「生きているなら笑われたい、笑われて死にたい」 「NISHIMOTO IS THE MOUTH」西本克利インタビュー 後編

架空のカルトクラブをコンセプトにしたブランド「ニシモト イズ ザ マウス(NISHIMOTO IS THE MOUTH)」。ディレクターである西本克利の全身に彫り込まれたトライバルタトゥーを見て近寄り難い存在と思ってしまいがちだが、実際に西本と会話をすると、物腰が柔らかく、丁寧な語り口が印象的だ。

タトゥー以外にも音楽、スニーカー、フィギュアなど多趣味で、ぬいぐるみやサンリオが好きなカワイイ一面も持ち合わせる。「ニシモト イズ ザ マウス」について聞いた前編に続く後編では、タトゥーをはじめとした西本を形成するカルチャーから思考回路まで、西本克利の人物像に迫りたい。

前編はこちら

西本克利(にしもと・かつとし)
1979年埼玉県生まれ。「ニシモト イズ ザ マウス」ディレクター。人気アパレルブランドを退社後、2020年から「ニシモト イズ ザ マウス」を本格的にスタート。さまざまなメディア、YouTubeチャンネルに出演しており、自身のYouTubeチャンネル「NISHIMOTO IS THE YOUTUBE」もスタートするなど、積極的に露出を増やしている。
https://nishimotoisthemouth.com/
Instagram:@k_nisimoto_
Twitter:@Nishimoto6996
YouTube:NISHIMOTO IS THE YOUTUBE

タトゥーは痛みにお金を払っているようなもの

——タトゥーに興味を持つようになったのはいつ頃ですか?

西本:中学生の頃から『タトゥーバースト』や『バースト』といった雑誌を読むようになりました。買うには高かったし、お金もなかったので、立ち読みをして好きなページだけちぎってました(笑)。それで、「タトゥーを入れるのってどれぐらいの痛みなんだろう?」と興味を持って、14歳の時に手首に象のタトゥーを入れました。学校では包帯をしたりパイルのリストバンドをしたりしてタトゥーがバレないようにしていました。でも親には速攻バレましたけど、大して怒られた記憶はないですね。

14歳の時に手首に彫った象のタトゥー

——この象のタトゥーを選んだ理由は?

西本:竹下通りのお店で彫師も全然知らない人だったんですけど、このタトゥーは¥10,000、これは¥15,000と金額が決まっていて、その中にあった象をなんとなく気に入ったんですよ。後から知ったんですけど、インドでは象は神と崇められていて、トライバルともマッチしているので14歳の頃の脳は正しかったなと。塗りつぶしてもいいんですけど、マッチしているので残しておいています。

それからタトゥーカルチャーの沼にハマって、ちゃんとしたものを入れたいとアーティストを探していた時に、ヤスさんという彫師を知って「すごい彫師だ」と感じて連絡をしました。1年半ぐらいたってから連絡が来て、3型ぐらい柄を描いたやつをもらったら、それがものすごくカッコよかった。そこから20年ぐらいヤスさんにだけ入れてもらっています。だから、彫師の人って他に知らないんですよね。もし、ヤスさんが死んじゃったら、もう入れたくないです。未完成でもいいです。そういう関係です。

——費用は全部でいくらぐらいかかっているんですか?

西本:1回2万とか3万ぐらいなんですけど、総額は1000万ぐらいかかっています。

——今後、増える予定はありますか?

西本:今は2年ぐらい入れてないです。めちゃくちゃ気分の問題なんですけど、今はその気分じゃないなって。今はとにかく自分のブランドを成功させたいっていう方向に気持ちが向いてます。足の裏とペ●スにタトゥーは入っていないので、そこと白目にはいつか入れたいです。白目に関しては友達が最近入れたんですけど、「10年以内に失明する可能性がある」って言われたらしいので、9年ぐらいたった時に友達が大丈夫そうだったら入れます。

——無知のため聞かせてほしいのですが、タトゥーを入れる時って麻酔はするんですか?

西本:麻酔はしません。個人的な意見ですけど、タトゥーは痛みがあってできあがったものだというタトゥー哲学があって、痛みがないと意味はないんですよね。痛みにお金を払っているようなものです。

——西本さんほどの全身となるとかなり痛いと思いますが……。

西本:リズムで入れているというか、これだけ入れていると慣れちゃいます。寝れますし。ただ、アキレス腱、膝裏、モモの裏、ケツとかは痛かったですね。あとは手のひら。手首を押さえながら入れたんですけど、めちゃくちゃ痛くて体が拒絶反応で動いちゃって、その時は「ヤスさん殴りてーな。マジでコイツ殴りてー」って思ってました。ヤスさんからは「手のひらの柄を直したいんだけど」って言われてるんですけど、超テンション高い時じゃないとできないですね。めちゃくちゃキレイな女性と付き合った時にでも直してもらおうかなと考えてます。

若い世代のアーティストをフックアップしたい

——服装はいつも白のTシャツと白のパンツとのことですけど、ブランドは決まっているんですか?

