2020年に東京の高校に通う4人組が楽曲をリリースし、そのレベルの高さに圧倒されてからはや2年。chilldspot(チルズポット)の存在は音楽シーンで大きく広がり、日本全国のオーディエンスを沸かせている。音楽フェスにおいてもその存在感は大きく、彼女らのライヴを1度観れば、そのサウンドに酔わされてしまうだろう。
chilldspotが大型音楽フェスやイベントで彼女らの姿を観る機会が増えたが、よく考えてみれば、彼女らは20歳を迎えたのがつい最近だ。そう、Z世代のその先のジェネレーションを生きるユースなのだ。
今回は彼女らが、どういう経緯でバンドを組み、どんな音楽からインスピレーションを得て、自分のものとして発信しているのか。ヴォーカル&ギターの比喩根に話を聞く。
比喩根(ひゆね)
2002年生まれの東京都出身バンド、chilldspotのヴォーカル&ギター。2020年11月、まだ高校在学中に1st EP『the youth night』をリリース。以降、精力的にリリースを重ねながら、各種音楽フェスにも出演。2022年9月に3rd EP『Titles』をリリースし、収録曲の「Like?」がテレビ朝日系「あざとくて何が悪いの?」番組内連続ドラマ第6弾の主題歌に選ばれた。chilldspotは比喩根に加え、ベースの小﨑、ギターの玲山、ドラムのジャスティンの4人組バンド。
https://fan.pia.jp/chilldspot
Instagram:@chilldspot_official / @hiyune_
Twitter:@childspot
オリジナル曲を活かすためにバンドを組もうと思った
——まずはどのようにしてchilldspotが成り立っていったのか聞かせてください。
比喩根:最初は弾き語りで活動をしながら、オリジナル曲を作ったりしていたんですけど、当時はDTMもまったくわからなかったし、ギターの技術も足りていなくて曲を活かせていない感覚があったんです。そこでバンドを組もうと思ったんですよね。
——そうなると、比喩根さんが1人で活動していたことがスタートになりますね。どのようなアーティストに影響を受けて弾き語りを始めたのですか?
比喩根:オリジナル楽曲をギターで歌うことに関しては、あいみょんさんや藤原さくらさん、GLIM SPANKY(グリムスパンキー)のレミさん(松尾レミ)がアコギを持って歌っている姿に感化されたからです。あと、オリジナル曲という意味では、DTMで曲を作って歌う方法もあったのですが、機械音痴だったのでパソコンではなくギターを選んだというシンプルな理由もありますね。それに、中高生にとってパソコンって高価なものじゃないですか。ギターのほうが手に取りやすかったんですよね。今ではDTMも扱えるようになりましたけど、デモは弾き語りで作っているので、性に合っているのかなって思います。
——そしてオリジナル曲を作って、バンド結成を思い立ったわけですね。
比喩根:はい。高校1、2年生の頃に曲作りを始めて、一番最初に作ったのは「夜の探検」という曲です。その後も弾き語り用の作曲を進めながら、高校2年生の冬にchilldspotとしての曲を作り始めて、という流れになります。
chilldspot 「夜の探検」
——メンバーはどのように集めていったのですか?
比喩根:最初に誘ったのは、小学校からの幼なじみの小﨑ですね。次に同じ軽音部に所属していたジャスティン。玲山は別の高校に通っていたんですが、地域の学校が集まる合同音楽イベントで、縁があって同じバンドで演奏したんですよね。その経験からいいなと思って。そんなふうに1人1人に声を掛けていきました。最初は「オリジナル曲を作ったから一緒に演奏してもらえない?」って感じで誘って、純粋にバンドを楽しむ感覚でやっていました。
——それがどんどんと規模が大きくなり、今ではchilldspotのサウンドは、Nulbarich(ナルバリッチ)やKroi(クロイ)といったブラックミュージックベースのバンドと親和性が高いと評されることもあります。そのようなファンクやR&Bは、バンドのサウンド的ルーツとして最初からあったのでしょうか?
比喩根:そうでもないんですよね。1st EP『the youth night』の楽曲は、Jポップだと思いながら作っていましたし。私的にはブラックミュージック感はまったく気にしていなかったんですけど、メンバーや周りの人からは、そのように言われることが多くて「そうなの?」って感じだったんですよ。確かにメンバー全員、NulbarichやKroiが好きなので、自然と影響された部分はあったのかもしれないんですけど。
——そうだったんですね。では、特にブラックミュージックを研究するという感じでもなかったと?
比喩根:そうなんです。意識することもなかったですね。中学校まではずっとボカロを聴いていましたし。でも、高校生になってからは、GLIM SPANKYの「愚か者たち」を聴いて感動したり、NulbarichやSuchmos(サチモス)を聴いて、カッコいい! って思ったりして、そういう人達をまねして歌ったり、メロディが好きになって歌詞まで覚えちゃっていたから、そういうのが自分の引き出しになっていったのかなとは思います。
ジャンルにとらわれないのが自分達の強み
——なるほど。SuchmosやNulbarichといったバンドをリアルタイムで吸収していったというのは、比喩根さん世代ならではの感覚だと思います。今、chilldspotはバンドとして大きな存在になり、シーンの中でも大きな存在感を持つようになっています。結成当時と比べて、現在はどのような活動をして、どんなことを発信していこうと考えていますか?
