクトショップまで約20ヵ国、150店舗。

Direction Keiko Suyama

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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