西本:ブランドは秘密とさせてください(笑)。ただ、サイジングとバランスが調子良くて、10セットは持ってます。「ニシモト イズ ザ マウス」のTシャツは、厚手のオリジナルボディでしっかりと作っていますけど、個人的には薄っぺらいほうが好きですね。

——自分のブランドや他の色を着ることはないんですか?

西本:着たことはあるんですけど、なんか違うなと。たまに記念にととっておくんですけど、結局あげちゃいますね。以前、ポートランドで撮影をした時に、撮影だから気を遣って「ニシモト イズ ザ マウス」のTシャツを着てみたんですけど、アメリカ人の友人に「いつもの白がいい。着替えて」って言われて、そこから完全に白になりました。白しか着ないので、サングラスとグリルとスニーカーでファッションは楽しんでいます。

——今後、気分で変わることは?

西本:一時期、黒しか着ないこともありましたが、今後はないですかね。白が調子良いので。白を着ていると職質を受けないし。今までに3回しか職質を受けたことないんですよ。クラブから朝歩いて帰っている時とかにパトカーとすれ違うと、スゲェ見られますけど職質はされないんですよね。白を着ていると「こいつは大丈夫じゃないかな」みたいなのがあるのかもしれないです。

——先ほどスニーカーの話が出ましたが、自宅にはものすごい数のスニーカーがありますよね。何足ぐらい持ってるのですか?

西本:実家にあるのを含めたら500足ぐらいですかね。昔は「ナイキ」しか買ってなかったんですけど、今は「アシックス」や「サロモン」まで飛び火してしまいました。スニーカーとレコードは常に買ってしまうんですよね。むしろ買うのがなくなったら自分じゃなくなる気がします。画像を見るとほしくなっちゃうし、スニーカーウォーズとかは毎日見ちゃいますからね。それを見て「また出るんだ」ってスゲェ嫌な気持ちになります。「また金がなくなる」って(笑)。発売日を過ぎちゃえばいいんですけど、前日が一番やばくて。なんか見ちゃうんですよね。

自宅にところ狭しと置かれているスニーカー

——その気持ちわかります(笑)。スニーカーは知り合いに頼んで買うことも多いですか?

西本:頼めるものはそうですね。頼めないのは抽選やっても当たる気がしないから、どうしても欲しかったらプレ値で買います。スニダンやメルカリでプラス¥5,000ぐらいだったらいいかなと。プレミアスニーカーみたいなのはあまり興味がないので、何十万とかは買わないですけど。

——最近買ったスニーカーだと?

西本:「ナイキ」のエアクキニのトリプルブラックや、「ジャックムス」とコラボしたエアフマラとかですね。キコ(キコ・コスタディノフ・スタジオ)がデザインしている「アシックス」もカッコイイですよね。4色とか出ると、全色ほしくなっちゃう。病気っすね。

——買ったら履いてますか?

西本:それが履いてないんですよ(笑)。夏はサンダル派で。届いたら箱を開けて、1回だけ合わせて鏡で見て、カッコイイと思って終わり。所有したことで満たされています。

——他にコレクションしているものはありますか?

西本:アートですかね。何十万、何百万もするアートじゃなくて、若手でカッコイイアーティストの作品が好きですね。あくまでも僕の考えになるんですけど、いくらで転売できるといった商業アートみたいなものには興味がないんです。それよりも若い世代のアーティストをフックアップしたい。みんなまだお金がなくて、絵の具を買うにもお金はかかるので、好きなアーティストには洋服を送って着てもらって、その分、浮いたお金で酒を飲んだり、画材を買ってほしい。でも、若手のアーティストだったら誰でもいいっていうわけではなくて、芽が出そうというか、ちゃんと10年後とかには人気になっていそうとか、自分の賭けですかね。