比喩根:根本にあるものは変わらなくて、ずっとメンバーが楽しんでいければいいなと思っているんですよ。でも、バンドが大きくなるにつれて自分達の感性もいろんな音楽に触れて変わってきて、やりたい音楽が初期の頃から少なからず変わってきていると思います。サブスク時代においてジャンルレスに音楽が聴かれる中、ジャンルにとらわれずにやりたいことができるのが自分達の強みでもあると思うので。今、好きな音楽を最大限に取り入れて、それをchilldspotとして表現していきたいと思います。あと、規模の話でいうと、今までは仲間内で楽しむという感覚もありましたけど、大きな舞台に立つことが増えてきたので、そこに似合うようなバンドになって、会場全体を包み込むようなグルーヴを出したいという思いも明確になってきました。そこを成長させていきたいと考えています。
——ジャンルレスに音楽を取り入れることで、chilldspotらしさが表現されているのだと思いますが、今、比喩根さんが好きなのはどんな音楽ですか?
比喩根:オルタナティブ寄りの音楽にハマっていますね。サーシャ・アレックス・スローン(Sasha Alex Sloan)やマギー・ロジャース(Maggie Rogers)はよく聴いています。EP『Titles』に収録している「Like?」や「BYE BYE」は、その影響が大きくあったように感じます。他にも、クレア・ロージンクランツ(Claire Rosinkranz)やビーバドゥービー(Beebadoobee)とか。オルタナとは違うけど音質的にもアーロ・パークス(Arlo Parks)やレックス・オレンジ・カウンティ(Rex Orange County)とかローファイなサウンド感が好きで。
chilldspot 「Like?」
——EP『Titles』は、作品全体にオルタナやグランジの印象が感じられましたが、そういったインスピレーションがあったんですね!
比喩根:はい。でも、オルタナやグランジは昔から好きなんですよ。1st EPに入れた「人間って。」という曲もちゃんとロックしていると思うし。だから自分達としては、初期から今まで統一感はあるでしょ! って感覚はあります。作品ごとに、今までやっていない新しいことに挑戦しようとか、飛び越えてみようとかは考えず、私がハマっていることに対して、メンバーも柔軟に応じてくれているので。
chilldspot 「人間って。」
あふれる情報をいかにキャッチして身につけるか
——確かに。スタンスは2020年高校在学中にデビューした頃から何もブレていないですよね。今、chilldspotは20代に入ったばかりの、いわゆるZ世代にも分類されると思います。みなさんの世代と過去の世代では、どのような部分が音楽を表現する上で異なると感じますか?
比喩根:良い悪いという意味ではないんですけど、私達の世代の武器は吸収力が早いことが挙げられると思います。サブスクを介していろんな音楽を聴いている分、アイデアを手に入れやすい環境にあるんですよ。簡単に手に入るからこそ、それを身につけて活かせるかどうかが分かれ目で、難しいところでもありますが。
気になる音楽を見つけた時、楽譜がなくても調べればタブ譜はすぐに見つけられる時代じゃないですか。それをコピーするのではなく、耳コピしたほうが身につくし発展した表現にもつながっていく。情報が多くて吸収しようと思えばできるけれど、苦労する道を自分で選ばなくちゃ自分のものとして情報を手にすることができない。そこが先人達の世代との差なのかもしれないと思います。
——情報が簡単に手に入るからこそ、逆に困難な面もあるんですね。
比喩根:そうですね。それに1人でもやろうと思えばDTMで曲も作れるし、ネットでバンドメンバーを募集できたりするので、思い立ってから行動に移すまでが、すごく早いですよね。TikTokだとかSNSでバズってメジャーと契約したりだとか。そういう行動力ありきで一気に広まるのもZ世代の特徴なのかと思います。
トレンド狙いではなく自信を持って良いと言える音楽を
——おっしゃる通り、現代ではSNSをきっかけにして有名になる若手アーティストも増えました。最近では、いわゆる“バズ狙い”の楽曲をリリースするアーティストも少なくないですが、chilldspotは、どうですか?
比喩根:自分達が楽しい音楽を作りたいという信念があって、私達は特に意識してこなかったですね。私達が好きで作った音楽がSNSに受け入れられて、結果としてたくさんの人が聴いてくれたら嬉しいです。
——やはり、chilldspotの活動には、まず自分達が楽しむこと、というのがベースにありますか?
比喩根:そうですね。楽しくて、自分達が良いと思えるものが作れないと、リスナーにも良いと思ってもらえないと思うし、仮にリスナーの反応があまりなくても、自分達が自信を持って良いと思えているものが作れていれば、それはすごく支えになると思っています。だからこそ、妥協せずに、自分達が今好きなものを作れるようにがんばっていきたいです。
——今後、chilldspotと比喩根さん自身が目標にしていることを教えてください。
比喩根:今までは曖昧だったんですけど、こうしていろんなフェスにも出演させていただけるようになって、大きなステージに似合うバンドになりたいと明確に思うようになりました。単純にもっと売れたいというわけではなくて、chilldspotの音楽を聴いてくれる人が増えて、いつか大きいステージに立つ時に、その舞台に見劣りしないバンドになっていきたいというのがメンバーの総意です。
個人的な目標としては、フジロックでゲスト出演させていただいたElephant Gym(エレファントジム)のステージが印象的に残っていて。(フジロックフェスティバル ‘22で、自身がフィーチャリングで参加している楽曲「Shadow」に客演として出演した)初めてchilldspot以外のバンドの演奏の上で歌って、また違った高揚感があったんですよね。あのハンドマイクでのライヴも自分には合っていると感じました。そういった曲も今後は作っていきたいですし、ソロもやってみたいと思っています。ただ、やりたいことを無責任にやっちゃっても仕方ないので、ちゃんとできることを見据えてチャレンジしていきたいです。
Elephant Gym 「Shadow (feat. hiyune from chilldspot)」
■New Single(Digital)
「get high」
12月16日配信リリース
Photography Shinpo Kimura
Text Ryo Tajima