<嵐の前の静けさ>を越えて進むYoung Cocoのこれから

前作『05:56 KOKORO』のメロディアスな作風からハードな路線へとかじを切った最新アルバム『The quiet before the Storm』を今年発表したラッパーのYoung Coco。アーティストのVERDYがアートワークを手掛けた本作リリース後も、変わらぬペースで彼は日々、音楽に向かっている。自身の成功はもちろん、日本のヒップホップも世界の音楽地図に載せるべく、彼は走り続けている。

2022年も残りわずかとなった今、彼にアルバムの話からラップに出会ったルーツのエピソードなど、Young Cocoのこれまでとこれからを聞いた。

Young Coco(ヤング・ココ)
兵庫県出身のラッパー。変態紳士クラブの活動でも知られるWILYWNKA(ウィリーウォンカ)とのユニットでキャリアをスタートしたのち、関西でトラップムーブメントをけん引するHIBRID ENTERTAINMENTに所属。Jin Dogg(ジン・ドッグ)らとともにその一翼を担い、海外からも注目を集める。精力的なリリースと合わせて、海外勢とのコラボレーションやアジア各国でのライヴなど、活動の幅を国内から海外へと広げている。
Instagram:@youngsavagecoco
Twitter:@Coco_137_jpn

スケボーをきっかけに足を踏み入れたヒップホップ

——まずはヒップホップとの出会いから聞かせてください。

Young Coco:小学校の友達と遊んでる時に公園でスケボーを拾って本格的に(スケートボードを)やりだして、うまくなりたいなと思ってYouTubeで探した動画のバックにかかってたのが、ヒップホップ。それがめっちゃカッコよくて、オーディオにして聴いてました。今思えばそれがたぶんナズ(Nas)とかビギー(=The Notorious B.I.G.)で。

——その後、ラップするきっかけはWILYWNKAさんとの出会いだそうですね。

Young Coco:中学生の頃に出会って、一緒にスケボーしてるうちにTAKA(=WILYWNKA)が中3ぐらいん時から徐々にバトルとか出てたんかな。それを観に行くようになって、「お前もやってみいや」みたいな感じで。当時地元でサイファーしてた先輩からも「ラップやりいや。若い子でやってるやつおらへんし」って。

——その頃、周りの同世代でラップしてたのはWILYWNKAさんくらいですか?

Young Coco:そうですね。レゲエの歌い手は結構若い子もいたんですけど、「高校生ラップ選手権」が始まったぐらいに若いラッパーも増えだしたイメージです。その頃俺はコットンマウス・キングス(Kottonmouth Kings)みたいなミクスチャーっぽいのをよく聴いてたんですけど、そっからリル・ウェイン(Lil Wayne)とか「Young Money Entertainment」周辺を聴くようになって、ヤング・サグ(Young Thug)とかタイガ(Tyga)とかを知ったんですよ。その頃の新しいサウスの風にメチャメチャ食らって、より向こうのカルチャーに影響を受けるようになりました。

目的のない日々から、音楽とともにある生活へ

——活動初期の頃とは違う今のスタイルも、そこが出発なんですよね? HIBRID ENTERTAINMENTでの活動はその頃からですか?

Young Coco:ただ、ハイブリッド(=HIBRID ENTERTAINMENT)としてやりだした当時は、「これで行くぞ!」みたいなのはなかったし、ヒップホップがここまではやるとも思ってなくて、親も「そんなんで食っていけるわけないやん」みたいな感じやって。

——続けていく中で、今は音楽に対してはどんな思いを持っていますか?