——確かに自宅にはフィギュアやレコードも多いですね。

西本:自分の脳内を表しているのが部屋の壁なんですけど、ろくでもないですよね。フィギュアはわりと変なものを買うんですよね。例えば、猪木のフィギュアはいらないけど、春一番のフィギュアならほしい。他にはぬいぐるみも好きだし、サンリオも好き。ちなみにサンリオだと、子どもの頃からター坊とケロッピが好きで、近くのサンリオショップによく行ってましたね。カエルが好きなんですよ。前に自宅でヒキガエルを13匹飼ってました。目とか本当にかわいいんです。音楽は雑種で、ノイズもブラックメタルも好きで、J-RAPも聴くし、iriとかボアダムスも好き。2ヵ月に1度、渋谷の「不眠遊戯ライオン」で「ズッ友」っていう自分主催のパーティでDJをやってまして、ヴァイナルオンリーでわりと変なのをかけているんですけど、1990年代後半から2000年代のトランスとかをかけると、若い子は聴いたことがないから、モッシュが起こったりして、そうやって興奮してくれるのは嬉しいです。

西本の脳内を表しているという壁に飾られたフィギュアなど

心配されるよりもバカだなって思われたいですね

——最近では自身でも、YouTubeを始めましたね。チャンネル開設のきっかけは?

西本:特にこれってのはないんですけど、「やったほうがいいんじゃないの」って言われて、「じゃあやろっか」ってくらいで。ただ、YouTubeチャンネルは「ニシモト イズ ザ マウス」の世界とはあまり絡めたくなくて、西本克利本人の映像が撮れたらいいなと考えています。といっても、タイトルが「NISHIMOTO IS THE YOUTUBE」なので、かけ離せてないんですけどね(笑)。

今年中にチャンネル登録者数1万人が目標で、撮りだめしてアップしていて、100の質問やルーティンとか、YouTubeで人気ある企画をパクってるだけなんですけど、2人のおばあちゃんに自分が恋されるってストーリーでテラスハウスのようなドラマをやろうって話も出てます。あとは、「TikTokをやれ」とも言われてて。TikTokをやるとYouTubeやインスタのフォロワーがすごく増えるらしいので、やらないといけないんですよね。

——ではTikTokを始めたら踊ったり?

西本:そうなんですよね。どうせなら無表情で踊ろうかなと。1度は断ったんですけど、「そろそろ撮るからね」って言われてます。

——それはどなたから?

西本:YouTubeを撮ってくれているカメラマンです。TV番組も撮っているカメラマンの方なんですが、いつもタダでやってくれてて、編集もうまいしすごく助けられてますし、おもしろがってもくれています。僕はお笑い芸人じゃないですけど、生きているなら笑われたい、笑われて死にたいって思うんですよね。こいつバカだったな、なんで顔面にタトゥー入れているんだろうって笑われたい。心配されるよりもバカだなって思われたいんですよね。

——その考えは昔からですか?

西本:いや、前職を辞めてから考えは変わりましたね。以前はネガティブでしたし、顔面にタトゥーを入れた時も周りにいろんな目で見られたので、自律神経をやられて心療内科に通ったこともありました。でも心療内科には僕よりもひどい人がいっぱいいたので、それを見たら僕は大丈夫だなと思えたんですよね。でも当時はかなりメンタルはやられていた気がします。入れ墨が好きなのに入れたらメンタルがやられるっていう。前職を辞めた時もネガティブになってしまって、失業給付をもらいにハローワークに行ってたんですけど切なかったですね。周りからどんなふうに見られているんだろうと。この容姿で座って待っていたら、「そうだろうな」って思われていただろうし。

——ハローワークに行ってたんですか?

西本:履歴書は書きたくないし、面接に行っても絶対に落ちると思っていたので、仕事探しはしていなかったんですけどね。でも、クラブで働くとか、肉体労働しようかなとか考えていました。そうしたら、辞めて2ヵ月後にはブランドをきちんとやらないかと誘ってもらったので、「よっしゃ、働かなくてよくなった!」と思いましたね。

——そして「ニシモト イズ ザ マウス」が本格的にスタートし、考え方も変わったと。

西本:そうですね。ブランドを始めた40歳ぐらいから考え方は全部ポジティブに変わって、前向きに受け入れられるようになりました。だから、自分でやって自分でケツをふける今の環境はすごく良いなと感じていて、なんでもやっちゃおうかなってマインドです。

「コモンベース」のスガヤさんもYouTubeのカメラマンの方もそうですけど、周りには本当に感謝しています。僕がフィーチャーされているのが申し訳ないというか、1人じゃなんもできなくて、周りの人がいてこそフィーチャーされているので、本当に友達や先輩やアーティストのみなさんに感謝だなってつねづね思っていますね。

Photography Hidetoshi Narita
Text Kango Shimoda

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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