Young Coco:人生でここまで真剣に続けられたことがないので、音楽やるために生まれてきたんやなみたいに今は思ってます。それまでは目的もなく漠然と生きてたんですけど、周りを安心させれたらいいなとも思うようになったんですよね。周りがサポートしてくれてなかったらそういう気持ちにもなんなかったと思うんですけど……。

——今、毎日曲作りをされてるのもそういうことなんですね。まさに音楽と生活が地続きと言いますか。

Young Coco:さぼったら体がなまるというか、脳みそがなまるというか(笑)。毎日やらないと気分悪くて、例えばどこかに遊びに行くってなっても、それ(=音楽)だけはしてから行きたい。やることによって確実に他とは違う曲ができてるって周りのみんなとも言ってて、そこは自信につながってます。

コロナ禍で停滞したシーンを揺さぶるアルバム

——今回の『The quiet before the Storm』もいわばその毎日から生まれたアルバムになりますね。アルバムのアートワークをVERDYさんにお願いした経緯を聞かせてください。

Young Coco:コロナ禍前の2019年くらいに彼がtokyovitaminVickと大阪でポップアップをやってて、共通の友達がいたからそこに遊びに行ったんですよ。そこで初めて2人を知って、その次の週ぐらいにはVickと上海にライヴしに行ってました(笑)。

——会ってすぐに意気投合したわけですね。VERDYさんとも思いを同じくする部分がありましたか?

Young Coco:大阪にはこんなにカッコいいスケーターとかいっぱいおんのに、東京にメチャクチャ仕事が行ってるのが悔しくて東京に行ったって話を聞いて。昔っから彼がパンクのデザインとかやってたりした流れを知ってたら、そこはわかると思うんすけど、パッと見笑顔で優しいイメージだけど、そういう反骨精神を持ってるとこはめっちゃ似てるなあと思いましたし、一緒にかっこいいもん作っていきたいねみたいな。

それで、コロナで破壊されたシーンに発信するっていう自分のコンセプトとタイトルを伝えたらめっちゃいいって言ってくれたので、デザインは彼の才能に任せました。

VERYがデザインを手掛けたYoung Cocoのアルバム『The quiet before the Storm』

——アルバムの内容としてはどのようなものを考えてましたか?

Young Coco:前回の作品(『05:56 KOKORO』)は、コロナ禍が始まった時ぐらいに作り出したんですけど、地球全体がマイナスな感じやったし、クラブも閉鎖してる中で例えば、クラブで酒飲むって曲とか、ライヴできひん中で俺らめっちゃ稼いでるぜみたいな音楽がマッチしないってなった時に、ちょっとでも俺の音楽聴いて明るくなってくれたらいいなと思って作ったんです。

それで「No Pressure!!!」のようなみんなが歌える曲ができたから、今回はライヴを意識した荒々しい曲をいっぱい入れたいなと思って作りました。

Young Coco 「No Pressure!!! feat.LEX」

——ダークなムードをまとったEP『NOT REGULAR』から、風通しよい『05:56 KOKORO』を経て、本作は閉塞感を突き破るものでもあって。

Young Coco:そうですね。俺らがラップを始めた時って、ヒップホップがめっちゃダークなイメージやったんですよ。でも、今の子らがヒップホップ始めたりラッパーになったりするってなった時に、俺も出してますけど、歌モノみたいな曲を聴き始めてスタートする子がめっちゃ多いと思ってて。iTunesとかSpotifyのヒップホップのプレイリスト見ても全部歌モノでキラキラしてるから、そこにUSのヒップホップと変わらへんリアルな音楽を放りこんで「これなんや?」ってなってくれたらいいなと思って。それで今回はハードなやつを詰め込んでみました。前回歌モノ系を出したから、今回はラップ系出して自分のリスナーが何が好きなんかを見たいっていうのもありましたし実際、今回は今回でめっちゃ反響ありますね。

Young Coco 「Galaxy!」

世界の音楽シーンの中に「日本人」枠を作るべく走り続ける

——ヒップホップも時代とともに移りゆく中でCocoさん自身はヒップホップをどんな音楽ととらえてますか?

Young Coco:やっぱり過去の人らとかカルチャーを大事にする音楽で、どの口が何言うかが肝心。人間として先輩後輩からリスペクトされて、ちゃんとカルチャーを受け止める音楽をやってるやつらがヒップホップなんかなあと思いますし、いきなり現れたやつがいくら今までストリートでやってきたって言ってもダメ。そいつ自身にストーリーがないのにキラキラしたものだけに合わせて作る音楽は、ヒップホップじゃないんかなと思いますね。

——活動してきた中でご自身に変化はありませんか?

Young Coco:探求心がすごい増えた気がします。年重ねるごとにこんな音楽やりたいわとかまだ全然できてないなって思うことがめっちゃ増えてきて……。もっと突き詰めた作品も作りたい。

——今後についてはどうでしょう。自分はどんなアーティストでありたいと思いますか?

Young Coco:どうやろ……。音楽に対する気持ちを薄れずに、年相応に進化していきたいとは思いますね。アーティストが聴くアーティストみたいな。ジャンルは違うけど、ディアンジェロ(D’Angelo)とかテイム・インパラ(Tame Impala)とか、ああいうふうになれればなあみたいな。あと楽器はできるようになりたいかも。ロックにはめっちゃ興味あるから。

——へえ、そうなんですね。もともとリスナーとしてロックも聴いてたんですか?

Young Coco:スケボーやってた時からロックは結構聴いてたし、「No Pressure!!!」とか「ホンキ!」とか自分の歌系の曲も結構ギター系の曲ってなってくると、年重ねてアコースティックとか弾いてたらシブいなあって。ドラムとかもやってみたいし。

——ロックのどういう部分に惹かれますか?

Young Coco:ロックのほうがヒップホップよりめっちゃ自由やなって思ってて。日本でもロックがずっと第一線にあった分、ロックの歌詞って「あなた」とか「きみ」を入れずにわかるような表現がすごいうまい。そういうのを自分に取り入れていきたいなあと思いますし、ヒップホップのフィールドでやったらこの言葉は合わんけど、ロックのトラックやったら合うよねって歌詞もあるんで。

——影響や刺激を受けるロックのアーティストはいます?

Young Coco:リリックとかスタイルに影響受けるとかはないですけど、めっちゃ好きなのはターンスタイル(TURNSTILE)っていうバンド。白人が歌ってるロックが好きなんかもしれないですね、4つ打ちとか日本の歌謡曲も全然聴きますけど。あと俺、浜田省吾、好きなんですよ。あの時代の人ってリリックとか表現方法とか今の子と比べてだいぶ感じるもんがあるんで、インスピレーション受けますね。

——意外ですね。じゃあ今後は浜田省吾イズムが曲に流れこむことも……。

Young Coco:あるかもしれませんね。あの人は文字を伸ばして歌うイメージがあって、自分も声張って作ることが多いんで、そこはインスピレーション受けてるし、あんまメディアに出ないのもカッコいいすよね(笑)。

——ともあれ、変わらぬ制作ペースで今後もリリースが続きそうですね。

Young Coco:リリースしてない曲が多過ぎて、次は2作か3作同時に出そうって話もしてるし、まだまだ突き詰めていくからみなさんにはついてきてほしいです。今、自分らの好きな音楽がはやってるのは幸せだけど、俺より有名なアーティストがいっぱいいる中で、俺みたいなことを10年後、20年後やりたいと思ってる子にも音楽を続けれる環境を作れればめっちゃいいんちゃうかなと思う。そのためにも突っ走り続けるし、これをいっときのものにしないために自分らが今やることはいっぱいあるんで。

——ライヴをはじめ海外の活動やコラボレーションなどもこれまで同様、チャンスがあればという感じですか?

Young Coco:そうですね。世界に行っても中国人のアーティストとかインドネシア、フィリピン、タイのアーティストはいっぱいいるんすけど、日本人の枠が全然ないんで、そこは作りたいですよね。昔はシーンで誰かが「1人勝ち」みたいな感じが結構多かったと思うんすけど、日本のヒップホップのシーンって世界的に言ったらまだまだ全然小っちゃいんで、俺だけがカッコいいだけじゃもう成り立たない。やっぱみんなの力を借りてこのシーンをおっきくしたいなって思います。

Photography Takaki Iwata

author:

一ノ木裕之

音楽ライター。神奈川県川崎市出身。ヒップホップ専門誌を出発にライターとしての活動を始め、ファッション、カルチャー誌などでアーティストの取材、執筆を担当。その後、インディレーベルのA&Rディレクターなどを経て、現在もメディア問わずフリーで執筆を続ける。

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